D-9 別れとあまりに早い再会
ヌリオミを発って四日後、何も起こらず王都に着いてしまった。
少し味気ないな。
検問待ちの列に並びながらそう思う。
ヌリオミの次の町──ハレイでは何も起こらなかった。
普通の町で普通のことしか起こらない普通の日常を送った。
強いて言うならば、アンニル団の噂が広がってたりとか、エレスの妻を名乗るイかれた奴がいたぐらいだな。
さて、無事に検問所を通り王都に入る。
さすがは王都。
一目で栄えてるのがわかる。
道は放射状に作られていて、門から対極の位置に王城が構えている。
町は喧噪に溢れかえっていて、鐘の音が遠くから聞こえる。
「王都って賑やかだよなー! 何度来ても飽きないぜ!」
「これが初めてじゃないんだな」
「おう! 何たってAランク冒険者だからな!」
ここまでの旅路でエレスからAランク冒険者について色々聞いた。
そのうちの一つが、国からの依頼は基本、王城にて受領されるとのこと。
今回、王都に来た理由もこれだそうだ。
馬車から降りて荷物を持つ。
「俺は王城に行くから真っすぐだな、ジエンは?」
「俺はこっちだな」
資料の『アンニル団基地㏌アレルハライド』と書かれたページにこの世界の景観からかけ離れている建物とそこまでの道のりが記されている。
「そうか、じゃあここでお別れだな」
「だな」
「この七日間の旅路はめっちゃ楽しかったぜ! んじゃ、お前も頑張れよ!! またいつか!!!」
「あぁ、またいつか」
エレスは俺に手を振りながら去っていった。
どうせすぐ会うだろう。俺の勘は鋭いからな。
***
資料に記された道のりを歩み、『アンニル団基地㏌アレルハライド』にたどり着く。
この世界の家屋は石や木材が使われているが、この建物は明らかに鉄やコンクリが使われている。
はっきり言って場違いだ。
でも、道行く人たちはこの建物を奇怪な目で見ていない。
加えて、この建物から変な力を感じる。
たぶんだが、この世界の住人にだけ効く偽装が施されているのだろう。
チャイムを押す。
すると、ドアが勝手に開いた。
これは入っていいってことだよな?
「はじめまして~、とりまそこ立っといて~」
中に入ると虎の獣人である女性──イグネリアが慌ただしく準備をしている。
どうやら出かけるみたいだ。
この建物の中も外観と同じ様式だ。
IHキッチンにソファ、エアコンまで完備されてる。
「おまたせ~とりま自己紹介を、あーしはイグネリア、アンニル団のNO.4で司令塔なり~」
尻尾を揺らしながら、ご丁寧にギャルピースを交えてイグネリアは自己紹介する。
司令塔っていうからにはもっとお堅いのを想像してたんだけど、全然違ったな。
イグネリアの見た目はあの漫画――『アンニル団の日常』とほとんど同じだ。
頭にはケモミミがついていて髪色はオレンジ、瞳の色はアンバーだ。
髪型はいかにもギャルっていう感じだ。具体的に言うと長さが肩甲骨までで、ボリュームを持たせているためか、ふわふわとしている。
だが、それとは裏腹に爪は長くなく、メイクもバチバチにキめているわけではない。ところどころに自制を感じる。
「ほいじゃ、王城目掛けて繰り出すよ~」
「待って」
話が急展開を迎える。
「え~どったの? あ、もしかして腹減ってる系?」
「違う違う、説明。王城に行く理由の」
「そんなの運命感じたからっしょ♡」
だめだ、話が通じない。せめて会話のキャッチボールはしてほしい。
「まぁーガチで答えんならパーティー結成」
「なんの?」
「魔王討伐の~」
「……?」
この世界の魔王ってあれだろ?
勇者ごと封印されているやつ。
なんで今更討伐すんだろう。
「本当に話が見えないが魔王討伐は決定事項か?」
「いえーす!」
「わかった、なら王城に行こう」
「ノリいいじゃ~んイエーイ!」
「いえーい」
疑問は尽きないが決まったことをグダグダ言うよりはこれからのことだな。
魔王を討伐するために王城に行くのは理にかなってる。
それにイグネリアは王様に謁見したと噂されているし大丈夫だろう。
たぶん。
「細かいことはアッサンと会ってから話すわ〜。 とりま楽しみにしといてってことで!」
アッサン?……あぁ、この国の王様だな。あだ名で呼ぶとか結構親しいんだな。
***
場所は変わって王城の応接間。
ここで、クッキーを食べながら王様を待っている。
横に座っているイグネリアはクッキーを食べて自撮りしている。
王城でも自我を貫くその図太さ、見習っていこう。
コンコンと音がし、扉が開く。
「おはよう、遅れてすまないね。少し公務が立て込んでしまって」
「ぜ~んぜん問題ナシ!」
ノックとともにこの国の王――アランが入ってくる。
イグネリアは相も変わらずスコーンを食べて自撮りしている。
「君は初めましてだね。私はアラン、よろしくね」
「俺はジエンだ、よろしく」
「それと、こっちからも紹介したい人物がいる」
そう言って、紫がかった髪をし、剣を装備している見知った人物だ。
「失礼します。今回、魔王討伐に同行させていただくエレステイドです。よろしくお願いします」
エレスだ。
「あーしはイグネリア! よろぴく~」
「さっきぶりだな。エレスは最初っからこうなるってわかってて俺を弄んだのか?だとしたらあまりにもいやらしいが……」
「違う! 俺もさっき聞いたばっかだ!」
なるほど、とんだ偶然もあるもんだな。
「とりあえず席に着こうか」
そういってアランはイグネリア、エレスは俺の前に座る。
「二人とも知り合いなんだね」
「それなー? てか、友達できたとか聞いてないんだけど〜?」
「言ってないからな」
言ってないというか言う暇がなかったというか。
紅茶を飲み、ワッフルを食べて本題に入る。
「さて、魔王討伐のメンバーについて今一度確認しよう。まず、アンニル団からはイグネリアとジエンが、そしてここにはいないフェリールが参加するんだね?」
「あれ? イグネリアも来るの?」
「当然なんだけど~? いや逆に、あーしそんな薄情なやつに見える〜?」
「ギリ見える」
「ぴえん」
尻尾も耳も垂れ下がっで全身でぴえんを表現している。
意外と器用だな。
「てか、イグネリアが出るなら権能とかで一発で解決するんじゃ?」
「無理無理~」
「その権能ってのはなんだ?」
エレスが疑問を口にする。確かに俺もよく知らないな。
「あーこの世界風に言うなら最上級魔法を重ね掛けする感じ? だから気軽にぶっぱできんのよ〜」
「……なるほど」
それで伝わるのか。最上級魔法というのは資料に書かれていたが、具体的な効果までは書かれていない。
だからどんなものかはわからない。
「ジエピ向けに説明すると、権能って世界のシステムごとバグらせかねないヤバいやつなんよー。 だから乱用はNGってワケ〜」
「意外と難しいんだな」
強いゆえの代償って感じだな。
てか、世界のシステムに干渉ってニヒルと同じことしてないか?
ニヒルも世界のシステム――主に運命機構に干渉するものだし。
なんか関連性が……まぁ、権能を持たない以上、考えても仕方ないな。
てか、俺のあだ名はジエピなんだな。
もっとこうカッコいいのがよかったな。
ダークエンドアブソリュートラストエンペラーとか。
「そして、王国側からは私とエレスが同行する」
「え? 王様も?」
「そうだよ、経験者がいた方がいいからね」
資料には、アランが勇者パーティーに所属していたと書かれているが、それは王子の時だ。
王様である今とは違うのに同行するなんて……どうしたらそうなるんだ。
「いやー凄かったな。陛下が反対する大臣を黙らせていく姿は」
エレスが目をキラキラさせて言う。
てか、エレスは王都に来たばっかだよな?
てことは、さっきまでアランは大臣を黙らせていたのか。
「よく黙らせることができたな。鈍器で頭を殴ったのか?」
「昏倒させようとしててうける」
「普通に言葉でだよ」
しかしまぁ、どうやったら納得させられるんだろうな。
自国の王を魔王討伐に行かせるなんて普通はありえないし……これも王様パワーなのか?
「それじゃ、魔王討伐の計画について話す前に全体の目的について話そう。エレスとジエンはまだ知らないみたいだしね」
「おっけー、んじゃ、あーしから説明するね~。まず、あーしらアンニル団はニヒルの討伐を主目的としてんのよね~。そのニヒルってのがまじ激やばで、放っておいたら世界を壊しちゃうんだよね~」
「そのニヒル? っていうモノのせいで俺らの世界が滅びかけてんのか?」
「いえーす! 加えて、モンスターからニヒルの反応がビンビン立ってんのよね~。ってことはさ〜、大元の魔王が一番怪しわけ!」
だから魔王討伐をしようとしてんのか。
資料にはモンスターは魔王の魔力から生み出される存在だと書かれている。
てか、アレルハライドにとって、勇者と共に封印されている魔王はアンタッチャブルだと思っていたけど……案外そういうわけではないのか?
この二人は魔王討伐に乗り気だし。
「そういえば、エレスは世界が滅ぶって知ってたのか?」
「さっき陛下から聞いた。笑えねぇ冗談だと思ってたがな」
「冗談じゃないからね」
確かに自国の王から世界滅ぶって言われても現実味ないよな。
信じないのも仕方ない。
今度はアランが話をするようだ。
「次は目標について話そうか。私たちの目標は魔王と勇者の封印の解除及び、無力化だ。封印は私を除いた勇者パーティーのメンバーで行われた。そのため解除するには元勇者パーティーのメンバーを連れて行かなくてはならない」
「それって確か『七色の魔女』シヴァニア・アルフィール、『変幻武装』ダスティン・ネルス、『白き静寂』イライザ・ツェルペ……だっけ?」
「そうだね、まずはこの三人に接触する必要がある」
まさかSランク冒険者に会うとはな。
戦力が増えれば嬉しいし全然アリだな。
それにSランク冒険者に会いに行くってことは旅を続けるってことだ。
良い景色と出会えるといいな。
「魔王と勇者の無力化はアンニル団が行うってことでよかったかな?」
「うんうん!」
「聞いてない」
「今聞いたっしょ?」
「そうだな」
「それで納得すんのか!?」
今聞こうが先に聞こうが関係ない。
どうせ魔王討伐は決まってたし、そこに勇者が入るだけだな。
「概要はこんな感じだね。明日の朝、正門の前に集まってくれ。イグネリアは耳と尻尾を隠してね」
「おけまる~」
確か、この世界って獣人がいないんだっけ?
なら隠すのは仕方ないのか。
しかし、もったいないな。
毛並みも色もきれいで、太陽に照らされると美しく輝くのに。
「よし、作戦会議はここまでにしよう」
アランが解散と言う前にに電子音が鳴る。イグネリアのコスマからだ。
「ちょい待ち、リサぴょんから通話来てる」
そう言ってコスマを取り出してホログラムを出す。
『初めまして、あたしはアンニル団のリーダー――リサよ。よろしくね』
『そして私はメイリア!』
『私はヘイゼルです』
おうおう、一気に集まったな。アランとエレスが呆気にとられているぞ。
「これは……遠くの人と話せる技術かい?」
「そそ、そんな感じ」
さすが王様、立ち直りが速い。
それに比べてエレスはまだ呆然としている。これじゃこの先が思いやられるな。
そういえば、精霊のときも固まってたし、突拍子もない場面に弱いのかもしれない。
「初めまして、私はアラン。そしてこっちはエレス、よろしくね」
「あ、うん、初めまして、エレスです……?」
自己紹介をした後、エレスはこそこそっと俺に耳打ちする。
「なぁ、なんで透けてんだ?」
「ホログラムだからだな」
「透かさないことはできるのか?」
「できるんじゃないか?」
「なら、なんでやらないんだ?」
「…………確かに、なんでだろ」
俺の中に新たな疑問が芽生える。
一般的なホログラムが透ける理由は、ホログラム自体が光であり同じ光を遮れないからだ。
しかし、アンニル団ほどの技術があれば透かさないことができるはず。あとで聞いてみよう。
俺らが小声で話している間もリサたちは喋っている。
『今回はジエンの初任務だからこうして通話しちゃったわ』
「初任務なんだね」
『ふふ、懐かしいですね。私も初任務のとき通話してくれました。リサは意外とこういうのを気にする性格なんです』
『ねーこの間もアンニル団結成五十億分記念として一分だけ強制通話とかしたっけ』
「それは、すごいね」
なんかすごい会話してんな、五十億分って大体一万年ぐらいだろ。
そんな昔からあるんだな、この組織は。
逆に言えば、世界のシステムに干渉できる奴が集まってもニヒルを殲滅するのに1万年かかるってことか。
あれ? もしかして、結構やばい?
『そういうのは大事よ? あと、アンニル団は常に通話できる体制を整えているから必要なときになったら呼んで大丈夫ちょうだい。解析、考察、記録などなど支援はできるわよ』
「ありがとう、後ろから支援できる人がいるだけで心強い」
『ふふ……そうそう、フェリールも後から合流するからね。じゃ、あたしたちはこれで。頑張ってね』
『無理はしないでね!』
『帰ったら冒険のお話を聞かせてください』
そう言うと通話は切られた。
「とりま、明日の朝に正門で。それじゃ~」
「あぁ、ではまた明日」
基地の戻って今日は早く寝よう。
漆黒なる終焉の絶対的な最後の皇帝…………胃もたれしそうな名前ですね。




