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アポカリプスロード:Extend  作者: 中村 りゅうや
第一章 マントルロード
20/40

D-20 さすがに二本目は……

「聖剣って……あの聖剣?」

「そうだ、あの聖剣だ」


 WJDDFが頷きながら答える。


「それで、その聖剣がどうしたんだ?」


 エレスが問う。


「我は聖剣を一本持っている。だから、お前たちに譲ろうと思ってな。我には無用の長物だ」


 太っ腹だな。それにしても、何でWJDDFが聖剣なんて持っているんだ?


「それに、お前たちは魔王を倒すのであろう? なら持って行け、役に立つ」


 WJDDFはそう言った直後だった。玉座の後ろの壁が開いていく。その向こうに広がっていたのは、地上を一望できる景色だった。どうやら、玉座の後ろはバルコニーになっているようだ。そして、バルコニーには一本の聖剣が突き刺さっていた。

 みんなでバルコニーに移る。外なのに寒くない。雪も積もっていないから、結界が張られているのだろう。


「ここから見える景色はどうだ?」

「とても素晴らしい。写真を撮っていいか?」

「いいとも」


 写真機を構えて、シャッターを押す。快晴で雲一つない。山に積もった雪が太陽の光を反射して、キラキラと光っている。そして、雪に覆われた森も幻想的に映る。

 でもなんか地平線が歪んでいるような……?


「なぁ、ジエンに聞いたんだが、写真を撮られると魂を抜かれるって本当か……?」


 俺が写真を撮っていると、エレスがイグネリアに、俺がついた嘘について聞いた。

 そういえば、騙したままだったな。


「……そーなんだよね〜。魂マジで抜かれるから、カメラ目線とかガチ禁忌(きんき)なんよ〜」

「ヒェ……」


 エレスが息を呑む。イグネリアもノリがいいな。


「そんなことはない。お前、騙されてるぞ」


 フェリールがバラす。もう少し引き伸ばしてもいいのに……

 そして、エレスが俺を凝視する。怒っているな。激おこぷんぷんってやつだ。そうだな……ここは、あれだな。謝るか。


「めんご」

「謝る気ゼロすぎておもろ」

「くっ……まぁ、騙される方も悪いからな……」


 お、怒られなくてすみそうだな。


「それはそうとして、ネタバラシは早くしてほしい」

「次からそうする」

「そもそも嘘をつかないでほしいんだがな」


 それは無理だな。諦めてくれ。


「話を戻すぞ」


 WJDDFが言う。

 そうだった。これ、聖剣の譲渡(じょうと)の話だったな。


「聖剣なんだが、ジエンにやろうと思う」

「え? 俺?」

「そうだ」


 まさかの指名式だった。トーナメント戦で決めるのかと思ったがな。


「やはり、幻想魔法をあれだけ使えるとなると、勇者の素質がある。お前なら十分に聖剣の力を引き出せるだろう」


 なんか棒読みで言われたんだけど。

 でも、俺にはここまで使ってきた剣があるし……仕方ない。


「クーリングオフで」

「すまないが、適用外だ」

「なんで?」

「政令指定消耗品だからな」


 は? 聖剣が政令指定消耗品……?


「まぁ、落ち着け。貰えるもんはありがたく貰っておこうぜ?」


 エレスがそう言う。


「そうは言っても……さすがに二本目は……」


 すると、バルコニーに突き刺さっていた聖剣が、いきなり赤く光り出した。そして、赤い光はそのまま俺の方へ近づき、周囲をふよふよと漂う。

 なんとなく、剣を顕現する。

 赤い光は俺の剣に吸い込まれるように溶けていった。

 みんな、今起こった現象をただ見ていることしかできなかった。


「…………ふむ。ジエンの剣に、聖剣という概念が付与されたな」

「つまり……どういうことだ?」


 何が起きたのか、さっぱりわからない。説明されてもわからない。


「そもそも聖剣とは特定の剣を指すものではなく、一つの概念である。つまり、今起こったことは、聖剣特性を備えた剣が別の剣に聖剣特性を移譲したのだ」


 聖剣ってそんな物だったんだな。しかも、特性は別の剣に付与可能と……

 まぁ、たくさん世界があるわけだし、そういうことが起きる世界ってことで、深くは考えないでおこう。

 アレルハライド組が全員驚いているから、通常はありえないことなんだろうな。


「これで聖剣を手放せたな。肩の荷が下りた」


 WJDDFは呑気に伸びをしている。混乱を招いた張本人のくせに。


「そういえば、今の勇者は何をしておるのか?我は人の世に疎いからな、よく知らぬのだ」

「なら、場所を移そうか。長くなりそうだしね」


***


「そうか、そんなことがあったのだな」


 さっきの部屋に戻った。そこで、勇者のこと、俺たちのこと、旅の目的について説明した。後半の部分は、フェリールが以前会った時に話したそうだ。

 フェリールはそのときに、豪華な食事を振る舞われたとか。

 くっ、俺たちが洞窟探検とかで忙しいのに贅沢しやがって……!


「そういえば、俺はこれで幻想魔法と聖剣を手に入れたんだが、あとは精霊の加護だけか?」


 もう、精霊の加護は手に入れているから勇者なんだがな。

 ここで、エレスを見てみよう。すごい。愛想笑いを浮かべて紅茶をひたすら飲んでいる。俺は関係ないって感じだな。


「確かにね。次は精霊がいる場所に行ってみるかい?」


 アランが言う。


「バカなことは言わないで。ただでさえ、こんな状況なのに、ジエンが勇者になったら大変よ?」


 シヴァニアの言葉に、ダスティンもうんうんと頷いている。

 すると、WJDDFが口を開く。


「何を言っておる。精霊の加護はもう――」

「聖剣抜刀!!」

「ぐわぁぁああ!!」


 WJDDFが壁まで吹っ飛ばされる。

 綺麗に吹っ飛んだな。


「いきなり何をする!?」

「くっ、右腕に秘められし闇の力が暴走を……!!」

「いきなり厨二病設定が生えたな」

「突発性厨二病」


 フェリールとイグネリアが好き放題言ってやがる。

 仕方ないだろ。適当に会話を止めないと、俺に精霊の加護があることをWJDDFが言ってたし。

 WJDDFが壁に突き刺さることと、俺の羞恥で誤魔化せたんだから、安いものだろ?


「それにしても、WJDDFはおもしろいくらい吹っ飛んだな。そこまでいくとは思わなかった。せいぜい、椅子から派手に転げ落ちる程度かと」

「当たり前であろう?! 聖剣は魔物によく効くのだからな!」


 そうなんだ。初めて知ったな。知ったからには有効活用しないと。

 

「だから、我には聖剣を使うでない!」

「それは約束しかねる」

「しろ!」


 話し合いが、いつのまにかただの談笑になった。和やかなのはいいことだ。


「そういえば、何で聖剣を持ってたんだ?」

「色々あったのだ」

「色々……」

「そう、色々だ」


 教えてくれなさそうだな。それならまぁいい。


『あたしの方からもいいかしら?』

「いいぞ」


 リサが通信を繋げた。気になることでもあったのか?


『その異世界人は他に何かしたのかしら?』


 異世界人――サンのことだな。


「幻想魔法の創造は話した通りだ。他にも、今の魔法体系の設立、最上級魔法の命名、そしてお前たちの国も建ててたな」

「……それは、本当なのかい?」


 現王様として、最後の言葉は聞き捨てならないのだろう。


「そうだ。昔は魔族が他の種族と争っていた。当時の魔族は絶大な力を誇っていた。ゆえに、精霊族は壊滅、巨人族と天使族は根絶。唯一、人間族だけが抗っていた。そこに異世界人が現れ、人間族を匿い、魔族の世界と人間族の世界を物理的に隔てたのだ。人間族はその後、国を造り、今に至るのだ」


 なんともまぁ、壮大な歴史だな。


「そして、我は人間族についた唯一の魔族。今までずっと人間を見守ってきたのだ」


 涼しげな顔で紅茶を飲むWJDDF。


「そう考えると、我も勇者と同じで、自身の種族を裏切ったのだな」


 ……。


「とまぁ、我が知っている限り、彼がしたことはこれで全部だ。満足か?」

『えぇ、とても。あたしが知りたかった以上の情報が知れたわ。ありがとうね』


 そう言って、リサは通信を切る。

 まさか、WJDDFからこの世界における人類史の成り立ちを聞かされるとは。

 そして、そのままWJDDFの城に泊まることとなった。


***


 翌朝、早くから起きることができたため、今回は濡れてない。

 準備が終わり、いつでも出発できるというタイミングで、WJDDFがエレスを呼び止めた。何やら話したいことがあるらしい。俺たちは門の前で待っている。


「お待たせ」


 エレスはWJDDFとの話が終わり、小走りに向かってくる。それにしても、なんだか変わったような……。


「お前、今までのエレスか?」

「ん? そうだが?」

「どうしたんだい?」


 アランは気づいていないようだが、俺はエレスの変化に気づいた。


「エレス、お前……さっきよりもめっちゃキリッとしているぞ!WJDDFに何かされたか?」

「え?何もされてないよ?」


 エレスは戸惑いながら言う。とても怪しい……。エレスはそう簡単に戸惑わないからな。


「そんなことよりも、早く出発した方が良い。次はグランティナを目指すのだろう?」


 WJDDFが露骨に話を逸らす。ますます、怪しくなってきたな。


「そうだな。ほら、行くぞ。世話になったぜ、WJDDF」

「またいつでも来ると良い。歓迎するぞ」


 エレスはそう言うと、俺の襟を掴んで引っ張る。首しまってる。もう怪しまないから離してほしい。切実に。


***


 ハセミアに戻り、置いてきた馬車の中に荷物を入れる。

 時間固定魔道具に関しては、アランが丁重にお断りしていた。さすがに、その効果を持つ魔道具を人間が持つのは危ないとのこと。

 お持ち帰りした食べ物は、シヴァニアとアランが氷属性魔法で冷凍保存していた。


「ちなみに、グランティナってどんな街なんだ?」

「王都の次に栄えている街だな。そこで、イライザの情報を集めようってことだろ?」

「フェリールの言う通りだよ。私の方でもイライザのことを探していたんだけど、見つからなくてね。みんなで探すことにしたんだ」


 そういえば、イライザがWJDDFの討伐に向かわないのは不自然って考えていた。だが、イライザはWJDDFが安全って思ってたのかな。それとも、別の思惑があって俺たちをWJDDFの城に誘導したとか?

 考えてもキリがないな。イライザを見つけて、問い詰めればいいか。

 グランティナへの移動は明日になった。

 そして、寝る前にアンニル団での会議が行われた。


『それじゃ、アンニル団の会議を始めるわよ。議題はこれ、[ジエンの初披露目]よ』


 ん?


『あたし達アンニル団は、様々な世界と関わりを持っている。アンニル団はその特性上、謎多き組織になりつつあるわ。そうなっては、嘘か本当かわからないことが囁かれ、良くない噂が広まってしまう。それを防ぐために、アンニル団をより親しく、より密接に、より最高に感じられるようにするため、あたし達は日々努力しているわ』


 ほう……


『例えば、配信で様々な世界の名所や観光スポットを訪れたり、伝統を紹介したりするわ。他にもゲーム実況やライブ、生配信、映画などなど、サブカルチャーも取り入れているわ』


 なるほど。


『そこで、ジエン、あんたよ』


 何となく話が見えてきたぞ。


『アンニル団に新メンバー加入。これは一大ニュースよ。ちんけでつまらない初披露目ではダメよ。面白く、楽しく、そして最高の初披露目のために、会議をするわよ』


 アレルハライドの問題は一旦置いておいて、俺の初披露目について話し合うんだな。


『私はホラーゲーム実況がいいと思います。ホラーゲームにおける悲鳴と焦り、そしてリアクション。それらは全ての人々に親近感を抱かせます』


 ヘイゼルが提案する。


『いいわね。ちなみにジエンはホラーは得意?』

「ホラーが得意ってのはわからないが、気配もなくいきなり来るのは苦手だな」

『なら、ホラーゲーム実況は候補の一つに決まりね。他にあるかしら?』


 ホラーゲームはやったことがないからわからないな。本物の幽霊とか妖怪なら、素手で倒したことはあるが。


「あーしはパンケーキ作りがいいと思うな〜」


 イグネリアが提案する。


『それもいいわね。ジエンは料理とかできるのかしら?』

「旅をする以上、必要最低限の料理はできる」

『なら、これも候補の一つね』


 パンケーキは作ったことないが、食べたことはある。いけるだろう。


『カフェ巡りとかどうかな?』

『却下よ』

『何でですか!?!?』


 メイリアが提案するが即座に却下される。カフェ巡りが却下とか意外だな。結構面白そうなのに。


『ちなみ、どんな感じにするつもりなのかしら?』

『最初にアンニル団特製エナドリを摂取して……』


 おっとぉ?流れ変わったぞ?


『そのまま0泊7日の無睡眠弾丸ツアーにするつもり。こんなにたくさん世界があるんだから、7日も使わないと全部回れないんだよね!』


 な、何だ、こいつは……。本当にメイリアなのか?

 メイリアはアンニル団の貴重なツッコミ役じゃなかったのか?!


「今日はメイリアも暴走するのか……」


 力なくそう呟くフェリール。メイリアも暴走とかするんだな。それであの状態と。なんか、大変なんだな。


『それは却下よ。一人でやりなさい』

『えー』


 えー、じゃない。俺の命が関わっているんだ。


『フェリールは何かある?』

「旅ログでいいんじゃないか?」


 少し投げやりな感じだが、内容自体には不満がない。

 さっきのカフェ巡りに比べたら、大概はなんてことないんだがな。


『いい案だけど時間がかかるわね』

「そうだが、じわじわ正体が暴かれていく過程は面白いんじゃないか?」


 投げやりな雰囲気だと思ったが、前言撤回だ。全然ノリノリ。


『それもいいわね。それじゃ、この三つの候補から決めさせてもらうわね。ちなみに、シュウゴとヘイゼルの合作案――ロシアン薬物なるものが提案されていたけど、あたしの一存で却下させてもらったわ』

『なぜなのですか?!?!』


 それはそうだな。さすがに倫理的にダメだな。

 てか、ヘイゼルは二つ目の案もあったのか。


『媚薬、興奮薬、惚れ薬、そして感度増加薬をビタミン剤と一緒のボウルに入れて、一個ずつ食べて反応を楽しむって……流石にコンプラ的にダメだわ』

『それがいいんじゃないですか!!』


 やばいな、尊厳の方を破壊しにきている。絶対にやりたくない。


『いい企画を考えておくから楽しみにしててちょうだい。おやすみ』

『カフェ巡り……楽しいのに……』

『くっ!次は認めさせてもらいます!それでは皆さん、おやすみなさい』


 なんか嵐のように過ぎ去ったな。

 ……てか待って、俺の初披露目の話なのに俺、何も言ってない。流れが激流すぎて会話に入らなかった。次からは頑張って入らないと。

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