D-23 魔王城へ
洞窟を歩きながら、リサの話に耳を傾ける。
ようやく、空に抱いていた違和感の正体がわかるのか。
『まずは、アレルハライドの構造について話しましょう』
リサはホログラムで簡易的な図を表示する。
『この世界は地上世界と地下世界があるわ。そして、あたしたちがさっきまでいた場所――人間が暮らしている場所こそが、地下世界なの』
リサは図を使いながら説明を続ける。
『地下世界だから本来なら天体は存在しない。だけど、太陽も月も星もある。つまり、あれらは人工物だと考えられるわ。ジエンが感じ取ってた空の違和感はそれでしょうね』
太陽も月も星も全部人工物だったのか。そうは見えなかったけどな。
『そして、地上世界には巨大な世界樹が生えているわ。地下世界に生えていた世界樹の根は、地上世界から運よく地下世界に伸びてきたものよ』
だから、誰も世界樹を見たことがないんだな。
「俺からしたら荒唐無稽な話なんだが、シヴァニアとダスティンはどう思う?」
エレスにとってはあの世界が地上だと思って過ごしてきたわけだからな。信じられないのも無理はない。
「リサの話に間違いはないよ。実際、私たちは魔王討伐で地上世界に行ったことがある。あの世界には世界樹もある」
シヴァニアが答える。
「そう、だね」
ダスティンが同意する。
世界樹か……どんな物なんだろうな。
「それに、この道は直線の一本道なのに途中で上下が切り替わって登り坂になるの。そこが、地上世界と地下世界の境目だと思うわ」
『上下が切り替わったタイミングで重力の向きが変わったのね。あたしたちは今、地上世界とは逆さまの向きに重力が働いている。重力が切り替わるポイントに着いたら上に落ちると思うわ』
「そこは大丈夫よ。上下が切り替わる場所に梯子があったから、気をつけていれば上に落ちないと思うわ」
『安心設計ね。さすが救世主だわ』
上に落ちるとか重力が切り替わるとかパワーワードが出てたが、それよりも気になる点が一つ。
「どうしてサンが?」
『WJDDFの話で異世界人が魔物の世界と人間の世界を物理的に隔てたって言ってたでしょう? この道はその時に救世主が作ったんだと思うわ』
「そういえば、そんなことも言ってたな……」
サンはそんなこともできるのか。
『喋っているうちに梯子まで来たわね』
目の前には地面とかなり先の天井をほぼ水平に繋ぐ梯子。
「ここは、お尻から行く、より……頭から、行った方が、いい」
ダスティンが先導して、梯子を降りる。そして、ある一点を超えると少し止まり、また進んでいく。
その一点を超えると服の裾や髪の毛が上に垂れている様子から、その一点で重力の向きが切り替わるみたいだな。
次々と梯子を降りていく。最後は俺だ。
ダスティンの言う通りに頭を前にして降りていく。すると、世界が反転するような感覚に陥った。そして、上下逆さまになり、頭が上に来た。変な感じだ。
ここで、ある考えが頭に浮かんだ。
「なぁ、このまま梯子を離したら、どうなるんだ?」
『下に落ちて、重力が変わってまた下に落ちる。そして重力が変わって下に落ちる。その繰り返しになって一定箇所でぐるぐるすると思うわ』
「でも、思いついたからには実践しないとな」
「やめとけ、ろくなことにならないぞ」
エレスが引き止めるが俺は止まらない。
梯子を離す。
下に落ちる。世界が反転。下に落ちる。世界が反転。下に落ちる。
やっば、めっちゃ気持ち悪い。
「おぇ、吐きそう」
口を手で押さえて、吐き気を抑える。無理、ゲロまで秒読み。
「ほら、言った通りろくなことにならないだろ」
「ジエピが空中でぐるぐるしててウケる」
「ウケないで助けて……うっぷ」
「仕方ないな」
エレスはそう言うと俺を掴んで助けてくれた。
「ありがとう……おぇ」
「ほら、ゆっくり深呼吸しろ。先は長いぞ」
「魔王に会う前から満身創痍ってアホなのか?」
エレスが背中を摩り、フェリールが言葉のナイフを突きつける。さすがにアホすぎたか。
「なら、少しだけ休憩しようか」
「すまん、俺のせいで」
「別にいいわよ。私も気になってたことだし。むしろこっちこそ、実践してくれて感謝するわ」
「俺も、気になってたから、ありがとう」
二人とも優しいな。心に染みる。
***
「よし、そろそろ登ろうか」
アランが言う。
休憩したおかげで落ち着けた。
重力が切り替わったため、地上世界に向かって登っていく。
『魔王討伐について話しておくことがあるわ』
「なんだ?」
リサが俺に声をかけた。
『魔王討伐には勇者が必要だと思われるわ。つまり、ジエンが要よ。何が何でも魔王の元まで行ってちょうだいね。たとえ、誰かを置いていくことになったとしても』
「……なるべく、みんなで行きたい」
『思い通りにならないのが人生よ』
つまり、これからは誰かを置いていくことも視野に入れないとか。「ここは俺に任せて先に行け!!」を言う方ではなく、言われる方にならないといけないのか。少しきついな。
『そうならないようにあたしがしっかりサポートするから頑張ってちょうだい』
「……あぁ、わかってる」
それから数分ほど登ると、かすかな光が見えてきた。
その光に導かれるように、俺たちは洞窟を抜けた。
「すご……」
誰が声を漏らしたかはわからない。だが、この景色を見て声を漏らしてしまうのも仕方ない。
洞窟を抜けた先は満天の星空だ。星々は輝き、幻想的な風景を作り出す。遠くに見えるのは巨大な樹だ。その頂は星々に届きそうなほどだ。
『ようやく着いたのね』
ベオークがいつの間にか俺たちの近くにいた。
『さて、ここから魔王城は近いわ。準備を整えたら早速行きましょう』
「準備か……そうだね、具体的な作戦とかは立ててなかったし、今のうちに考えておこうか」
そうだったな。ここまで、ほとんど勢いだけで来ちまったもんな。
「まず、封印を解くためにイグネリアとダスティンは必要だね」
この二人とイライザは絶対に魔王の元まで連れて行かないとダメだ。
「そして、魔王を討伐するためにジエンが必要だね」
リサと同じことをアランも言う。
「この三人は何があっても魔王のところまで連れて行くよ」
「アランも含めて四人ね」
「私は最悪いなくても大丈夫だよ」
「ダメ、絶対……行かなきゃ」
どうやらアランも魔王の元へ行かないといけないらしい。
『……!! みんな! 複数の敵性反応がこっちへ向かっているわ!』
リサが叫ぶ。
地鳴りが遠くから聞こえてくる。その正体は大量の魔物だ。スライム、ゴブリン、オーク、スケルトン……見えただけでも万はゆうに超えている。
『道は私が作っているわ』
ベオークがそう言うと、光でできた道が目の前に現れる。
『その道の先に魔王城がある。ここは私に任せて先に行きなさい』
「しかし……!」
「陛下……」
「……そうだね、行こう」
七人で光の道を走る。魔物が襲ってくる。だが、光に阻まれてこちらに攻撃が届いていない。
『この魔物は全部ニヒルに侵されている。あのワームの体液みたいに触れたら即死ってことはないけど、なるべく被弾しないように気をつけて』
つまり、ニヒルは俺たちを排除しようとしているのか。厄介だな。
やがて、光の道が途切れる。そして、禍々しい大きな城が姿を現す。WJDDFの城より大きいんじゃないか?
『気をつけて! 城の中も敵性反応がたくさんあるわ。左右にもたくさんの反応がある。囲まれているわ!!』
それは、やばいな。後ろからも来ているだろうし、一息つく暇もない。
「左右と後ろの敵は俺に任せろ」
フェリールが言う。
「ここは俺に任せて先に行け」
「……いいのか?」
「あぁ、俺は不老不死だって知ってるだろ? この程度じゃ死なない。だからさっさと行け!」
そう言われちゃ、やらないわけにはいかないな。
魔王城の門が開く。
中にいた魔物が俺たちに襲いかかる。
「幻想魔法――グングニル!!」
蒼白の槍が前方の敵を貫いていく。
道は開けた。
「今のうちに中に入るぞ!!」
***
「フェーちゃんカッコ良い〜」
「なんだ、まだいたのか」
ジエンたちが城の中に入った後、イグネリアとフェリールは門を閉じた。
「あったり前っしょ〜。あーしはここに残ってフェーちゃんと戦うよ」
「……そうか」
フェリールは軽く微笑んだ。
「さぁーて、やっちゃうぞ~」
ガントレットを装着してイグネリアは意気込む。
「フェーちゃんはあーしのサポートよろ〜」
「任せてくれ」
フェリールは二丁の拳銃を構える。
「さぁ、狩りの時間だ」
「ガントレットの錆にしちゃおっか!」
***
門を抜け、城の中に入る。城の中にも魔物がたくさんいる。
「魔王がいる部屋は?!」
「この通路の先よ!!」
さっきからこの通路を走っているが、終わりが見えない。
イグネリアはいつの間にかいなくなってた。たぶん、フェリールと一緒に戦っているんだろう。
「前来た時は、魔物……こんなに多くなかった」
「魔王も本気のようだな」
ようやく、先が見えてきた。だが、後ろからは大量の魔物が迫っている。
「ここで、迎撃しないといけないか……!」
「魔王と戦っている間にでも来られたら、魔王どころじゃなくなるわね」
後ろを振り向き、武器を構える。なりふり構ってられない。
少しでも数を減らさないと。
「…………ここは、俺が……!」
エレスが何か言おうとした。
だが、いきなり現れた光が声を遮った。
「世界が私を呼んでいる」
「う、運命が、私を、必要としている」
めっちゃ聞いたことある声だ。
「その呼び声は私を奮い立たせる」
「その助けは、私の願い」
誰なのかはわかっている。なぜこんなことをしているかはわからないが。
「フローラルピース――ヘイゼル!」
「ビュ、ビューティースマイル――メイリア……!」
やっぱ二人か。メイリア……結構無理しているな。
「世界の運命は私たちが守る!」
「せ、世界の運命は私たちが守る……!」
同時にポーズを決める。アランは呑気に拍手している。
「もうむりやだ。帰る」
「そんな……ビューティースマイル!」
来て早々、戦意喪失するメイリア。そんなメイリアにヘイゼルが追い打ちをかける。カオスだな。
「ジエンだけならまだしも、現地人にまで見られるなんて……土に埋まって花になりたい……」
「……色々と聞きたいが、時間がない。今はこれだけ聞く。つまり……あれか?」
「はい、そうです」
ヘイゼルが咳払いをする。
「『ここは俺たちに任せて先に行け!』です」
「そういうことだから、さっさと行って。そして、さっきのことは忘れて」
頼もしい助っ人だ。
「よし、行こう!」
通路の最奥。魔王がいる部屋へ繋がる扉を開ける。
***
「先ほどのメイリアの雄姿はとても素晴らしかったです」
「何も言わないで、お願いだから」
メイリアにとって、あれはとても恥ずかしいことだった。
「では、先に目の前のことを片付けましょう」
「そうだね」
二人は深呼吸をして、心を落ち着かせる。
そして、メイリアはマイク、ヘイゼルは杖を構える。
「ライブ、開演だよ!」
「告解を聞き届けましょう」
***
扉を越えた先に見えてきたのはどこかの村の風景。
ある男の子と女性が話している。
『勇者になったらみんなを守れるの?』
『そうよ、勇者はみーんなを守ってくれるのよ』
『ならオレ、勇者になる!! それでね、みんなを守るんだ!!』
男の子がそう言う。とてもいい笑顔だ。
『シケンならきっと、なれるわ』
女性が慈愛のこもった声で言う。
これってもしかして……勇者の記憶か?
中編が終わりました。次回からは後編です。次回の更新は先になります。9月中にはアレルハライド編を完結させられると思います。




