D-27 叩けば何とかなる
目を開ける。
周りにはエレス、ダスティン、シヴァニア、アラン。
視界の先には石のように固まるシケンと魔王。
そして、シケンの側にいるイライザ。
「今の魔法、シケンの記憶を他人に見せるものね。イライザの仕業かしら?」
シヴァニアが勇者の側にいるイライザに近づく。
「そうした方がわかりやすいでしょ?」
「そうね」
「兄貴……」
「私は、操られて……シケンを……」
「ア、アラン……落ち、着いて」
エレスがシケンの元に駆け寄る。
そして、アランは真実を知って動揺している。
俺だけアウェーだな。
しかも、いい感じに場が混沌としている。
「ターーーイム!!!」
俺の叫び声でみんなが静止する。
「イライザ、シケンは生きてるだろ?」
「う、うん」
「アラン、今回は魔王に立ち向かえるか?」
「……! もちろんだよ!」
「よし! じゃあ、魔王を倒すぞ! 感動の再会はその後だ!」
俺が言い切ると、みんな落ち着きを取り戻していた。
「そう、だな。兄貴を殴るのも今はやめておこう」
ここで、シケンが殴られることが決まった。
まぁ、エレスにとっては王都に行った兄が勇者になって帰り、そのまま旅に出たと思ったら人間を裏切って封印されたことしか知らないからな。
殴られても文句は言えない。
「しかし、どうしてイライザはここに来たんだい?」
「一ヶ月前に未来視で封印が破られることを知った。だから、封印を補強するために来たんだ」
シケンが施した封印は弱まっている。
だが、イライザが未来視でこのことを知り、封印の補強をしてくれていたようだ。
そして、ここで新たな疑問が一つ。
「イライザが勇者の封印を補強したのはわかった。だが、どうやって一ヶ月間生き延びたんだ? ここには食料も水も無さそうだが……」
「ベオークが手伝ってくれたの。ベオークは魔王城に入らないから、食料と水を城壁に開いた穴を通して渡してくれたんだ」
なるほど、だとしたらこの一ヶ月間、イライザにとって孤独な戦いだったな。
「それともう一つ、シヴァニアたちは何で早くこの事を教えてくれなかったんだ?」
「エレスとアランが聞いたら、言うこと聞かずにここに突撃するから」
「さすがにそんな猪みたいな真似、俺はしないぞ」
「私もそんなことはしないよ」
「はいはい、戯言は後から聞くから今は黙ってなさい」
すごいなこいつ。
エレスとアランの抗議を戯言として一蹴したぞ。
「それが一つね。後は……あなたたちがイライザの占いの『星』かがわからなかったからよ」
「今ならわかったか?」
「えぇ、あなたたちは紛れもない『星』よ。だから、私たちと一緒に魔王を倒して、世界を救ってちょうだい」
「もちろんだ!」
士気も高まり、魔王を討伐する気満々。
そんな中、一つの疑問が芽生える。
「して、封印を解くにはどうすればいい?」
「「「あ……」」」
シヴァニア、ダスティン、そしてイライザの声が重なる。
「待ってくれないか。わざわざ封印を解かなくてもこのまま魔王を攻撃すればいいんじゃないか?」
アランがみんなに聞く。
「でも、この封印によって魔王と兄貴は繋がっている。この状態で魔王に攻撃したら兄貴にどんな影響があるかわからない」
まさか、封印解除で詰まるなんてな。
国に広がる噂からシヴァニアたちがどうにかすると思ったが、真実は違う。
どうしようもない。
「ま、こういう時は叩けば何とかなる」
「そんな適当!?」
シケンの体に触れる。
体温は低く、まるで石のように固まっている。
そのまま、斜め上30度から脇腹にチョップを入れる。
さながら、調子の悪いブラウン管テレビを直すが如く。
「…………起きないな」
今度は逆の脇腹にチョップを入れる。
「…………今度もダメだな。万策尽きた」
「はぁ……ちょっとどいてくれ」
エレスにそう言われ、シケンから離れる。
エレスはなぜか桶を持っている。
待って、その桶、めっちゃ見覚えが……
「冷た!?」
桶入っていた冷水が余すことなくシケンに降り注ぐ。
さすがエレス、兄にも容赦がない。
「よぉ、兄貴。一年間も寝てた感想は?」
「エ、エレス!? どうしてここに!?」
シケンが立ちあがろうとするが、ふらついてエレスに受け止められる。
シケンは衰弱しているから仕方ない。
「おっと、ありが……って!? 何だこの筋肉、それに体つきまで変わってるじゃないか!!」
そりゃ、五年ぶりの再会だからな。十三歳の弟が十八歳になっている。筋肉がついて体つきも変わるのは当たり前だ。
「ベタベタ触るな。変態兄貴」
「だって、俺の弟がこんなに立派に成長したんだぞ! 確かめたくなるのも無理はないだろ!?!?」
シケンがエレスを抱きしめなが言う。
兄弟じゃなかったら事案だ。兄弟でも事案だが。
「エレス……Aランク冒険者に、なった」
「なに!? Aランクだと!?」
シケンはエレスの体を触るのを止め、頭をごしごし撫でている。
「エレスは最高だな!!」
「ちょ、止め、いたっ……痛いっての!!!」
撫でるにしては力強すぎる気もするが……
「そこの兄弟、場所を考えてちょうだい。エレスを堪能するのは魔王を倒してからにしましょう」
「それもそうだな!」
「堪能は絶対にするな!!」
この兄弟……嫉妬するほどめっちゃ仲いいな!
「……ッ!!」
瞬間――石のように固まっていた魔王が動き出す。
封印が解けたようだ。
魔王は周りを見渡すと咆哮を上げる。
「ッ!! 幻想魔法――グングニル!」
咆哮とともに放たれた衝撃波をグングニルで相殺する。
そして、魔王はゆっくりと歩み始める。
「エレスはシケンを安全なところに!!」
「わかったぜ」
「待って!! 君は誰なんだ?」
「シケンたちの旅路を継いだ『星』だ」
シケンは驚愕をあらわにした。
だが、すぐに真剣な表情に変わった。
「任せた!」
「ああ!」
シケンはエレスに連れられ、後退しようとした。
「まずは俺が叩く。その後は良い感じで頼む」
「雑だね」
「ま、ちゃんと作戦立てたところで魔王には通用しないわね。そっちの方がわかりやすいし」
「わかっ、た」
こんな雑な作戦でも乗ってくれるとか最高だな!
「聖剣抜刀!!」
聖剣抜刀――聖剣の力を引き出す。
身長5m越えの魔王。その首に刃をかける。
「なんて、硬さだ……!」
首には硬い皮膚。
薄皮一枚も斬れなかった。
「地の法〈ヨルズ〉!」
シヴァニアが他属性の最上級魔法を使う。
魔王の頭上に大きな岩が出現する。
そして、アランの魔法で魔法の足に氷の鎖が絡まる。
「ハァッ!!」
ダスティンが跳躍し、剣で魔王の頭を攻撃する。
「幻想魔法――グングニル!」
ダスティンが当てた場所に寸分の狂いなくグングニルを命中させる。
だが――
「止まらないわね……」
氷の鎖が千切れる。ダメージが通っている様子もない。
「私たちは眼中にないみたいだね」
「どう、すれば」
一つ一つの技ではダメージが通らない。
なら――
「飽和攻撃を仕掛ける。狙いはあのでかい目。みんなもあの目を重点的に狙って」
少しでもダメージを稼ぐ。今はそれだけしかできない。
「幻想魔法――グングニル!」
合計十八本のグングニルを顕現させる。
「光の法〈バルドル〉」
シヴァニアの魔法でグングニルがさらに輝きを増す。
「ダスティン、合わせるぞ」
「うん!」
グングニルが魔王の目に向かって一本一本、休む暇なく放たれる。
そこにアランの氷の矢、シヴァニアの炎の弾丸が撃ち込まれる。
「聖剣抜刀!」
「はぁっ!!」
ダスティンとともに魔王の目を斬る。
感触はあった。
魔王は目を押さえている。
「よし、続けていこう!」
このままいけば魔王を削る。
もう一度幻想魔法を使おうとする。
「あ、がッ…………」
いきなり重圧が肩にのしかかった。
「み……んな!」
俺は剣を杖にして何とか立っていられる。
だが、ダスティンは膝を着き、他の三人は地に伏している。
くっ……こんなんじゃまともに動けない……
「……! まさか……!」
魔王が咆哮を――さっきの衝撃波を放とうとする。
あれをまともに受けたら――
「ぐッ……幻想、魔法――グングニル……!」
グングニルで衝撃波を相殺する。
「ぐッ……!」
グングニルで相殺した瞬間、魔王が棍棒で俺を強く殴った。
「がは……」
壁に強く打ちつけられる。
顔を上げると魔王は俺の目の前に――
「しまっ……」
魔王の衝撃波をまともに食らい、城の外へ吹っ飛ばされる。
なんとか体勢を整えようとするが体が上手く動かない。
このままじゃ地面に――
「まったく、来て早々こんなのころまで飛ばされるとはな」
俺の体を優しく受け止める、大きな影。そして、聞いたことのある声。
「我が助けに来たぞ」




