D-30 救世の後
「ただいま基地。おかえり俺」
アレルハライドの救世が終わり、基地に戻った。
イグネリアはアレルハライドに残った。
まだ、やることがあるらしい。
歓迎会には来るみたいだ。
「さて、これからジエンの歓迎会をするわよ」
「帰ってきたばっかりだが?」
「こういうのは早めにやっておいた方がいいわよ」
リサがそう言うなら従うか。
「歓迎会の準備はあたし達に任せてちょうだい。だけど、その前にジエンには話しておかないといけないことがあるわ」
「話しておかないといけないこと?」
「ええ、ジエンの部屋で話しましょう」
話しておかないといけないことって何だろ?
任務の報酬とか?
「おい、俺のグレープジュースが無いんだが」
冷蔵庫を開いたフェリールが言う。
あ……すっかり忘れてた。
ここにいるのはリサ、ヘイゼル、メイリア、フェリール、そして俺。
全員の間に緊張が走る。
フェリール以外はゲーム大会に参加した。
つまり、グレープジュースを飲んだ共犯者だ。
「あたし達は大事な話があるから、ヘイゼルとメイリアとフェリールは準備お願いね」
「ちょっ、リサさん!?」
「ジエン、早く行くわよ」
「お、おう!」
俺とリサは逃げるようにその場を後にした。
***
「さてと、ここまで来れば安全だわ」
リサは急いで俺の部屋に入り鍵を閉めた。
流れるような手際の良さだ。
「それで、話ってなんだ?」
「そんな焦らないでちょうだい。はい、お茶と茶菓子よ」
リサはそう言って緑茶とカステラを出す。
「カステラか……」
「これもアンニル団で作ったのよ」
「まじか」
このカステラ……底に敷かれているザラメがかなり大きい。ジャリジャリだ。
やっぱザラメは大きければ大きいほどいいな。
「美味しいでしょ?」
「あぁ、めっちゃ美味い」
本題に入る前にカステラを食べ切ってしまった。
「歓迎会でもこのカステラは出るわよ」
「まじか、楽しみだ」
緑茶を飲む。
カステラの甘さと緑茶は本当に合う。
「さてと、本題に入るわね」
ようやくか。
湯呑みを置いて、リサの話を聞く。
「最初にアンニル団の目標を話すわ。この前、ヘイゼルが話した通り、アンニル団はニヒルの王の討伐が最優先目標よ」
ヘイゼルが言ってた通りだな。
「王は八体いるんだろ? 倒した王とかいるのか?」
「七柱目までは討伐済みよ。あと残すのは八柱目だけ。今はシュウゴが八柱目の捜索と調査を行なってるわ」
意外と討伐してたんだな。
それにシュウゴがいない理由が、八柱目の捜索だったとはな。
これじゃ、右ストレートを打ち込むのも先になりそうだ。
「といっても、アンニル団として討伐したことはないんだけどね。ほとんどは救世主が討伐したの」
「そうなんだ?」
王とは出会ったことないが、強いのはわかる。
アレルハライドのニヒルがあんなに強かったんだから。
「それで、救世主のことについて話すわ。これが一番重要よ」
「どんと来い」
リサが口を開く。
「救世主は七柱目の王との戦闘時、相討ちとなって消息を絶っているわ」
「……え?」
「限りなく死亡に近いとも言えるわね」
サンとは……もう会えない……?
「いや待て、サンは不老不死なんだろ? 死ぬわけないはずだろ?」
「えぇ、救世主は不老不死よ。だから、死亡と断定していないの」
つまり、不老不死であっても死んでいるとしか考えられないってことか?
「だが……」
「……着いてきてちょうだい」
リサはそう言うと、俺を基地の外に連れ出す。
そして、小高い丘に到着する。
「ここから先で救世主と七柱目の王が戦ったの」
丘から見える景色は壮絶だ。
大きいクレーターできている。まるで、隕石が降ったみたいだ。
そして、大岩や石などが空中を漂っている。あまりにも非現実的な光景だ。
極め付けはクレーターのど真ん中に剣が一本刺さっている。
「あの剣で七柱目の王を倒したと推測しているわ。本当は近くに行って確かめたいのだけど、あたし達でさえも近づかないの」
「近づけない?」
「えぇ、あの一帯に強力な認識阻害が敷かれている。中に入ってもすぐに外に出てしまうの。たまにあるでしょ? 森に入っても、いつのまにか入った場所から出てしまうことが。あれの上位互換と思ってちょうだい」
なるほど、そう言われたら試すしかないな。
中に入ってみる。
入った瞬間にはもう出ていた。
「え? どういうこと?」
「あたしからはジエンが一歩入った瞬間に振り返って出てきたように見えたわ」
「全然そんなつもりじゃないんだが」
「これこそが、この強力な認識阻害よ。権能でも打ち破らないの」
結構やばいなそれ。
「そろそろ戻るわよ。あたしも歓迎会の準備をしないと。ジエンは部屋で休んでてちょうだい。主役なんだからね」
「なら、その言葉に甘えよう」
***
部屋に戻る。
準備が出来しだい、リサが呼んでくるはずだ。
「そういえば……」
ふと、荷物を漁る。
「月光花……ちゃんと飾っておかないとな」
この月光花はベオークから貰ったものだ。
やはり特別製であるのだろう。
荷物の奥深くに押し込まれていても枯れていない。それどころか、潰れてもいない。
部屋に備わっているタッチパネルを操作して、花瓶を拝借する。
アンニル団の倉庫に入ってたものだ。
アンニル団の倉庫も自由に使って良いと言われてたし問題ないだろう。
月光花を花瓶に生けて、机に置く。
「ふぁぁ……」
あくびが出てしまった。
ここ最近はずっと動きっぱなしだったからな。
ベッドに入って仮眠を取ろう。
歓迎会までは起きれるだろう。きっと。
***
目を開ける。
真っ白い空間。
目の前にはたくさんのカードが浮いている。
ほとんどのカードは黒塗りだ。
「ここは……」
思い出してきた。
巨大ワームと戦ったときにここに来たんだ。
だとすると……
「おめでとう。救世を成した君を祝福しよう」
あの狐のお面を被った青年が話しかけてくる。
「ありがとう。で? どうしてまたここに?」
「まぁ、焦るな。時間はたっぷりある」
青年はそう言うと椅子に座った。
椅子なんてあったんだ?
「褒美をやらないとな。気になることがたくさんあるだろ? 一つだけ質問に答えてやろう。ただし、答えはYESかNOでしか答えない」
一つだけとは渋いな。
あの魔王を倒したんだから十個ぐらいでもいいのに。
ま、いいか。
「では質問だ。君は俺の敵か?」
これだけははっきりしておきたい。
この場所のことも、浮かんでいるカードのことも、青年の正体も知りたい。
だが、YESかNOで答えられる質問だとこれが一番気になる。
「YES。俺は君の敵だ」
「……」
まさかの敵だったとは。
前は手助けしてくれてたし、危害を加えてくる気配もない。
味方までとはいかなくても中立だと思ってた。
「さて、質問はこれで終わりだ」
「む……、まだ聞きたいことがたくさんあるんだが」
「次の機会にしろ」
次の機会があるのか。
「さて、俺からも一つだけ聞いておきたい」
「俺が答えるとでも?」
「別に答えなくてもいい」
自称敵に自分の情報を渡すだなんて、そんな真似はするわけない。
別に渡してもいい情報なら、全然渡すが。
「お前は何のために救世を続ける?」
「記憶を取り戻すため」
「そうか」
青年は俺の答えを聞き、興味を無くしたようだ。
「あ、そうだ。ちょっとした忠告だ」
「なんだ?」
「ここはお前の心の世界ってことはわかってるだろ?」
「なんとなく」
そうだろうなぁって気持ちはあった。
確証はなかったがな。
「だから、外からの刺激も伝わる」
「? それはそうだろう。何を当たり前なことを」
「耳を塞いでおけ」
***
"パァァァアアアアンンンン"
「うわ!?!?」
びっくりして飛び上がる。
目の前には料理の数々、部屋には飾り付けがされてある。
そして、サンとシュウゴを除いたアンニル団のメンバーが揃っている。
「あんた、起こしても起きなかったからこうして連れ出したわ」
「まじか、迷惑かけたな」
「いいわよ。主役なんだし」
それならいいのか?
「それにしてもこんなにたくさん準備してくれたんだな。ありがとう」
「全然いいよ!」
「このくらい大したことはありません」
「そーそー、あーたはただ楽しんでって!」
「そうだ。主役は座って楽しめばいい」
なんだこれ、胸が温かい。
「じゃあみんな、グラスを持ってちょうだい」
リサに言われてグラスを持つ。
中身は色と匂いからエナドリだ。
「乾杯!」
歓迎会は始まったばっかりだ。




