D-17 孤高(笑)を行く狼
セレネイガを発って四日目、昼頃までにはハセミアに着くだろう。
「おい!何か来るぞ!!」
エレスの声を聞き、前を見てみる。
「魔物の大群がこっちに来ているな」
「かなり多いね」
ざっと見ただけでも三百体以上はいる。
『探知したら五百体はいたわ』
もっと多かった。
「とりまダスティンとアランが馬車を守っといて、あーしらが叩き潰すってことでオケ?」
「そうだね、それで行こう」
アランとイグネリアが話しているなか、俺は先制攻撃を仕掛ける。
「幻想魔法――グングニル!」
蒼白の槍を顕現させ、投げる。
グングニルは地面を抉りながら魔物の大群に向かって飛んでいく。
魔物の大群は飛翔するグングニルに巻き込まれ、次々に消し飛んでいく。
しかし、魔物はまだたくさん残っている。
「幻想魔法――グングニル2!」
再度、蒼白の槍が顕現し飛翔する。
轟音とともに魔物が消し飛んでいく。
しかし、まだ残党がいる。
「幻想魔法――グングニル3!」
三度目、グングニルは大地を削り魔物を薙ぎ払っていく。
だが、残党はまだ残っている。
「クソッ、これでもダメなんて……」
「やりすぎだ、バカ」
エレスにバカと言われる。
こういうのは、やりすぎなくらいがいいんだ。
地面は抉れまくっているが、この程度なら問題はない。
そのときだった。
大群の奥から大きな影が姿を現す。
「ッ!!!」
俺の視線が捉えたのは、超巨大な触手。
表面はぐねぐねとうごめき、赤紫色に光っている。
身の毛がよだつ。
俺は考えることなく、あれを消すために動く。
「幻想魔法――グングニル:The Final!!!」
渾身のグングニルを投げつける。
グングニルが触手に着弾するより早く、次の一撃を放つ。
「幻想魔法――グングニル:The Final part2!!!」
さらにもう一撃。
「幻想魔法――グングニル:The Final ・ Final!!!」
「さすがに十分だ」
エレスが何か言っている。
「幻想魔法――グングニル:Return!!!!」
「聞け!もう十分だ!」
「幻想魔法――グングニル:The End!!!!!」
「だから聞けよ!!」
「幻想魔法――グングニル:The End part2!!!!!」
「ばかばかばか、もうやめろ!!」
――そして。
気づいたときには触手と魔物の大群は消滅していた。
「どうしてあんなに幻想魔法を使ったんだよ。おかげで地面が抉れて、馬車が通れなくなったぞ」
「本当にすまん、触手が苦手なんだ。ああいうのを見ちまうと衝動的に消してしまう……」
触手のフォルム、ぐねぐねと動く様、あの色、すべてが苦手だ。
気持ち悪い。
想像しただけで鳥肌が立つ。
『もしかしてジエンは昔、触手にあんなことやこんなことされたのですか!?!?』
「されてない」
ヘイゼルの鼻息が通信越しでもわかるほど、荒くなる。
そんなに興奮しないでくれ。
「まぁ、エレスもそんなに怒らないであげて。おかげで魔物の大群は殲滅できたんだし、地面はシヴァニアが元に戻せるからね」
「このくらいなら余裕よ」
シヴァニアはそう言うと土魔法を発動する。
ボコボコに抉れていた地面は徐々に元の形に戻っていく。
「すまない、シヴァニア。感謝する」
「いいのよ、これぐらい」
シヴァニアが地面を直している間にイグネリアから声をかけられる。
「ねぇ、グングニルのあとにリターンとか言ってんたのあれ何なん?」
「新技の名前だ。良い感じだろ?」
俺には名付けのセンスがないが、以前よりもマシになっている。
今回は方向性を変えて付けてみた。
これはさすがに褒められてしまうな。
『絶妙にダサいわね』
…………え?
俺が三日三晩考えた名前をダサいと言ったのか……?
「リサ、さすがに酷いぞ」
さすがエレス、この名前の良さがわかるようだ。そうだ、もっと言ってやれ。
「ジエンはセンス皆無なのに、頑張って考えたんだ! 嘘でも褒めてやれよ!!」
エレス……?
『とどめを刺していますね。私も同じ感想ですが』
え? ヘイゼルも?
他の奴に視線を向ける。
全員、顔を逸らす。
……みんなきらいだ。
***
その後、ハセミアに無事たどり着けた。
ハセミアで待っているフェリールにみんなで会いに行こうとしたが、フェリールの提案で俺とイグネリアが先に会いに行くことになった。
「雪、すごいな」
「それな、防寒具買ってよかった~」
ハセミアはこの国の最北端に位置する町だ。
雪国であるため防寒は必須。
しなかったら凍死だ。
ハセミアに着いて一番最初に買った。
「純粋な疑問なんだが、防寒着着ているときって尻尾と耳はどんな感じなんだ?」
イグネリアの防寒着には尻尾と耳を通す場所がない。
アレルハライドには獣人がいないから仕方ないと言えば仕方ない。
「めっちゃ最悪〜。窮屈だし動けんし、パツパツの服ムリヤリ着せられてる感じ~」
「そんな感じなんだな」
獣人の感覚はわからないが、パツパツの服を着せられるのは嫌だな。
話しながら雪道を歩く。
ハセミアから少し離れて、森の中を進む。
フェリールが指定した場所はここら辺だが……
「あ、あっちからフェーちゃんの匂いがぷんぷんする〜」
さすがは獣人、鼻が利くんだな。
イグネリアが指した方向に進むと焚き火があった。
その傍に大きい尻尾と耳を生やした獣人、フェリールがいた。
「お、来たか」
「お前は……! サン宛のラブレターをみんなに公開処刑されたフェリールだな」
「うわぁぁぁぁああああ!!! なぜ知ってる!? 誰だ! イグネリアか?! イグネリアが教えたのか?!?!」
「てへぺろ」
フェリールが発狂する。
発狂しているせいで整った顔がこれでもかと歪んでいる。
第一印象としてはばっちりだな。
こんな強烈な初対面は初めてだ。
「なぜ教えた!!! なぜ教えたんだ!!!!!」
「だって、あのラブレターはアンニル団の共有財産っしょ? ジエピが知る権利はあるに決まってんじゃ〜ん」
「おいジエン!! 記憶を消せ!!! 今すぐにだ!!!!」
そんな無茶な……
***
フェリールが落ち着いた後、俺たちは焚き火を囲むようにして座った。
リサ達から共有されているとは思うが、念のためこの世界での出来事や今までの経緯をフェリールに話した。
「そうか、あの手紙の中身は知らないんだな」
「一番気になるとこそこなのか?」
「いつか絶対に教えっから期待してちょ?」
「絶対やめろ」
断固拒否の姿勢を崩さないフェリール。
尚更手紙の内容が気になってくる。
あとでこっそり教えてもらおう。
「それにしても、勇者が世界を救うために裏切った可能性にジエンが勇者になりかけている……。今の状況が良いのか悪いのか、まるでわからん」
「少なくとも世界滅亡とかゆう最悪は免れてるっしょ」
「そうだな。それは確実だ」
世界滅亡はしないしさせない。
それより、勇者の存在が少しノイズだ。
精霊の言葉通り世界を救おうとしたのか、はたまた別に意図があって裏切ったのか。
そもそも、裏切ったという事実すら怪しくなる。
それに加え、アラン達は勇者のことを嫌っている素振りがない。国中があんなに勇者のことを嫌っているというのにだ。
つまり、アラン達は何かを隠している。
いっそのこと勇者を嫌っていたらわかりやすかったんだがな。
「俺の方からも情報がある。WJDDFの討伐は必要なさそうだ」
フェリールから意外な情報が入る。
「そうなのか!?」
「あぁ、これに関しては実際に会った方がわかりやすいから詳しくは言わない」
ならイライザの予言は外れたってことなのか?
まぁ、実際に会ってみればわかるのか。
「そして、今から話すのが一番重要だ。だが、その前に聞きたいことがある」
フェリールが俺と目を合わせる。
「この国に来て、不思議なことはなかったか?」
「空が変」
「それは初耳だ」
「あーしも」
なんだと。
まさか情報が共有されていないとは。
無用な混乱を避けるためとかか?
「……まぁ、それに関しては後から聞こう。他にはあるか?」
他か……他というと、あれしかない気がする。
この国に来て一番初めに不思議に思ったこと。
他の国では絶対にあり得ないこと。
「…………国の名前が見当たらない」
フェリールが頷く。
正解みたいだ。
「そうだ、この国の名前が失われている。いや、正確に言えば名前が奪われている」
「奪われている……? そんなことできる奴がいるのか?」
名前とは、とても重要なものだ。
記憶を失って名前を忘れることはよくある。
しかし、この場合は脳が覚えていないだけで、体や世界がその名前を覚えている。
だから、その名前は完全には失っていない。
つまり、名前を失う――つまり奪うには本人の記憶や体、そして世界から、その名前を取り除く必要がある。
そんなことできる奴がいるのか?
「俺の知っている限りだと、親父とニヒルは名前を奪うことができる」
毎度恒例になりつつあるサンの名前が出てきた。
「サンってほんと何なんだ? 規格外に規格外を重ねていってるが」
「俺も知りたい」
イグネリアも頷く。
これは未だ解消されていない、サンに対する疑問なんだろう。
「話を戻すが、サンが関わっていないことは明白だ。ならこの国の名前を奪ったのはニヒルになる」
確かに、サンにはこの国の名前を奪う理由がない。
「国の名前がニヒルに奪われている。つまり、この国全てをニヒルが掌握していても不思議ではない」
名は体を表す。
つまり、名前=体でもある。
名前を握れば体――つまり、この国を握ったも当然だ。
「それでもニヒルはこの国を支配していない。そこには何らかの理由があるはずだ」
フェリールが言う。
名前を奪ったのなら体を掌握しないのは変だ。
『話の途中で悪いけど新しい情報が来たわ』
リサが通信を繋げる。
今回もいきなり繋がったからちょっとびっくりした。
『観測の結果、魔王がニヒルであることが確定したわ。ついでに、勇者らしき存在も確認できているわ。かなり衰弱しているけど』
それはよかった。
やっぱりっていうか当たり前なんだが、勇者は魔王の近くにいるんだな。
それにしても、勇者が衰弱しているのは何でだ?
封印の際に何かあったのか?
「魔王がいる位置はわかるのか?」
フェリールが問う。
『それが何もわからないのよ。なぜか座標がエラーになるわ』
つまり、場所はわからないってことだな。
まぁ、アラン達は一度魔王の元に辿り着いているし問題はないだろう。
『それに、魔王と勇者に加えて、一人の人間の存在も確認しているわ。誰かまではわからないけどね』
魔王と勇者以外に人がいるのか。
どういう状況なのか全くわからないな。
「とりま、今わかっている情報をまとめとくね〜。魔王がニヒルってことだから、あーしらの目標はこの魔王で決まり〜」
イグネリアが今までの情報をまとめてくれる。
「そして、国の名前がニヒルに奪われていること。この二つが確定している情報だ」
フェリールが補足する。
『空の違和感と勇者の調査はあたしの方でも進めておくわ』
「助かる」
やはり、後方支援がいてくれると楽だな。
こうやって調査してくれるから。
アンニル団同士の密談はこれで終了だ。
この後は、アラン達にフェリールを紹介しに行く。
***
場所はハセミアにある宿。
さすがに大人数になったからアンニル団とアレルハライド組で部屋を分けることになった。
今はアレルハライド組の部屋にみんな集まっている。
「俺はアンニル団のNO.5、フェリールだ。よろしく頼む」
フェリールがアレルハライド組に挨拶をしている。
「私はアランだ。よろしくね」
アランを皮切りにアレルハライド組が自己紹介する。
初対面の挨拶も終わり、フェリールからホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーについてみんなに話す。
「WJDDFの討伐は必要ない……? イライザの予言が外れたってことなのか……?」
アランはかなり驚いている。
「そんなの……ありえるの?」
「私はイライザが予言を外したことなんて聞いたことないけど……」
ダスティンとシヴァニアも驚愕している。
イライザの予言が外れることを信じられていないみたいだ。
エレスも顔をしかめているから、同じように思っていそうだ。
「これに関してはWJDDFに実際に会った方がわかりやすい。明日のうちにハセミアを出発しよう」
フェリールが提案する。
アレルハライド組も俺たちも、反対意見はない。
明日、ホワイトジャガーデストロイドラゴンフィーバーの生息地に向かうことに決まった。
***
あの後、アレルハライド組の部屋を出て自分たちの部屋に戻った。
『ようやくアンニル団が揃ったわね』
「サンとシュウゴはいないみたいだけどな」
ここにはサンとシュウゴを除いたアンニル団のメンバーが集まっている。
『サンとシュウゴは色々あるから仕方ないわ』
「そうなのか」
さっさとサンに会って記憶を取り戻したいものだ。
あと右ストレートも二人に打ち込まないとな。
『ジエンには、アレルハライドを救済したらちゃんとした歓迎会を開くから楽しみにしてて!』
「この間のゲーム大会とは別に?」
『別だよ!』
それは楽しみだな。
「ちょい待ち、ゲーム大会? 聞いてないんだけど!」
「俺も知らない」
おっとぉ?
「あーしらを除け者にしたの?!?!」
「俺のグレープジュースは飲んでないだろうな?」
グレープ……ジュース?
確かにあの時に飲んだが、俺はリクエストしただけで用意したのはリサだし関係ないよな……?
よし、話を逸らそう。
「そういえばゲーム大会で思い出したんだが、あのエメラルドグリーンに発光するエナドリって何だ?」
瞬間、リサ以外が固まる。
そんなにやばい代物なのか?
ただ、別の話題を提供しただけなんだけどな……
「ジ、ジエピ、飲んだの……?」
「い、いや、危なそうだったから飲んでない」
リサ以外の全員が安堵のため息をこぼす。
「そ、そんなにやばいのか?」
「……あれはシュウゴと親父が共同で開発したエナドリ。一口飲めば、七日間は眠らずに活動できるけど、七日過ぎたら三日は目覚めなくなる」
ゲロやべぇ代物だ。飲まなくて正解だな。あの時の俺の危機管理能力に拍手だ。
『そんな劇物をシュウゴさんはガブガブ飲んでるんだよねぇ……』
そういえば、そんなことをリサが言ってたな。
半分冗談だと思ってたが。
『まぁ、そんなこともあるわよ。それより歓迎会のプレゼントは何がいいかしら?』
「そんなことで片付けていい話でもない気がするけどな〜。そろそろ真面目に古参メンバーの体を調べたほうがいいと思う」
イグネリアの言葉を聞き流して、プレゼントについて考える。
改めて言われると難しいけど……一つだけならある。
「なら君たちが今まで歩んだ旅路を聴かせてほしい。もし時間が足りなさそうなら記録とかでもいいから」
『あら、それでいいの?』
「あぁ、俺は物語が好きなんだ。フィクションでもノンフィクションでも。君たちの物語は聞き応えがありそうだからな」
伝記が特に好きだな。
自分ではない、他人の物語を追体験できる素晴らしいものだ。
『わかったわ。あんたが帰ってくるまでに最高のものを用意しておくわね』
今から楽しみだ。




