D-21 運の良さは絶好調
アンニル団の会議から数日、無事にグランティナに辿り着いた。
王都に次ぐ街と言われた通り、かなり栄えている。王都と比べても遜色ないほどだ。
『グランティナに入る前に少しだけいいですか?』
馬車の手綱を握っていると、、ヘイゼルに声をかけられた。
「どうしたんだ?」
『今日の運勢を占ってみたのです』
ヘイゼルは占いもできるのか……
『運の良さは絶好調。今日は裸で歩いても問題ないでしょう』
「それって本当に当たるのか」
『はい。この同人誌占いは的中率98%を超えてます』
一気に胡散臭くなったぞ。なんだ、同人誌占いって。
『それでは、私は用事がありますので帰ります。今日も良い一日を』
言うだけ言って帰りやがったぞ。まさか、このために来たのか?
***
グランティナに入り、宿屋を探す。一番最初に入った宿が運良く空いていた。
その後は適当に散策しつつイライザを探す。この街ならイライザの情報があるかもしれない。
情報集めは二人一組ですることになった。
俺のバディはフェリールだ。安心感ハンパない。
「それで、ジエンはどこに行きたい」
俺たちは街の中央にある噴水を眺めている。噴水は華やかで美しく、この街のシンボルとも言える。
「そうだな……」
アランから貰ったグランティナの地図を地面に広げる。
「えい!」
銅貨を空中に投げる。銅貨は地図の上に落ち、ある建物と重なって止まる。
「よし、ここにしよう」
「適当だな」
「ちゃちゃっと決めた方が時間に余裕ができるだろ?」
下手に悩みまくって時間を浪費して散策できなかったら本末転倒だ。即断即決が重要。
フェリールと共に先ほどの建物を目指す。噴水からは、南東の方角に位置している。
この辺りは飲食店や雑貨屋が多い。逆に北の方に行くと、居住地が多くなる。
改めてフェリールの方を見る。
髪色はシルバー、瞳の色はスカイブルー、髪と同じ色の狼の尻尾と耳が生えている。
アンニル団のファーストペンギンと称されている通り、基本的には未開拓の世界を調査することが多いらしい。その証拠に、服の隙間から垣間見える肌には、かなりの傷跡が確認できる。古いものから新しいものまで、その数は多い。
それに、フェリールは常に警戒を緩めない。他者と話しているときも、歩いているときも警戒している。そして、その警戒心を他人に悟らせていない。俺はそういうのに敏感だから、わかっただけだ。
それにしても、起きているときはもちろん、寝ているときでも音や気配に過敏に反応するのは大変なんじゃないか?この前も馬車で寝ていたフェリールにイタズラしようとしたら目が合った。その瞬間は肝が冷えた。
そんなことを考えているうちに、目的地に着いていた。
「ここは、ただのレストランか?」
「そう見える、とりあえず入ってみよう」
俺はそう言って、扉を開ける。
「「「おめでとうございます!!!」」」
「……!」
横一列に並んでいる店員に祝われてびっくりした。何なんだいきなり。
「あなた方は当店の一万人目のお客様です! そのため、あなた方には特別に全品無料にさせていただきますね!」
「ラッキーだな」
「そんな偶然があるんだな」
幸先がいいな。……もしかして、ヘイゼルの同人誌占いが当たったり……なわけないか!あっはっは!
「それにしても、全品無料か……悩むな」
「さっきみたいに決めたら良いんじゃないか?」
「何を言っているんだ。これは重要な選択だ。コインにこの選択を託してはいけない。たとえ時間がかかったとしてもだ!!」
これは俺の今日のモチベーションを決める選択だ。悩む価値しかない。コインに頼ってはいけない。
「どれも一緒なんだから適当に頼んどけよ。どうせ無料なんだし」
「うるさいファザコン、黙って」
ドンガラガッシャーンと大きな音を立てて転げ落ちるフェリール。立ち上がろうとした拍子に足を椅子に引っ掛け、机にダイブし、そのまま机ごと倒れたみたいだ。
「あの、大丈夫でしょうか……?」
店員に心配されるフェリール。手伝おうとする店員を手で制すると、フェリールは机を起こし、椅子に座り直す。
そんなことよりも、メニューだ。想像力を働かせて、料理名から匂いと味を推測しないと。
「なぜ、俺が、ファザコンになるんだ!」
フェリールが大きな声で問う。
「あの手紙はファザコンにしか書けない」
「見たのか!?見るなって言っただろ!」
「それに……サンからのお返しの手紙を時折ニヤニヤしながら見ているんだろ?」
「なっ……!!おま……ッ、どこでそれをッ?!」
「イグネリアから、そしてイグネリアはヘイゼル、ヘイゼルはメイリア、メイリアはシュウゴ、シュウゴはリサ、リサはサンから聞いたらしい」
「殺せ!いっそのこと殺せ!!」
机に突っ伏してわんわん喚く。うるさいな。周りの客に迷惑だろ。
まぁ、ツンデレには酷なことだな。まさかの一番知られたくないであろう奴に知られていただなんて。しかも、そいつがいろんな奴にバラしているなんて。
やっぱりイグネリアみたいに、サンからの贈り物を時々見返しては俺に見せつけてくるほどの気概がないと。
「殺すのは構わないが、この『磯香る、海の幸パスタ〜カニクリーム仕立て〜』と『緑芽生える、紫グマのステーキ〜マッシュルームを添えて〜』だとどっちがいいと思う?」
「しらねぇよ……」
ダメだな、使い物にならない。仕方ない、どっちも注文するか。
料理が届くころには、フェリールは立ち直っていた。いや、吹っ切れただけだな。
「任務が終わって基地に戻ったら全員の脳天に膝蹴りして記憶を消してやる」
フェリールが変なことを呟いている。
やばいな、変な方向に吹っ切れてしまった。……今は料理に集中しよう。
パスタとステーキはシェアすることにした。
まずは、パスタから食べる。
口に入れた瞬間、海を丸ごと閉じ込めたような香りが広がった。カニの優しい甘みとクリームのまろやかさ。そして、貝の旨み。もちもちのパスタに絡み合い、フォークが止まらない。
次にステーキを食べる。
ナイフを入れた瞬間、肉汁がじわりと溢れ出す。立ち上る香りは芳醇。一口噛めば、肉の旨みが舌の上を駆け巡る。添えられたマッシュルームはそれらを受け止める柔らかさがあった。
確か、紫グマはヴァイオレットベアーの別名だったな。俺が狩ったヴァイオレットベアーは、アンニル団に転送できなかった。ニヒルの混入を防ぐためらしい。
結局、基地の外にある保存庫に熊肉は転送された。アレルハライドの任務が終わり、ニヒルが混入しててないことを確認できたら取り出してもいいらしい。
「めっちゃ美味いな。フェリールはどうだ?」
「美味いな」
「だな」
フェリールも同じ感想だろう。ほんと、ほっぺが落ちそうだ。
「これを元に新しいレーションの味でも作ってみるか……」
フェリールが聞き捨てならないことを呟く。
「つまり、この味をたくさん楽しめるってことか?!」
レーションってことは携帯型の調理不要な食べ物だろ?この味も再現できるなら作って欲しい。
「そういうわけじゃないぞ。アンニル団が作るレーションはゼリー状で統一されていて、50g程度で一日の栄養を全て賄える。いっぱい食べると気持ち悪くなるから、たくさん食べることはできないぞ」
前言撤回。何だその意味のわからんレーションは。
「アンニル団の最前線にいる俺からしたら、このレーションの味のバリエーションを増やすことは大事だ」
世界によっては食にありつけないこともある。俺がそういう世界に行った場合は、探索とかを諦めて別の世界に行く。しかし、アンニル団だとそうはいかないのだろう。
新世界の開拓ってことは、食べ物がない世界でも探索しなくてはいけないってことだ。その状況だと、そのレーションに助けられるのも想像に難くない。
***
食事を終え、散策する。
今度は北の方に進んでいる。北に進めば進むほど、露天や呼び込み、いい匂いなどが少なくなっていく。
ふと、路地裏に視線が向く。
「あっちに行ってみないか?」
路地裏を指差してフェリールに聞く。
「路地裏か……別に構わない。危険になっても問題ないだろ?」
「そうだな」
旅を続けると闇組織に関わることが多くなったりする。たとえ、影から闇組織が襲ってきたとしても返り討ちにできる。それくらいの経験は積んでいる。
路地裏をあてもなく進む。小さなお店が見えてきた。雑貨屋だ。
「……!お客さんかい、何をお求めで?」
温厚そうなお爺さんが店番をしていた。
「フェンリルの蹄で」
フェリールが変な目で俺を見ている。
「……状態は?」
お爺さんの目が鋭くなる。なぜだろう。とりあえず質問には答えるか。
「熱く、そして硬く」
「お持ち帰りですかい?」
「いや、食べて行こう」
少しふざけすぎたかなと思ってたら、店の奥の壁が開き、隠し階段が現れた。
「奥の部屋へどうぞ……」
***
一本道の階段をフェリールと二人きりで降りていく。
「……さっきの合言葉はいつ知ったんだ?」
「いや適当」
「は?」
フェリールがすんごい目で俺を見てくる。
「頭に浮かんだことを言っただけなんだが……なぜか合言葉として機能したな」
「そんな偶然あんのか?」
確かにな、偶然にも程がある。運がいいのか悪いのか……ん?
「そういえば、今日の俺の運は絶好調らしい」
「占いか?」
「そ、ヘイゼルの同人誌占いで占われた」
「同人誌占いなら……まぁ……」
同人誌占いってそんなメジャーなのか?それに何か納得してるし。
「それより、ここはどこに続いてるんだ?」
「俺が知るわけないだろ」
「だよな」
長い階段を降りると。通路が現れる。奥のほうには扉が見える。
「……とりあえず開けてみるか」
「そうだな」
扉の先は、ザ・闇組織って感じの部屋だ。カウンターやテーブルが置かれ、たくさんの紙が壁一面に貼られている。内容は貴族の暗殺依頼、宝石の窃盗依頼、違法魔法薬の作成依頼など物騒なものばかりだ。
他にも本棚や魔道具なんかがある。本はどれも禁書のようなタイトルで、魔道具もトゲトゲしている。見た目から危険さが伝わる。この場所が違法なのは明らかだ。
「兄ちゃんたち見ない顔だねぇ」
カウンターに座っているお婆さんに声をかけられる。
「そうだな、この街に来たのは初めてだ」
「初めてなのによくこの場所がわかったねぇ」
「当たり前だろ」
全くの部外者だが、そのことがバレたら面倒だ。適当に合わせよう。
「依頼でも見てようぜ。フェーちゃん」
「フェーちゃ…………そうだな、ハチ」
見るからに危なそうな場所で本名なんか晒せない。俺の意図に気付いたのか、フェリールも俺を偽名で呼ぶ。
人の少ないところを探し歩く。
「ここなら誰にも聞かれないだろう」
「そうだな」
部屋の一角、適当に依頼書と本を手に取り、椅子に座る。
「正義の味方なら、こんな場所ぶっ潰すってなると思うがアンニル団的にはどう?」
「基本的にアンニル団はニヒル以外のことには不干渉を貫く。ニヒルに関係することで、やむを得ず干渉するのは問題ないが、さすがにニヒルと関係のない組織をぶっ潰すのはダメだな」
「ふーん、それってやっぱり俺たちが異世界人だからか?」
「ざっくりと言えばそうだな。この世界の問題はこの世界で解決すべきだ。特に国や種族などの大きな物事を決めるときとかな」
アンニル団はニヒルの討伐が目標であり、世界に干渉したりする。しかし、なるべく世界の運命を変えぬように行動しないといけない。俺たちの行動で運命を大きく変えてしまったら責任を取らなくてはいけなくなるから。こういう話をリサから聞いていた。
ちなみに、ニヒルは世界の運命機構に寄生するため、ニヒルに寄生された世界は、運命が消えて無くなってしまう。俺たちが行う救世とはそれを防ぐことである。これは運命を繋ぐための行為であるから、運命を大きく変えてはいない、的なことも言ってたな。
「なら、ここでイライザの情報を集めるか」
「そんな簡単に集められるのか?金はあまり持ってこなかったぞ」
確かに俺たちは昼飯とその他ちょびっとだけのお金しか持ってきていない。だが、問題ないだろう。
「情報を買うには情報を売ればいい」
そう言って、依頼書を一枚、フェリールに見せる。
「『元勇者パーティたちの情報提供』……これで、イライザの情報を釣ろう」




