D-12 脇腹死す
四日かけて、俺たちはセレネイガにたどり着いた。
王都から離れたからなのか、道中でモンスターに襲われることもあった。
そのモンスター襲来でホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバー討伐に向けての陣形や連携を整えてきている。
俺とエレスとイグネリアが前衛でアランとシヴァニアが後衛だ。
とはいえ大体の戦闘は『シヴァニアの広範囲攻撃!! 敵対存在消滅!!』か『イグネリアの突撃!! 相手は轢かれる!!』とかだった。
それに、リサ達からの支援も凄かった。
探知はもちろん弱点や予測行動も瞬時に提示してくれる。その情報も精確だ。
リサ曰く『サーチができる以上、あたしに死角はないわ』らしい。
頼もしい限りだ。
セレネイガは、のどかで緑に溢れた町だ。
鳥のさえずりが響き、風が町を通り抜けていく。
森に囲まれていて木々の緑が視界の端まで続いている。
微かにパンの焼ける匂いまでする。
とてもあたたかい雰囲気だ。
「この町にダスティンはいるんだな?」
「そうだよ、ここは彼の故郷に一番近い町だからね。依頼とかで日中はここにいるんだよ」
『のどかで綺麗な町ですね。空気がおいしそうです』
今回、アンニル団から通信を繋いでいるのはヘイゼルだ。
リサとメイリアはお仕事らしい。
前に「そんなに俺らを気に掛ける必要はない。自分の仕事があるならそっちに集中していいぞ」と言ったことがある。
だが、どうやらアンニル団には基地を守る仕事があるらしい。
通信は暇つぶしも兼ねているとか。
「陛下、ダスティンがどこにいるかわかります?」
「わからないね、でも案外そこら辺にいるかもよ?」
何者かの視線を感じ、俺とイグネリアは振り返る。
すると、大きな男がこちらを凝視している。
「いるね。こっちを見ている」
「本当だ。偶然だね」
その男はこちらに小走りでやってくる。
「ひ、久しぶり……」
「あぁ、久しぶりだね。ダスティン」
「久しぶりね」
ふむ、どうやらダスティンは会話が得意ではないらしい。
目を合わせて話そうと努力しているようだが、無意識に視線を外している。
「家……こっち、ついて……きて」
ダスティンの案内され、俺たちは彼の後ろを歩く。
英雄である変幻武装と、七色の魔女が一緒に歩いているのを民衆が黙っているはずもなく……
「ねぇ、見て見て~、ダスティン様とシヴァニア様が一緒にいらしゃるわ~」
「神々しいわ~」
「後ろの方はどちら様なのかしら?」
「お弟子さんじゃないかしら。お二人ともお美しいわ」
「ダスティン様とシヴァニア様が一緒にいるところを見られるなんて……感激だ……」
やっぱこうなるよな。顔がいい奴と国の英雄が並んでいるから仕方ないか。
「四人とも人気だね」
「アランも本来はあっち側だろ?」
「それはどうだろうね」
アランも影が薄くなる魔道具が無かったら目立っていた。
なにせ、王様でイケメンで王妃がいないのだから狙うやつも多いだろう。
「なにかおかしいね。私だけならまだしもジエンにまで視線が向かないなんて」
「気配消しているからな」
「どうしてだい?」
「顔面偏差値的問題」
王都であの人気の様を目の当たりにして以来、往来では気配を消して気づかれないようにしている。
何であいつが……なんて思われそう。
ヘイゼルから借りた本の中に、完璧な人間が平凡な人間を側に置いたことで、悪い噂が流れる……みたいなストーリーがあった。
結末はハッピーエンドだったが、さすがに悪い噂はたってほしくないしな。
『深刻な問題ですね』
「うお、ヘイゼルか。こんなところで通信繋げていいのか?」
『隠蔽してありますので少しくらいなら問題ありません』
「そうなのか」
こんな場所だと目立ちそうだが、案外そうでもない。
前四人の方がめっちゃ目立っている。
『群衆のなかに敵対存在を探知いたしました』
「……全然気づかなかった」
『仕方ありません。今、何かしているわけでもありませんし、これから何かする様子もありません。ただ、情報を集めているように感じます』
「なるほどね」
警戒を緩めずにあたりを見回す。今の俺は気配を消している。
相手に気づかれていない以上、少し大胆な行動をとれる。
それらしき人物を見つけたため写真を撮る。
『英雄たちが集まれば否が応でも噂はたちます。慎重な行動を心がけてください』
***
「つい、た」
あれから町を出て数時間歩き、ダスティンの故郷であるジネンガ村へ到着した。
「おおーダスティンが別嬪さんを連れてるぞ! どうしたんだいお前さん、ついに結婚か!」
「ち、違う! シヴァニア、だよ!」
「なんと!! 七色の魔女様がこの村に!! 宴じゃああ!!」
「ちょ、サラインおじさん! お、落ち着いて!」
あまりにも大きな声だったため、村中の人がこちらに向かってくる。
このままじゃ囲まれるのも時間の問題だな。
「囲まれないうちにさっさと逃げよう」
「さんせ〜い」
人が手薄なところを駆け抜ける。
そのまま森に入り、身を潜めつつダスティンの家を目指す。
しばらく歩くと小さな山小屋が見えてきた。
「掃除する、から……待ってて」
どうやらここがダスティンの家らしい。
森のなかにあるんだな。
不便そうに見えるが、近くに川があり庭には野菜が育てられている。
猪やウサギなどがいるため、肉も手に入る。
生きていくには十分な環境ともいえる。
「お、待たせ……えっと、どうぞ」
ダスティンに招かれ椅子に座る。
椅子は五脚しかなかったため、シヴァニアが土魔法で足りない分を作ってくれた。
テーブルを囲んで座る。
軽く自己紹介をして本題に入る。
ちなみに、ダスティンは通信技術に驚いていた。
「魔王討伐の……話、だよね」
「話が早いね。どうか引き受けてくれるか?」
「うん、やる」
「助かるよ」
めっちゃすんなりと承諾してくれたな。
シヴァニアのときもそうだったな。
「だから……どんな風に、戦うのか……見せて、ほしい」
「わかった、どうやって示せばいいかい?」
「山を、越えた先に……洞窟が、ある。そこを、攻略、してほしい」
「あぁ、あれだね。魔王討伐の旅に出たばかりの頃に攻略しようとしたんだっけ……」
「そうだね、昔の私たちでは攻略は敵わなかったけど」
そんなところがあったんだな。て
か、昔とは言え勇者パーティーが攻略できなかったところを攻略するのか……
ちょっとだけわくわくするな。
『なぜそこで行うのですか? 他の場所の方がやりやすいのではないでしょうか?』
それはそうだな。
洞窟となると四方から敵が来てもおかしくないし、特殊な環境にもなりやすい。
戦い方を見るというのなら他の方がいい気がする。
「洞窟の、奥に……幻想魔法の、魔導書が、ある」
確か、魔導書というのは魔法が刻まれている本のことだったな。
適性があれば刻まれている魔法を使える。
だが、幻想魔法? 聞いたことのない魔法だな。
シヴァニア、アラン、エレスは顔がこわばったので知っているようだ。
「幻想魔法ってなんだ?」
「……勇者だけが使える特別な魔法だ」
「なるほどねー」
勇者しか使えない魔法か……こういうのは特別感があっていいよな。
それに、幻想魔法って響きがもう良い。どんな魔法か気になる。
「それに……魔王は幻想魔法でしか倒せないのよ」
シヴァニアがエレスの言葉に補足をする。
「アンニル団には直接関係ないかもしれないけど……手に入れた方が便利になるかもね」
『そういうことでしたら調べた方がいいですね。幻想魔法の解析で魔王の弱点につながる情報がわかりそうです』
魔王特攻魔法ってことか。
この世界の魔王はニヒルと関わっている。
つまり、この魔法を解析すればニヒルに対抗できるかもしれないってことか。
「あ、あとみんなに話しておきたいことがある」
先ほどの群衆に紛れていた敵対存在について話す。
「……ということだ。そして、これがその時に撮った写真」
写真をみんなに見せる。
写っているのは帽子を目深く被った男だ。
特段、変わった恰好をしているわけではない。
「魔王とWJDDFの討伐に幻想魔法、それに不審者か……懸念すべきことが多すぎる」
エレスが頭を抱えながらつぶやいた。
「こういう時こそ、とりま今できること優先っしょ〜」
「そうだね、今は洞窟の攻略から行こう」
今後の方針が決まったところで、話し合いが終わった。
今日はもう日が暮れたためダスティンの家に泊まることになった。
しかし、ここで問題が発生。
家の広さ的に、ベッドが三つしか置けない。
ここはダスティンの家だから一つはダスティンが使うことに決定した。
アランは王様権限を使用したがシヴァニアによって却下された。
故にこの場は、五人が残り二つのベッドを奪い合うことになった。
***
「……シヴァニア、右足を黄色に……」
「黄色!? ちょ、そこ、そこをどいて!! アラン!!」
「無茶を言わないでくれ」
勝負内容はツイスターだ。
アレルハライド組にルールを説明して、勝負を始める。
正当なじゃんけんにより順番はシヴァニア、アラン、エレス、イグネリア、俺だ。今は五巡目。
メイリアとリサは仕事が終え、ヘイゼルとともに観戦している。
審判はダスティンで、五人一気に行っている。
通常より大きいものを使っているとはいえ、めちゃくちゃ狭い。
ツイスターは五人いっぺんにやるもんじゃないな。
現状は結構有利な立場だ。
俺の下に四人が絡み合っているから心置きなく全体重をかけられる。
「……アラン、左手を緑に」
「……空いている緑、端っこにしかないかい?」
アランの右手は赤の一番端に置かれている。
空いている緑とは対角に位置する。
これはアランが脱落か……
「陛下……最後までお供できずにすみません」
「アッサンの屍を超えてあーしは先に行く!」
「王様って大変なんだろ? 今はゆっくり休んでくれ」
「大丈夫だよ、まだ終わらせないからね」
アランはそう言うと、崩れそうな体勢から無理やり体を起こし、左手を緑へ伸ばす。
最下層のアランが起き上がったことでバランスが崩れる。
あ、これやっばい……
「よし、届いたね」
「エレス、エレス……俺の脇腹に体重かけないで」
「ジエンだってさっきまで体重かけてただろ!」
「誰!? 私の膝の裏に体重かけてるのは!」
「それあーし、めんご」
場は混沌に包まれている。通信の向こうでメイリアは笑い、ヘイゼルは何かメモを取っている。
新刊のネタか?
リサは『ケガのないようにね』と心配してくれている。母か。
「……エレス、右手を青に……」
「青……ちょっと脇腹抉るぞ」
「あ゛ぁ゛! わき、脇腹、脇腹がぁぁぁああ!」
「待って! 背中押すのやめて〜!」
俺の脇腹がここで死んだ。
『んー停滞期になってるみたいだね』
『そうですね……ではダスティンも入りましょう。審判はこちらでやっておきますので』
『いいね! ダスティンもやりたそうにしていたし!』
『あらあら』
「正気か?」
「待ってくれ、考え直さないかい?」
「うん、やりたい」
「うん、じゃない! やらないで! 下がってて!」
「あー詰んだ」
「明日は今日よりもいい日になるといいな」
そんなこんなで勝ち残ったのは俺とシヴァニア、残り三人は床で寝ることに決まった。ドンマイ。
***
「気になったんだが、エレスってシヴァニアと知り合いだったんだろ? ってことはその時の勇者パーティと会ったことあるのか?」
「小さい頃に会ったことはあるぜ」
「まじ? ちょー運命的じゃん」
全員シャワーを浴びて後は寝るだけになったとき、自然とと雑談が始まる。
寝る前って無性に話したくなるよな。
「そんな昔からの知り合いだったのか」
ココアを飲みながら話す。
ココアはアンニル団から持ってきた。
エレスたちにも好評だ。
「懐かしいね、あのときは私たちも無名だったものね」
「最初はただの冒険者パーティで、魔王が復活してから勇者パーティになったんだっけ」
「そう、だね……懐かしい」
そういう経緯だったんだな。
三人は思い出話に花を咲かせている。
「アランは最初、身分を偽ってたね」
「王族としての生活に嫌気がさしててね。最初に勇者と出会って、星を見に行ったんだ」
いつか一冊の本にしてほしいくらい気になるな。
誰かの昔話や伝説は、聞いていて飽きない。
もっと聞きたかったがさすがに夜も遅くなったので寝ることになった。
どんな星をみたんだろう……
ツイスターで一番先に脱落したのはアランでその次がイグネリア、エレスです。アランは足を攣っての脱落でした。憐れ。




