D-19 幻想魔法
場所は変わらず、先ほどのご飯を食べた部屋だ。ただ、トレッスルテーブルは片付けられ、広い空間が確保されている。
そして、俺はWJDDFと向かい合っている。他の奴らは安全な場所で観客になっている。なぜか、俺がWJDDFと一対一で戦うことになった。スタートの合図はフェリールが行う。
「全力でかかっていいんだな?」
剣を握りしめ、いつでも動けるように身構える。
「あぁ、でなければ意味がない」
息を整える。
「ようい……始め!」
合図と同時に、WJDDFへ突撃する。
剣を首目掛けて振り抜く。だが、WJDDFは腕を掲げ、難なく受け止める。剣を弾いた腕には、びっしりと鱗が生えていた。
弾かれた剣を返し、そのまま振り下ろす。WJDDFは片腕で受け止めると、もう片方の腕を振り抜いてきた。
俺は拳をスレスレで避け、その勢いのまま斬り返す。
斬る。弾かれる。殴られる。避ける。
互いに攻防を切り替えながら、その場をほとんど動かずに斬り合う。
WJDDFの攻撃を弾き、距離を取る。今の近接戦は、所詮小手調べだ。俺もWJDDFも、本気を出していない。
WJDDFは翼を広げる。そして、指をクイクイッと動かした。
――誘っている。
なら、お望み通り誘われてやろう
先ほどよりも速く、WJDDFへ斬りかかる。
しかし――WJDDFはその場にいなかった。
「ッ!!」
瞬間、WJDDFが俺の頭目掛けて上から殴りかかってきた。すんでのところで避けることができたが、WJDDFは翼を使って飛んでいる。
ここから空中戦だ。しかし、俺は空を飛べない。……投げるか。
「!?」
俺は剣をWJDDF目掛けて投げつけた。まさか、自分から武器を手放すとは思わなかっただろう。
WJDDFの顔に驚きが浮かぶ。その隙を逃さない。
「幻想魔法ーーグングニル!」
WJDDFの背後に、グングニルを顕現させる。
今まで、グングニルを出現させられるのは自分の手元だけだった。だが、日々練習によって、距離が離れていても出現させられるようになった。
グングニルがWJDDFの背後から貫く――はずだった。
「幻想魔法ーーグレイプニル」
WJDDFの言葉と同時に、空中に縄が現れる。
縄はグングニルに絡み付き、その動きを封じた。
WJDDFが幻想魔法を使うとかアリなのか?!?!
「お前が使う幻想魔法はグングニル――即ち必中の槍。しかし、我が扱う幻想魔法はグレイプニルだ。効果は絶対に千切れぬ縄」
WJDDFが、グレイプニルを軽く引く。
「絶対に千切れぬ縄が必中の槍を拘束する。お前のグングニルでは我の縄は千切れぬ。練度が違うからな」
「……なるほど」
切り札を封じてきたわけか。幻想魔法について聞きたいことができた。だが、今は構っている暇がない。
――次の攻撃が来る!
***
ここはWJDDFが作り出した結界。この中にいれば、戦いの余波に巻き込まれることはない。
「WJDDFは幻想魔法を使えるのか……」
フェリールが呟く。
「幻想魔法に適正があれば使えても不思議ではないね」
アランが答える。
「私もWJDDFが幻想魔法を使えるなんて初めて知ったわ」
七色の魔女であるシヴァニアが言う。知見も深いシヴァニアが言うのなら、これを知る者も少ないだろう。
「それは後でWJDDFに聞けばいいっしょ。それよりも見て。グングニルが合計で十七本も顕現してる」
ジエンはグングニルを拘束されるたび、隙を見つけてはグングニルを顕現している。その結果――空中には、グレイプニルに拘束されたグングニルが十七本も浮かんでいる。
あまりにも多すぎるグングニル。空中を埋め尽くし、身動きを取ることさえ難しいほどだ。
***
「幻想魔法――グングニル……!」
これで十八本目の槍。さすがにキツくなってきたな。これ以上の同時維持はできない。
「十八本の同時維持か……お前、本当に人間か?」
「これでも、実力者だと自負しているからな……!」
五十年以上も世界を渡っているからな。嫌でも実力はついてしまう。
「されど、これ以上は幻想魔法を使えまい。次はどうする?」
「ああ、そうだな……次は、こうしよう」
再度、先ほど投げた剣を顕現させる。WJDDFの目が見開く。
そりゃそうだ。WJDDFは剣を避けたあと、その剣がどこへ行ったかなんて見ていない。壁に刺さっているとでも思っていたのだろう。
だが、現実は違う。俺の剣は、一定以上離れると自動的にアイテムボックスへ収納される。
つまり――投げても、勝手に俺の元へ戻ってくる。
剣を構え、空中にいるWJDDFに突っ込む。
WJDDFは難なく、俺の攻撃をかわした。
普通なら、このまま壁にぶつかる。
空中では、方向を変えられないから
――何もなければ。
「……!!」
WJDDFの後ろにあったグングニル。
俺はそれをを足場にして、空中で体の向きを変える。そして、再び、WJDDFへ突っ込む。
WJDDFは剣を逸らし、翼と腕を大きく振るう。その風圧に吹き飛ばされる。俺は近くにあるグングニルを掴み、その上に乗った。
「さてと、これで空中戦ができるようになったな」
「グングニルを足場に使うか……。もし、我が足場を崩すためにグレイプニルを解除すれば、グングニルが我を貫くと」
「そうだな」
剣を構える。
「ふっ、見事。ならばここまでとしよう」
「は?」
え?いやいや、ここからが楽しいところなんだが。
「もし、このまま続けたのならば、我はお前をグレイプニルで拘束してしまう。そしたらお前はどうする?」
「拘束された部位を切落とす?」
俺は四肢を欠損したり、腹を貫かれたりしてもすぐに再生できる。今思えば、これは不老不死だからこそなのだろう。常人に比べて再生能力がかなり高くなっている。
「そんなことをしたら、食後の運動としては不適切すぎる」
「たしかに」
そういえばこれは食後の運動だったな。あまりにも熱くなってしまったから忘れていた。
「なら、グングニルを解除してくれ。気になる話があるだろう?」
そうだ、WJDDFの言う通りだ。さっさと解除しよう。WJDDFでも、この量のグングニルを受けたらひとたまりもない。
そうだ、さっさと……解除、しなくては、いけない……の、だが……
「……どうやって、解除するんだ?」
「我が知るわけなかろう? いつも通りにやればいいのではないか?」
「いや、大体は標的に命中して消えるんだ。標的を設定せずに顕現させたグングニルを解除したことはあるが……今みたいに、標的を決めた状態で止められたのは初めてでな。やり方が全くわからん」
「……そういうことか」
WJDDFは空中に浮かぶグングニルを眺める。
「グングニルは必中の槍であるから、命中するまで消えないということか……!」
「ならWJDDFに命中すれば消えるってことだな」
「それでは本末転倒であろう!」
ここで、観客席からみんなが降りてきて、俺たちの元へ集まってくる。そして、今の状況――グングニル問題を共有する。
「単純に結界と盾で凌ぐのは?」
エレスが提案する。オーソドックスで、真っ先に思いつく方法だ。
「無理であろう。グングニルとは、必中の概念を備えた槍である。防ぐことはできぬようになっているはずだ」
「さっきから気になってたが、グングニルについて詳しいのか?必中の概念を備えているなんて俺も知らないんだが」
WJDDFはグングニルを必中の槍と言っていた。
「俺よりも幻想魔法に詳しいのはなぜだ?」
「それは、この問題が片付いたら話そう。さっさと案を絞り出してくれ」
そうか。
「グングニルは解除できなくても、威力を抑えることはできないか?」
フェリールが言う。
「無理だな。威力は発動した時点で固定されている。今からは変えられない」
こればかりはどうしようもない。威力を下げられたらいいんだがな。
「……WJDDFを、アンニル団の基地に、退避させる……のは?」
ダスティンが新たな案を出す。
「アンニル団の基地は異世界にあるのだろう?それなら我には当たらないかもしれない。しかし、それではグングニルがこの城に留まることになる。我がこの家に帰れなくなる」
「諦めて新天地探そう」
「我はこの家を絶対に諦めぬが!?」
さすがに故郷に帰れないのは酷だな。
「質問〜、一本だけ貫かれるのは大丈夫そ?」
イグネリアがWJDDFに聞く。
「それなら……まぁ」
「なら、一本ずつ貫かれて、貫かれるたびに全回復ってのはどう??」
「それは嫌だ!!」
わがままだな。
まぁ、さすがに十八回も貫かれたくはないだろうな。でもこれが一番可能性がある案だな。
「なら、グングニルに攻撃して消すのはダメなのかしら?」
シヴァニアが案を出す。
「グングニルと同程度の力をぶつければ消えると思うが……そんなこと出来るのか?」
少なくとも俺にはできない。
「我の試算では、最上級魔法十回分を一点に凝集すればいけるであろう」
「それは私でも無理ね」
案は出し尽くしたのか、皆が黙りこむ。
仕方ないな。
「……どうやら、WJDDFの旅はここまでのようだな」
「え?」
「あーたと出会えて……あーしは嬉しかった……!」
「そう、だね。寂しくなるね」
イグネリアとアランが乗る。
「いや、待っ…」
「えっ、と……ナイス、ファイト……?」
「我、見捨てられる感じか?」
ここまで、手詰まりだと見捨てるしか方法はない。エレスとフェリール、シヴァニアからも反対意見は出ない。
「くっ!イグネリアの案を受け入れるしかないのか……」
WJDDFが覚悟を決めたとき、俺の頭に新たな案が浮かんだ。
「そうだ、グングニルにはグングニルをぶつければいいんだ!」
目には目を歯には歯をだ。
「……これ以上、グングニルを同時維持できるのか?」
「それはできない。だが、一本消えれば、一本だけ顕現できる。それで、新しく顕現したグングニルを別のグングニルにぶつければいいんだ」
やばい、名案すぎてIQを見せつけてしまったな。
「……一本は貫かれる計算になるが」
「十八本よりはましだろ?目を瞑れ」
「……」
WJDDFは渋々立ち上がり、グングニルの前に立つ。覚悟が決まったようだ。
「スゥ……ハァ…………さぁ、来い、グングニル! 我にその輝きを見せてみろ! グレイプニル解除!!!」
グレイプニルが解除され、WJDDFに向かってグングニルが飛翔する。
「グハァ!!!!!」
見事、腹に命中。WJDDFは壁に吹っ飛ばされる。
エレスと俺以外はWJDDFの治療へ向かう。エレスはここで待つらしい。
「幻想魔法――グングニル」
さて、お掃除の時間だな。
***
「治療、感謝する」
大きなバッテンの絆創膏を頭に貼ったWJDDFが、玉座に座っている。絶対、絆創膏が貼ってあるところは怪我していないだろ。そういう演出か何か?
「さて、お前たちが気になっていること――幻想魔法について話そう」
ついにか、なんかどっと疲れるたな。椅子にだらぁっと座ってしまう。
「幻想魔法とは、ある異世界人が作ったものだというのは知っているであろう?」
「そうだね」
「その者は自身の故郷に存在した神話をもとに幻想魔法を作った。そして、いずれ来る災厄に対抗するため、幻想魔法を記した魔導書を世界にばら撒いたのだ」
「ちなみにその異世界人ってのは目隠しをしていて、身長が160cmぐらいか?」
「ん?……そうだったな」
なるほどな。
「リサ、サンの故郷のデータベースでグングニルとグレイプニルを検索してくれ」
『わかったわ』
リサが返事をする。そして、数秒後には検索し終わっていた。
『北欧神話がヒットしたわ。北欧神話において、グングニルは必中の槍。そして、グレイプニルは神々をも恐れる巨狼でさえも断ち切ることのできない縄よ。名称と効果も幻想魔法と一致しているわ』
「ならその異世界人ってのはサンで決定だな」
「異論な〜し」
「ここまで証拠が揃ってんなら親父だろうな……」
イグネリアとフェリールが同意する。
「我からは異世界人について何も言えぬが、お前らがそう思ったのならそうであろう」
WJDDFは結構難しい立ち位置にいるみたいだな。
「それはともかく、なぜ我が幻想魔法に詳しいかというと、異世界人が幻想魔法を作った場面に居合わせたからだな。ついでに、我に適合する幻想魔法――グレイプニルを作ってくれたのだ」
へぇーそれでか。
「これで疑問は解消されたか?」
「そうだな、俺からは特にない」
他のみんなからも、特に質問は出なかった。
「それなら、次に行こう」
「次?」
「魔王討伐に必要なもの――聖剣についてだ」




