D-10 いざ行かん!勇者たちよ!
「よし、点呼するよ。まずはイグネリア」
「はい〜! 耳としっぽは他のみんなには見えてないから安心して〜」
「うん、それなら安心だね。次はエレス」
「はい!」
「うんうん、元気いっぱいだね。次はジエン」
「はい」
「よし、みんな揃ってるね」
朝の正門前は活気に溢れている。
それなのに俺たちに目を向ける者は少ない。
……訂正しよう、エレスとイグネリアに目を向けている者以外、このパーティーを見ている奴はいない。
二人とも美男美女だからな。
そしてアランは……
「その魔道具で影薄くしてるのか?」
「よくわかったね。これは王族が持つ魔道具だよ。本来は逃走用なんだけどね」
「この世界に魔道具なんてものあったんだな」
「魔道具は貴重だからね、存在自体都市伝説扱いなんだ」
そういえば魔道具について資料に書かれていた気がするな。
そんなことを考えていると周りから黄色い悲鳴が上がる。
エレスとイグネリアを見ている人たちからだ。
「ねねー見てあの二人! ちょー美人じゃん!」
「うっわ、ほんとだ……すっごい」
「眩しすぎて目の保養どころじゃない」
周りに人だかりが生まれる。
どこかの世界で見た人気アイドルの出待ちみたいになっている。
「うっそだろ」
「二人とも凄い人気だね」
「まさかここまで顔面格差が酷いとは……」
顔面偏差値に打ちひしがれているなか、エレスたちがこっちに来た。
「エレスから聞いたんだけど、あーたらハレイにそれ言ったらし〜じゃん?」
「ん?……あぁ、エレスの婚約者がいた町か」
「え? 婚約者いたのかい?」
「違います。初対面の知らない人です」
それにしてもなんでハレイ?
有名な街なのだろうか……
「最初の目的地としてハレイはぴったりなんだ」
「確かにそうですね」
「そうなのか? 前行ったときは特になんも感じなかったが」
「行ってみたらわかるよ。それに、シヴァニアがその町にいるらしいからね。」
そうなのか、改めて行くと気づかなかったところや細かいところが見えてくるしそうなのだろう。
すると、アランからカードを手渡される。
「冒険者証だよ」
「まじか、ありがとう」
「イグネリアにも」
「まじ? さんきゅー!」
渡された冒険者カードを見る。
名前に性別、職業に冒険者ランクが記されている。
だが、実績の欄が空欄だ。
「陛下……職権乱用では?」
「職権乱用……?」
「冒険者ギルドは国営だからね。私なら本来の手順を踏まずに冒険者証を発行できるんだ」
この世界のギルドは国営なんだな、知らなかった。
まぁ、そっちの方が国として安定するしな。
それにしてもこの王様、職権乱用とは最高だな。
今後とも乱用してほしいところだ。
「準備は整ったね」
「あぁ」
「はい」
「もちのろんよ!」
『えぇ』
『うん!』
『整っております』
基地にいる奴らもいつの間にかいた。
エレスは驚いた表情のまま固まっている。
昨日、経験したばっかなんだから慣れてほしいところだ。
「最初の目的地はハレイ、徒歩で行くから二日くらいだね。魔王討伐に向けて頑張っていこう!」
アランは「えいえいおー」と言い、俺たちを率いて王都の門を通る。
これからは楽しい冒険になりそうだ。
***
二日後、ハレイに到着した。
旅の間は山賊に襲われることもモンスターの襲撃に遭うこともなかった。
整備された道だとこんなもんだろう。
王都に行くときもそういうことはなかったわけだし。
それはそれで寝ずの番は必要だ。
そのときは基地にいるやつが話をしてくれたおかげで一人さみしく見張ることもなかった。
「私は宿を取ってくるよ。その間、三人は市場を見て回ってていいよ」
アランはそう言うと宿を取りに去っていった。
ここまでの旅でアランがどういう性格なのか大体わかった。
あれは根っからの冒険者気質だ。
俺がでかい猪を狩って捌いたときは捌き方を学ぼうとしてたし、イグネリアからコスマでの写真の撮り方や加工の仕方まで教えてもらってた。
アランは好奇心旺盛だ。
王というものが枷になっていそうなレベルだ。
「よしよし、市場乗り込んじゃいますか~!」
「了解した、金貨何枚まで使っていい?」
「金貨は使うな!大銅貨一枚までにしろ」
市場に着く、前来たときはここにエレスの婚約者がいたんだっけ。
あたりを探るがそれらしい人はいない。
この町にはもういないのか。
「ガチでにぎわい半端ないね~」
「凄いな、もしかしてほとんどの人が冒険者?」
道行く人は皆、鎧や剣、杖などを装備している。
大きめのバッグに寝袋まで背負っている奴までいる。
あとは、全身で冒険者ですよってオーラを放っている奴もいる。
「そうだな、ハレイは地理的に国の中央部に位置する。だから、旅をする者がハレイに集まるんだ。旅人の町なんて言われたりするんだぜ」
確かに、売り物をよく見てみると旅道具がたくさん売られている。
保存食にマント、火打石や方位磁針まで並べられている。
旅人の町ってのは本当みたいだな。
「前は婚約者騒ぎがあってちゃんと見れてなかったからな」
「てかさ、その婚約者騒動の話聞かせて〜!マジ気になりすぎるんだけど~?」
「いいぞ、確かあれは俺がまだ……」
***
ヌリオミを発って二日後、馬車はハレイに到着した。
『ここがハレイか、ワイワイしてていいな』
『だろ?先に市場に行こうぜ! いいものがたくさん売られているからな!』
エレスに連れられて市場に入る。
近い売店に入ろうとすると声がかかる。
『あ! いたいた~、んもうっ、ずっと待ってたんだよぉ?』
後ろから女がエレスに抱き着こうとする。
もちろんエレスは華麗に避ける。
『何で避けるのよぉ!』
全身でぷりぷりと怒って見せている。
ふむ、気色悪いな。
アランは困惑した目を女に向けている。
『いや、だっていきなり突撃してくるし……』
『なんでよ!! 私はあなたの婚約者なのよ!』
エレスは冷え切った眼で女を睨んでいる。
いきなり現れて婚約者宣言だもんな。
そりゃそんな目もするわな。
仕方ない、ここは助け舟を出してやるか……
『おま、さすがに婚約者を放置して旅に出るとか……』
『してない! そもそもこいつのことは知らんわ!』
『ひどい! 私との約束を破るなんて!』
『フィアンセとの約束破るなんて……』
おかしいな、俺にまで冷え切った眼を向けてくる。
選択肢ミスったか?
『ところで、お嬢さんはエレスのどこに惚れたんだ?』
『んとね~、やさしいところとかっこいいところと強いところよ。私が暴漢に襲われているときにさ颯爽と助けに来てくれた姿に惚れたわ』
こいつはエレスの上部しか見てないんだな。
そもそも、助けられたことさえ怪しい。
『なるほどなるほど、罪な男だなエレスは』
やばいな、エレスの視線が絶対零度に近づいている。
ここは覚悟を決めないとな。
『あ!! あそこに変幻武装のダスティンが!!』
『え?! どこ?! どこなのよ!?!?』
『逃げるぞエレス!』
『ちょ……! 待っ……』
エレスの返答を聞かずに小脇に抱え、そのまま屋根まで跳ぶ。
『あー! どこに行くのよ!』
『ちょっとそこまで行ってくる!』
そのままエレスを抱えて屋根を走って宿に戻る。
『大丈夫か?』
『……あ、あぁ、大丈夫だ』
『そうか、それにしてもイケメンは大変だな。あんなことが起こるんだろ』
『さすがに婚約者を名乗られたのは初めてだぜ……』
経験豊富(?)なエレスにとっても、あれは強烈みたいだった。
外に出るのは危ないから午後は宿で過ごすことにした。
***
「というのが経緯だな」
「なにそれ、ちょーウケるんだけど」
「笑い事じゃないんだ。これからこの四人で旅するんだぞ? エレスがまた、通り魔婚約者で遭うかわからないんだ。それに…………エレスは今まで彼女ができたことがないんだ!!」
イグネリアははっとした顔をする。
この旅でエレスが彼女いない歴=年齢だというのはわかっている。
この問題はとても深刻だ。
「ちょ待って、このままじゃエレス、女の子信じられなくなるやつじゃん……」
「そうだ」
「そんなわけねぇ! 余計なお世話だ!」
「いつでも相談していいからな」
やさしいさと温かみを込めた目でエレスを見つめる。
俺はいつでもお前の味方だからな。
「そんな目で俺を見るな!!」
「ぴえん……」
「超えて?」
「ぱおん」
イグネリアとハイタッチする。
パンッと乾いた音が鳴る。
「なんなんだあいつらは……」
「大変そうだねぇ、はいこれ、苦労人の君にサービスだ」
「ありがとう、あと苦労人は余計だ」
「え、なになに〜? あ、これアレでしょ? 甘くてうまいやつ!」
「ドラゴンベリーさ、ちょうど余ってからやるよ」
「いいのか?」
どうやらエレスは売店のおばあちゃんにフルーツをもらったらしい。
美味しそうだな。
……ん? このおばちゃんどっかで見たことあるな……どこだっけ……
「あ、ヌリオミのときのおじさんだ。性転換したの?」
場に静寂が満ちる。
あれ?なんか変なこと言ったか?
「この世界って性転換できる系じゃなかったよね?」
「そうなのか? なら変身か?」
「変身は闇属性の高等魔術だ。使えるのは一部の宮廷魔導士と七色の魔女くらい……」
俺たちはもう一度おばあちゃんを見る。
「はっはっ、私が七色の魔女様なんて面白い冗談だね」
「よし、アラン呼んでくる」
「いきなり最強カードぶっこんでくんのマジおもろ」
「このおばあちゃんは俺が見張っとくからさっさと行ってこい」
エレスにも許可を貰ったのでダッシュで呼びに行こうとする。
ここでおばちゃんから声がかかる。
「まぁ、待ちな。ここじゃ人目に付く。夜になったらここに」
そう言ってエレスに紙を渡す。
「話はそこでする。今は市場を見て回ってなさい」
***
「へいらっしゃい!! 安いよ安いよ!!!」
腹の奥から声を出す。
ここは旅人の町、生半可な声量じゃ周りにかき消される。
「みずみずしい果物から旅の必需品まで揃ってるよ!!!」
「まぁ!! こんなところにサンシャインバナナが!! お一ついいですか?」
「いいですよぉ!!!」
「んー甘くてクリーミーでほっぺがおちちゃうわぁ!!!」
宣伝のおかげか客足が絶えない。
イグネリアもマダム役がさまになっている。
「あの二人は本当に何やってるの?」
「俺にわかるわけないだろ?」
「友達でしょ?」
「友って難しいな」
客足が減ってきたタイミングにアランが現れた。
「やぁ、大きい声だね。おかげで探さずにすんだよ」
「アランか、なんか買うか?」
「アッサンじゃ〜ん! サンシャインバナナめっちゃうまいんだけど〜食べる?」
「なら一つ頂こう」
アランは呑気にサンシャインバナナを食べる。
顔がほころんでいる様子からサンシャインバナナは好物のようだ。
後ろで話していたエレスとシヴァニアが前に出てくる。
「久しぶりね、アラン」
「……シヴァニアかい? その姿は変身魔術……?」
「正解よ」
アランはシヴァニアの変身を一発で見破った。
さすが元パーティーメンバーだな。
「話したいことがある」
「夜、酒場で待っている。場所はエレスに渡した紙に書いてある」
「……わかった、ありがとう」
なんか、裏社会の情報取引の場面に遭遇した感じだ。
方やイケメンの国王、方や初老を迎えたおばあさん、役者はそろっているな。
「なんか変なこと考えてるだろ」
「いや? 全然?」
くっ、エレスは案外鋭いな。
「……とりあえず宿は取れたから荷物を置いてこようか」
「いいねいいね〜!! てかどんな宿なん!? めっちゃ気になるんだけど〜」
「着いてからのお楽しみだ。ではまたな、シヴァニア」
「夜にまた会いましょう」
***
部屋の中で四人は座っている。
運よく四人部屋が取れたようだ。
シャワー室もちゃんとあるのが高評価ポイントだ。
『なるほど、状況は把握したわ』
『やはりジエンの目はいいのですね』
「そういうのを見抜くのが得意ってだけだ」
ホログラム上のリサとヘイゼルを囲んで話している。
昼の間は人目もあって通信ができなかったので、今のうちに情報を共有する。
『ハレイについて早々、七色の魔女と出会えたのは幸運ですね』
「まじそれな~」
『とりあえず、その話し合いにあたしたちも同行させてほしいわ』
「問題ない、むしろこっちからお願いしたいところだ」
どうやらリサたちも話し合いに参加するらしい。
賑やかになりそうだ。
ふと、気になってエレスの方を見る。
「ホログラムには慣れたか?」
「さすがにもう慣れた」
そりゃそうか
「今夜は楽しくなりそうだな」
「……ふっ、そうだな」
エレスの顔がにやける。
この旅路を楽しんでいるようでよかった。
ぴえん超えてぱおんはイグネリアに教わりました。ちなみに大銅貨1枚は日本円で約1000円です。




