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英雄が壊す異世界  作者: 波白雲
第二章:目に映る世界
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第31話:笑顔

 式典準備は遅れを取り戻した。明日からは来客も到着する。しばらく、皆でゆっくりするのは難しいだろう。晩ご飯の時間を堪能し、そして、俺は今さら気が付いた。


「そういえば、ジゼルさんと母さんの姿が見えないね。もう帰っちゃったのかな?」

「いや、せっかくなので式典が終わるまでは滞在すると聞いたが……」 とヴァルさん。


 スゥが応える。 「ドコウ殿達は知らなくて当然じゃな。伝え忘れておった。昨晩の風呂でこの街の話になっての。二人で街巡りをすると言っておった」

「じゃあ、晩ご飯もどこかで?」

「うむ。いつもの料理屋に行きたいと言っておったぞ。式典準備のために昼は閉じておるが、夜は通常営業じゃからな」


 確かに、魔岩を使った料理屋なんて、二人も気になって仕方ないだろう。俺が寝ている間はここで待機していたのかもしれない。世話になった。


「……ドコウさん、迎えに行きましょう」 とニナさんが提案した。

「おお、良い考えじゃな。二人もおぬしらと話したいじゃろう。夜は迷いやすいしの」

「確かに。じゃ、行こっか!」


 ローブを羽織り、念の為に魔岩布を二枚手に取った。夜は冷える。料理屋だけじゃないマギアキジア自慢の技術を、体験してもらおう。




 母とジゼルさんは、すぐに見つかった。俺はニナさんの案内に従っただけだ。これまでもそうだったが、ニナさんは俺だけでなく、母とジゼルさんのことも感知できるらしい。俺も意識しているのだが、この感知能力は真似できそうにない。


 道の先に見えた母がこちらに気付き、笑顔で手を挙げた。 「あら、ドコウとニナちゃん。迎えに来てくれたの?」

「ええ」 とニナさん。


 それを聞いたジゼルさんは締まりの無い顔で、 「おお、ニナはなんて優しい子なんだい……」 と言った。上機嫌だ。

「ジゼルは本当にニナちゃんを溺愛してるわねぇ」

「リリーナに言われたかないねっ。……そりゃそうさ……」 そこでジゼルさんは目を閉じた。ゆっくり呼吸する。 「……二人とも、時間はあるかい?」

「はい」

「俺も大丈夫です」


 来た。正直言って、期待していた。ジゼルさんとは話す必要がある。絶好の機会。


「どこか、場所を用意しましょうか?」 と俺は言った。ここは道の真ん中だ。

「そうさね……。ニナ、果樹園を作り始めたと言っていたね?」

「はい」

「じゃあそこにしよう」

「あ、それなら冷えるので、この布を使ってください。魔力を込めると温まります」


 俺は二人に魔岩布を手渡した。


 二人は感動した様子で布を羽織る。すぐに魔力を込め、さらに驚きの声を上げた。

 ジゼルさんの布の端を、母が掴んでいる。……やっぱり、そうか。




 果樹園に着くと、ニナさんは簡素な木小屋を作った。外の木々がよく見えるよう、最低限の風除けになる壁と、屋根だけだ。中央には焚き火。ニナさんのナイフで火花を散らして付けた。俺とニナさんの二人で旅をしていた時に、よくやっていた方法だ。炎魔法を使えるレティが仲間になってからは、必要なくなったやり方。今ここにいる四人は、誰も炎魔法を使えない。


「……さて、まずあんたが気がついていることを、教えてもらえないかね?」 問いながら、ジゼルさんはニナさんが作った木の椅子に腰かける。


 俺は小さく息を吸った。一気にいこう。


「……はい。結論から言います。……ニナさんの髪が普段黒く見えるのは、膨大な魔力が蓄積されているからです」

「そうだね……。それだけかい?」 とジゼルさんはさらに促した。

「……ジゼルさんの髪も、以前は黒かったのだと思っています」


 ジゼルさんは俺の目をじっと見ている。真剣だが、優しさを帯びた眼差しだ。


「恐らく、白くなったのは老いではない。……この後に言う事は根拠がなく、失礼な推測かもしれませんが、はっきりと言います」 俺はジゼルさんと、その隣に座った母の顔を見る。 「母とジゼルさんは、同年代ではないでしょうか? ……つまり、髪だけでなく、ジゼルさんがそのように老いた見た目をされているのは、加齢によるものではない」


 もう一度、息を吸った。「……魔力の枯渇によるものだと考えています」


 ジゼルさんは少しの間、目を瞑った。その横で母は、ジゼルさんが羽織る布を掴んだまま、沈黙を守っている。


 ニナさんが、お茶の入った木の湯呑みをジゼルさんに手渡した。


 ……お茶? 「あれ? ニナさんどこからお茶を……?」

「家を出る際に容器に入れ、魔岩布でくるんでおきました」

「用意周到だね……」


 ニナさんもこの場を予想していたということだ。徹底的に話そう。ジゼルさんさえ良ければ、だが。


「……リリーナ。二人とも大したもんじゃないか……」

「ええ。私も、今の二人には話すべきだと思うわ」 と母は応えた。


 全員にお茶が行き渡ると、ジゼルさんは静かに語り始めた。


「あんたの仮説は、全て正しい。ワシは、ニナも使った禁術を使い、今のようになった」

「……その時、蘇生したのは……」 俺は訊いた。予想は付いている。

「ニナだよ」

「!」 ニナさんは息を呑んだ。手が震え出す。


 その震えは僅かだが、湯呑みの中で波打つお茶が、ニナさんの心中を表している。


 母がニナさんに優しい眼差しを向ける。 「ニナちゃん、もっとドコウに近寄りなさい。独りではなく、二人で聞くのよ」

「……はい」


 俺が座っている椅子が、二人掛けへと形を変えた。隣に座ったニナさんの震えが、徐々に収まっていく。


 その様子を確認し、ジゼルさんは口を開いた。


「ワシには息子がおった。夫は、ワシらよりも三百ほど歳上のエルフ。もうとっくに寿命でいってしまった」

「私に土魔法を教えてくれたのは、ジゼルの旦那さんのお友達だったのよ」


 土魔法はドワーフ族の魔法だ。ドワーフとエルフの間には交流があった。


「息子はエルフの中でも、特に魔力の感知が得意だったね……。大人になる頃には、木々の声も聞けると言っておった」

「木々の声……」 俺は声を洩らした。


 と同時に、ニナさんが俺の服を掴んでいることに気付いた。掴むというより、握りしめている。差し出した手が服の代わりになった。


「自然を愛する、優しい子だった……。そんな息子が、美しい妻を迎えた。この子もまた、自然の声を聞き、自然を大切にする良い子だったよ」


 自然の声……。引っかかる。表現の問題かもしれない。


「ワシは息子夫婦が好きだった。共に暮らし、子を授かったと聞いた時は、自分のことのように喜んだもんさね」

「私やお父さんも一緒に、お祝いをしたわ」 母が言った。


 さらにジゼルさんに寄り添っている。母は、どこまで知っているんだろう。ニナさんと会った時、母は初対面のように見えなかった。


「……ある日、息子夫婦は揃って、ヒト族が多く集まる国……ボレアリスに行くと言い出した。ワシは理由を訊いたさ。腹に子がいる今、なぜ長旅をする必要があるのか、とね」


 ジゼルさんは、涙を堪えるような表情で話し続けている。いや、泣いているのかもしれない。枯れた涙が、頬を伝っているような気がした。


「二人は、『星の声を聞いた』と応えた。聞いた以上、なるべく早くヒト族に伝える必要がある……そう言って二人は旅立っていったよ」


 ……今度は『星の声』……。それは何だろう? いかにもファンタジーだが……。


 考える俺をよそに、ジゼルさんは語り続ける。 「……この時、なぜワシはすぐに付いていかなかったのか……何年も考えたが、分からんままだね」

「ジゼル……」 と母がジゼルさんの肩をさすった。

「今はもう心配ないよ。……数日して、胸騒ぎが収まらなかったワシは、二人を追ってボレアリスに向かった。……ボレアリスの手前に広がる森で、すぐに二人を見つけることができたよ……」

「ジゼル、手を握って……」

「ああ……ありがとう」


 ジゼルさんは母の手を強く握りしめた。


「……二人は、仲良く森で寝そべっていたよ……真っ黒に、焼け焦げてね……」


 ニナさんが俺の手を握る力が、強まった。俺が取り乱してはいけない。俺がニナさんを支える番だ。俺は握り返す力を少しだけ強めた。


「後からジンロウが調べた話によると、二人はヒト族に、炎魔法を禁じろと、言ったらしい。……二人の真意は、ワシには分からん。しかし、その時の二人は、ヒト族が提示した妥協案にも一切応じないほど、強行的で、必死だったそうだ」

「……そんな一方的では反感を……」 と俺は言った。炎魔法はヒト族にとって、ボレアリスにとって特別なものだ。

「やっぱりあんたとは気が合うね。……ワシも、二人はそれで反感を買ったのだと考えたよ。……炎魔法は、土魔法や木魔法を使えないヒト族が、長い年月をかけて確立した魔法。しかも、純血のエルフやドワーフには使えない魔法だからね……」


 確かに炎魔法は特殊だ。ボレアリスの信仰や成り立ちだけではない。仕組みが特殊。それは随分前から分かっている。


 しかし、二人はなぜ使用を禁じようとしたのだろう? 相手が殺意を覚えるほど二人を強引にさせた『星の声』とは、なんだ……?


「ともかくその時のワシは……二人を見つけたワシは、理由なぞどうでも良かった。ただ二人を……いや、腹に宿る子を含めた三人を……助けたかった。そしてワシは、全ての魔力と、自分の命も賭して、蘇生の禁術を使ったのさ」


 答えに近づいてきている。最初から、分かっていた答えに。


「そもそもあの禁術は、全ての魔力と引き換えに、死後間もない一人の命を呼び戻す技。それをワシは、無理だと知りながら、三人に使おうとした。……息子だけが蘇ったところで、何の意味もないと思ったのさ」

「……」 ニナさんは黙ったままだ。手からまた震えが伝わってくる。

「……ワシは分かっておったよ。二人が命を落としてから、時間が経っていると。それでもワシは、無理矢理に術を発動した。……結局、二人に変化はなかったよ。無理をしたワシは、魔力を全て消費し、生気も失い、魔力を扱う能力すらも失った。……失敗したと思ったさ。……しかしね、徐々に消えてゆく光の柱の中に、小さな赤子が見えたのさ」

「……おばあちゃん……」 ニナさんが小さく言った。

「両親譲りの真っ黒な髪に、父親似の白い肌、母親とそっくりな桔梗色の瞳をした女の子……。ワシは何とか、二人の一番大事なものだけは守ることができた」


 ジゼルさんはゆっくりとニナさんの顔を見た。真っ直ぐ、愛おしそうに見た。


「……ワシはその子に、ニナと名付けたのさ」


 ジゼルさんはもう、震えていなかった。震えていたのは、途中まで。蘇生の禁術について話し始めたとき、ジゼルさんの緊張は解れていた。


 きっと、それまでの話は思い出したくない話。でもニナさんと出会ったことは、ジゼルさんにとって良い思い出なのだろう。


「この話をしたのは、おまえ達……ニナとドコウなら、息子達とは違う道を見つけられるんじゃないか。そう思ったからさ」

「……『星の声』……」 とニナさんは言った。

「そう。ワシは、ヒト族を恨んではおらん。二人のやり方がマズかったのさ。……だが、二人の事情も分からん……。分からんまま、何十年も過ぎてしまった」


 母が言う。 「それから私達、ドワーフとエルフは、ヒト族を刺激しすぎないことに決めたわ。向こうからすれば、こっちから喧嘩を売ったように見えたはずだもの。……全面戦争を、二人が望んでいたとは思えなかったの」


 母の口調は、言い訳をしているようにも聞こえた。きっと、自分に対しての言い訳なのだろう。本当は真相を追いたかったに違いない。そう思わせる声と表情だった。


「ドワーフとエルフの交流も、目立たないようにしたわ。……ヒト族を疑心暗鬼にさせるのが怖かったの」

「収拾がつかなくなるね……」 と言った俺は、少し臆病すぎるようにも感じている。それはきっと、失っていないからだ。

「そしてワシらは、嘘をつくことを決めたのさ」

「……ドワーフとエルフが不仲だという嘘と……」 と俺は言った。

「黒い髪の嘘」 とニナさんは言った。


 どちらも嘘をついた相手は、俺とニナさんだ。まだ、意図をよく理解できていない。


「黒髪の方は少し分かります。ニナさんに両親を追ってほしくなかったから……じゃないですか?」


 ジゼルさんはゆっくり頷いた。 「その通りさ」

「でも実際、黒髪は多くの人にとって未知の存在のようですが……」

「髪が黒い……つまり純血のエルフは、ここ数百年で五人しかおらん」

「……ああ、なるほど」


 五人……ジゼルさんとその旦那さん、息子さん夫婦に、ニナさん。


 ジゼルさんはエルフの隠れ里で暮らしており、息子さん夫婦も同居していたと言っていた。見つからなければ、居ないのと同じだ。それまで隠れていたことを考えると、ヒト族に会いに行った時も、露出は最小限にしたのだろう。両親の手がかりはごく一部。


「ワシらは……いや、ワシは、ニナの始まりを、復讐にしたくなかったのさ」


 母がお茶を一口飲んだ。 「今日、貴女達の街を見せてもらったわ。ドコウが寝ている間の皆さんの様子も。……とっても良い仲間達と、とっても素敵な街を作ったのね」

「ええ」 「うん」 ニナさんと俺は同時に即答した。


 全部に意味がある。本当にこの母は抜け目がない……。


「ニナちゃん。この話を聞いて、どう思ったかしら?」


 母は言葉にできなかったようだが、仲間達のことだ。……もっと直接的に言えば、両親を殺した人達と同じ、ヒト族のこと。


「関係ありません。父と母を殺した人と、今を生きる皆さんは別の存在です」


 ニナさんの視線を一瞬感じた。俺が振り向くと、すでに母に向き直ったニナさんの横顔が見えた。


「……先入観に縛られずに、事実を見て理解する。それが、ドコウさんの傍で、ドコウさんから学んだ世界の見方です」 とニナさんは言った。


 俺は痺れた。


「……そう……そうね……。ごめんなさい、嫌なこと訊いちゃって」

「いえ」

「そんなニナちゃんとドコウだから……やっぱり私も、お願いしたいわ。亡くなった二人の意思……星の意思を……解き明かしてほしいの」


 星の声を聞き、炎魔法を禁じようとした、その真意。分からないことだらけだが、いくつか引っかかるものはある。


 まず、既に気が付いていた炎魔法の特異さ。副次的な現象に過ぎない発熱現象を主目的として扱うのは、やはり少々歪んでいる。この歪みが、星の声とやらに関係しているとしたら……? 魔工学と強く関連する話に思えてくる。


 『星の声』もやはり気になる。それ自体が次の引っかかり。大きな疑問。ジゼルさんはそれを超常的な存在のように語った。しかし、そんなものが実在するのだろうか? この世界は異世界だ。それは間違いない。あちこちに魔力がある。でも、それだけだ。魔力は制御できる。空想(ファンタジー)ではない。目の前にある現実だ。


 さらにもう一つの引っかかり。これは単なる想像だが……。二人はヒト族に『伝える』ために旅立った。もしかして二人は、ヒト族のことも想って、行動したんじゃないだろうか。二人は、世界を救おうとしたんじゃないだろうか。


 俺とニナさんは視線を交わして頷いた。


「分かりました」 とニナさんが母に応える。

「俺も。……それで何度も俺に、色々なことを知れって言ってたんだね」

「ええ、そうね。ニナちゃんにも言いたかったけど、いらなかったわね」


 仲間の皆と出会い、自分の目で世界を見る前に今日の話を聞いていたら。俺とニナさんは、どんな考えを持っていただろう? なるほど——。


「……って納得するとこだった。ドワーフとエルフが不仲だっていう嘘の方は? 理由が分からないんだけど……」 と俺は言った。

「私もです」 ニナさんが同意する。


 母は小さなため息をついた。……なんで?


「……ドコウとニナちゃんには、全く意味のない嘘だったわぁ。初めて二人を見た瞬間、嘘をつき続けるの、諦めたもの」 母は一気に肩の力を抜いて言った。

「ワシもさね」 ジゼルさんも少し笑みを浮かべている。

「……どゆこと?」

「二人には、一緒に歩いていくことを、自分たちで決めて欲しかったのよ! ドコウは身体の育ち方も寿命も、人口のほとんどを占めるヒト族とは違うって、旅に出る前から分かってたでしょ?」


 母からエルフの話を聞いたのは、ドルフィーネに行く前だ。やっぱり。最初から、旅に出すつもりだったんだな。


「身体のことだし、気が付かないなんてことはあり得ないわ。……放っといたら、似た境遇のエルフと何となく旅をする……なんてことに、なりそうじゃない!」

「……だから無条件に信頼しないように、悪い印象を?」

「そうよ! それでも少しずつ分かり合って、いつか協力し合えるはず。その時の仲はきっと本物。……もし仲良くなれない時は遠回しにフォローして……」 母は俺とニナさんを交互に指差した。 「って色々考えてたのに、初対面で打ち解けちゃうなんて!」


 母のトーンがどんどん上がる。さっきまでの重い空気が、入れ替わった気がした。


「しかもそれからずっと相棒ですってぇ? ドコウが一人で村に来た時に話を聞いて、吹き出しそうになっちゃったわ!」

「予想を上回る、嬉しい誤算だったね! ……カカカッ!」


 ……あ、ジゼルさんが笑った。声を出して笑うところを見たのは初めてだ。


 しかしジゼルさんはニナさんを見て、表情を変えた。いや、止まった。驚きの表情。


 ニナさんの右手は俺の左手を握ったままだ。俺もニナさんを見た。


 ニナさんは、左手を口元に軽く寄せ、くすくす笑っていた。錯覚ではない。


 俺の視線に気付いたニナさんが戸惑った顔をする。ああ、笑顔が。 「……あ……私も普通の、ただの一人だと思ったら自然と……。変ですか……?」 と俺に訊いた。

「おいドコウ! この顔を見な! こんなに可愛い笑顔があるかい!? 控えめでいて美しく、気品があって可憐な笑顔! ……ああ、生きている間にニナの笑顔が見れてワシは幸せだよ……。……何してる! なんか言う事があるんじゃないのかい!?」

「お、おばあちゃん……」


 涙まじりの嬉しそうな顔をしたジゼルさんが、杖の先端を俺に向けてまくし立てる。ニナさんは少し恥ずかしそうな顔になった。確実に、表情が柔らかくなっている。


 俺はずっと前からニナさんの気持ちを何となく読み取れていた。でもそんなことはどうでもいい。


「……何も変じゃない。ニナさん。良かったね」 と俺はニナさんに微笑みかけた。

「……はいっ」


 口元を押さえる左手の袖口から、魔岩付きのブレスレットが覗いていた。


「……はぁ……貴方達には敵わないわぁ」


 母はなぜか呆れ顔だが、ジゼルさんは満足そうだし、ニナさんは嬉しそうだ。

 その晩、俺は温もりを感じながら眠った。

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