D-11 酒飲み、枕投げ、スライム討伐!
シヴァニアに指定された店に入る。
すると、二階の小部屋に案内された。
部屋の中は丸いテーブルとそれを囲うように椅子が五脚並べられている。椅子の一つにシヴァニアが座っている。
「やぁ、こっちの姿は初よね。私はシヴァニア、七色の魔女よ。よろしくね」
「俺はジエンだ」
「あーしはイグネリア」
『そしてあたしがリサよ。よろしくね』
シヴァニアはリサを視認すると少しだけ目を見開いた。
さすがにSランクといえども、いきなりこれは驚くようだ。
「噂には聞いていたけどあなたたちがアンニル団ね?」
『そうよ』
今回リモートで参加するのはリサだけだ。
メイリアとヘイゼルは仕事があるらしい。
大変だな。
「なるほどね……まぁいい、それよりも何か頼む?畏まった場ではないのだからね」
「ならこの竜殺しっていうカッコいい名前の酒を」
「あーしも!」
「最初っから竜殺し!?!?」
「チャレンジャーだね」
そんなやばい酒なのか?
なおさら気になってきた。
酒とつまみを何品か頼んで本題に入る。
「君たちのここに来た理由はわかっている。魔王討伐に協力してほしいって話でしょ?」
「そうだ、どうか引き受けてくれないか?」
「ま、引き受けなきゃ世界滅ぶんだけどね~」
何回聞いてもひどい二択だな。
魔王を討伐するか世界が滅ぶか、世の勇者方は強い心を持っているようで。
「実質一択みたいなものね。いいよ引き受けてあげる」
「本当か!?」
「ただし、条件がある」
「それは?」
「北の山脈に生息するホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーを倒してほしい」
「めっちゃカッコいい名前だ」
瞬間――皆が俺に注目する。
やばい、またなんかやっちゃったか?
「……感性は人それぞれだものね、とりあえずこのホワイ……通称WJDDFの討伐を手伝ってほしい」
「てか北の山脈って言われても広すぎん? 具体的にどの辺なん〜?」
「東に寄ったところね」
シヴァニアが地図を広げて指をさす。
「ここからどのくらいかかるんだ?」
地図を見ただけではちゃんとした距離はわからないけど、少なくともラーギルから王都までの距離より長い。
「馬車を乗りついで八日かけた後に徒歩で二日ぐらいだよ。ちょうどダスティンがいる街も通るし、いいんじゃないかな」
「反対する理由はないぜ」
「ちょうどいい腕試しって感じじゃん?」
みんな賛成のようだ。好戦的だな。
「なら俺も賛成だ。ちなみにホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーってどんなやつなんだ?」
「最上位のドラゴンだ。ランクはS+だぜ……略称で呼ばないのか?」
「略称よりもホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーの方がカッコいいだろ?」
「そっかぁ……」
なにか言いたげな目を向けてくる。
そんな目を向けるなら言いたいことははっきりと言えこのヤロー。
『聞いただけだと討伐は簡単ではなさそうね?』
「確かにそうだね。でも元勇者パーティーが三人、Aランクが一人、異世界人が二人、勝率は高いほうだと思うよ」
改めて見ると凄いパーティーだな。
「そもそもなぜWJDDFを倒そうとしてるんだい? あれは人間に害を及ぼさない存在だろ?」
確かに俺も思った。
資料には人には害を及ぼさず、この世界を見守る存在とだけ書かれていた。
「イライザの未来予知でWJDDFが近い将来に人間を滅ぼすって出たのよ」
「イライザの未来予知か……」
白き静寂――イライザ・ツェルペ、属性外魔法を得意とする魔法使いだ。
属性外魔法とは未来予知や時間操作、空間魔法が該当する。
簡単に言えば概念に干渉できる魔法使いって聞いたな。
確か、未来予知の精度が凄まじいとかなんとか。
「しかもイライザは予言だけして討伐には参加しないって……」
「それならやらないといけないね。ダスティンを仲間にしてWJDDFを討伐しよう」
頷く、反対するやつはいないようだ。
それにしてもイライザは世界が滅ぶ予言をしているのに討伐には不参加なんだろ。
「決まりだね。馬車は明日のうちに取っておくから出発は明後日にしよう」
『フェリール――アンニル団NO.4から連絡が来たわ。ちょうどWJDDFの生息地の近くにいるから情報を集めるって。情報を集めた終わり次第、パーティーにも加わるわ』
「それは心強いね」
あぁ、そういえばフェリールもいたな。
ギリ忘れていた。
「堅苦しい話はここまでにしよう。注文した物も届いたし乾杯といこうか」
宴会の始まりだな。
***
「大体さぁ!! なんで世の連中は俺の顔と肩書しか見ないんだっ!!!!……ヒック」
机をダンッて叩きながら叫ぶ。
うわーエレスのやつ完全に酔っている。
やっぱエレスにも思うところはあるんだな。
「それに比べてジエンはさ!! 頭おかしいけどただの友達になってくれるしさ!! 助けてくれるしさ!! 本当にありがとうって感じだしさっ!!!!」
「どういたしまして……?」
エレスはそう言うと俺の竜殺しを飲み干してそのまま机に突っ伏して寝た。
イグネリアは最初に竜殺しを飲んで早々に夢の中に、アランはシヴァニアと酒飲み対決をして潰れた。
今この場で起きているのはシヴァニアと俺だけ。
リサはやることがあるらしくて通信を切った。
「ジエン、エレスと友達になってくれてありがとうね」
「いきなろどうしたんだ? それになんでシヴァニアが礼を?」
「私はエレスの兄の幼馴染だからね。子供の時はよく遊んだんだ」
「そうなのか」
エレスとは知り合いだったんだな。
「子供の時からエレスの周りはあんな感じだったんだ。エレスは優しくてイケメンで家柄もいいから、よく相手の理想を押し付けられたり、利用されたりして、次第に周りを信じなくなってって…………。私たちが町から出るときに一番心配したのはエレスなんだ」
「そんなに……」
「そう、だからこれからもエレスの友達でいてくれると嬉しい」
「当たり前だ」
シヴァニアは安心したのか果実水を飲む。
ズッ友宣言をしたが……友達ねぇ。
思考を巡らせる。やっぱ友達と言えばあれしかないな。
「友達といえば枕投げだな。今からするか」
「枕ないのに?」
「枕ならいつでも取り出せる」
「ここじゃ狭くない?」
「寝てるやつらは隅に重ねておこう」
「それが友達と仲間の扱い?」
寝ている奴とテーブル、椅子などを隅に追いやって布団を敷き枕を持つ。
「これが異世界の布団ね。興味深い」
「三回当たったら負けな」
「わかった。真正面から来なさい」
シヴァニアも枕を装備する。準備完了だ。
「罰ゲームは黒歴史暴露な。勝負開始だ!!」
「待って!!」
***
目が覚める。
昨日はシヴァニアの黒歴史を聞き、エレスとアランも背負って宿に戻った。
さすがに男二人は重かったな。
シヴァニアはイグネリアを背負ってくれた。
ありがたい。
部屋を見渡しても誰もいない。
ベッドサイドに書き置きがある。
どうやら食堂でみんな待っているらしい。
最低限の身支度を整えて食堂に行く。
みんなは食堂の奥のテーブルに陣取っている。
イグネリアは背もたれに寄りかかって目を瞑っている。
尻尾はだらってしていて元気がない。
対してエレスはテーブルに突っ伏している。
アランだけは涼しい顔で紅茶を飲んでいる。
めっちゃロイヤリティ、魔道具が無かったら目立っているところだ。
「イグネリアとエレスはどうしたんだ? 二日酔いか」
「すっっごい頭いたい……」
「頭いてぇ……」
「ということだから二人は部屋でお休み、私は馬車を探してくるから自由に過ごしていいよ」
アランは二日酔いじゃないんだな。
これも王様特典ってやつだな。
そんなくだらないことを考えながら、硬いパンをちぎってスープに浸して食べる。
やっぱこれだよな。
冒険者御用達の宿って感じでいい。スープはお世辞にも美味しいとは言えないが楽しい。
***
朝食の後は町を散策する。
あてもなくぶらぶらしていると冒険者ギルドの看板が目に入る。
そういえばまだ自分で依頼とか受けてなかったな。
冒険者ギルドに入り、掲示板をみる。
俺はFランクだから薬草採取かスライム討伐くらいしかないな。
仕方ないといえば仕方ない。
どれをやろうか……地道にスライムから行くか。
窓口で依頼書と冒険者カードを渡す。
「スライム討伐ですね。お一人様ですか?」
「ソロで行くつもりだ」
「かしこまりました。お気をつけて」
ふむ、この冒険者カードはちゃんと使えそうだな。
これで使えなかったら王様案件だった。
依頼書に書かれていたスライム出没地に着く。
適当に歩いていたらスライムと出会うだろ。
すると、茂みから音が聞こえる。
*スライムが現れた*
剣を抜いて迷いなく一刀両断する。
続けざまに二体、三体と現れるが問題なく斬る。
『ジエンって剣士なんだね!』
「その声はメイリアか、どうしたんだ?」
『お仕事が終わったから来てみたの!』
なるほど。
『剣ってどこから出したの? いつも持ってなかったでしょ?』
「アイテムボックスから」
『でもアイテムボックスって異世界の技術でしょ? どうして使えるの?』
確かに気なるよな。
基本的に、魔法などの技術は別の世界では使えなくなる。
世界によって法則が違うからな。
例えば、アレルハライドで山を吹っ飛ばせる魔法を使えたとしても魔法がないザナティスではそよ風を起こすか、そもそも使えなかったりする。
簡単に言えば世界の法則外の技術は弱体化するってことだ。
世界を超えるやつが少ないのはこれが原因だ。
いざ異世界に行けたとしても法則が異なるため同じ技術を使って元の世界には帰ることは不可能に近い。
法則がかなり似通っていれば可能だが基本的には無理だな。
とんだ初見トラップだ。
だからこそアンニル団が規格外なんだ。
何なんだよ異世界渡航技術って。
どんなことをしたらそんな技術を発明できるんだよほんと。
それにアンニル団の基地内では世界の法則が存在していなかった。
法則が存在しないなんてこと今まで無かったからちょっと驚いた。
まぁ、まとめるとアンニル団はおかしいってことだな。
……何の話してたっけ……あぁアイテムボックスか。
「汎用型アイテムボックスだからな」
『汎用型?』
「世界を渡った瞬間にその世界の法則を読み取って適用させているんだ。それを自動化したのが汎用型アイテムボックスだな」
これは本当に便利だ。
昨夜使った枕と布団もここから取り出した。
世界を渡るうえでのとんでもないアドバンテージになる。
『やってることおかしいね』
アンニル団におかしいって言われた……
『これからどうするの? まだ、スライムでも狩る?』
「ここら辺にいるスライムは根絶させていきたいが、そうすると他の冒険者に迷惑がかかるよな……あと五体だけにしよう」
ここでスライムを根絶させると他のFランク冒険者が薬草採取しかできなくなってしまうからな。
そうなっては一大事だ。サクッと終わらせて帰ろう。
***
ギルドで換金してもらったところレアなスライムが混ざっていたため、通常よりも多くのお金がもらえた。ラッキー。
『よかったね!』
「だな、金はあればあるほどいい」
『ところであのカード、メモリーズフラグメントって名付けたのね! いいね!』
「ヘイゼルがつけてくれたんだ」
『……ちなみにジエンはなんて名付けたの?』
「記憶チェキチェキカード」
『ヘイゼルに感謝した方がいいと思う』
それはもう感謝はしている。
やっぱ俺に名付けは似合わなぇな。
『あれからメモリーズフラグメントで何か浮かび上がった?』
「まったく、うんともすんともいわない」
夕焼けとゲーム大会の二つしかちゃんと写っていない。
この任務で一つぐらいは浮かび上がってほしいところだ。
『気長に待ってもいいんじゃない?なんたって社長が仕組んだものだしね』
「そういうものか?」
『そういうもの!』
そうか……そういうモノなら仕方ない。気長に待とう。
「それとアンニル団で調べてほしいんことがあるんだが……」
『なになに?』
「この世界の空について調べてほしい。なんかわからないが変な感じがするんだ」
『ほんと? わかったよ! でも空を調べるってなると時間がかかるからね』
「あぁ、ありがとう」
その後はメイリアがリクエストした場所を中心にぶらぶらした。
特に目新しいものはなかったな。
強いて言えばエレスの婚約者(偽)がいたことぐらいだな。
明日には町を出るし問題ないだろう。
***
宿に戻り婚約者(偽)について話すとエレスの顔が面白いくらいに歪んだ。
思わず写真を撮ってしまったくらいだ。
アランは馬車を手に入れたようで明日の朝に出発のことだ。
次の町はセレネイガというところらしい。
ここで新しい馬車に乗り継ぐみたいだ。
明日は早いので夜更かしせず寝ることが決まった。
ベッドに入る。エレスとアランの寝息が聞こえる。
まだ起きているイグネリアから声がかかる。
「ジエピの好きなことって?」
「唐突だな。食べることが好きだ」
「昔んときのまんまで安心したわ〜」
「?……あぁそうか、ゲーム大会の時に出会ってたな」
「あん時も一緒にゴロゴロしながら寝てたんよね~」
「そうだったのか」
布団を被りながらイグネリアと話す。
こうやって二人きりでちゃんと話すのは初かな?
「あの時の俺と何を話してたんだ?」
「ご主人様のこととか、好きなもんとか苦手なもんとかさ〜、あとは将来の夢とかね~」
「将来の夢は何なんだ?」
「それも忘れちゃってる感じ〜? じゃあ教えてあげな〜い」
期待して損したな。
「俺はもう寝る。イグネリアもさっさと寝な」
「え〜、もう寝ちゃうの〜?」
イグネリアが何か喚いているが無視して寝ることにする。
「……おやすみ」
「……あぁ、おやすみ」
ちなみに筋肉は世界を超えても弱体化とか特にないので異世界渡れる奴はムキムキが多いです。




