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アポカリプスロード:Extend  作者: 中村 りゅうや
第一章 マントルロード
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D-36 バイブス上げ

 獣を退治し報酬を貰った。昨日は見ていなかったが、報酬の信仰は部屋のポストに直入れらしい。信仰を直入れとはどういうことなんだろ。

 話し合いもそこそこにエルピスの部屋に居候することが決まった。もちろん、家賃は払う。ここの家賃は信仰だから何もしなくても払えるんだがな。


「本当にミラーボールを設置したんですね」

「ちょうどアイテムボックスに入ってたからな。ここが使い所だ」


 エルピスの部屋の天井には新たな装飾が取り付けられた。

 その名をミラーボール、バイブス上げにピッタリだ。おかげで部屋がキラキラ煌めいている。


「これからはやることがたくさん出てくるでしょう。そのためにまず、優先順位を立てます」

「最優先事項は食材の確保だな。そのためにはこの世界の通貨を手に入れないと」


 神と人とでは信仰や加護で取引されているが、人同士では通貨で売買する。無一文から通貨を手に入れるには働くのが手っ取り早い。

 しかし、働ける場所があるのかどうか……


「……レーションがあるならわざわざ食べ物を買う必要なんてないんじゃないの?」

「何を野蛮なことを!?」

「気でも狂いましたか!?」

「あれ? これそんなに言われること?」

「当たり前だ! 食料だろ!? ご飯だろ!? 飯だろ!?!?!? 美味い飯無くて生きていけるわけないだろ!!!!!」

「そーです!! そーです!!! 毎日三食おやつ付きで食べてないからそんなこと言えるんですよ!!! 今日から毎食振舞ってやりますからね!!!!」

「う、うん……」


 これだから飯が必要ない種族はダメなんだ。

 もっと舌を使え。


「そ、それならさアンニル団から食材を送ってもらうのはダメなの?」

『そうね。聖都内部は結界によって物資を送るのが困難になっているわけ。聖都の外も獣がいるから、物資のやり取りの際に何かの拍子でこちらの世界にニヒルが漏れ出ることもあり得なくはないの。だから、こっちから物資を送るのは無理だと思ってちょうだい。もしどうしてもと言うなら権能で送れるけど』


 またヌルっと出てきたな。

 食料は定期的に必要になる。権能を何回も使わせるのはやめた方がいいな。それでも、物資が送れることは良かった。


『それにしてもさっきの力説、フェリールにも聞かせてあげたいわ』

「フェリールは食に無頓着なのか?」


 フェリールはアンニル団のファーストペンギンゆえに、レーションをたくさん食べている。

 食に無頓着になるのも理解できる。


「いえ、少し違います。正しく言うなら、フェリールは神が作る料理以外の料理を全て等しく見ているのです。彼はほぼ全ての料理に対して『親父のに比べたらまぁまぁだな』と思っているんです。彼の中にとって料理とは神が作ったものだけです。それ以外の料理は彼にとって生命維持に必要な補給に過ぎません」

『まとめると、お袋の味は偉大ってことよ』

「なるほど納得」


 フェリールにそう思わせるサンは本当に何なんだろうな。サンの謎がどんどん深まる。


『それはともかく、ヘイゼルからの報告は受け取ったわ。こっちでも調べてみるわ』


 リサはそう言って通信を切る。

 やはり、長くは話せないようだ。


「ここで考えるよりも人間の居住区に行きませんか? 行ってみないとわからないことがありますしね」

「そうだな」


***


「やってきましたね。人間の居住区に」


 俺たちは人間の居住区で一番人通りの多い道にいる。 通りに接して店が構えているが、客引きも大声も聞こえない。話し声も少ししか聞こえないし、その内容も何だか義務的だ。大通りで人がたくさんいるのに騒がしくない。治安が保たれている街にしては少々おかしい。

 そんなことを考えているとヘイゼルが近くにいた女性に話しかける。


「こんにちは。突然ですが信仰を譲ってくれませんか?」

「……神様ね。なにかくれるの?」


 こいつ、俺たちを神と認識しているのに不遜な態度だ。それともこの世界はこれがデフォなのか?


「そうですね……悩みとか不安はありませんか?」


 話の切り口が宗教勧誘すぎる。いや、神とか信仰とか言ってる時点で宗教勧誘と同じだな。


「悩み? そんなものないわ」

「それでは、何かしたいこととかありますか?」

「ないわ。もういい? このあと用事があるの」


 そう言って女性は足早に去っていった。


「失敗ですね」

「いつもこんな感じ。人間から信仰を貰うのも楽じゃないんだよ」


 改めて周りを見渡す。さっきと同じ光景だ。しかし、アレルハライドやザナティスとは違う。たしかに建物の作りや雰囲気は違う。

 ただ……何だろう……なんて言えばいいのかな。


「いつ見てもつまらない光景だね」

「そうそれ! つまらないんだ!」


 こいつらはつまらないんだ。

 大声で客引きもせず、喧騒に溢れかえりますせず、悩みも不安も無く、したいことも無く、ただ生きているだけ!

 未来へ行こうとすることも、夢を望むこともしていない!

 退屈であり、面白くない!!


「わかってくれるの? 私たち似たもの同士だね!」

「言われてみれば……そう感じなくもないです」


 しかし、由々しき事態だな。

 話を聞いてくれなければ信仰は集められない。かといって、見返りも十分に提供できない。

 エルピスが何の神かさえわかっていれば良かったんだが。


「エルピスは普段どうやって信仰を集めているんですか?」


 それは気になるな。

 自分が何の神かわからないんだから売れ込みに行くのも難しいだろう。それとも


「働いて稼いでいる」

「働いて???」

「うん、店番だったりお守りだったり色々」

「神が人間の下で働いてるのか?」

「私だけだね。他の神はもっと神らしいよ。加護だったり祝福だったりね」


 エルピスが常識破りなだけだったな。仕方ないと言えば仕方ないな。


「ジエンたちはお金ないでしょ?」

「そうだな。良い働き口とか知ってるのか?」


 金がないと食料が買えん。なるはやで稼ぎたいところだ。


「こういうときこそ困っている人の手助けだよ!」

「駄賃をせびればいいんだな」

「言い方が酷いですね。しかし、その方法はアンニル団でも推奨されています。じゃんじゃんやっちゃいましょう!」


***


 大通りのど真ん中、俺たちは宣伝を始めた。


「困っている方ー! 困っている方はいませんかー?」

「今なら三柱の神が手助けするよー!」

「利用してくれた人はみんな笑顔だったぜ!」


 もちろん、まだ誰も利用なんかしていない。真っ赤な嘘だ。だがバレることもない。使える嘘は使っていかなくては。


「ちょっと助けて欲しいんだけど……」


 少年におずおずと話しかけられる。少年は寝間着のままだ。着替えるのもためらわれる程の異常事態なのか。

 とりあえず早速お仕事の時間だ。


「どうしたんだ?」

「お母さんが風邪で、いつも買ってる薬草が売り切れで取ってきて欲しいんだ!」

「お安い御用だよ! その薬草ってよくお店で売ってあるやつだよね! 今から取ってきてあげる!」

「ほんと? ありがとう!!」


 少年から家の場所を聞いて、俺たちは薬草を採りに森の方向へ歩き出した。


***


「これで手助け完了だな」


 薬草があったのは森の奥深く。

 広大な森から薬草を探すのは難しかったが、何とか手に入れられた。

 その後は薬草を少年の家に持っていって手助け料をもらった。


「こういうのは本来、神聖院がどうにかするんだけど、今回は間が悪かったみたいだね」

「神聖院ってすごいんだな」

「まぁ、信仰も元である人間を大切にするのは当たり前だしね」


 合理的だな。しかし、効率的とは言えないな。効率を求めるなら出生のコントロールまでした方がいい。神聖院がそれをしないのは、それができない理由があるのか、はたまた倫理観があるのか。


「間が悪いとおっしゃってましたが何かあるのですか?」

「そうだね。時間になったらわかると思うからそれまでどんどん手助けちゃお!」


***


 次は本屋の店主に本の整理を頼まれた。

 棚に積まれている本を全て取り出し、種類別に仕分けていく。


「『より良い信仰について』『健康な体は筋肉から』『子供教育:神聖院ってどんなところ?』……結構な種類があるんだな」

「そりゃ何千年もの歴史が積み上がっているからね」

「『太陽神パパとのおやくそく』!?!? 太陽神の同人誌ではないですか!?!? な、なんて業が深い……神に仕えるものとしてここは一度、読んでみなければ……!!」


 ヘイゼルは鼻息を荒くしながら本をめくっている。


「何であんなものがあるんだ……」


 これにはさすがに呆れが来る。この世界って案外自由なのか?


「い、一応思考の自由は保証されているからね。といってもこんな本は普通出回らないんだけど……」

「太陽神って懐がでっかいんだな」


 すると、奥で作業していた店主が近寄ってきた。


「それは我が家の家宝ではないか。こんなところにあったとは」

「いい家宝ですね。最高です」


 良い笑顔でナニかを噛み締めながらヘイゼルが答える。今は他人であってほしい。


***


 その後も数々の手助けをして、三日分の食料を買った。


「誰かの助けになるのはいいですね。清々しいです」


 清々しい……ね……

 俺は気づいている。

 ヘイゼルが本屋の店主と交渉して太陽神の同人誌の写しを手に入れたことを。別の意味で清々しいだけだはないのか?


「お金に加えて信仰もちょっとだけ手に入ったな」

「まだまだ家賃分には全然だけどね」


 アパートに戻ろうとすると、上空から眩い光が放たれる。あまりにも眩い光だ。

 まるで太陽が聖都の真上に現れたみたいだ。


「うお! なんだ? ミラーボールでも打ち上がったか?」

「ジエンではないですし、ミラーボールは打ち上がらないと思います」


 光に目が慣れて何が起こったのか見えるようになった。聖都の中央部――塔の近くに人影が見える。

 ここからでは遠すぎてよくわからないが、腕を掲げている。


「太陽神の儀式だね」

「儀式?」

「そ、太陽神は儀式を通して聖都の結界の補強と信仰の収集をするんだ」

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