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アポカリプスロード:Extend  作者: 中村 りゅうや
第一章 マントルロード
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D‐4 あの日の夕日

「見てくれ!イワシの群れだ!」


 メイリアはそう言って二時の方向を指さす。

 ここはガラドにある水族館だ。もっと詳しく言うなら水槽の中だ。この水族館は異世界渡航の技術を使って魚たちがいる水槽の次元をずらしている。つまり、水槽の中にいても水や魚に触れることはできない。それによって俺らからは魚が空を泳いでいるように見える。まるで海の中を歩いているようだ。


 あの後メイリアからサンが(ほどこ)した不老不死について詳しく聞いた。そもそも不老不死にするにはサンと不老不死にする本人の同意が必要らしい。だが、俺は知らなかったので同意した記憶も封じられている。サンも不老不死にするには慎重(しんちょう)らしく基本的に行わないそうだ。

 メイリアが不老不死になったきっかけは当時、サンから借りた権能を盾に同意させたらしい。アイドルにあるまじき野蛮(やばん)さだ。たがなおさら俺が不老不死になった経緯が気になる。サンを脅すぐらいのことをしたってことだろ。過去の俺は何をしでかしたのだろう。


「ほら見て!こっちにはマグロがいるぞ!」


 そう言って今度は九時の方向を指さす。マグロは好きなほうだ。刺身にしても缶詰にしても美味い。


「あ!あっちには鮭がいる!」


 サーモンか……焼いても生でも美味い最高の食材だ。


「今度は(くじら)!こっちに来てるぞ!」

 

 鯨はさすがに食ったことないな食べきれなさそうだし。美味いのかな。


「おぉーメガロドンが泳いでる!」


 なんかこの水族館おかしくない?なんで鯨とメガロドンが一緒に見れるんだよ。最先端って言って何でもやっている感じだよな、ここ。

 そんなことを思いつつ水槽内を一周し入口に戻ってきた。水槽内から出て近くのフードコートでアイスを買い椅子に座る。そして、水族館に来た時からの疑問をメイリアに問いかける。


「ここにきてから気になってたが、この水族館マグロを推しすぎでは?」


 この水族館はマグロだらけだ。エントランスにでかでかとマグロの絵が描かれていたりマスコットがマグロだったり販売所(はんばいじょ)ではマグロソフトやマグロパフェ、マグロのぬいぐるみ(全17種)などなどマグロが多すぎる。比率がマグロ8のその他2ぐらいまである。


「パハムア王国初代国王である英雄が好んでいた魚がマグロだからそれにあやかっているんじゃないか?」

「パハムア王国?」

「ガラドができる前にこの大陸を支配していた国だな。200年ほど前に反乱が起きて滅んだ」

「滅んだ国にしては伝承(でんしょう)が今でも続いているんだな」

「ほんとにすごいよな。一万年前の英雄(えいゆう)が語り継がれるなんて」

「そんな前なんだ?」


 思っていた以上に歴史あるなこの世界。


「んじゃ、休憩がてら少しこの世界の伝説について簡単に話そうか」


***


まだ人の世が剣を頼りに戦っていた太古の昔。


人々は大地を耕し、火を囲み、穏やかな日々を紡いでいた。


ある日、漆黒の彼方より一人の異形が現れた。


その者は言葉を持たず、慈悲を知らず、ただ命あるものを屠り、大地を蹂躙した。


人々はその災厄を怪人と呼んだ。


大陸を統べる王国は民を守らんと総力を挙げて怪人へ挑み、戦は七日七晩に及んだ。


流された血は河を赤く染め、積まれた(むくろ)は山を成した。


そしてついに、人々は怪人を討ち果たした。


その報せは大陸の果てまで届き、人々は歓喜し、勝利を祝ったという。


されど、その歓喜は束の間であった。


再び漆黒の彼方は裂け、新たなる怪人が姿を現した。


二体。


五体。


七体。


やがて数知れぬ災厄が大地へと降り立った。


一体にして国を滅ぼす怪人が群れを成した時、人々は抗うことを諦めた。


王は玉座を捨て、民は故郷を捨て、親は子と離れ、ただ生き延びるため闇へと身を隠した。


なおも剣を携え、立ち向かう勇士はいた。


しかし、その名を再び聞く者はいなかった。


そうして幾年(いくとせ)もの歳月(さいげつ)が流れた頃。


ある日、天より眩き光が世界を包み込んだ。


光は空を照らし、大地は白く染まり、誰もが目を閉ざしたという。


やがて光が静まると、無数の怪人が地に伏し、ただ一人――白きローブを纏う青年が立っていた。


後に英雄と称えられる者である。


英雄は散り散りとなっていた人々を集め、高らかに告げた。


「この地を(むしば)みし厄災は、余がことごとく焼き払った。

いま再び、人の世を築く時である。

我らの栄光をこの世界に刻もう。

余に続け」


その言葉に応え、人々は再び剣を取り、(くわ)を握り、失われた大地へ戻った。


そして英雄を王として戴き、一つの国を興した。


その国こそ、後に幾多の栄華(えいが)を誇ることとなるパハムア王国である。


***


「どうだった?」

「とても興味深いな」

「だよなー!めっちゃカッコいいよな!」


 メイリアは目をキラキラさせて語った。どうやらこの伝説が好きらしい。かく言う俺も簡単にしか話されていないがとても興味をそそられる。聖典とかあるのだろうか……


「ちなみにこの伝説は絵本や漫画にもなっているから、気になるなら買ってもいいんじゃないか?この水族館にもあるし」

「まじか、なら一冊ずつ買おう」


 そんなこんなで俺たちは水族館を楽しんだ。イルカのショーではキャストさんが分身を使い始めてから主旨が変わった気がするが、それ以外は水族館としての体裁は保っていたはず。たまに最新技術も使われて化学館みたいになってたが。


「水族館楽しかったな!」

「そうだな」


 うきうきな声で話すメイリアは俺が飽きないように解説を挟みつつこの世界ならではの伝承や言い伝えなど歴史に関すること中心に語ってくれた。俺の琴線(きんせん)を刺激してくれてとても助かる。


「おすすめのクレープがあるから次はそこに行こう!」


 外に出て開口一番に言ってきた。カフェで食べてからまだ3時間しかたってないぞ。腹ペコ属性なのか?


 水族館からタクシーで15分ほど移動しただろう。その間はコスマの使い方をメイリアから教えてもらいある程度は扱えるようになった。

 ついた場所は海の近くにある繁華街だ。近くに移動式のアトラクションがあり出店が立ち並んでいてかなり活気に溢れている。


「この店のクレープちょー美味いぜ!」


 タクシーで降り立った目の前にある店を指差す。そこの看板に書いてあったのは

『⭐︎ビックサイズクレープ⭐︎

 重さ何と3kg?!

 制限時間は45分、食べ切れたら無料!!

 ぜひ挑戦してみてね!』

 

 ふむ、大食いか……まぁこれ以外だよな流石に。さっきご飯食べたばっかだもんな。ここで大食い行くわけないよなきっと。


「定員さん、このビックサイズクレープを二つお願いします」


 やば、盛大に巻き込まれてしまった。こうなったら全部食い切ったやるしかない。


***


「もう無理……動けない……」

「そんな大げさな」


 一ミリたりとも大げさではない。メイリアの胃袋がおかしいだけだ。


「次の場所なんだが、会ってほしい奴がいるからそいつのところに行ってもいいか?」

「休める場所ならどこでもいい……」


 バスで都心から離れたところに移動する。降りた場所は簡素な住宅街だ。行き交う人はあまりいない。

 裏路地らしきところを通り、静けさがある店に着いた。流行とは無縁で写真映えしない外観、人の気配がなく時計の音だけしか聞こえない店内、まるで世界から忘れられたようなところだ。


「あばちゃん、二人でお願い」

「はいよ、お冷持ってくから座っちゃいなさい」


 男体化を解いたメイリアが店主らしき人にそう言って席に座った。店主がお冷とおしぼりを持ってきて、そのまま奥に戻っていった。


「紹介するね。この人はおばちゃん、私の友達。そしてジエンに会ってほしかった人なんだ」

「会ってほしかった?」

「あばちゃんはね占いが得意なの」

「……その占いで俺の記憶を取り戻せるのか?」

「記憶を取り戻す方法がわかるかもしれないってだけね」


 苦節50年、ここにきてまともな進展だ。これも俺が山で行き倒れたおかげか……

 しかし、どうやって占うのだろうか。サンという規格外が行った記憶操作に対抗できるのだろうか。まぁ、出来るならいいか。


「ぜひお願いしたい」

「準備には時間がかかる。3時間後にまた来なさい」

「ッ!」


 びっくりした。いつの間に後ろにいたんだ……全然気づかなかった。後ろに立たれて気づかないなんて俺もまだまだだな。


「それよりあんた、久々に来たと思ったら占いだぁ?バカも休み休みいいな」

「うへぇ、ごめんねぇ」

「ったく、あんたは昔からそうなんだから。他人のために自分を蔑ろにするのはやめなって社長さんにも言われただろ?」

「まぁ今回は仲間のためだし……」

「はぁ……まぁいいや」


 友達って紹介されたときは半信半疑だったけど、この掛け合いは正真正銘友達だな。さっきまでのメイリアとの雰囲気が違う。


「二人ってどこで出会ったんだ?」

「中学のときに同じ部活だったからそこからね」

「え?同級生!?」

「そう、同級生。見えないでしょ~」


 本日二回目のびっくり。よく考えたらメイリアは不老不死だし外見年齢に差が出てもおかしくないか。


「かれこれ40年ぐらいの付き合いになるのね」

「そうだな、あのときが懐かしい」

「もう、おばあちゃんみたいなこと言って……」

「わたしゃ来年で還暦のババアだ」


 二人とも会話に花を咲かせている。ここは二人きりにしたほうがいいのかも。


「俺ちょっとあたりを散策してくる」

「そいつはありがたい。わたしもメイリアと話しておきたいことがあるからな」

「おばちゃんからの話か……ちょっと怖いね」

「なんだと?」


 楽しく話している二人を尻目に俺は店を出た。

 少し冷たい風が頬を撫でる。来た道とは別の道へ足を向ける。足音だけが静かな町並みに溶けていく。

 廃ビルの壁には、幾重(いくえ)もの落書きが時を重ねていた。子供がクレヨンで描いた(つたな)線、若者がスプレーで残した鮮やかな色。雨に洗われ、陽に灼かれ、どれも輪郭を失いながら、誰かがここにいた証だけは消えずに残っている。階段を(きし)ませながら屋上へ向かう。最後の扉には錆びた錠がかかり、押しても引いても開かなかった。……扉の向こうには、何が見えているのだろう。

 誰もいない公園では風だけが遊んでいた。錆びたブランコは風で揺れ、鎖に触れると赤茶けた錆が掌へ付く。滑り台には幾つもの傷が刻まれ、子どもたちの歓声を忘れたように夕日を受けて鈍く光る。シーソーは風に押されるたび、小さく軋みを漏らした。その音だけが、この場所にまだ時が流れていることを教えてくれる。水飲み場の蛇口を捻る。乾いた金属音だけが返り、水はついに姿を見せなかった。

 商店街は長い眠りについていた。並ぶシャッターは固く閉ざされ、色褪せた看板だけが往時(おうじ)の賑わいを語っている。店主を待つ椅子も、客を呼ぶ暖簾(のれん)もない。ただ風が吹き抜け、どこかで転がる空き缶の音だけが、静寂の輪郭をなぞっていた。

 開きっぱなしの校門が、ひっそりと迎え入れる。昇降口には薄く積もった埃が足跡を残し、教室の隅には役目を終えた机と椅子が肩を寄せ合うように積まれていた。壁には画鋲だけが思い出の場所を知っていて、黒板だけが不思議なほど綺麗なまま残されている。図書室には本が一冊もない。空になった本棚は、それでも何かを大切に抱えていた頃の形を崩さず、静かに立ち尽くしていた。理科室もまた、実験器具の姿はほとんど消えている。準備室を覗くと、薄暗がりの奥で人体模型と目が合った。思わず肩を震わせる。

 やがて大きな道路へ出る。人影はほとんどない。トラクターがゆっくりと通り過ぎ、その音もすぐに風へ溶けていく。誰も渡らぬ横断歩道を前に、信号だけは律儀に青から赤へ、赤から青へと色を変え続けていた。……不思議だ。

 小高い丘へ登る。振り返れば、歩いてきた町が夕暮れに沈んでいた。夕日が建物の輪郭を淡く溶かし、冷たい風が草を揺らす。俺はただ立ち尽くし、沈みゆく夕日を見つめていた。


『こんなちっぽけな町でお前は育ったんだぜ?』

「っ誰だ!」


 辺りを見渡す。人の気配はなくただ木々がざわめいているだけ。


『お前にとってはクソみたいな場所かもしれないけど、ここはお前を育てたんだ』


 誰かが俺に語りかける。


『お前にとっての帰る場所、その一つとしてここを心に刻んでくれないか?』


 そうだ、前にこんな場所で、こんな話をした。目を閉じる。いつ、どこで、誰と、どんな風に、どんな格好で、どんな気持ちで、そして……なんて答えたのか。考える。


 「やっほー、ここにいたんだ」


 頭が痛くなってきた頃、いつの間にかいたメイリアに声をかけられる。


「ここ、いいよね。私もたまに来る」


 そう言ってメイリアは俺の隣に来て町を見下ろす。


「どう?この町、全然人いないでしょ?」

「あぁ」

「私は60年ぐらい前にここで生まれたんだ。昔はね子供もたくさんいて道を歩く人も多かった」

「……」

「でも私のせいでほとんどの人がここを去った。そして最後まで残ってくれていた人たちもまた、私のせいでここを去ったんだ」

「そう……だったのか」


 メイリアはこの町を見つめているが、その目に映っているのは今見えている景色ではないようだ。俺はそんなメイリアを見つめている。メイリアの過去に何かあったのかは知らない。でもメイリアは今、俺に伝説を語ってくれたとき、クレープを食べているとき、おばちゃんと話しているとき、そして俺と初めてあったときと同じ、キラキラとした目をしている。


「私の顔に何かついてる?」


 どうやら長く見つめすぎたらしい。


「いや、ただメイリアの目が綺麗だったからな」

「ふふっ、うれしいな。そういえば社長にも同じこと言われたんだ」

「そうなのか」


 メイリアが俺の目を見る。


「……『君の物語はここからまた始まる。まずは、人生を謳歌(おうか)しよう!!』……社長からの伝言。ジエンに会ったら伝えてほしいって言われたの」

「物語…………」

「どういうことなのかは私にもわからない。でも、社長はたぶん純粋に励ましたいだけだと思う」


 メイリアはそう言うと俺から目を逸らし、夕日を見つめる。

 それ以上の会話はしなかった。ただ二人で夕日が落ちるのをずっと見ていた。


***


「ジエンこっちへ」


 あの店に戻った瞬間、店主によって奥の部屋に連れられ椅子に座らせられた。


「準備は終わっている。あとはメイリアだけだ」

「?メイリアも何かするのか?」

「うん、ちょこっと権能を使うだけ」


 権能か、そういえばメイリアの権能は聞いていなかったな。聞いてみるか。


「そういえばメイリアの権能って……」

「よし!願望充填MAX!もう占えるよ!」

「さぁ方舟よ、汝が脳裏(のうり)に刻まれし願いを我に見せたまえ」

「え、いや、ちょ待っ!」


 視界のすべてが白く染まる。

アンニル団で開催された大食い大会ではメイリアが三位でした。

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