D-39 ご褒美は焼肉
この話で第一節の前編が終わります。次回から中編です。
手負い二人を背負ってアパートの部屋まで戻る。
ミラーボールを取り外して布団を敷き、二人を横にする。
「ヘイゼルは見た感じ大丈夫そうだな」
「そう、ですね。不老不死ですので多少の傷は問題ありません。ですが、エルピスは……」
エルピスは明らかに重症だ。この世界の神は睡眠を必要としない。なのに眠ったまま起きない。
頭から血を流し、吐血もしていた。布団に置く際に汚れは拭いたが酷い出血だ。
「権能使用許可申請、NO.1、NO.2承認、権能限定隆起、制御権移譲、希望モジュール解放、想起開始」
ヘイゼルが権能を発動する。すると、エルピスの傷が見る見る内に癒えていく。
そういえばヘイゼルは権能で癒しの光を出せるとか言ってたな。
「これで大丈夫ですね。安静にしていれば目覚めると思います」
「よかった」
エルピスの顔色も良くなってきた。
安堵の息をつく。
『ようやく通信が復旧したわ。何があったの?』
どうやら通信が途絶されていたようだ。色々あって気にも留めてなかったが。
「私から説明しましょう」
ヘイゼルがそう言って、ホワイトボードを取り出した。どこから出したんだよ。
そして、ホワイトボードに絵を描き込みながら俺たちに説明する。
「まず、私たちはジエンと別れた後、太陽神に招かれる形で四十層に行きました」
ヘイゼルはホワイトボードに太陽神と相対した場面を漫画風に描いた。
とても見やすい。
「そして、太陽神は私たちが訪れた目的の説明を求めました。その過程で太陽神の力にはニヒルが含まれていること、その力を受け渡すようにお願いしました」
ホワイトボードにコマが次々描き込まれていく。
「さすがに受け渡して終わりではありません。代替となる力の提供と太陽神の統治に介入しないことも付け加えました。しかし、太陽神はこの提案を全て拒否、戦闘になりました」
まぁ、話が決裂したなら拳で語り合うしかないからな。
「相手はニヒルの力を使うため、私も権能で対抗しようとしました。しかし、権能が使えませんでした」
ホワイトボードにヘイゼル&エルピスVS太陽神のコマが描き込まれる。
「どうやら太陽神には私たちが扱うモジュールシステムに介入できるようです。モジュールがないと私たちは権能を使えません。ですので純粋な力による戦いでした。しかし、それでは限界があります。満身創痍になったところにジエンが駆けつけてくれました」
モジュールシステムに介入できるのか……
え? もしかして太陽神結構やばい?
「太陽神は手負いを抱えて戦わせるのは公平ではないと言って私たちを見逃してくれました。そして、ジエンは太陽神に宣戦布告して今に至ります」
『宣戦布告とかやるじゃない』
「まぁな」
ふふんっと得意げに答える。
闇討ちもいいが宣戦布告もいい。どっちも違う魅力がある。
「それはそうとして、今後は太陽神に動きを監視されていると考えたほうがいいですね。しかし、直接手を下すことはなさそうです」
『そうね。しかも、通信を阻んでいた障壁を通過できるようになっている。太陽神はあたしたちが準備するのを良しとしてくれているのは確実ね』
太陽神はその気になれば通信を拒絶し、俺たちをすぐに倒すこともできるだろう。それをしないのは強者特有の余裕ゆえか、彼自身のポリシーによるものか……。
もし、今もなお太陽神の掌の上ならば一筋縄ではいかないだろう。
まぁでも、何かしらの意図はある。
「なら、その厚意を無下にしないように真正面から全力でぶっ飛ばすしかないな。もし負けたら目も当てられない」
「そうですね。相手にこれだけ譲歩してもらったのに負けるなんて恥ずかしいにも程があります」
それな。
「ん、んん……ここは……」
っと、エルピスが目覚めたな。何が起こっているのかよくわかってない様子だし、共有しておくか。
***
「しちゃったの!? 宣戦布告!?」
「倒置法になるほど驚いたんだな」
話を聞いたエルピスは驚愕の表情を露わにしている。
「それはそれとして、俺たちは太陽神と敵対した。この聖都で暮らすエルピスにとっては良くないことだろ? この戦いを避けたいのなら別に構わない。太陽神にエルピスは関係ないと伝えておく」
太陽神はこの聖都の統治者だ。この聖都で暮らす以上、彼と敵対するのは自殺行為だ。
「何水臭いこと言ってるの。約束したから最後まで一緒に戦うよ! それに、やりたいこともあるしね。そのために太陽神を倒さないと!」
「そうか、ありがたいな」
「ここまで尽くしてくれるなら何かお礼をしないとですね。この戦いが終わったらみんなで焼肉に行きましょう」
「お! いいな、それ!」
「やきにく?」
エルピスは焼肉が何なのかわかっていないようだ。これは連れて行ったときの反応が楽しみだ。
「さてと、それじゃ打倒太陽神の作戦を練らないとな。ということでリサ、進行は任せた!」
『余を足で扱うなど、見上げた根性よ……!』
「急にどうした?」
「漫画『世界を支配する皇国の第三皇子、辺境村娘の追っかけになる』に登場するセリフですね」
『とても面白い漫画だわ。ヘイゼルがおすすめしただけあるわね』
「恐縮です」
こいつらは話を脱線させる使命でもあんのか?
「ごめんな、エルピス。こいつらはいつもこんな感じなんだ」
「君もそうでしょ?」
「心外」
話を流れを修正して、打倒太陽神の会議を始める。
『まずは今までの出来事をまとめるわね』
リサはそう言ってスライドを表示させる。
『あたしたちアンニル団は十六日前にこの世界――アゼンピアに来た。そして、エルピスに出会い、このアパートで暮らすことになった』
『この世界を調査したところ、聖都内部にニヒルがいることが判明。そして、この世界の統治者である太陽神がニヒルの力を使って儀式をしていた』
『ニヒルについて太陽神に出会うためにバンドを組み、奉納に参加した』
『奉納が終わり、ヘイゼルとエルピスが太陽神と対峙した。太陽神はこちらの提案を拒否し、ジエンが宣戦布告した。そして今に至るわけね』
波乱万丈だな。バンドの練習してた時は平和だったが。
『これからは太陽神を倒した後、ニヒルを倒して救世完了よ』
「太陽神はニヒルではないのか?」
『ニヒルは世界を滅ぼすことしかしないの。だけど、太陽神はこの世界を維持しているわ。太陽神はニヒルの力を利用しているだけで、ニヒルそのものではないの』
「そんなこと出来るのか?」
『ニヒルはその世界の技術を使えば倒せる。だから、倒さずに利用するのも理論上可能だわ。できるかどうかは別問題だけど』
太陽神が偉業を成し遂げているのは確実だな。討伐が遠のいた気がする。
「それで、そんな太陽神をどうやって倒すんだ?」
この問題を片付けなければどうにもならない。太陽神を倒さなくても無力化さえすればいいんだが……。
「太陽神は聖都にいる全人類から強大な信仰を得ている。信仰がある限り、神は何でもできる。その気になれば不確定の未来さえも確定できるはず」
不確定の未来を確定って……未来の創造に等しいものじゃないか。今までの旅の中でも見たことのない凄技だ。
「規格外だな。まずは信仰を削がないとな」
「それは無理」
「無理?」
エルピスが速攻で否定する。
「太陽神の信仰を削ぐ行為は立派な犯罪なの。そんなことしたら太陽に堕とされる」
「えっぐ……」
思ってた以上にやばい刑罰だな。
「その罰は誰が執行するのですか?」
ヘイゼルが質問する。
「神聖院か太陽神だね」
「そうですか」
「何か思いついたのか?」
「えぇ、私にいい案があります」
***
「確かにその作戦なら何とかなりそうだが……俺たちの負担が大きくないか?」
「そこは必要経費です。割り切りましょう」
「他人事だと思いやがって」
まぁ、ヘイゼルに振り当てられた役割はヘイゼルにしかできないから仕方ないな。
「でもその作戦をするには人手が足りないね」
「そうだな。でも、太陽神と敵対してくれる奴なんているのか?」
この作戦は実行するには俺たち三人では不可能だ。あと数人は欲しい。欲を言うなら百人単位で。
「うーん……」
「んー」
『はい! そこまでよ!』
「うお、びっくりした」
リサがいきなり大声を出す。
ビクッとしたじゃねぇか。
『午後8時になったわ。作戦会議はここまでにして、各自休憩を取りなさい。ただでさえ今日は色々あったんだから』
***
白い空間。
そして、眼前には仮面の男。
またこの世界だ。
「この間も来たのにまたか。頻度高くないか?」
「知らん」
仮面の男は本を読みながらぶっきらぼうに答えた。せめてこっちを向いてほしいな。
「んー、ここはやることなくて暇だな……」
目の前に漂っている数多ものカードに手を触れようとしても通り抜ける。この世界にはカードと男以外は何もない。つまり、やれることが男とのおしゃべりしかない。
「そうだ! ゲームしないか?」
「断る」
強情だな。
「ならば仕方ない。ここは伝家の宝刀――『こちょこちょ』で……」
「絶対にやめろ」
手をわきわきさせながら近づく。
男はようやく顔を上げて俺の方を向いた。こちょこちょが弱いと見た。
「はぁ……仕方ない、ゲームをしよう。アゼンピアを救世できたら一回だけ質問に答えてやる。何でもは答えられないがな」
「できなかったら?」
「そん時のお楽しみだ」
質問か、考えておかないと。いや待って、起きたら何も覚えられないじゃん!
え? どうしよ。何の質問にしても意味ない気が……
「そろそろ起きる時間だな。俺の期待を裏切らないでくれ」
目が覚める前、男の表情は仮面で隠れて見えなかったが、何だか悲しそうだった。
***
「やっぱ優しいのね」
「希望の伝導者か」
希望の伝導者と呼ばれた女は座っている仮面の男の後ろから抱きついて、頭を撫でながら顎をさすっている。
「名前で呼んでくれない? 希望の伝導者って呼ぶの仮面くんだけだよ」
「断る」
「えー」
頭を撫でる速度がどんどん上がっていく。男の髪はとっくのとうにぐちゃぐちゃだ。
女は気にせずに顎をさする速度も上げていく。
「それと俺は優しくない」
「優しいよ。じゃなきゃここにいないしからね」
「ここにいる理由は責任を果たすためだ。アンニル団の目標と俺の目的は同じだから利用しているだけ」
「素直じゃないなー」
女の言葉に男は不機嫌になる。早くこの場から立ち去りたいが男には出来ない。
本を閉じて女を見上げる。
「それで、どうして現れたんだ?」
女が普段いる場所はもう少し奥だ。普段はこちら側には来ない。
「ジエンを一目見ようと思ってね。そろそろ私の出番だと思うから!」
「そうか」
男は聞く必要はないと思い、再度本を読み始めた。
「詳しく聞かないの?」
「聞かない」
「ちょっとぐらい聞いてくれてもいいじゃん」
男の言葉に女は頬を膨らませる。男は本に集中しているから女がそんな様子になっているのに気づいていない。
もしかしたら、あえて無視しているかもしれない。
「まぁいいや。クライマックスには呼んでね」
「善処する」
『余を足で扱うなど、見上げた根性よ……!』は村娘が皇子におつかいを頼むんだときの皇子のセリフです。この後、皇子は素直におつかいに行ってます。




