D-22 解脱
「『元勇者パーティたちの情報提供』か……確かに、それを対価にイライザの情報を手に入れるのもありだな」
「だろ?」
雑貨屋の地下にある部屋でフェリールと話し合っている。
ここ最近、俺たちに付き纏っている不審者はこの依頼を受けたここの奴なんだろうな。
しかも、この依頼書には元勇者パーティの似顔絵が描かれている。エレス、シヴァニア、ダスティン、イグネリア。そして、他にもイライザらしき似顔絵まである。
俺は気配を消して行動しているし、フェリールは最近合流したばかりだから知られていないのも不思議ではない。アランも魔道具のおかげで知られていないのだろう。
「まあ、相手がイライザの情報を持ってるとは限らないがな」
「そんときはそんときだ」
ふと、気になったことがある。
「最近、アンニル団からの通信が少ないよな。来たと思ったら、すぐに切られるし」
「あっちもあっちで忙しいんだろ」
それもそうだな。アンニル団の仕事内容が大変なのは分かっている。俺はまだ、アンニル団の仕事をほとんどやっていないがな。
「早速、聞きに行こう」
基本的には、紙に書かれている場所と日時を指定して、依頼者と会うシステムらしい。だが、この依頼のお婆さんはこの部屋を指定していた。
「へぇ、白い静寂のことを聞きたいなんてねぇ」
お婆さんは品定めをするように俺たちをジロジロ見る。
「あんたらの掴んだ情報が先だ。さっさと言いな」
「……あいつらはWJDDFの元に向かった」
「そんくらいは知ってる」
お婆さんは呆れたように言う。
「だろうな。だが、俺はあいつらが何の目的でWJDDFのところに行き、何のを手に入れたかまでわかっている」
「なるほどねぇ。で、その内容は?」
「イライザのことが先だ」
本当に交渉は苦手だ。しかし、アンニル団に入った以上、暴力で全てを解決することはできない。交渉にも慣れないとな。
「いいさね、話してやるよ。といってもイライザの情報は少ない。ただ一つ、一ヶ月前にヌリオミにいたという情報だけ。それ以来、消息を絶っている」
ヌリオミにか……。俺とエレスが行ったときはそれらしい人物はいなかった。見逃していたか、それとも単に気付かなかっただけなのか。
「次はあんたらの番だ」
口を開こうとしたら、いきなり扉がバンッと開いた。そして、大勢の騎士が部屋になだれ込んでくる。
「全員大人しくしろ、我らは騎士団だ!」
騎士団……この世界に来る前に渡されていた資料に書かれてあったな。その役割は、魔物討伐や犯罪の取り締まりなど多岐にわたる。
「クッソ、騎士団か! 裏口に逃げるぞ!」
誰かがそう叫ぶ。
「無駄だ。裏口も全て包囲している」
騎士団の方が一枚上手だったな。
すると、いきなりフェリールに仮面をつけられた。
「素顔がバレると面倒だ。真正面から誰も傷つけずに突破するぞ」
「真正面から傷つけずにとは無理難題だな」
偶然、迷い込んでしまっただけだ、なんて言っても信じてもらえない。その作戦で行こう。
「おい、そこのお前ら、仮面を外せ」
隊長らしき人物が近づいてくる。
「何をしている! 早く外せ!」
「今だ!!」
フェリールの合図とともに、隊長の横を駆け抜ける。隊長は俺に向かって手を伸ばしてくるが、すんでのところで避ける。
「逃がすな!!!」
隊長の合図とともに騎士たちが俺たちを取り囲む。
「権能使用緊急要請! NO.1承認! 想起開始!!」
フェリールが権能を使用すると、周りの騎士たちの動きが止まる。
その隙に階段を駆け上がる。
「今のは何だ?」
走りながらフェリールに聞く。
「俺の権能で動きを封じた。だが、緊急使用だから継続時間は短い」
下の方から、大勢の足音が聞こえる。もう、動けるようになったらしい。
「さっさと行方をくらますぞ!」
階段の先に地上の光が見え、そのまま雑貨屋の店内に飛び出る。店番のお爺さんは騎士団に捕らわれていた。
「な、お前たち」
騎士団の人がなんか言ってるが気に留めない。騎士の横を素早く抜け、店の外に出る。
店の外に出るた瞬間、腕が伸びてくる。
「お前ら、逃げてきた奴だな!!」
店の外にいた騎士に腰を掴まれる。
「ハチ!!!!」
こんなときにも律儀に偽名で呼ぶなんて。
しかし、困ったな。体をガッチリ掴まれていて、抜け出すのに時間がかかりそうだ。その間に下にいる奴らも到着してしまうだろう。
腕を折るのは簡単だが、傷つけないのは難しい。
「大人しくなったな、観念したのか?」
…………仕方ない、覚悟を決めるか。
「幻想魔法――グングニル」
上空に三本のグングニルを顕現させる。
「な、なんだ!?」
一瞬だけ拘束が緩む。グングニルは俺と騎士に向かって落ちてくる。
「う、うわぁぁぁああ!!」
グングニルは俺と騎士を正確に避け、俺の服だけをビリビリに破いていく。
その隙に、俺は騎士の拘束から抜け出す。
「お待たせ」
「いや、お前……何やってんの?」
「そんなことより早く逃げないと。大通りに出るぞ!」
「お、おう」
大通りに出て、全速力で宿に向かう。
「クソッ、フルチンだとさすがに目立つな」
「当たり前だろ。逆に何でお前は冷静なんだ」
「素顔を隠しているからな。これなら人で溢れかえる道をフルチンで走っても問題ない」
「問題しかない」
今思えば、今朝のヘイゼルの占いが当たったな。確かに全裸でも問題ないな。
大通りを抜け、人通りが少ない場所に出る。ここから、宿までもうすぐだ。しかし、着替えなど持っているはずもなく、フルチンで移動中だ。
こんなことならアイテムボックスに着替えを入れておくんだったな。
「ところで、フェリールはどうしてそんなに離れてるんだ?」
フェリールは俺の五メートル後ろを歩いている。
「ジエンの連れだと思われたくない」
ここは大通りに比べて人は少ないが、それでもちらほらいる。全員、俺のことを見てはヒソヒソと話している。
「ジエンには恥じらいがないのか?」
「あるぞ」
「ならなんでそんなに平気なんだ?」
「つい最近、服という概念がない世界に行ったからな」
服という概念がない世界だから、その世界の人々は当然のように全裸だ。ファッションとしてピアスをつけたり、髪を染めたりする人はいたが、服はどこにもなかった。
その世界に行ったときは本当にびっくりした。服なんてものはないから、全裸で過ごすしかなかった。慣れたらそれほどでもなかったがな。
「さすがに宿の中を全裸で移動するのはマズイ。受付で毛布を借りてくるから少し待ってろ」
宿屋に着いて早々、フェリールに言われる。フルチンのまま外で待機する方がやばいだろ。
フェリールが持ってきた毛布に包まって部屋に戻る。部屋の中には全員揃っていた。フルチンになった経緯を説明する。
***
「なるほど、それは災難だね」
新しい服に着替えて、ココアを飲む。
「……服が無い世界なんて、あるんだな」
エレスが力のない声で呟く。
「気になるところは本当にそこでいいのかい? もっと他にあるんじゃないか?」
「気にしたら負けかなって思っただけです」
「そうだ、意味わからないことにいちいち反応しない方がいい。反応してたらキリがない」
歴戦の猛者みたいにフェリールが言う。実際、歴戦の猛者だから正しいんだがな。
「服が無い世界は珍しいな。もっと珍しいのだと、男だけの世界とか女だけの世界とかもある」
「へぇー」
全然興味なさそうだな。
「全裸の話で盛り上がっているところいいかしら?」
シヴァニアが聞いてくる。
「盛り上がってないからどうぞ」
フェリールが返す。俺的には盛り上がってたのに。
「イライザはヌリオミで消息を絶ったのよね?」
「そう聞いたが」
シヴァニアは何やら考え込んでいる様子だ。ダスティンも何か考えている。そういえば、二人はさっきまでの会話に加わってこなかったな。
「言ってなかったけど、ヌリオミには魔王城に繋がる道があるのよ」
「そうなのかい?」
おいこら当事者。
「私は旅の最後の方の記憶が朧げなんだ。だから、魔王がどんなモノなのかもわからないんだ」
なんか複雑な事情がありそうだな。
「ともかく、イライザは魔王城に向かったと見て間違いないわね」
なるほどな。だから、ここまで情報がほとんどなかったんだ。
「なら……早く……魔王城に、行かないと」
ダスティンが言う。さすがに早すぎる気がするが。
『ダスティンの考えに賛成よ』
リサがいきなり現れて言う。
『話は聞いていたから説明は不要よ。それよりも魔王――ニヒルの反応が強くなっているわ。早く行かないと大変なことになるわよ』
それは……やばいな。さっさと向かわないと。
『こっちでも、魔王と勇者以外に魔王城内で人がいることは確認しているわ。話の流れからイライザで間違いないわね』
「勇者は!……どんな状態?」
シヴァニアが声を荒げる。少し珍しいな。
『……かなり衰弱しているわね』
「そう……」
「……」
シヴァニアとダスティンの顔が強張る。辛そうだな。もしかして、勇者とは仲が良かったのか?
「とりあえず、ヌリオミに行くっきゃないっしょ!!」
イグネリアが声を張って言う。確かに、もうこの選択肢しかない残されていない。
翌日、早朝からヌリオミに向かって出発した。
***
ヌリオミにたどり着く。馬車を宿に置いてきて、シヴァニアの案内で精霊がいる泉へ向かう。
「ここは精霊が勇者に加護を与える場所とされているわ。でも、本当は魔王城へと繋がる道でもあるの」
「その道ってのはどこにあるんだ」
「ちょっと待ってて、今から呼ぶから」
シヴァニアはそう言って泉の縁に手を置く。ダスティンも同じように手を置く。二人は息を吸って叫んだ。
「「ベオーク!!!!」」
しばらくすると、ベオークが泉の中から現れる。
『今回は人が多いわね』
相変わらず、脳内に直接言葉が流れてくる。
「ベオーク! こっちにイライザが来てたわよね?」
『一ヶ月前に来てたわね』
これで魔王城にイライザがいることが確定したな。
「そうなのね。急で悪いんだけど道を作ってくれないかしら?」
『本当に急ね。でもいいわ、加護を与えたことだしね』
「……誰に与えたんだい?」
『そこの二人よ』
そう言って俺とエレスを指差す。
「クソッ、バレたら仕方ねぇ! そうだ、俺こそはベオークから加護を貰った正真正銘の勇者だ!!」
「悪役みたいなセリフでウケる」
この口上、イグネリアには好評だな。他の奴らの反応は芳しくない。
「俺も何が何だかわからないまま加護を貰った」
「エレスも……貰ったんだね」
そういえばエレスは幻想魔法も聖剣もないな。あるのは加護だけだ。
『道が出来たわ。私はここでお別れね』
「一緒に来ないのか?」
『私には別の道があるの。そこから行くわ。あっちに着いたら合流しましょう』
ベオークはそう言うと煙のように消えていった。
泉の水が抜けて洞窟が現れる。ここを進めばいいのか。ダスティンを先頭に、洞窟の中に入っていく。
洞窟の中はジメジメしていて、不快感を覚える。泉の下にあったから仕方ないか。それにこの洞窟ずっと、下りだ。底が見えない。
『この世界のことについて新たにわかったことがあるわ』
「リサか」
洞窟を歩いていると、アンニル団との通信が繋がる。
『洞窟を歩きながら聞いてちょうだい』
リサがみんなの意識を向けさせる。
『これから話すのはこの世界の構造。そして、ジエンが感じ取っていた空への違和感よ』




