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アポカリプスロード:Extend  作者: 中村 りゅうや
第一章 マントルロード
13/40

D-13 チキンレース

 朝日が昇る前に身支度を整え、俺たちは出発した。

 目的地は山の向こうにある洞窟。

 そこを探索し、幻想魔法の魔導書を手に入れる。

 それが今回の目的だ。


 二日かけて山を越える。

 その間にこのパーティーの連携が上手くなった。

 ダスティンは敵に突撃するのが得意らしい。

 イグネリアと相性がよく、モンスターは轢かれ潰され吹っ飛ばされるばかりだ。惨い。

 俺もただ見ているだけではない。

 エレスとアラン、シヴァニアとの連携を上達させている。

 特にエレスと息が合う。やはり剣士同士、感覚が近いのだろう。


「さてと、着いたはいいが……暗いな」

「それな」


 たどり着いた洞窟は、底の見えない闇が口を開けていた。

 コスマのライトや光属性の魔法で照らしても入り口から先は何も見えない。


『んー、解析したところ太陽光以外の光は遮断されるみたい。だから、中には光が存在しない。多分通信も拒絶される』


 今回、基地からはメイリアが来てくれている。


「その通りだよ。そして、これが以前の私たちでは攻略できなかった理由なんだ」

「暗いし前見えないし敵を感知できないしで泣く泣く撤退したのよ」

「入って、十分で……撤退」

「大変だったんだな」


 それに通信が遮断されるってことは電波も通らないってことか。

 厄介だな。


「イグネリアは人工太陽とか出せないのか?」

「無理ぽ。ヘイゼっぴなら出せるかもだけど……」

『ヘイゼルはリサさんと諸世界連盟会議に出席してるからいないね。あ~、リサさんがいれば権能で通信は繋げられるのに……』


 ……あぁ『繋がる心想』か。

 便利な権能だな。


「とりあえず入ろう!」

「いい意気込みだね、エレス」

「こういうのは最初が大事だと思うので!」


 エレスはやる気満々だ。

 そんなエレスを先頭に洞窟に入る。


『私はこっちでやれることはするから! とりあえず頑張ってね!!』


 メイリアの応援が聞こえると同時に通信が切れた。

 洞窟の中は案の定真っ暗。

 いや違う、俺とエレスの鞄の口から光が漏れている。突然のことで思わず目を見開く。


「ジエピ何したん? 人工太陽?」

「いや何も……エレスは?」


 エレスは何か思い立ったように鞄を探り、光を取り出す。


「……やっぱり月光花だ」

「月明りを借りて光る花だよね?なんでそれが……」

「え、月明かり? つまり太陽光ってことじゃ〜ん」


 なるほどな……ありなんだな、これって。


「…………?」


 アレルハライド組は誰一人ピンときていない。

 ということは、この世界は天体のことについてあまり研究されてないのか?


「月は自分で光っているわけじゃない。太陽の光を反射して光っている。だから、月光も太陽光と言えなくもないんだ」

「初めて、知った」

「この世界では知られてない?」

「そうだね、私は聞いたことがない」

「私も」

「陛下と七色の魔女が知らないなら俺も知るわけないな」


 あとで天体について教えるか。


「それなら納得できる。だけど、前に来た時も月光花を持ってたよね。その時は光ったっけ?」

「……光ってなかった気がする」


 ダスティンもうんうんと頷く。

 一つの疑問が解決したと思ったら、また疑問が生まれてしまった。


「それにこの月光花、他のより輝いているね」

「やっぱそうですよね!」


 ここぞとばかりにエレスが力強く同調する。

 そういえば異世界人が細工している可能性があるって言ってなかったっけ。今のうちに話しておこう。


***


「なるほど…………アンニル団とは別の異世界人が来ていたとはね」

「つまりさ、全部まとめると超いい感じってことっしょ!」

「それはそう」


 難しいことは置いておこう。

 本来は光が使えない洞窟で光を手に入れた……つまり幸先が良いってことだ。

 光があるだけで状況は大きく変わる。

 暗闇では気づけないような仕掛けにも気づけ、別れ道もしっかり把握できる。

 もしこれが暗闇のままだったら知らない間に分断される、なんてことも起きそうだ。

 順調……あまりにも順調だ。


「…………敵が寄ってこないな」

「出会う敵みんな光に怯えているわね」

「……楽に、進める」

「順調な時こそ気を付けないといけないよ」


 順調な時こそ気を付ける。

 それができるかできないかで、雲泥の差が出る。

 俺は前に余裕こいて海に落ちたことがあるからな。


 瞬間、仕掛けの動く音が聞こえる。


「危なッ!!」

「ッ!!」


 エレスを突き飛ばした瞬間、エレスがいた場所に岩が落ちてくる。


「無事か?!」

「無事だ!ありがとう!!」

「ふー、よかった。一歩遅れたてらぺしゃんこだった」


 岩の向こう側から声が聞こえる。

 無事でよかった。

 俺とイグネリア以外は、岩の向こう側にいる。


「本当にありがとう! あとで何か奢るわ!」

「ならステーキを」

「あーしはバチ映えスイーツでよろ〜」

「私は酒をお願いしたいね」

「私は最近気になっているパイナップルを」

「くっ……みんなに迷惑をかけたのは事実だ。全部奢る。ダスティンは何がいい?」


 歓声が上がる。

 さすがエレス。

 できる男だぜ。


「俺は……特に、何も……」

「そんなことは言わなくていい。思いつくも物を言ってくれ」


 結局、ダスティンに何を奢るかは道すがら考えることになった。

 岩を壊せればいいんだが、何が起こるかわからないため別行動をとることにした。

 俺らは来た道を戻り、別の道から奥に進む。


「てか、こうやって二人きりになるとか初じゃん?」

「言われてみれば確かに……」


 初対面は挨拶もそこそこに王城に突撃したし、その次の日には魔王討伐のために旅に出ることになったし、二人きりに時間があまりなかったな。

 あらためてイグネリアを見る。

 髪色はオレンジ、瞳の色はアンバー。

 所々の仕草から、貴族の出だと思われる。

 相変わらず爪は伸びておらず、化粧も濃くはない。

 だからこそ、その言葉遣いにギャップを感じる。

 あまり聞いたことのない言葉遣いで最初は戸惑ったが、慣れてしまえば楽しい。

 尻尾と耳も、虎の獣人らしく虎柄をしている。


「あーしら二人だけだし、聞きたいことあったら何でも聞いて〜」

「では遠慮なく……ずばり、サンとの出会いは?」


 サンとの初対面はどんな感じだったんだろう。

 やっぱ意味わかんない出会いとかしたんかな。


「あーしが追っていた山賊の本拠地前でバッタリと」


 ほう……


「んで、そのまま一緒に山賊を倒して」


 ふむ……


「ご主人があーしの使用人になった」


 なんで?


「前後の脈絡なさすぎでは?」

「ん〜、たぶんあーしが王族だからじゃね? 会うきっかけ作るためっしょ〜」

「すごい行動力の塊だな」


 話しながら道を歩く。

 イグネリアは王族だったんだな。


 一つ手前の分かれ道まで戻り、別の道に進む。

 道を進むのはいいが、景色が変わらないのがつまらないな。

 だからなのだろう。イグネリアとたくさん話をしている。


「他にもサンについてなんかあるか?」

「そーね〜、じゃあヘイゼっぴが入ったばっかの頃の話でもしよっか〜」


***


 ヘイゼルがアンニル団に加わって間もない、ある日の昼下がり。

 サン以外のアンニル団全メンバーがリビングに集まっていた。

 そこにドタドタと階段を駆け降りる音が聞こえる。

 そのままの勢いで扉がバンっと開いた。


『第一回! 電子レンジゆで卵爆破チキンレース!!』

『何言ってんだ』


 テンション高らかにサンが宣言する。

 妖精さんはサンの横で『ガウッ♪』と楽しく鳴いている。


『ツキヤも乗り気だな!!』


 何かを察したシュウゴは、100wから1500wまで10w刻みで選択できる電子レンジを用意した。

 しかも、中の様子が見えやすい。

 リサはテーブルの上を片付けて消火器を用意した。


『なんで!! そんなに!! 用意が速いんだ!!!』

『これが何千年築いた絆だ』

『救世主の考えていることぐらいわかるわ』

『お、お前ら……!!』


 サンがリサとシュウゴ、そして妖精さんを抱きしめている。

 サンの目隠しが少し濡れていることから、涙ぐんでいるようだ。

 とても微笑ましい光景だ。

 だが、これから電子レンジゆで卵爆破チキンレースが行われることを忘れてはいけない。


『古参があんなのはいつものことでしょ? フェーちゃんは早く慣れてもろて』

『慣れるわけないだろ!』

『アンニル団は本当に楽しいところですね』

『その感想は別の場面で聞きたかったよ……』


 ハグを終えたサンは、みんなの前で白いぷにぷにしている球体を出した。


『偶然の産物でできた、ゆで卵に限りなく近い性質を持つ球体だ。これを使ってチキンレースしていくぞ!!』

『いえーい』

『罰ゲームどうするの?』

『黒歴史暴露でいこう』

『ヒュー! 最&高!!』

『ガウ♪ガウ♪』


 フェリールとメイリア以外のメンバーはやる気に満ちている。なんなら、すでにルール説明まで始まっている。

 二人は多数決によって逃れられなくなってしまった。

 ここで、『なぜ?』『どうして?』『どのようにしてそう至ったんだ?』などと聞いてしまえば、ボケが十帰ってくるので聞いてはいけない。

 触らぬサンに胃痛なし。

 これはメイリアとフェリールが掲げる格言だ。


『ルールは簡単! このゆで卵(偽)をレンジに入れて、好きなW(ワット)と時間でレンチンだ。ゆで卵(偽)が爆破した奴が負けだ。なかなかにスリリングだろ?』

『身の安全は?』

『自分で守ってくれ』

『てめぇがなんとかしろ、発案者』


***


「最初から飛ばすじゃん」

「それな〜、『ゆで卵(偽)できたしチキンレースしよ!』とか言い出すのマジで頭おかしすぎっしょ〜」


 それに関しては全面的に同意だ。

 てか、イグネリアもサンのことを頭おかしいって思ってたんだ。

 普通の感性持っててよかったと思うべきか、その感性を持っててゆで卵チキンレースに乗り気だったことに恐怖すればいいのか、わからないな。


「ちな、ジエピってレースに参加したい感じ〜?」

「めっちゃしたい」


 俺も同じ穴の狢(むじな)だった。


***


『順番は俺&ツキヤからフェリール、ヘイゼル、リサ、シュウゴ、メイリア、イグネリアだな。よっしゃ! 早速やってやるぞー!!』


 サンはそう言うと、1500W・60秒でレンチンする。


『ガウッ!?』


 想定外のことだったのか、ツキヤは驚いている。


『最初から最大火力とは……さすが先輩、しびあこ』

『せめてツキヤに確認をとってください。社長と二人で同じチームなんですから』


 メイリアが苦言を呈す。


『大丈夫だ! ツキヤなら許してくれる!』

『ガウッ! ガウッ!!』

『どう見ても許してくれていませんけど』


 ツキヤはサンの肩に頭突きをしている。

 頭突きされている本人は、『だはは!』と笑いながら謝っている。


『作ったのは俺だが、どのくらいレンチンしたら爆破するかわかんないからな』

『つまりこれは、真剣勝負ってことですね』


 チン♪という音とともに温めが終わる。

 次はフェリールの番だ。

 レンジの前に立ち、ボタンに触れる。

 だが、いつまで経ってもボタンを押さない。

 心なしか足が震えている。


『あれ~フェリールぅ、もしかして~ビビってるぅ???』

『違う。考えているだけだ』


 嘘だ。その証拠に声は震え、フェリールの尻尾は足の間に入っている。


『んじゃ、ルール追加だ。前のレンチンが終わったら十秒以内にレンチンな。守れなかったらみんなの大好きなところを五個言うで』

『はぁ!?!?』


 フェリールは、大好きな人たちの好きなところを本人の前で言うことを躊躇う。

 つまり――ツンデレだ。

 フェリール以外はツンデレではない。

 つまりこれは対フェリール特攻の罰だ。


『くっそぅ……』


 フェリールは苦虫を噛み潰したような顔で200W・10秒でレンチンする。


『フェーちゃん、ダサくない〜?』

『ち、違う……これは、戦略……そう! 戦略だ!!』


 フェリールはビビりながらゆで卵(偽)の行く末を見守る。

 爆破はしなかった。


『次は私ですね』


 少し悩んで、450W・20秒でレンチンする。

 爆破はしなかった。


『こんなところで爆発したらつまらないですものね』

『次はあたし』


 慣れた手つきで操作する。

 300W・30秒でレンチン。爆破はしなかった。


『主婦を舐めないで』

『主婦は関係ないでしょう』


 すかさずメイリアがツッコミを入れる。

 フェリールから期待の新人扱いされているだけはある。


『次は僕だな。ここは先輩とお揃いで……』


 1500W・60秒でレンチンする。爆破はしなかった。


『ふっ……計算通り……』

『絶対計算してないだろ!! この愉快犯め!!!』


 部屋のすみっこで耳を塞いでいるフェリールからツッコミが入る。

 さすが初代アンニル団ツッコミ、キレが違う。

 だが、その姿は限りなくダサい。


『はぁ、次は私ね』


 ささっと操作する。

 300W・30秒でレンチン。爆破はしなかった。


『あー、よかったぁ』

『次はあーしのターン!』


 1000W・20秒でレンチンする。爆破はしなかった。


『これで全員やったな。それじゃあ、こっから本番といこう!!』

『ガウ!!』


***


「それでどうなったんだ?」

「フェーちゃんの負け~」

「ビビってたのに?」

「ビビってたのに~」


***


 フェリールは腰を引きながら、温めボタンを押す。

 ゆで卵(偽)は爆破した。


『ピャッ!』

『消火ー!! 消火ー!!』

『ガウガウー!!』


 フェリールはかわいい声を出し、しりもちをつきて唖然としている。


『はい、じゃあ黒歴史暴露な』

『フェリールさんの黒歴史……とても興味があります』


 ヘイゼルはメモ帳を取り出し、書き出す準備をする。


『俺に黒歴史という黒歴史はない』

『往生際が悪いぞ~?』

『うるっせ』


 フェリールはシュウゴを睨みつけ、グルグル威嚇する。

 絶対に話さないという意思を感じる。

 場が白けるのを承知で黙り込むことを選択した。


 しかし、それを良しとしない人がいる。


『コホン、えー……【おとうさんへ、いつもたすけてくれてありがとう】』

『あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーーーーー!!!!!!!!!』

『うっわ、どうしたんだいきなり。発情期?』


 フェリールがサンの声をかき消すように発狂する。

 その発狂に驚いて、シュウゴはフェリールの発情期を心配した。


『おや、親父ぃ!! なんでそれっ、そもそもっ、ああぁぁーーー!! とりあえず喋んな!!! 返せ!!!』


 フェリールがサンに飛び掛かる。

 サンは難なく避ける。


『救世主、それは?』

『幼きフェリールが俺に宛てた手紙』


 フェリールの猛攻をひらりひらりとかわしながら、サンは答える。


『めっちゃ聞きたいわ』

『聞かせて〜』

『よし! 聞かせてやろう!!』

『おいバカ! やめ、あがっ……!』


 サンは親指をフェリールの口に入れ、ぐっと押さえ込む。

 圧倒的な力にフェリールは膝をついてしまう。

 それでもフェリールは抗おうと、親指を噛んだり、サンの腕を振り解こうとしている。

 だが、ビクともしない。


『めっちゃえっちぃですね……捗ります』

『だろう?』

『あえおー! ああえ!』


 サンはフェリールを押さえつけながら椅子に座り、足を組む。


『久しぶりに読み聞かせといこうか』


 フェリールにとっての地獄が、今始まる。


***


 イグネリアの話が途切れる。

 異変が起きた。

 具体的に言うと、月光花以外の光が見えたのだ。


「なんだあれ」

「とりま、行ってみるしかないっしょ! 続きはまた今度ってことで」

「ああ」


 光に向かって進む。

単純な戦闘力はサンがアンニル団で一番高いです。

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