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英雄が壊す異世界  作者: 波白雲
第二章:目に映る世界
24/39

第24話:師は不要か?

 開けたことのない扉の前で、俺は生唾を飲み込んだ。この扉は魔工機人研究所……魔機研の裏口……。正面入口は大会議室工事のため、使用禁止だ。


 ついにこの扉を開ける時が来たのか……。


「……我が主、緊張してる……?」 とクレアが俺の顔を覗き込む。

「そ、そりゃそうだろう……」

「では、そなたから入るが良い」 スゥが俺の背中を軽く押した。

「よ、よし……」 俺は頑丈そうな扉を開け、建物の中に入った。


 白を基調とした清潔感のある廊下。大きな窓から差し込む自然光のお陰で、より一層明るい印象だ。窓の外にはちょっとした中庭があり、緑が目に優しい。窓の対面側には、複数の扉が見える。それぞれの扉の先は実験室だ。全部の扉を開けて回りたい。


「感想はどうじゃ?」

「……上手く表現できないな……。凄い」

「言葉出なくなっちゃいますよね! ここが私達の居場所なんですよ!」 とレティが言った。

「実験室も凄い……。……我が主、ボク達がいま使ってる部屋に案内する……」


 クレアの後に続き、部屋の一つに入る。よく整理された実験室だ。中央には大きな作業台があり、今は大きめの魔岩が一つと、コンロ型の魔岩が二つ置かれている。


「ここは私の実験室としていただいた場所です! 立派すぎて最初は落ち着かなかったんですけど……。二人と一緒に研究してるうちに慣れてきました!」

「そうか……。いいね。実際に使ってみてどうかな? 使い勝手とか」


 クレアが部屋の中央に進み、ぐるりと見回した。 「まだまだ本格的に使えてない……でも、とても良い。前の、ボクの研究所で……もっとこうしたらって思ってた……ところも改善されてる」

「なるほど。クレアの意見に感謝だね」

「……へへ……へへへ!」 そして深呼吸。


 暴走しかけて自制したな。俺も大きく息を吸い、吐いた。この空間に慣れるためだ。


「よし、じゃあ早速、研究成果を教えてもらおうかな」

「はい! 最初は私です!」 とレティが元気良く手を挙げた。作業台に近づき、 「この魔岩を使って説明しますね」 と示す。


 大きめの、普通の魔岩だ。


「前に、魔岩の表面をスゥさんに加工してもらって、魔力保存量を増やす話はしたと思うんですけど、今回はそれをやってないものです。なので、ただの魔岩です。……ドコウさんに会った頃は魔岩ってだけで珍しいと思ってたのに、『ただの魔岩』だなんて。不思議ですね」

「ははっ! それだけたくさん魔岩に触れて、たくさん研究したってことだね」

「そうですね! それで、今日見せたいのは、ここに溜める魔力の種類です」 レティは魔岩に手を置いた。 「見ててくださいね!」 そう言って、魔岩に魔力を込め始める。


 魔岩はいつも通り、白っぽいクリスタルのような色合いから、少し黄みがかった色へと変化していく。


 レティは普段から魔岩に中級水魔法の『ウォーターブラスト』を想定した魔力を込め、魔法の即時発動に利用している。なので、レティが魔岩に魔力を込める姿は何度も見てきたのだが……今回は何か違う気がする。込められた魔力に透明感があると言うか……純粋と言うか……もしかして?


「……ふぅ。終わりました」 レティは魔岩を紹介するように両手で示した。 「どうですか? ドコウさん」

「……いま込めた魔力って……何も魔法のイメージを乗せてない? 純粋な魔力?」

「その通りです! やっぱりドコウさんは凄いですね……。本当に見ただけで分かっちゃった!」 レティは両手を胸の前で握って喜んでいる。

「いやいや、予備知識なしでは分からなかったと思う。いつもと違うな……ってとこから予想しただけだよ」


 これまで、魔岩に溜められる魔力は、何かの魔法のイメージを込めたものだけだった。これは、水魔法を参考にして魔力を溜める技術を開発したことに起因している。


 水魔法では、まず空気中の水分を集めて水球を作り、次にその水球に魔力を溜める。そしてその魔力を使って、水球を勢いよく射出するのだ。この『水球に魔力を溜める』という工程を、『魔岩に魔力を溜める』に置き換えたのがレティの技術だ。つまり、溜める魔力は『水球を射出するための魔力』だったのだ。


 俺は以前、この技術を応用し、『岩を操作するための魔力』を込めることに成功していた。ゴーレムの腕を飛ばすのに使った技術だ。しかし、これも何か特定の作用をするための魔力には変わりない。


 純粋な魔力の放出自体は、難しいことではない。俺の拳術だってそうだ。しかし、拳術の魔力放出は対象を砕く。魔力を乱暴にぶつけてしまうと、魔岩は魔力を溜めることなく、砕けてしまうのだ。


「どうやったんだろう? 俺の理解では、かなり難しい技術だと思うんだけど……」 顎を擦りながら俺は尋ねた。

「実は、今回もスゥさんにアドバイスをもらったんです!」

「スゥに?」 横に立つスゥを見ると、目が合った。

「うむ。以前、そなたが解明した炎魔法の原理。まだ覚えておるかの?」

「もちろん」


 炎魔法の術者は膨大な魔力を放出しているだけであり、炎の発生は副産物。この考えに基づいて開発したのが、加熱魔岩と呼ばれている装置だ。……あ。


「もしかして、加熱魔岩……で良いのかな? あれを使う経験がヒントに……?」

「そうじゃ。呼び名も、加熱魔岩(かねつまがん)に統一しようかと思っておる。料理屋でいつの間にかそう呼ばれておったのじゃが、もう定着しておるようじゃしの。そなたも開発者じゃから意見を聞きたいが……」

「うん、俺は良いと思うよ。自然に呼ばれてたんなら、広まりやすい名前なんだろう」

「承知した。それでじゃ……」 スゥも作業台に近づき、さっきレティが魔力を込めた魔岩に触れた。 「その料理屋で加熱魔岩の使い方を教えておるうちに、純粋な魔力の放出量を調整するコツが分かってきたのじゃ」

「それを私に教えてもらったんです!」 レティとスゥが視線を交わしてにっこり笑いあった。


 そういうことか……。いやはや……弟子達の連携に驚くばかりだ。


「でも、まだちょっと続きがあるんです!」

「……え? もう凄すぎてビックリしてるんだけど、まだ続いちゃうの?」

「続いちゃいます! 実はこの『ただの魔岩』だと、純粋な魔力を込めるのはやっぱりちょっと難しいんです。試しにスゥさんにやってもらったんですけど、ダメでした」

「そうなの? スゥの方が、魔力放出の圧倒的な経験があるのに」

「そうなのじゃ」


 むむ……? そこは魔力を込めるイメージが多少必要ということなのか……?


「それで、やっぱり今回も魔岩の表面から抜けちゃってるのかなって考えたんです! 魔力はちゃんと放出できてるはずなので、溜まってないなら抜けてるしかないかなって」

「……うーん、鋭い。じゃあ、今回もスゥに加工を?」

「はい! でも、加熱魔岩と同じ加工じゃダメだと思いました。特定の魔法専用で込めてた前回とは違って、今回は加熱魔岩を普通に使うのと同じになっちゃいます。表面が熱くなるだけです」 レティはスゥが手を放した魔岩の表面を撫でた。 「それで、加熱魔岩よりも高い魔力伝達抵抗の材質で、表面を覆うように加工してもらいました!」


 レティはどんどんヒートアップしていく。 「そしたらですね! スゥさんだけじゃなくて、料理屋で働いてる皆さんでも純粋な魔力を溜められるようになったんです!」

「……」 俺は顎に手を当て、目を瞑った。

「……あ、あれ? ドコウさん、どうですか……?」


 どこまで凄いんだ、このレティって子は……いや、もうそろそろ子って呼ぶのは失礼か。自分でどんどんアイデアを出し、仮説を立て、検証してまたアイデアを出す……。理想的な研究サイクルを、純粋に楽しみながら体現している。


「ごめん。感動しちゃって……」 俺は目を開けた。 「実際、溜めた魔力は色々な用途に使えたのかな? ……なんかまた成果が出てきそうで質問するの怖いんだけど」

「できます! ……えっと……やっぱりちょっと工夫があって……」

「……お手柔らかに……」

「スゥさんの加工は、なるべく全体を覆えた方が効果がありました。これはイメージ通りです。だけど、魔力を込めるための入口……それは魔力を使うときの出口になるんですけど、そんな出入口は魔力を通しやすくないとダメです。そこで!」 レティの視線が俺から外れ、少し横に動いた。 「クレアさんが開発した魔岩糸(まがんし)を使いました!」

「……うん。実はボクも手伝ってるんだ……へへ……」 と言ってクレアも作業台に近づいた。三対一だ。

「魔岩糸を介して魔力を込められますし、そのまま握って水魔法の即時発動もできました! あと、魔力を溜めた魔岩に繋いだ魔岩糸を、加熱魔岩にチョンって付けると……いつも通り発熱しました!」


 ……俺、魔岩糸の使い方のアイデアも、誰にも言ってないよね?


 レティは当然、魔岩の性質をよく理解している。作られた魔岩糸を見て、考えたんだろう。他人の研究にも興味を持ち、理解し、自分の研究に活かしてる……。完璧だ。


「あれ、研究成果って、一度にこんなに摂取して大丈夫だったっけ……?」 

「おぬし……今日は三人おる、ということを忘れないようにの。レティは一人目じゃぞ」

「……マジか……」


 研究成果の過剰摂取(オーバードーズ)。明日の朝日は、見られないかもしれない。


 レティは可愛らしくお辞儀をすると、 「ひとまず、私からは以上です!」 と言った。

「凄い! 一つ一つ、丁寧に考えて、着実に進めたことがよく分かる」

「えへへ。嬉しいです! 何だかやる気が出ちゃって」 レティは髪飾りをそっと触る。


 俺が弟子の証としてプレゼントした、大きめのヘアピン。あれ以来、常に身に付けてくれているようだ。


「この魔力保存の成果があったことも、食堂での話に関係してるのかな?」

「そういうことです! ……じゃあ、次に行きましょうか?」

「そうだね。次は、スゥだったよね?」


 確か家に着いた時の話だと、レティ、スゥ、クレアの順に決まったはずだ。


 しかしスゥは、クレアの背中を軽く押して話した。 「そうなのじゃが……妾は昨晩に時間をもらってしまったしの。先にクレアに譲ろうと思う」

「良いの……?」 クレアは驚いてスゥを見た。 「嬉しい。ありがとう、スゥ……様」

「『様』は止めよ!」


 嬉しそうな顔をしたクレアは、懐から何かを取り出した。……布? やっぱり魔岩糸(まがんし)に関連する成果で来たか!


「我が主……ちょっと失礼……します」 クレアが、取り出した布を俺の肩にかける。


 ……なんだ?


「レティ、スゥ……やる?」

「スゥさんが良いかもです!」 とレティ。

「そうじゃな。では、妾に任せてもらおうかの」 そう言ったスゥは布の端に軽く掴み、魔力を通わせ始めた。

「……ん! 温かい!」

「うん。我が主……。ボクは、スゥと一緒に、発熱する魔岩糸を作り……ました」


 俺の口からつい、ため息が漏れてしまった。


「えっ……ダ、ダメだった……?」

「いや、ごめん。クレアも、なんでこんな凄いアイデアを簡単に報告するんだ……」

「じゃ、じゃあ……」 クレアが期待の込もった目で俺を見た。

「ああ、これもまた凄いぞクレア!」

「へへ……へへへへへ……」


 魔力で温かくなる魔岩糸……それを編んで作る布。これは、防寒着の大革命になるぞ!


「スゥも、また協力して……凄いな!」

「ふふっ。仲間に恵まれたようじゃ」

「クレア。これはすぐにでも衣服に展開しよう! もうすぐ寒くなる時期だし……」

「今頃、ミミカが試作品を作ってるはず……」


 目眩(めまい)がしてきた。倒れても良いように肩にかけられた布をスゥに渡しておく。


「お、おお。そうか、流石だね。……じゃあ、住民に販売する準備のために、前に紹介した雑貨屋の店主さんに……」

「こないだ話してきた……。急いで開店準備するって言ってた……。奥さんはまだ手伝えないみたい」


 俺はついに倒れた。


「わ、我が主!?」

「うわわ! ドコウさん!?」

「ど、どうしたのじゃ! 大丈夫かの!?」


 ……どこまで優秀なんだ。この弟子達に、師匠……要る?


「……ああ、ごめん。研究成果の供給過多で……感情と身体が追いつかないな……」


 魔機研の床は、冷たかった。こうすると、天井がよく見える。他と同様に綺麗に作られていて、高さも十分。広い空間と、床のひんやりした感触に変な落ち着きを覚えるが、ここで寝るのは厳しそうだ。……恐らく、セバスさんが床材を選んだのだろう。


「そういえば……店主さんは昨日も頑張ってたね……」

「そうじゃな。あの時はこの話にならなかったがの」


 床の冷たさのお陰で、頭も冷えてきた。よしよし、落ち着いてきたぞ。立ち上がってクレアを見る。


「改めて、凄い成果だよ。クレア。……クレアが報告してくれたってことは、このアイデアはクレアが?」

「うん、ボクが。でも、皆と話してて思い付いたから……一人でとは……思ってない」


 クレアはスゥとレティを見た。ミミカもここに居たら目を合わせていただろう。


「なるほど。でも、研究アイデアってそんなもんじゃないかな? 議論ももちろん良いんだけど、案外雑談してる時なんかにズバッと(ひらめ)いたりするんだよね」

「ま、まさにそれです……!」 クレアは一歩前に出た。 「皆でお風呂に入ってて、これから寒くなるねって話してて」 さらに数歩前へ。もう俺の目前。 「それなら服が温まればと思った時に魔岩糸の特性がほぼ魔岩のままだったことを思い出しムグッ!」


 スゥがクレアを押さえ込んだ。 「……クレア、徐々に加速しておったぞ……」

「お、おお……。グッジョブ」 と俺は言った。


 いつもの急に始まるパターンと違ったので、油断していた。それに、内容もちょっと違った。これまでは技術に興奮していたと思ったけど、今のは……。


「ぷはっ……。スゥ、ありがとう……。あの時の気持ちが、我が主も分かるんだって思ったらボク……」

「今回ばかりは、妾にも気持ちが分かるぞ。皆と話しながらアイデアが浮かんだ時の興奮は、何とも言い表せぬものじゃな。……クレア、落ち着くんじゃぞ?」


 クレアは歓喜の眼差しをスゥに送っていた。 「やっぱり……スゥ様って呼ぶ……」

「ダメじゃ!」

「あの時のクレアさん、凄かったですもんね! 私達まで盛り上がっちゃって!」


 そうか……。クレアは、対等な仲間と一緒に研究する楽しさを、ちゃんと体験できてるんだな。……師匠、泣きそう。


「……なんか、皆を見てると、師として嬉しくなっちゃうね……」

「あと……」 とクレアは俺に向き直って言った。


 あと!? まだあるの?


「魔岩に伸縮性……厳密には弾性だけど……これを持たせる方法は、もう少しで出来そう……。今はそれだけ……です」

「そっちも進んでるのか……。凄いな……。うん、じゃあそれも、程良い時に報告して欲しい。いつでも良いよ」

「うん!」




 弟子達の研究成果を聞き始めてから、どのくらいの時間が経っただろうか。あまりにも強烈な成果の連続に、俺は一度倒れたりもした。


 しかし、それも後一人。期待と寂しさを胸中に共存させつつ、俺は尋ねる。


「よし。じゃあ、待たせちゃったね。スゥの話を聞かせてもらおうかな」

「うむ」 返事をしたスゥは作業台に乗ったゴトク型の加熱魔岩を一つ手に取り、レティが使った普通の魔岩の近くに置いた。 「その前に、この加熱魔岩と、先程レティが使ったこの魔岩を繋いで貰えんかの?」


 そんなのは朝飯前だ。……いや、今は昼飯前? あれ、もうすぐ夕飯か? 俺は言われた通り、レティが使った魔岩の上に加熱魔岩を乗せ、結合した。


「ありがとう。……では、これを、こうする」 スゥはもう一つ別の加熱魔岩を手に取り、今付けた加熱魔岩に近づけた。


 加熱魔岩はガスコンロのゴトクのように、爪を持つ形状をしている。スゥは、二つの加熱魔岩の爪が互い違いになるように位置を調整しているようだ。今の状態で、もし双方の加熱魔岩に魔力を込めたとすると、生じる二つの光球がピッタリ重なるだろう。


「それでは始めるぞ。よく見ておくのじゃ」


 スゥが手に持った加熱魔岩に魔力を通わせると、爪の間に光球が生まれた。ここまでは、もはやいつも通りの光景だ。


 しかし、決定的な違いがあった。スゥが持っていない方の加熱魔岩に接続された、普通の魔岩の色が変化し始めたのだ! 先程レティが魔力を込めたことで少し黄色みを帯びていた魔岩の色が、僅かに、しかし確実に濃くなっている。


「こ、これって……熱が魔力に……?」

「やはり、そなたにもそう見えるかの。詳しいことは妾にも分からぬが、どうやら発熱の逆の現象が起きておるようじゃ」


 スゥは光球を生じさせ続けているが、もう変色は止まっている。以前にレティが言っていたように、一定量を超える魔力保存には、追加工が必要だからだろう。


 しかし今、量はどうでもいい。逆の現象? 魔力を物理的な現象に変換する工程は、『魔動変換(まどうへんかん)』と呼ばれる。だとすれば、これは『動魔変換(どうまへんかん)』とでも呼べる現象だ。そんな現象を、今まで見たことがあったか……?


 一つだけ、思い当たることがある。俺自身が、基盤学校に通っていた頃に編み出した技術。自分が生成した魔岩を魔力に戻す技術だ。そうか……。動魔変換が理論上可能であると示唆する結果だったのか……。見逃していた。


「これは根拠の薄い考えなのじゃが……。これと同様に、様々な魔動変換の逆を考えることはできんかの?」

「様々な……あッ!」 俺の頭にビジョンが浮かんだ。たちまち消えそうになる。

「なんじゃ!?」

「……」 俺は必死にビジョンを追う。

「……大丈夫かの?」


 もし、スゥの考えが正しければ……。ロボットを作る上で足りなかった要素にぴったりかもしれない!


(……ドコウ殿……?)

(……スゥ、きっと我が主は何か(ひらめ)いた……。静かにしておこう……)

(そ、そうか。うむ……)


 動魔変換が可能になる条件は何だろう? スゥが見せてくれた装置に、これまで以上の工夫はない。もしかして、今までも動魔変換は可能だった? 強いて言えば、魔岩を介していること。これは俺達にとっては普通のことだ。しかし一般的には、魔岩の使用自体が、これまでに無かった技術。よく調べられてなくても不思議ではない。


 一つ、確認しないといけない。 「ゴ……」 俺の口がやるべきことを紡ぐ。

「む! なんじゃ?」

「ゴーレム作らないと! ゴーレムゴーレム!」 今すぐに!

「お、おお! ここで作るでないぞ! この場所はゴーレムを動かす予定の部屋ではないのじゃ! 床が傷つく!」


 レティが部屋の出口に走った。 「皆さん! こっちから裏手に行けます!」

「ゴーレムゴーレム!」 俺はレティに導かれるまま、魔機研の裏手に出た。


 そこは敢えて手を加えられていない、空き地のようなスペースだった。確かにここなら気を使うことはない。


 俺はすぐにゴーレムを作る。念の為、オール魔岩製にした。


(ゴーレムをどうするのじゃ……?)

(……ボクにも分からない……)


 俺は地面に膝をついてゴーレムの腕を持ち、肘が曲がる方向に力を込めた。


 ……うーん、どうなんだ? 出ている気もする。しかし確信が持てないせいか、判断がつき辛い。ニナさんなら、もっとはっきり視えたかもしれないが……。


「……ドコウさん。何かありましたか?」

「ああっ、幻聴が……。そう……いまニナさんに視てもらえれば……」

「そのゴーレムを視ればいいんですね」


 ……! 振り返ると、ニナさんが居た。


(ニナ殿、いつの間に来たのじゃ……?)

(皆さんが、あちらの扉から慌てて出てくる様子が見えたので)


 また音もなく! しかしありがたい!


「ニナさん! 今からこの腕を動かすから、魔力が生じないか視てもらえないかな?」

「分かりました」


 俺はもう一度、ゴーレムの肘を無理矢理に動かす。手で動かしやすいように、もっと滑らかな関節を作ることは可能だ。しかし、今はそれでは意味がない。


「……どう!?」

「……微かですが、魔力が生じたようです」

「ほんと!?」 俺は膝立ち状態を止めて立ち上がる。 「もしかして、ゴーレムの肘が曲がる時じゃなくて、その一瞬前に魔力が出たんじゃない!?」

「その通りです」

「……おおお!」


 物が動くよりも先に生じているもの。それは……力だ!


 ゴーレムの関節には、魔力を関節の動きに変換する仕組みが元々備わっている。これは土魔法の岩操作がベースになっているはずだ。だとすれば、これも魔動変換の一種。つまり、魔力を、岩にかける力へと変換する機構が組み込まれているのだ!


 そして、さっきスゥが見せてくれた現象と同じように、その逆である『動魔変換』も行われている! 力を感知して魔力の……信号と言っていいだろう……うん、『魔力信号』に変換する……つまり、力センサだ!


「おお……おおおーっ! これは来たぞ! スゥ!」

「はい! ……あ」 咄嗟に出た言葉に驚いたのか、スゥは両手で口を押さえた。

「ありがとう! これは機人の実現に欠かせない大発見だ!」

「そ、そうじゃったのか?」


 ちょうど良かった。センサの実現はずっと気になっていた課題。ロボットの制御をレティに教えることになったので、一刻も早く解決したかったのだ。


「レティ!」

「は、はい!」 レティはピンと背筋を伸ばした。

「楽しくなってきたぞ……。明日からの指導に期待して!」

「状況が全然分からないんですけど、楽しみです!」


 レティには順を追って説明しよう。


「クレア!」

「はい。我が主……!」 クレアは予想していたように力強く応えた。

「伸縮する魔岩ができたら、魔力を通わせてみてほしい。……もしそれで縮んだり、伸びたりする力が生じたら……そん時はお祝いだ」

「……! うん、分かった!」


 周囲の音や景色が、認識できるようになってきた。魔機研の裏の空き地スペース。整地はされているが、地面は剥き出しのまま残されている。こういう時のために用意してくれてたのか。


 広い空間をぐるっと見回し……。


「……あれ!? ニナさん! なんでここに?」 と俺は尋ねた。

「……慌てる皆さんが見えたので」

「それで来てくれたのか……。凄く助かったよ」


(スゥさん、ニナさんにさっき聞いてましたよね……?)

(うむ。どうやらドコウ殿には聞こえておらんかったようじゃ)

(……考え事してると、たまに何も聞こえなくなる……。たぶんそれ……)


 空はいつの間にか、茜色に染まっている。充実した一日だった……。夕食を済ませたら、今日の報告内容をもう一度整理しよう。……夕食……あれ? 俺達の昼は?


 とても信じられない。俺は何度連続で食事を逃すんだ?


「……レティ、スゥ、クレア……俺達、昼ご飯食べ損ねた?」 恐る恐る確認する。

「そうですね……」 とレティがお腹を押さえた。

「夢中になってしまったの……」

「……集中が切れて、お腹……空いた……」


 弟子達の回答は一致していた。昼飯抜き……。いかんいかん。師匠として、俺がペース配分を管理すべきだった。ご飯抜きだなんて……いかんぞ。


「もうじきのはずです。皆で行きましょう」 とニナさんが前向きな提案をする。

「ありがとう。ニナさん」 そこで気が付いた。ニナさんの様子が少し違う。特に手が土まみれだ。 「そういえばニナさんは、今日は何を?」

「頂いた土地を果樹園にする準備を」

「果樹園! それは素敵だね!」

「まだ苗木を植えるところですが、今度来てください」


 俺達の家は魔機研の隣。すぐそこだ。談笑しながら、俺達は家路についた。

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