D-18 ホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバー
「おはよう、気持ちのいい朝だな」
「ふっ……そうだな」
宿の庭にて朝日を眺める。あまりにも目覚めが良過ぎて、水も滴る良い男になってしまった。
「なんでジエンはびしょ濡れなんだ?」
フェリールが当然の疑問を口にする。
「エレちゃんの特製目覚まし冷水シャワー」
「エレちゃんって呼ぶのはやめてくれ」
いやぁ、目が冴え過ぎて体が震えちまう。こんな極寒の土地じゃ仕方ないか!あっはっは!
「ひ、ひくちゅ!毛布くれぇ〜」
「はいよ、次は早く起きるように」
「はぁい」
寒さに体を震わせながら毛布を被る。
やはり、夜更かしして新技の開発をしたのは良くないな。しかも、夜更かし現場をエレスに見られたのが運の尽きだ。あの時のアレスの冷め切った目……とても怖かった。
あの瞬間、俺は悟った。冷水をぶっかけられると。
「みんな、出発するよ」
アランから呼び声がかかる。俺が起きた頃には、とっくのとうに出発する準備が整っていた。
ここから2日かけてホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーの生息地に向かう。もちろん、道中に人が棲んでいる場所はない。馬車は宿に置いて行くことになった。
「ひ、ひくしょん!さ、寒いぃ」
ハセミアを発って数分、まだまだ寒い。防寒着は着ているが、服の中まで冷え切っていては意味がない。
「あったかいお茶だぜ」
「ありがとう……」
少し冷ましてからずずーっと飲む。エレスは飴と鞭の使い分けが上手い。
「エレス、流石にこの気候で冷水を浴びせるのは良くないんじゃないかな?」
「そう、ですよね。確かに、ジエンには酷なことをしてしまいました……」
エレスがアランから咎められる。そうだそうだ、もっと言ってやれ。
「ごめんな、ジエン」
「い、いや、俺が起きなかったのが悪いんだし……」
真正面で謝られると、少しやりづらいな。
「仲直りできてよかったわ」
シヴァニアが安堵したように呟く。
「そもそも仲違いはしていなさそうだがな。全面的にジエンが悪いだけだから」
フェリールに追い打ちをかけられる。他人事だと思って好き放題言いやがる。
まぁ、俺もこの寝起きの悪さをどうにかしたいな。前まではスッキリと起きれたのに、アンニル団に入ってからこの様だ。アンニル団が悪い可能性があるのかも。
『アンニル団は関係ないわよ』
「だから、俺の心を読むなって」
いきなり現れたリサに心を読まれる。びっくりするから一声かけてほしい。
『それはもうジエンの体質だと思って受け入れなさい』
「……何か知ってるのか?」
『ふふっ』
リサは扇子で口元を隠しながら不敵に笑ったかと思うと通信を切った。これを言うために来たのか?
「そういえば、リサは最近悪役令嬢の練習をしているんだったか?」
「そうだね〜、いい感じの不敵な笑みキメれるようになったから、お披露目しに来た説が微レ存じゃね?」
なんでアンニル団のリーダーが悪役令嬢の練習をしているんだ。
***
二日後、ホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーの生息地に辿り着く。
生息地と言うからには雪原とか、山頂の巣にホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーがいると思っていたが、現実は違った。
「すっげぇ綺麗な氷の城だな」
目の前には山の頂より高い巨大な氷の城。近づくまで見えなかったことから、一定距離内に入らないと見えない仕組みになっているのだろう。
「ここがWJDDFの家だ」
家……家って表現して良いのかわからないな。
フェリールが入り口である大きな扉にノックする。すると、ひとりでに扉が開いた。
「さ、行くぞ」
フェリールはズンズンと中を進んでいく。フェリールの後に続く。
中も外と同じ氷で作られている。内装は一般的な城だな。インテリアやシャンデリア、絵画などは流石に氷ではなかったがな。
階段を登り、通路を進み、階段を登る。そして、通路を進み、別の階段を降りる。そしてまた別の階段を登る。
……なんだこれ、増築を繰り返して通路や階段がぐちゃぐちゃになった老舗旅館みたいじゃないか。
「フェリール、まだ進むのか?」
かれこれ五分以上は歩いている。内観もほとんど変わらない。同じところをぐるぐる回っているみたいだ。
「もうすぐ着く……ほら、あれだ」
曲がり角の先に一際豪華な扉がある。
扉を開ける。すると、
"パァァァアアアン!!!!"
クラッカーが鳴り響く。煙と紙が視界を塞ぐ。
「ようこそ、我が城へ」
やがて煙が晴れる。
そこには玉座があり、一対の白い翼を携え、頭にはツノを生やした青年が座っていた。
***
用意された席に案内される。そして、目の前にはたくさんの料理が並べられている。明らかに食べ切れる量ではない。
「安心してくれ、お持ち帰り自由だ。消費し切るのに時間がかかるのならば、この時間固定魔道具をやろう。これがあれば半永久的に保存できるぞ」
玉座から声が届く。お持ち帰り自由に加え、魔道具までくれるなんて。気前がいいな。
「自己紹介がまだだったな。我はホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバー、通称WJDDFだ。ホワイトなんちゃらは正直言ってくどい。我のことはWJDDFと呼ぶように」
やはり、彼がホワイト…………WJDDFのようだ。穏やかな気質、敵意のない声、そして優しい笑み、フェリールの言う通り、討伐が必要な相手とは思えない。
「お前たちがここに来た理由はフェリールから聞いている。安心しろ、人類を滅ぼそうなどと思ってはおらぬ」
WJDDFはそう断言した。やはり、イライザの予言が間違ってたんだろうか。
「それにしても、フェリールよ。道に迷ってたな?」
「仕方ないだろ。この前に一回訪問しただけでこの城の間取りを覚えられるわけないだろ?」
それはそう。もう少し、わかりやすくしてほしい。
「それよりも、長旅で腹を空かせているだろう?心ゆくまで食らうといい」
「いただきます」
初めにステーキを食べてみる。
まず香ばしい匂いが口の中に広がる。一口嚙むたびに肉の繊維がほどけ、舌の上に赤みの濃い旨味が広がる。
美味しい。
「飲み物は何がいい?酒、果実水、紅茶、コーヒー、エナドリまで揃っておるぞ」
「おい、最後に変なの混ざってるぞ」
フェリールがなんか言っているが無視だ無視。
「エナドリを大至急」
それよりもエナドリだ。この世界に来てから一口も口にしていなかったからな。体が求めているってもんだ。
グラスにエナドリが注がれる。これだこれ、この匂い。たまんねぇな。
「えなどりとは何なんだ?」
エレスが言う。この世界にエナドリなんてないもんな。本当ならエナドリをザナティスで買いたかったがお金がなかった。アレルハライド救世の任務が終われば金が支給される。これでエナドリをたくさん買うぞ!!
「エナドリは異世界の飲み物だ。昔、とある異世界人から貰ったものだ。時間を固定しておったから消費期限は切れてないぞ?」
時間固定とかめっちゃ便利だな。
「異世界人ね……。どんな人なのかい?」
アランが問う。
「すまぬが、それは言えぬ」
残念。
「予言で我が世界を滅ぼすことについて話しておこう。そこまで難しい話ではないから食いながらで構わない」
ようやっと本題か。ステーキをむしゃむしゃ食べながら耳を傾ける。
「そも、我は魔族――モンスターである。故に魔王の影響を少なからず受ける」
WJDDFは足を組んで話を進める。
「魔王がニヒルとなりて世界を滅ぼす、というなら我もその影響からは逃れられない。ニヒルとはそういうものだ」
なんかニヒルについて知っている口ぶりだな。
「そうなれば我も自我を失い、ニヒルに変質した魔王と共に世界を滅ぼすだろう。予言はその景色のことを言っている。すなわち、魔王を倒せば我は世界を滅ぼさない」
なるほどな。イライザの予言は当たっている。ただ、バッドエンドの先の未来を予言しただけだ。
「ちょっと待ってくれないか。私たちには直接関係ないと思って言及はしていなかったが、流石に気になることがある」
アランから待ったがかかる。
「ワームがニヒルに侵されていると聞いたから、ニヒルは疫病の類なのかと思った。だが、WJDDFはニヒルに変質したと言っている。具体的にどんなものなのかを説明してもらいたい」
俺は知っているぞ。無限に増殖して世界の運命機構に干渉する激ヤバ現象。そして、あれだな、ほら、あれ…………やっばい、肝心なところが思い出せない。
『それについては私からご説明しましょう』
いつのまにか、ヘイゼルが通信を繋げていた。ヘイゼルから説明があるみたいだ。おさらいといこう。肝心なところを思い出せるかもだし。
『ニヒルとは世界の運命を閉ざす現象、そしてその現象を引き起こすモノの総称です。そして、モノは大きく分けて3つに分類されます』
ほうほう。
『一つ目は王です。これに関しては今のところ八体しか確認できていない超激レア個体です。ニヒルは基本的にこの王から広がっていきます。私たちアンニル団の最終目標でもあります』
え?王が最終目標だったのか?……知らんかった。
『二つ目は病原菌個体です。これは細菌やウイルスなどのように感染していくモノです。ワームはこのニヒルに感染したということですね』
なるほど。感染とかかなり厄介だな。
『そして、サンつ目は変生個体です。これはある日突然、ニヒルに生まれ変わってしまった個体を指します。これに関しては具体的に何が原因で変生してしまうかは場合によりけりです。王と共鳴してしまったか、あるいは何かの間違いで生まれてしまったか。この世界の魔王はこの変生個体に分類されます』
癌みたいなバグか。
『これでニヒルの説明は以上です。アラン、この説明で満足していただけましたか?』
「あぁ、満足だよ。説明ありがとうね」
『はい、それではWJDDFの話に戻しますね。私は新刊を描きに戻ります』
そう言ってヘイゼルは通信を切る。
「話を戻されたが、我からは特に言うこともない。今は食事を楽しもう。デザートもあるぞ?」
「わーい!」
ここからデザートもあるとは楽しみだな!WJDDFはデザートを運びにいくと言って部屋を出ていった。
扉が開かれ、台車と共にWJDDFが入ってくる。そして、目の前に運ばれてきたのはハニートースト。しかもデカ盛りだ。
なんだ……これ、高さ1mはあるぞ。食べ切れる気がしない。だが、救いなことに俺たち七人で一つのようだ。食後じゃなかったら食い切れていただろう。つまり食後では食いきれない。メイリアを呼べ。
「久しぶりの来客だから張り切ってしまったぞ。腹が満たされるまで食え」
「わ、わーい」
***
「もう……むり……」
「そんな……!!ダスティンが最後の希望なんだ!」
「どうか頑張ってくれないか……!」
あんな巨大なハニートーストを前に俺たちは覚悟を決め、食いまくった。結果としてハニートーストの四分の一は食べた。たったの四分の一と感じるかもしれないが、食後のデザートとしては頑張った方だろう。
そして、最後まで諦めずにハニートーストを食べていたダスティンも力尽きてしまった。
ちなみに、シヴァニアとイグネリアは体型が気になるから……と言って早々にリタイアした。不老不死であるイグネリアは体型が変わらないため、リタイアした後もフェリールにハニートーストをねじ込まれていた。可哀想。
「あのな、お前たち、お持ち帰り自由で時間固定魔道具もやると言ったであろう。なぜ、無理をする」
「あ……」
確かに、すっかり忘れてた。
「……よし、ダスティンはしっかり休んでくれ」
アランは奮闘したダスティンに声をかける。
ダスティンは背もたれに体を預けている。とても辛かったんだろうな。
「よし、それでは食後の運動といこう」
WJDDFが言い出す。
「今から?もう横になって休みたいんだが」
腹一杯で横になりたい。牛になっても構わない。
「そうだ、それにお前たちにも利はあるぞ?」
「たとえば?」
「我と戦ったら異世界人について少しは教えてやれるぞ」




