D-8 精霊との再会
昨日は馬車の整備をした。
何かの手違いかはわからないがエレスの服がはじけ飛んだ。
俺はその場面にはいなかったが、黄色い悲鳴とマントだけを羽織っているエレスを見て何となく悟った。
その後、報奨金を貰ったため別の宿に行こうとしたがエレスに引き留められた。
寂しいのだろうかと思ったがそういうわけではないようだ。
どうやら昨日よりも言い寄られることが多かったらしい。かわいそう。
そして本日、エレスとともに東門へ行き、ラーギルを発った。
馬車は四台ほど、整備はしっかりとやったから乗り心地は最高だ。
俺とエレスは最後尾の馬車に乗っている。
「ジエンは馬車に慣れてるのか?」
「結構乗ってきたからな、慣れている」
馬車って乗り慣れてないと体が変になるからな。
降りた時に腰が抜けそうになったりとか止まっていても揺れているように感じたりとか。
そういえば、旅を始めたころにはそういうのが無かった。
記憶を失う前にたくさん乗ったのだろうな。
記憶を失っても体は憶えてるってことか。
「穏やかだ……」
「そうだな~ここら辺は盗賊も魔物もめったに来ないし」
「町には寄ったりするのか?」
「二日後と五日後に町に寄るはずだな」
馬車に乗っている間はエレスとたくさん話した。
具体的には勇者のことだ。
この世界の勇者は魔王を倒すために旅をしていたが、人間側を裏切り魔族側についたらしい。
このあたりは資料に書かれていた。
結局、その勇者は他のパーティーメンバーに封印されたらしい。
そして、そのメンバーのうちの三人が現在のSランク冒険者だ。
裏切り勇者を倒した英雄と称えられている。
やっぱ勇者が裏切るのってよくある話なのか?
出会った勇者の体感一割が裏切っている気がする。
***
他愛のない話や手合わせなどをして二日経った。
馬車は最初の町、ヌリオミに着く。
馬車は町の中心にある大通りを進んでいる。
このままギルド直営の宿に行くらしい。
馬車から町の景色はラーギルと大して変わらない。
強いて言うなら露店が少し多いくらいか?
それよりも気になることが一つ。
町民たちが浮かれているように感じる。
「祭りでもやってんのか?」
「そんな話は聞いてないけど……」
祭りもないのにこの浮かれよう。
この謎を突き止めるべく町を散策する。
幸いなことに馬車の出発は翌日の昼だ。
馬車や野営に慣れていない人もいるということなので、今日と次の町ではゆっくり体を休ませることになっている。
「とりあえず大通りに行って買い食いしよう! 気になることはその時に聞けばいいし!」
「なら、揚げ物屋に寄りたい」
「お、いいな! 行こ行こ!」
馬車の整備の報酬で金ならある。
無駄遣いしなければ王都まで余裕で持つはずだ。
己の自制力が試されるな。
「おぉ、いっぱいあるな……」
「ほんとだ……」
バナナのような果物の揚げ物、唐揚げ、厚切りのフライドポテト、ちょっとお高めだが魚の揚げ物まである。
こんなに選り取り見取りだと悩んでしまう。
所持金0になる危険性がここにはある。
「へいらっしゃい! なににしやすか?」
「俺はこの鶏肉の揚げ物を、ジエンは?」
「…………なら俺は厚切り芋の揚げ物を」
「かしこまりやした!」
このなかで一番気になったフライドポテトに決める。
バナナも唐揚げも魚も気になっていたが、ここは自制心を働かせる。
芋自体はジャガイモに似ているが、果たしてどんな味なのか。
「そういえばおっちゃん、この町に何かあったのか?」
「おうよ! なんと! この町に! あの! 七色の魔女様がいらっしゃるんですよ! 憎き裏切り勇者を倒したかの英雄が!」
「だからなのか」
七色の魔女、資料に書かれていた肩書きだ。
アレルハライドの人々は皆、魔力を持っている。
魔力にはそれぞれ火、氷、水、土、雷、そして光と闇の七つの属性がある。
通常、属性の適正は一人一つずつであるが、その前提を壊し全ての属性に適正を示したのが七色の魔女、シヴァニア・アルフィールである。
元勇者パーティの一人でSランク冒険者だな。
「そうですぜ、七色の魔女様に満足いただけるように我々も頑張っているんですぜ。七色の魔女様は人目が苦手と伺っていやすので、正体を隠しておいでらしい。お客さんがたも、もしかしたらあってるかもしれやせんぜ?」
なるほど、七色の魔女はシャイなんだな。
「教えてくれてありがと、おっちゃん!」
「おうよ!はい、これ」
厚切りフライドポテトを貰う。
「じゃあな、おっちゃん!」
「じゃ」
厚切りフライドポテトを食べながら大通りを歩く。
外はザクザク、中はホクホクでとても美味しい。
一つ一つはギリギリ一口で食べれるサイズだから、欲張って一口で食べてもよし。
ゆっくり大事に食べてもよしで食べ方も考えさせられる。
味付けは少し濃いが旅先なら丁度良い味だ。
「当初の目的は果たせたがどうする?」
厚切りポテトを食べながらエレスに問いかける。
「んーじゃ、あそこに行こう!」
「あそこ?」
「おう!とっても綺麗なところだぜ!」
町を抜け、整備されていない道を歩く。
森の入り口に差し掛かるころには空が夕焼けに染まっていた。
そのまま森の中を歩く。
進むたびに魔力濃度が高まっているのがわかる。
それに、大きな木の根のようなものまである。
もしやこれが資料に載ってた世界樹の根ってやつか?
特徴は一致しているがここまで大きいなんてな。
俺の身長の倍以上はあってちょっとした壁だ。
エレスが止まる。
どうやら目的地に着いたらしい。
ここが一番魔力濃度が高い。
だからなのか、泉を中心に花が咲き乱れている。あまりのも壮観だ。
あれだな、ロマンチックってやつだ。
エレスがいなかったら写真を撮ってた。
「どうだ? すっげー綺麗だろ?」
「あぁ、めっちゃ綺麗だ」
「ここはな、精霊の遊び場みたいな場所なんだ。だから季節を無視して花が咲く。荒れ果てた土地も、精霊が歩めばたちまち緑あふれる森になる。これを見せられると、その伝承も信じてしまうな」
「ここには精霊がいるんだな」
精霊のことも資料に書かれている。
精霊は空間内の魔力を増やすことができる。
そもそも、この世界の魔力は生命力と同義だとフェリールたちの調べで明らかになった。
ゆえに精霊は命が枯れた場所に命を宿すことができる。
「精霊の遊び場でこんなきれいな場所なのに、俺ら以外は誰もいないんだな」
「ここは勇者が訪れ、そして精霊から加護を授かった地。だから誰もここに来ようとはしないんだ」
「そうだったのか……」
この世界の勇者は嫌われている。それによっての弊害がたくさんある。
例えば、勇者が利用した宿や雑貨屋などは人々が忌避するようになったり、勇者が訪れた町では、教会が中心となって祈祷が行われたりする。
だから、この地に人が訪れないのか。
「じゃあ何で俺をここに連れて来たんだ?」
「んー、ジエンは勇者のことを嫌ってなさそうだし」
なるほど。
「あと異世界人だしね」
なるほ…………ん?
「……イセカイジン? そういう人種は初めて聞いたが?」
「違う違う、普通に別の世界の人間ってこと。ジエンはそうだろ?」
なぜかは知らんがエレスの中では俺が異世界人になっているらしい…………?
「とりあえず、なんでそう思ったんだ?」
「俺の実力がわかるほど実力者が路頭に迷うのはおかしい」
ごもっとも。
「そういう奴はたいてい、裏社会に首を突っ込んでたりする。だけど、ジエンは俺――Aランク冒険者に付いて来た。それだけで変だ」
「なんでAランク冒険者に付いて行くと変なんだ? 強い奴に付いて行くのはお得だろ?」
「Aランク以上の冒険者は国と密接に関わってる。犯罪者が自主的に関わったりしない」
「まって知らん知らん」
「常識だぞ?」
資料には載ってなかったぞリサ!
こういうことはちゃんと書いておけよ、まったくもう。
「ま、そうなると今話題のアンニル団ってことになるわな」
「今……話題の……?」
「おう、いきなり王都に現れたかと思うと、世界が滅ぶとかなんとか言って王様に謁見したことで有名だからな」
「そいつは何やってるんだ?」
異世界人であることを不特定多数知られてはいけないんだろ?
規則はどうした規則は。
「とまぁ、これが理由だ。納得したか?」
「めっちゃ納得した」
俺が異世界人であることがエレスにバレたわけだが支障はないな。
それよりも、バレたことで心置きなく写真が撮れることの方が重要だ。
「それはなんだ?」
「写真機だ。これを使えば景色を一枚の紙に留めることができる」
「本当か!? すごいな」
試しに写真を撮って見せる。
「こんな感じで撮れるんだ。どうだ?」
「うおおぉぉ! すっげぇぇぇ!」
「そうだろそうだろ」
エレスが喜んでいるようでよかった。
「なあなあ! 俺を撮ってくれないか?」
「おう、いいぞ」
人を撮るのは初めてだな。
基本的に写真機がない世界では人前で写真は撮らないし、写真機がある世界でも人を被写体にして撮ることもなかったからな。
「気を付けろよ。写真を撮られたら魂も取られるからな」
「は?! いや、ちょ、待っ!!」
エレスが騒ぐが気にせず撮る。現像された写真を見せる。
「すげーぶれてるな」
「そ、それより! さっきのは本当か……?」
エレスはさっきの話を信じているようだ。
どうしようか、バラすかこのままにするか……
いきなり、泉の方から気配を感じる。
エレスも同様に感じ取ったのだろう。泉の方に目を向けている。
そこには白い布に包まれた女性がいつのまにかいた。
花の首飾りや髪飾りつけており、足は水面に着いている。
そして、背中には四枚の羽がついている。
資料には写真がなかったが、十中八九精霊だ。
『ここに人の子が来るのは久しぶりね。前は一日に何百人も来ていたのに』
「そうだろうな」
精霊の口は動いていない。
脳内に直接言葉を届けられている。
こういうのは苦手だ。
それにこの精霊に見覚えがあるようなないような……
「俺たちどっかで出会ったか?」
『さぁ?』
肯定も否定もしないとは……さては愉快犯だな。
『さてと……加護を授けるわ』
「なんで?」
『そのために来たのでしょう?』
「違う、観光」
精霊は目をぱちくりさせて驚いている。
そんなに驚くものか?
『そう……でも授けるわ。貰っといて損はないし、それにあなたたちは上に行くのでしょう?』
「上?」
『いや、この場合は下……?』
今度は考え込んだぞ。
まぁいい、この隙に精霊を見て固まっているエレスを再起動させないとな。
……適当につねるか。
「いってぇ!?!?」
「起きたか」
「ジエンか……わりぃ……なんか精霊が加護を授ける夢を見たようだ……」
エレスがそう言った直後、俺らの体が白く光り出す。
『はい、これで加護を授けたわ』
「???????」
「エレス、呆けてないで現実を受け止めて」
タイミングが悪いことにエレスがまた固まってしまった。
てか、そんなに固まるほどのことなのか?
資料には特に書かれてないから事の重大性が俺にはわからない。
「ジ、ジエン! 俺ら今、精霊に加護授けられたんだが夢だよな?!」
「現実だから落ち着け。それより精霊に加護ってそんなに凄いのか?」
「凄いに決まってるだろ! だって精霊から加護を貰うことは勇者の候補として認められたってことだぞ!!」
「そうなのか?」
『え? そうなの?』
「違うみたいだな」
「???????」
また固まってしまったな。
仕方ないがエレスは放置しよう。
「どういう条件で加護を与えてるの?」
『世界を救えそうな感じの子に授けているわ』
「なるほど、それが巡り巡って加護は勇者候補の証みたいになったんだな」
いずれ世界を救う奴に加護を与えているってことは俺らも世界を救っちゃうのか。
それがアンニル団の方針なんだし特に支障はないな。
不可解なのはエレスにも加護が授けられたことくらいか、エレスも俺たちと一緒に世界救っちゃったりして…………
「それと、君は前の勇者をどう思ってるの?」
『あぁあの子ね。彼なら世界を救えると思ってるわ』
「そいつは人間を裏切っているが、そこはどうなんだ?」
『? 世界を救うのに必要なことなんじゃないかしら?』
なるほど、前の勇者についても調べる必要がありそうだな。
資料には詳しいことが書かれていなかったからイグネリアやフェリールは調べられてないんだろうな。
『もう夜も更けたころだし帰りなさいな』
「そうする。ほらエレス、起きろ」
「ッハ!!」
エレスには道すがらこれまでの出来事を教えよう。
『餞別にこれを』
そう言って精霊は花を二輪差し出す。
『この月光花があなたたちの行く先を照らしてくれるわ』
「ならありがたく受け取ろう」
月光花を手に取る。
「そうだ、最後に聞いておきたい」
『なに?』
「君の名前は?」
『ベオーク、とある人物につけられたの名前よ』
***
帰り道、エレスに先ほどの出来事を話した。
「そんなことが…………」
「それにしても、この花は何だろうな。精霊は月光花とか言ってたが」
「月光花とは月明りを借りて夜に光る花のことだ。本来は手元を照らすぐらいの弱々しい光なんだが……」
精霊から渡された月光花は手元どころか地面まで照らしている。
一般的なランタンと何ら遜色はない。
「ランタンいらずと思えばよくないか?」
「ま、そうだな。精霊が関わっていることだし深く考えない方がいいな」
あと、この花に気になる点が一つある。
どうやらこの花には、この世界にはない技術が使われている。具体的に言うと遺伝子操作だ。
この花を細かく見ていると、とある遺伝子が人為的に操作されている。
この世界にはそんな技術は存在しないから、異世界から来た人物が行ったのだろう。
「それと加護を貰ったことは絶対に誰にも言うなよ!」
「はぁ、何回も聞いたからわかっている」
「ならばいい。これは本当に大事なことなんだからな?」
「はいはい」
耳にたこができるぐらい聞かされた。
確かに俺は異世界人だから世間知らずだが、今のアレルハライドでは勇者関連は厄ネタってことぐらいわかってるさ。
***
日付が回る前に宿に戻った。
夜ご飯はそこらへんの酒場で食べてきた。
めっちゃボリュームがあって食べ応え抜群だった。
「歯は磨いたし、髪も乾かして服も着替えた……よし、明日は昼頃に出発だ。寝坊するなよ」
「はーい」
エレスと寝泊りしていくうちに怠惰な部分が矯正されていく。
面倒くさいが善意でやっているからこそ断りにくい。
エレスは世話好きなんだろうな。それか昔にこうやって人の生活を支えてたとかな。
ベッドに入る。
明日から馬車での移動になる。
早く寝よう。
「な、なぁ、今思い出したんだが……写真撮ったら本当に魂取られるのか……?」
隣のベッドから声がかかる。そういえば冗談だって言ってなかったな。
「…………ふっおやすみ」
そのままにしておこう。
その後、エレスは何度か聞いてきたが俺は教えなかった。
ジエンは戦闘中でも余裕があれば写真を撮ったりします。




