D‐6 衝撃!? 教祖の実態!!!
ヘイゼルに連れられて彼女の部屋に来た。
机にベット、テーブル、クローゼットなどがある普通の部屋だが俺の部屋に比べたらかなり狭い。
どうやらわざと部屋を狭くしているそうだ。
俺とヘイゼルは向かい合うようにテーブルを挟んで座っている。
「飲みたいものはありますか?」
「じゃあエナ……いや緑茶を」
「わかりました」
ヘイゼルがテーブルについているタッチパネルを操作すると目の前に緑茶が出てきた。便利だな。
「本題の前に少しだけコスマを貸してくれませんか?」
「別に構わないが何をするんだ?」
「先程の映画館でタイトルだけ映した『私の神様♡』の映像データを移行します。面白さは保証しますのでぜひ見てください」
正直いらないが、これを見たらサンの人となりがわかるかもしれない。暇なときに見よう。
「あぁわかった」
「ありがとうございます。それではこちらを見てください」
「これは……」
ヘイゼルから手渡されたのは一冊の漫画だ。
タイトルは『アンニル団の日常』
なるほどなんとなく話が読めてきたぞ。
「こちらは私が描いている漫画です。文字通りアンニル団の日常を世に発信しています。アンニル団をより知ってもらうために神が考案したものです」
「つまりこの漫画に俺を登場させたいってことだな」
「話が早くて助かります」
俺もついに漫画デビューか、などと思いつつ受け取った本をめくる。
『登場人物紹介』
最初はどうやら登場人物紹介のようだ。顔のイラストの横に紹介文が書かれている。
『NO.1リサ
アンニル団リーダーで創立者の一人
家事全般を担うためアンニル団のお母さんと呼ばれている
亡国のお姫様らしい
NO.3のことを救世主と呼ぶ
身長は178㎝
髪色はブロンド
瞳の色はエメラルドグリーン』
確かにリサの料理はただ単純に美味いだけでなく言葉では言い表せない温かみががあった。
そういうのがあるからお母さんって呼ばれるんだな。
しかし、リサの国はもう滅んでいるのか。
そういうところもいつか聞いておきたいな。
『NO.2シュウゴ
アンニル団副リーダーで創立者の一人
神が絡むと変態になる
研究室にこもりがち
NO.3のことを先輩と呼ぶ
身長は185㎝
髪色はブラックで白メッシュを入れている
瞳の色は黒茶』
あ、俺の服を脱がした変態だ。
ちゃんと顔は憶えておこう。
いずれ右ストレートをかまさなくてはならないからな。
『NO.3??
アンニル団の創立者の一人
冒険が大好き
名前は忘れたらしい
身長は160㎝
髪色はホワイト
瞳の色は秘密』
サンだ。自己紹介は案外普通だな。
もっと驚きに満ち溢れたナニカになっていると思ってたんだがな。
それにしても意外と幼い顔立ちをしているな。
画風でそう見えるだけかもしれないが十五歳前後に見受けられる。
ショタジジイってやつか。
『妖精さん 通称ツキヤ
デフォルメされたドラゴンのような姿
NO.3の傍に常にいる謎の存在
鳴き声しか言わないが言葉を理解している節がある
全長40㎝』
なんかマスコットみたいなやつが出てきたな。
自己紹介と姿からでは何もわからない。
常にサンの傍にいるらしいし、どこかで俺と会ったりしたかもな。
『NO.4イグネリア
トラの獣人
よく日向で寝ている
アンニル団の司令塔を務めている
甘いものが好き
NO.3のことをご主人様などと呼んでいる
身長は176cm
髪色はオレンジ
瞳の色はアンバー』
知らないやつだな。
でもメイリアによるとボケらしいし癖が強いんだろう。
真っ当な出会いになることを祈るばかりだ。
『NO.5フェリール
オオカミの獣人
アンニル団のファーストペンギン
ツンデレ
苦労人
NO.3のことを親父と呼ぶ
身長は179㎝
髪色はシルバー
瞳の色はスカイブルー』
また知らないやつだ。
紹介文に苦労人って書かれるほど苦労しているのか。
まぁツッコミ役みたいだし大変なんだろうな。出会ったら優しくしよう。
『NO.6メイリア
アイドル
努力家
時々辛辣になる
趣味はカフェ巡り
NO.3のことを社長と呼ぶ
身長は168㎝
髪色は淡いピンク
瞳の色はロイヤルブルー』
やっぱ時々辛辣になることは知られてたんだな。
でも貴重なツッコミ役だし仕方ないか。あとで差し入れ持っていこう。
『NO.7ヘイゼル
教祖
サブカルチャーを好む
未開の世界ではアンニル団を布教したりする
同人誌をよく作る
NO.3を神と呼ぶ
身長は172㎝
髪色はストロベリー
瞳の色はシルバーホワイト』
もう自分から教祖名乗ってるじゃん。
それにアンニル団の布教を未開の世界で行うなんてすごいな。
そういうのってその世界の人たちは受け入れ難いはずなのに……かなり勇気あるんだな。
登場人物紹介を眺めているとヘイゼルから声がかかった。
「まだ先ですがいずれはジエンをその漫画内に登場させたいと思っています。いかがでしょうか?」
「俺は別に構わない、むしろ面白そうだ。その時になったら呼んでくれ、添削はしたい」
「えぇ、もちろん」
とりあえず漫画のことはそれで話が終わった。
ヘイゼルはどうやら『アンニル団の日常』を読んでほしいらしく全巻を俺の部屋に転送したらしい。
せめて転送する前に教えてほしいものだ。
「では本題パート2に入ります」
「パート2?」
「鶏卵の双子が存在し得るのと同じように本題が一つだけとは限りません」
「え? あ、そう、なのか?」
何を言ってるのかわからないが、鶏卵の例えはどっから来たんだ。
「ジエンはすぐに混乱するのですね。混乱耐性E-と……」
「百歩譲って本題が二個あるのはいいが、なら最初の本題にパート1をつけるべきでは?」
「さて、パート2についてなんですが……」
「無視するな」
ヘイゼルは俺に向かってにこっと笑う。誤魔化されねぇからな。
「では今度こそパート2に入らせていただきます。ジエンは絵心ありますか?」
「皆無だ」
「気持ちいいほどの断言ですね。ジエンに絵心がないことを確認したいのでこちらの紙の犬を描いてくれませんか?」
「別にいいが……本当に絵心はないぞ?」
俺はそう言ったが「それでも大丈夫です」と言われたため、仕方なく描くことにした。
五分ほど時間をかけて犬を描き、ヘイゼルに見せる。
「描いたがこれでわかったか?」
「なるほど……ちなみにジエンが描いた犬はこういうものでしょうか?」
ヘイゼルはそう言うとさらさらっと紙に犬を描く。
「そうだが」
「良かったです。認識にずれが無くて」
「うっせ、これで俺にも絵心がないことがわかっただろ」
認識にずれが生じていると思うほどにひどい絵だったってことか。
わかっていたが、いざ口に出されるとイラつくな。
でも、絵心の無さを見せつけるには十分だ。
「ジエンの絵心の無さは分かりました。残念です」
「もし俺に絵心があったらどうしてたんだ」
「私の趣味に付き合ってもらおうかと」
「やっぱりか……」
ヘイゼルの趣味って同人活動だろ。俺には絶対無理だ。なんか恥ずかしいし。
「仕方ありません。新刊のR18本は私だけで仕上げるとしましょう」
「は?」
「それよりゲームをしましょう。準備して来ますね」
「お、おう」
そう言ってヘイゼルは部屋から出ていった。
ヘイゼルを待っている間、茶をすすりながらコスマでアンニル団について調べる。
ネット上でのアンニル団は結構人気のようだ。
確かに異世界を繋いだり、脅威から人々を守ったりしていれば人気も出るだろう。
時々行われるライブが絶大な人気を誇っているとか。いつか俺もやったりすんのかな。
それに二次創作も盛んだ。
メンバーのイラストやカップリングも多数見受けられる。
しかもアンニル団はこれを許容するどころか自分たちから見たり作ったりしているらしい。それはそれでどうなんだ。
てか、このままいくと俺も餌食になるのでは? 考えないでおこう。
ていうかさっきゲームとか言ってたがなぜ今なんだ?
いろいろと突拍子がすぎる。
「準備ができました。こちらに来てください」
ヘイゼルに案内され、扉をくぐる。
すると、目に映ったのは大きなソファにローテーブル、そして巨大な液晶モニター。
空間自体もさほど広くなくただゲームをするだけの部屋に感じる。
それだけではなくリサとメイリアがすでにソファに座っていた。
「やっほー昨日ぶり!」
「あたしはさっきぶりね」
なんでいるんだこの人たちは。
「ゲーム大会やるって聞いたから来たのよ」
安易に心を読まないでほしい。
「ごめんなさい、ちょっと聞こえちゃったのよね」
「他にメンバーも誘ったんですが都合が合わなくて……そのため今回はこのメンバーで行かせてもらいます」
「さぁさぁ! 座って!」
流れるようにソファのど真ん中に座らせられた。
俺の右隣にヘイゼル、左隣にメイリア、メイリアの隣にリサが座っている。
「神は言っておられます、主役はど真ん中に座るべしと」
「今日の主役はジエンだからね! ポテチは何味がいい? 何飲む?」
「えっと、コンソメとエナ……グレープジュースで」
「おっけー!」
メイリアはそういうとテーブルにあるタッチパネルを操作してポテチと飲み物を出す。
やっぱ便利すぎだろそれ。
「初めはこのゲームをやるわよ。協力ゲームだから仲が深まること間違いなしね」
そう言ってリサはカセットを取り出した。
「そのゲーム、息が合わないとグダグダになってイラつくから関係悪化しやすいゲームとして有名なやつでは?」
「だめじゃん」
そんなこんなで俺たちは五時間ほどゲームをした。
協力ゲームの他に格闘ゲームやスゴロク、体を動かすゲームなど合計七つのゲームを遊んだ。
結局、協力ゲームはグダグダしてしまった。
***
「こんなところでどうしたのですか?」
ゲーム大会はお開きになり片付けをした後それぞれ解散した。
俺は扉をくぐるときに気になった場所――バルコニーにつながるようにタッチパネルを操作した。
「いや、すこし気になってな」
「そうですか」
バルコニーから見える景色は壮大な街並みや美しい自然では無く、風が激しく吹かれている荒れ果てた大地だ。
木々は倒れ砂に埋もれており、人工物はかろうじてかつての有様を伺える程度には崩れ去っている。
空には分厚い雲が覆っており夜空を見ることができない。
もしかしたら太陽も見ることはできないかもしれない。
遠くにある海に目を向ける。海は暗く染まり生命の灯火を感じられない。
アンニル団の基地が存在する世界は終末と言ってもいいほどだ。
「この世界は神とシュウゴの出身世界です。かつてニヒルによって滅ぼされたらしく、当時の神はまだ力がなく成す術がなかったそうです」
「……」
サンとシュウゴにはもう帰る世界がないのか。あの記憶のサンの言葉が蘇る。
『お前にとっての帰る場所、その一つとしてここを心に刻んでくれないか?』
なぜサンはあの言葉を俺に言ったのだろう。俺はどうしてサンにあの言葉を言わせたのだろう。
「ところで格闘ゲーム中に突然固まっていましたが何かあったとですか?」
「あぁそれは……」
一息おく、風の音が弱まる。
「……記憶を思い出したんだ」
そう言ってカードを取り出す。占いでもらったカードだ。
「びっくりだよ。まさか記憶を失くす前にアンニル団と関りがあるなんてな」
カードに写っているのはさっきの部屋のソファでサンと一緒にゲームをしている幼少期の俺だ。
かなり白熱しているのか俺とサンは身を乗り出している。
俺の隣にはシュウゴのような人物がだらぁと座り、サンの隣にはイグネリアのような人物が横になっている。
また、リサとフェリールのような人物はソファの後ろから立って見ている。
「大発見ですね。私よりも早くにアンニル団と出会っていたなんて」
「あんま驚かないんだな」
「えぇ、気づいてましたから。……ジエンの部屋は、私が来る前から用意されてたのですよ?」
「そうだったのか……」
家具が新品に見えたのも誰かが掃除してくれてたからなのかな。
「それにしてもそのカード……記憶を取り戻すと景色が浮かび上がるんですね。不思議です」
「そうだな、どういう仕組みなんだか」
「せっかくですし名前を付けてみたらどうです?」
「……俺が?」
「えぇ、ジエンが」
やっばいどうしよう、絶対センスゼロのクソださ名称を付けてしまう。ここは普通に行こう。普通に。記憶……カード……写真……チェキ……
「記憶チェキチェキカードってのはどうだ?」
「…………」
失敗した。
ヘイゼルが鳩にガトリングを撃たれたような顔をしている。重大な失敗だ。
このままフェードアウトしたい。
「ま、まぁジエンがそれでいいのなら、いいのではないでしょうか」
「ヘイゼルが名付けてくれ」
ヘイゼルに気を使われてしまった。普通に恥ずかしい。
ヘイゼルは少し悩み、言葉を口にする。
「『メモリーズフラグメント』はどうでしょう?」
「最高。かっこいい。天才。尊敬。まじパネェ」
「そこまで言われると逆に嬉しくありませんね」
ヘイゼルは俺の方に向きなおして言葉を紡ぐ。
「明日の13時にリビングにて会議があります。寝坊をしないようにしてください。それでは私はこれで。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
ヘイゼルはそう言って扉をくぐる。俺も後に続いて扉をくぐる。閉める前にこの世界の景色をもう一度見る。
雲が引き裂かれて月光が大地に降り注いでいた。




