D-20 さすがに二本目は……
「聖剣って……あの聖剣?」
「そうだ、あの聖剣だ」
WJDDFが頷きながら答える。
「それで、その聖剣がどうしたんだ?」
エレスが問う。
「我は聖剣を一本持っている。だから、お前たちに譲ろうと思ってな。我には無用の長物だ」
太っ腹だな。それにしても、何でWJDDFが聖剣なんて持っているんだ?
「それに、お前たちは魔王を倒すのであろう? なら持って行け、役に立つ」
WJDDFはそう言った直後だった。玉座の後ろの壁が開いていく。その向こうに広がっていたのは、地上を一望できる景色だった。どうやら、玉座の後ろはバルコニーになっているようだ。そして、バルコニーには一本の聖剣が突き刺さっていた。
みんなでバルコニーに移る。外なのに寒くない。雪も積もっていないから、結界が張られているのだろう。
「ここから見える景色はどうだ?」
「とても素晴らしい。写真を撮っていいか?」
「いいとも」
写真機を構えて、シャッターを押す。快晴で雲一つない。山に積もった雪が太陽の光を反射して、キラキラと光っている。そして、雪に覆われた森も幻想的に映る。
でもなんか地平線が歪んでいるような……?
「なぁ、ジエンに聞いたんだが、写真を撮られると魂を抜かれるって本当か……?」
俺が写真を撮っていると、エレスがイグネリアに、俺がついた嘘について聞いた。
そういえば、騙したままだったな。
「……そーなんだよね〜。魂マジで抜かれるから、カメラ目線とかガチ禁忌なんよ〜」
「ヒェ……」
エレスが息を呑む。イグネリアもノリがいいな。
「そんなことはない。お前、騙されてるぞ」
フェリールがバラす。もう少し引き伸ばしてもいいのに……
そして、エレスが俺を凝視する。怒っているな。激おこぷんぷんってやつだ。そうだな……ここは、あれだな。謝るか。
「めんご」
「謝る気ゼロすぎておもろ」
「くっ……まぁ、騙される方も悪いからな……」
お、怒られなくてすみそうだな。
「それはそうとして、ネタバラシは早くしてほしい」
「次からそうする」
「そもそも嘘をつかないでほしいんだがな」
それは無理だな。諦めてくれ。
「話を戻すぞ」
WJDDFが言う。
そうだった。これ、聖剣の譲渡の話だったな。
「聖剣なんだが、ジエンにやろうと思う」
「え? 俺?」
「そうだ」
まさかの指名式だった。トーナメント戦で決めるのかと思ったがな。
「やはり、幻想魔法をあれだけ使えるとなると、勇者の素質がある。お前なら十分に聖剣の力を引き出せるだろう」
なんか棒読みで言われたんだけど。
でも、俺にはここまで使ってきた剣があるし……仕方ない。
「クーリングオフで」
「すまないが、適用外だ」
「なんで?」
「政令指定消耗品だからな」
は? 聖剣が政令指定消耗品……?
「まぁ、落ち着け。貰えるもんはありがたく貰っておこうぜ?」
エレスがそう言う。
「そうは言っても……さすがに二本目は……」
すると、バルコニーに突き刺さっていた聖剣が、いきなり赤く光り出した。そして、赤い光はそのまま俺の方へ近づき、周囲をふよふよと漂う。
なんとなく、剣を顕現する。
赤い光は俺の剣に吸い込まれるように溶けていった。
みんな、今起こった現象をただ見ていることしかできなかった。
「…………ふむ。ジエンの剣に、聖剣という概念が付与されたな」
「つまり……どういうことだ?」
何が起きたのか、さっぱりわからない。説明されてもわからない。
「そもそも聖剣とは特定の剣を指すものではなく、一つの概念である。つまり、今起こったことは、聖剣特性を備えた剣が別の剣に聖剣特性を移譲したのだ」
聖剣ってそんな物だったんだな。しかも、特性は別の剣に付与可能と……
まぁ、たくさん世界があるわけだし、そういうことが起きる世界ってことで、深くは考えないでおこう。
アレルハライド組が全員驚いているから、通常はありえないことなんだろうな。
「これで聖剣を手放せたな。肩の荷が下りた」
WJDDFは呑気に伸びをしている。混乱を招いた張本人のくせに。
「そういえば、今の勇者は何をしておるのか?我は人の世に疎いからな、よく知らぬのだ」
「なら、場所を移そうか。長くなりそうだしね」
***
「そうか、そんなことがあったのだな」
さっきの部屋に戻った。そこで、勇者のこと、俺たちのこと、旅の目的について説明した。後半の部分は、フェリールが以前会った時に話したそうだ。
フェリールはそのときに、豪華な食事を振る舞われたとか。
くっ、俺たちが洞窟探検とかで忙しいのに贅沢しやがって……!
「そういえば、俺はこれで幻想魔法と聖剣を手に入れたんだが、あとは精霊の加護だけか?」
もう、精霊の加護は手に入れているから勇者なんだがな。
ここで、エレスを見てみよう。すごい。愛想笑いを浮かべて紅茶をひたすら飲んでいる。俺は関係ないって感じだな。
「確かにね。次は精霊がいる場所に行ってみるかい?」
アランが言う。
「バカなことは言わないで。ただでさえ、こんな状況なのに、ジエンが勇者になったら大変よ?」
シヴァニアの言葉に、ダスティンもうんうんと頷いている。
すると、WJDDFが口を開く。
「何を言っておる。精霊の加護はもう――」
「聖剣抜刀!!」
「ぐわぁぁああ!!」
WJDDFが壁まで吹っ飛ばされる。
綺麗に吹っ飛んだな。
「いきなり何をする!?」
「くっ、右腕に秘められし闇の力が暴走を……!!」
「いきなり厨二病設定が生えたな」
「突発性厨二病」
フェリールとイグネリアが好き放題言ってやがる。
仕方ないだろ。適当に会話を止めないと、俺に精霊の加護があることをWJDDFが言ってたし。
WJDDFが壁に突き刺さることと、俺の羞恥で誤魔化せたんだから、安いものだろ?
「それにしても、WJDDFはおもしろいくらい吹っ飛んだな。そこまでいくとは思わなかった。せいぜい、椅子から派手に転げ落ちる程度かと」
「当たり前であろう?! 聖剣は魔物によく効くのだからな!」
そうなんだ。初めて知ったな。知ったからには有効活用しないと。
「だから、我には聖剣を使うでない!」
「それは約束しかねる」
「しろ!」
話し合いが、いつのまにかただの談笑になった。和やかなのはいいことだ。
「そういえば、何で聖剣を持ってたんだ?」
「色々あったのだ」
「色々……」
「そう、色々だ」
教えてくれなさそうだな。それならまぁいい。
『あたしの方からもいいかしら?』
「いいぞ」
リサが通信を繋げた。気になることでもあったのか?
『その異世界人は他に何かしたのかしら?』
異世界人――サンのことだな。
「幻想魔法の創造は話した通りだ。他にも、今の魔法体系の設立、最上級魔法の命名、そしてお前たちの国も建ててたな」
「……それは、本当なのかい?」
現王様として、最後の言葉は聞き捨てならないのだろう。
「そうだ。昔は魔族が他の種族と争っていた。当時の魔族は絶大な力を誇っていた。ゆえに、精霊族は壊滅、巨人族と天使族は根絶。唯一、人間族だけが抗っていた。そこに異世界人が現れ、人間族を匿い、魔族の世界と人間族の世界を物理的に隔てたのだ。人間族はその後、国を造り、今に至るのだ」
なんともまぁ、壮大な歴史だな。
「そして、我は人間族についた唯一の魔族。今までずっと人間を見守ってきたのだ」
涼しげな顔で紅茶を飲むWJDDF。
「そう考えると、我も勇者と同じで、自身の種族を裏切ったのだな」
……。
「とまぁ、我が知っている限り、彼がしたことはこれで全部だ。満足か?」
『えぇ、とても。あたしが知りたかった以上の情報が知れたわ。ありがとうね』
そう言って、リサは通信を切る。
まさか、WJDDFからこの世界における人類史の成り立ちを聞かされるとは。
そして、そのままWJDDFの城に泊まることとなった。
***
翌朝、早くから起きることができたため、今回は濡れてない。
準備が終わり、いつでも出発できるというタイミングで、WJDDFがエレスを呼び止めた。何やら話したいことがあるらしい。俺たちは門の前で待っている。
「お待たせ」
エレスはWJDDFとの話が終わり、小走りに向かってくる。それにしても、なんだか変わったような……。
「お前、今までのエレスか?」
「ん? そうだが?」
「どうしたんだい?」
アランは気づいていないようだが、俺はエレスの変化に気づいた。
「エレス、お前……さっきよりもめっちゃキリッとしているぞ!WJDDFに何かされたか?」
「え?何もされてないよ?」
エレスは戸惑いながら言う。とても怪しい……。エレスはそう簡単に戸惑わないからな。
「そんなことよりも、早く出発した方が良い。次はグランティナを目指すのだろう?」
WJDDFが露骨に話を逸らす。ますます、怪しくなってきたな。
「そうだな。ほら、行くぞ。世話になったぜ、WJDDF」
「またいつでも来ると良い。歓迎するぞ」
エレスはそう言うと、俺の襟を掴んで引っ張る。首しまってる。もう怪しまないから離してほしい。切実に。
***
ハセミアに戻り、置いてきた馬車の中に荷物を入れる。
時間固定魔道具に関しては、アランが丁重にお断りしていた。さすがに、その効果を持つ魔道具を人間が持つのは危ないとのこと。
お持ち帰りした食べ物は、シヴァニアとアランが氷属性魔法で冷凍保存していた。
「ちなみに、グランティナってどんな街なんだ?」
「王都の次に栄えている街だな。そこで、イライザの情報を集めようってことだろ?」
「フェリールの言う通りだよ。私の方でもイライザのことを探していたんだけど、見つからなくてね。みんなで探すことにしたんだ」
そういえば、イライザがWJDDFの討伐に向かわないのは不自然って考えていた。だが、イライザはWJDDFが安全って思ってたのかな。それとも、別の思惑があって俺たちをWJDDFの城に誘導したとか?
考えてもキリがないな。イライザを見つけて、問い詰めればいいか。
グランティナへの移動は明日になった。
そして、寝る前にアンニル団での会議が行われた。
『それじゃ、アンニル団の会議を始めるわよ。議題はこれ、[ジエンの初披露目]よ』
ん?
『あたし達アンニル団は、様々な世界と関わりを持っている。アンニル団はその特性上、謎多き組織になりつつあるわ。そうなっては、嘘か本当かわからないことが囁かれ、良くない噂が広まってしまう。それを防ぐために、アンニル団をより親しく、より密接に、より最高に感じられるようにするため、あたし達は日々努力しているわ』
ほう……
『例えば、配信で様々な世界の名所や観光スポットを訪れたり、伝統を紹介したりするわ。他にもゲーム実況やライブ、生配信、映画などなど、サブカルチャーも取り入れているわ』
なるほど。
『そこで、ジエン、あんたよ』
何となく話が見えてきたぞ。
『アンニル団に新メンバー加入。これは一大ニュースよ。ちんけでつまらない初披露目ではダメよ。面白く、楽しく、そして最高の初披露目のために、会議をするわよ』
アレルハライドの問題は一旦置いておいて、俺の初披露目について話し合うんだな。
『私はホラーゲーム実況がいいと思います。ホラーゲームにおける悲鳴と焦り、そしてリアクション。それらは全ての人々に親近感を抱かせます』
ヘイゼルが提案する。
『いいわね。ちなみにジエンはホラーは得意?』
「ホラーが得意ってのはわからないが、気配もなくいきなり来るのは苦手だな」
『なら、ホラーゲーム実況は候補の一つに決まりね。他にあるかしら?』
ホラーゲームはやったことがないからわからないな。本物の幽霊とか妖怪なら、素手で倒したことはあるが。
「あーしはパンケーキ作りがいいと思うな〜」
イグネリアが提案する。
『それもいいわね。ジエンは料理とかできるのかしら?』
「旅をする以上、必要最低限の料理はできる」
『なら、これも候補の一つね』
パンケーキは作ったことないが、食べたことはある。いけるだろう。
『カフェ巡りとかどうかな?』
『却下よ』
『何でですか!?!?』
メイリアが提案するが即座に却下される。カフェ巡りが却下とか意外だな。結構面白そうなのに。
『ちなみ、どんな感じにするつもりなのかしら?』
『最初にアンニル団特製エナドリを摂取して……』
おっとぉ?流れ変わったぞ?
『そのまま0泊7日の無睡眠弾丸ツアーにするつもり。こんなにたくさん世界があるんだから、7日も使わないと全部回れないんだよね!』
な、何だ、こいつは……。本当にメイリアなのか?
メイリアはアンニル団の貴重なツッコミ役じゃなかったのか?!
「今日はメイリアも暴走するのか……」
力なくそう呟くフェリール。メイリアも暴走とかするんだな。それであの状態と。なんか、大変なんだな。
『それは却下よ。一人でやりなさい』
『えー』
えー、じゃない。俺の命が関わっているんだ。
『フェリールは何かある?』
「旅ログでいいんじゃないか?」
少し投げやりな感じだが、内容自体には不満がない。
さっきのカフェ巡りに比べたら、大概はなんてことないんだがな。
『いい案だけど時間がかかるわね』
「そうだが、じわじわ正体が暴かれていく過程は面白いんじゃないか?」
投げやりな雰囲気だと思ったが、前言撤回だ。全然ノリノリ。
『それもいいわね。それじゃ、この三つの候補から決めさせてもらうわね。ちなみに、シュウゴとヘイゼルの合作案――ロシアン薬物なるものが提案されていたけど、あたしの一存で却下させてもらったわ』
『なぜなのですか?!?!』
それはそうだな。さすがに倫理的にダメだな。
てか、ヘイゼルは二つ目の案もあったのか。
『媚薬、興奮薬、惚れ薬、そして感度増加薬をビタミン剤と一緒のボウルに入れて、一個ずつ食べて反応を楽しむって……流石にコンプラ的にダメだわ』
『それがいいんじゃないですか!!』
やばいな、尊厳の方を破壊しにきている。絶対にやりたくない。
『いい企画を考えておくから楽しみにしててちょうだい。おやすみ』
『カフェ巡り……楽しいのに……』
『くっ!次は認めさせてもらいます!それでは皆さん、おやすみなさい』
なんか嵐のように過ぎ去ったな。
……てか待って、俺の初披露目の話なのに俺、何も言ってない。流れが激流すぎて会話に入らなかった。次からは頑張って入らないと。




