D-38 泣いてなんかないもん
聖都の中央部、天を貫くように塔がそびえ立っている。
塔の入り口前に、俺たちは立っている。
「ここが、オーディション会場……!」
「太陽神の心を鷲掴みにしてメジャーデビューを果たしましょう!」
「ああ!! 俺たちならできる!!」
「色々と間違っている」
受付を済ませたエルピスに白い目で見られる。
今日は奉納の日、太陽神と会う日だ。さっきのは雰囲気を和ませるためにふざけただけだ。理由のあるおふざけだ。
「私たちが奉納するのは一番最後ですよね?」
「そうだね。待機室で気長に待ってよっか」
塔は一層から五十層まで存在している。
一層から十層は常に解放されている。展示物が飾られていたり儀式が執り行われていたりする。
十一層から二十層は特別な人間が居住している。ここで言う特別な人間とは大戦以前から神聖院の神たちを信仰し、時には神の補佐を努めていた人間の子孫たちだ。
今は人間の代表として神聖院の議会に参列していたりする。
二十一層から三五層は太陽神以外の神聖院に属する神が住んでいる。そして、太陽神は三十六層から五十層に住んでいる。
太陽神が住まう層には神聖院の神でさえ足を踏み入れることはないらしい。
奉納は七層で行われる。待機室は八層だ。
「そういえば、奉納に神が参加しても良いのか?」
「人間が主体だったらいいの。今回は人間のジエンとヘイゼルが二人で私が一人、問題ないよ」
そういうもんなのか。
***
待機室からも他の組が奉納している姿を見ることができる。
「やはり、みなさんは踊りと歌唱がほとんどですね」
「しかも、俺たちとはテイストがかなり違う。ほとんどが舞踊に近いな」
舞踊とバンド……畑違いだ。これは目立つこと間違いなしだ。世界を渡るうえで目立たないことはマストだが、今回は目立ちに来ているので無問題だ。
待機室の扉が開き、スタッフが声をかける。
「次は……み……みらくる……ま、まじかるふぉー……えばー……ふれん、どしっぷ……? です」
「ついに来たな。俺たちの番だ」
「何でチーム名をジエンに任せてしまったのですか?」
「やりたいって言ってたから……」
キューブを握りしめ、奉納場所まで歩く。
ステージ裏で二人に振り返る。
「準備はいいか?」
「うん!」
「えぇ、ちゃんとブラもつけています」
「よかった。つけてなかったら胸を削いでたところだ」
「物騒なジエンもいいですね」
「そうか?」
俺たちはステージへと進み定位置についた。眼下には観客で溢れかえっている。上の席には神聖院の神、そして太陽神がいるはずだ。
太陽神の姿はここからではよく見えないが気配はする。
まずは自己紹介だな。
「ミラクルマジカルフォーエバーフレンドシップだ。よろしく」
観客がザワザワと騒ぎ出す。
見たことない楽器や服だ。ざわめくのも仕方ない。少し耳を傾けてみるか。
「何だあのふざけた名前は!」
「太陽神の御前ですよ?! 不敬です!」
「こんな名前のやつが最後なんてどうなってんだ!!」
…………別に、泣いてなんかいないもん。
「俺たちは異邦の国から来た旅人だ。この美しい聖都を治る神たちに奉納できると聞いて参加した。今から行うのは俺たちが訪れた国で人気の演奏――バンドだ。楽しんでくれたら何よりだ」
今度は別のざわめきが広がる。
そりゃこの世界は聖都以外に街は存在しない。異邦の国と言われても意味がわからないだろう。
だが、太陽神は異世界人だということを理解するだろう.。現に神聖院の神の顔が険しくなった。
「ということで聞いてくれ――『孤独に想いを馳せて』」
***
『太陽神に会うだけなら別にバンドをする必要はありませんね』
練習を始めて四日目、ヘイゼルが突然ぶっこんできた。
『いきなり気分が下がるようなことを言って、どうしたんだ?』
ヘイゼルはドラムのスティックを置いて静かに話し始めた。
『絵を奉納することもありますよね?』
『う、うん』
『なら私が昔書いたイラストで事足ります。奉納の際に自分たちが異世界人であることを仄めかせば、あちらから接触してくるのは確実です』
あ、確かに……
てことは、もしかして今までの努力は水の泡……?
それは嫌だな。
『ですが、私はバンドを行うことに賛成しました。理由は単純、ただやりたかっただけ』
『え?』
『効率的に行くのならば絵を奉納して、この時間をニヒルの調査に回した方がいいです。だけどそれは最高につまらないです。その選択をするならば、例え不必要な労力を払ってでもみんなとバンドがしたいです』
『ヘイゼル……!!』
『ですので、最高に楽しい思い出を作りましょうね!』
くっ! 良いこと言いやがるな……!
目頭が熱くなってしまったぜ。
『よし! 俄然やる気が出てきた!! 写真撮ろ! 写真!!』
『いいですわね』
『だろ? ほらほらエルピスもくっついって!』
『わわっ!』
三人でくっついってカメラを構える。
『はいチーズ!!』
***
「~~!」
人間の観客は困惑している。見たことのない曲調、服装、楽器、当たり前だ。
でも顔が紅潮している。興奮を隠せていない!!
「~~、~~」
太陽神の姿はここからでは見えない。だから、盛り上がっているのかはわからない。
だがそれでも……
「~~、~~ッ!!!」
楽しんでって欲しい!!!
***
審査結果が出るまで自由時間だ。ヘイゼルとエルピスはこの塔の調査をしている。
俺は五層で展示物を見て回っている。かなり面白いものばかりだ。
壺に絵画、前衛的な石像、そして1/200戦艦大和のプラモデル…………ん?
「プラモ!?!? え!?? なんで?!?!?」
思わず叫んでしまった。
周りにいた人たちに睨まれる。いくら展示物周辺では静かにするのがマナーだからといって、これは驚からざるを得ないだろ。
どうしてプラモがあるんだよ。この世界の技術はプラモデルがあるほど発展していないはずだろ。
やっぱサンか!? サンの仕業なのか??
「リサ、ヘルプだ。ヘルプミーだ」
『どうしたのって…………なにこれ』
リサもプラモデルを見て驚いている。
仕方ない。ただでさえプラモデル自体が異物なのに、戦艦のプラモデルときた。もっと世界観を合わせてくれ。せめて自然物のプラモデルにしろよ。
『戦艦大和は救世主とシュウゴの故郷にあった戦艦。シュウゴはこんなことしないし…………ほぼ確実で救世主の仕業だわ』
「やっぱり?」
サンは何してんだよ。暇なのか? 別世界でプラモデルを仕上げるほど暇なのか?
『救世主のすることは突飛が過ぎるわね。それで、演奏は上手くいったのかしら?』
「満足のいく演奏だった。今は結果発表待ち」
瞬間――塔の内部に轟音が響いた。
上の層からだ。
いやな予感がする。
『ヘイゼルから救難要請よ!』
駆ける。
どよめく人々を避け、上層を目指す。
『音の発生源は四十層付近だわ』
「遠すぎだろ」
つまり、四十層からの轟音が五層まで届いたのか。何が起こってそうなったのか見当もつかない。
走って二十五層を通過した。途中に門番らしき人がいたがフル無視して、鍵を破壊しながら登る。俺の筋肉に負ける鍵が悪い。
『四十層に繋がる穴を作ったわ。飛び込んで!』
目の前に空間が裂けたような穴が現れる。迷わず飛び込んだ。
飛び込んだ先の景色が瞳に写る。
エルピスが壁にもたれ、口から血が滲み目を閉じている。彼女の武器である棒は折れ、遠くに転がっている。
「ヘイゼル!!」
「ジ、エン……」
ヘイゼルは辛うじて立っている。だが、服は破け出血が酷い。いつ倒れてもおかしくない。ヘイゼルを受け止め、エルピスの側にそっと置く。
そして、二人の前に立ち奥にいる神たち――太陽神を見据える。
「何を、した」
太陽神に投げかけた声は自然と低くなる。
「ふん、あれらは不躾にも太陽神様のお力を奪おうとした。当然の結果だ」
太陽神の側に控えていた神が答えた。
「お前には聞いてない。もう一度言う。何をした」
「貴様ッ!」
「よい――」
側近が口を挟もうとするのを太陽神が制す。
「汝らは我の力を否定した。故に我は汝らの意を否定した」
太陽神が言葉を紡ぐたびに肩に重圧が圧し掛かる。だが、それでも目を逸らさない。こいつは俺の仲間を傷つけたやつだ。
「お前の否定を俺は否定する。俺の仲間を傷つけた罪を償ってもらう」
「そうか――」
太陽神が不敵に笑う。
とりあえず二人を連れて逃げなくては。だが、隙らしい隙は無い。それに他にも神たちがいる。
イチかバチかに賭けるか……
「なら退け」
「太陽神様?!」
「……見逃してくれるのか?」
「手負い二人を連れて戦わせるなど公平ではない。我の気が変わらぬうちに帰るがいい」
太陽神はそう言うと、目を瞑った。話すことはもう無いようだ。
「太陽神様もこう仰せられている。さっさと出ていくがいい!」
側近の神にも言われた。
俺はヘイゼルとエルピスを背負う。
「…………また来る。そのときは改めて真っ向からお前の意を否定する」
「ふっ、そこまで言うなら楽しみに待っておこう」




