第95話 完璧美少女と、ヒロイン
「それでは我々は戻ります」
ステーキで腹を満たした襲撃犯たちは、そう言い残し部屋を後にしていった。数時間前まで命のやり取りをしてた相手とは思えない。
「さて……僕たちも休もうか」
部屋へ戻ろうとしたが、ふと胸に引っかかっていた疑問が口をついて出る。
「そういえば今回、第一皇子からの刺客は来なかったんだね」
「あっ」
ユウキくんが小さく声を上げた。
「じゃあ、これから第一皇子からも刺客が来るかもしれないってこと?」
一瞬、空気が張りつめる。だが、ルシオ様は静かに首を横に振った。
「……いえ。恐らく、その心配はないかと」
「ん? それはどういうことだ?」
リヒト様が問い返す。
「第一皇子であるアルノルト兄さまは……」
ルシオ様は少しだけ言葉を選ぶようにして続けた。
「裏で暗躍するようなことを嫌う、何と言うか真っすぐな性格なんです」
「真っすぐ?」
「はい。策を巡らせるよりも正々堂々戦いを挑む。それが、兄様の美学です」
「なるほどな」
カインくんが腕を組み、納得したように頷く。
「それなら、少なくとも夜襲の類はなさそうだ」
「ああ、そうだな」
アウレリオくんも同意しながら、襲撃犯たちが出て行った扉へと視線を向ける。
「それに第二皇子、第三皇子の動向は……あいつらが知らせてくれるだろうし」
「良かったぁ……これなら、安心して眠れるね」
思わず、肩の力が抜ける。こうして俺たちは、それぞれの部屋へ戻り、ゆっくりと眠りにつくことができた。
* * * * * * *
翌日。俺たちは帝国学園の教師に案内され、今回お世話になるクラスへと向かった。教室の扉が開くと、ずらりと並ぶ視線がこちらに突き刺さった。
――うん、見られてる。めちゃくちゃ見られてる。
「帝国学園へようこそお越しくださいました」
教師に促され、一人の生徒が前に出る。
「はじめまして。私は委員長を務めています、エルヴィナ・クロイツと申します」
淡い金髪を肩で切り揃えた、真面目そうな少女。
「少しでも早く学園に馴染んでいただけるよう、私がお手伝いさせて頂きます」
「うむ。よろしく頼む」
リヒト様が一歩前に出る。
「私はアルトリウス王国第三王子、リヒト・フォン・アルトリウスだ」
「カイン・フォン・ヴァルデンです」
「ユウキ・アマミヤと言います」
次々と挨拶が続き、ついに俺の番が回ってきた。
「うふふ……わたくしはレオーナと申しますわ」
俺は頬に手を当て微笑む。
「皆さん、仲良くしてくださいね?」
そこにいたのは黒髪ロング、王国学園女子制服に身を包んだ美少女。そう、女装した俺である。
(大事なことなのでもう一度。女装した俺だ!)
昨夜の襲撃が成功したという偽情報を皇子たちにつかませるため、俺は死んだことになっている。そこで俺はマリアさん渾身の女装で帝国学園に通う事となった。
首元には、某有名アニメの眼鏡の少年探偵でおなじみの、声を自在に変えられる魔道具のチョーカーを付けているので、何処からどう見ても女の子、いや、美少女にしか見えないだろう。
『てかレオンくん、ノリノリだよね』
隣から、ユウキくんが小声で突っ込んでくる。
『こういうのはさ、思いっきりやらないと逆に恥ずかしくなるんだよ』
『そういうものなの?』
納得したような、していないような返事。
『しかし……声が違うせいで、違和感しかないな』
カインくんが笑いを堪えながら言った。
『ふふん。完璧美少女でしょ』
俺はドヤ顔で胸を張る。と、その時――。教室全体が妙に騒がしい。
(ん?)
視線を横に向けると、アウレリオくんが顔を真っ赤にして固まっていた。
『アウレリオくん。自己紹介しないと』
小声で促す。
『あ、ああ……そうだな……』
そう言ったきり、スカートの裾をぎゅっと握りしめ、床を見つめたまま動かない。
――あ、これダメなやつだ!
そう。昨夜の襲撃事件で“死んだことになっている”のは、俺だけじゃない。アウレリオくんも同じく死亡扱い。そのため、彼もまた女装している。
「えっと……こちらは、アウリナさんですわ」
完全にフリーズしたアウレリオくんを見かねて、俺は口を開く。
「ちょっと……いえ、とっても恥ずかしがり屋さんなんです」
すると、アウレリオくんが意を決したように顔を上げた。
「え、えっと……アウリナです。よ、よろしくお願い……します……」
アウレリオくんが自己紹介したその瞬間――。
「え、ちょっと可愛くない?」
「守ってあげたい!」
「アウリナさん……天使か?」
教室の男子たちが一斉にざわめき出す。
「ひっ……!」
その声援(?)を受けて、アウレリオくんはさらに顔を赤くして縮こまった。
『むきぃ~! 僕も美少女なのに!』
『いや、レオンくん。なんでアウレリオくんに嫉妬してるの?』
ユウキくんの冷静なツッコミが胸に刺さる。
(おかしい! 完璧美少女のはずなのに……!)
こうして俺たちの帝国学園での生活は、幕を開けたのだった。
――う~む。どうやら帝国学園では、俺よりアウレリオくんの方がヒロインらしい。




