第94話 襲撃犯の処遇と、不本意な偽装計画
「ふぅ~。ご馳走様でした!」
深夜の襲撃事件は、最終的にステーキパーティーで幕を閉じる事となった。
「さてと。お腹いっぱいになったし、そろそろ寝ようかな」
そう言って立ち上がり、寝室へ向かおうとした、その時――。
「待て、レオン。まだやることがあるだろ」
カインくんが腕を組んで、低い声で制止した。
「あ、そうだよね。歯を磨かないと虫歯になっちゃうよね」
「違うわ! こいつらをどうするかだろが!」
そう言って、まだ鉄板の前でステーキにがっついている襲撃犯たちを指差す。
「うっ……。分かってるよ。ちょっとしたお茶目なのに……」
「いや、レオンくん。本気で寝ようとしてたでしょ」
「はい。もう眠いです」
その場にいた全員が同時に深いため息をついた。
「まったく……話を戻すぞ」
リヒト様が軽く咳払いをして仕切り直す。
「それで、この者たちの処遇だが――ルシオ殿に任せることは可能か?」
「えっ……あ、えっと……」
ルシオ様は一瞬言葉に詰まり、申し訳なさそうに視線を落とす。
「私では……どうすることも出来ないかと……」
「だよね」
ユウキくんが小さく頷いた。
「捕まったって分かったら、この人たち……消されちゃうよね」
「……それと、襲撃が失敗したと知れたら、次の刺客が来る可能性もある」
アウレリオくんが顎に手を当てて言う。重たい空気の中、リヒト様が襲撃犯たちに視線を向けた。
「おい。お前たちは、どうしたい?」
「もぐもぐ……もごご……」
「いや、解らん……。誰も取らんから、食べるのを一旦やめろ」
「ごっくん」
口の中のステーキを飲み込んでから、襲撃犯が静かに言う。
「我々は捕まった身。貴様らの決定に従うだけだ」
美味しいステーキを食べて満足したのか襲撃犯たちは、既に覚悟は決まっている、といった顔をしながら言い切った。
「ん? じゃあさ」
俺は思いついたことを提案してみる。
「襲撃が成功したことにしたら?」
「……は?」
カインくんが眉をひそめる。
「どういうことだ、レオン」
「えっとね。その前に一つ聞いていい?」
俺は襲撃犯たちを見渡す。
「君たち、ルシオ様のスパイになる気、ある?」
「……第四皇子の下につけ、ということか?」
「そうそう。つまり二重スパイだね」
襲撃犯たちはアイコンタクトをすると、やがて全員が頷いた。
「我々に選択肢はない。このまま戻っても、どうせ死ぬだけだ。しかし――」
すると襲撃犯のうちの一人が問いかける。
「我々を信用できるのか? 所詮、裏切り者だぞ」
その瞳はルシオ様を見ている。
「……正直に言えば、不安です」
ルシオ様は一度だけ目を伏せ、しかし次の瞬間にはまっすぐ前を見据える。
「でも、私は所詮、第四皇子。兄上たちにも、相手にされていません」
拳を軽く握りしめて続ける。
「だから……私には力が必要なんです。皆さん、私に協力してくれませんか」
「……」
襲撃犯たちは、しばし沈黙した後、ルシオ様に向かって深く頭を下げた。
「話はまとまったようだな」
リヒト様が俺を見る。
「それでレオン。これからどうするのだ?」
「うん。襲撃で誰か二人くらい死んじゃったことにしたらいいんじゃない?」
「さらっと言うね」
ユウキくんに突っ込まれつつ、俺はある二人に視線を向ける。
「カインくんとアウレリオくんは公爵家だし、この二人がいいと思うんだよね」
「なるほど……だが、留学中ずっと部屋に閉じこもるわけにもいくまい」
アウレリオくんが首をかしげる。
「いや。実はこんなものを――」
俺がカバンに手を伸ばした、その瞬間。
「すまんが私は帝国でやることがあるから無理だ……って、レオン!」
カインくんが声を荒げる。
「貴様、その手に持っているものは何だ!」
「え? 何もないよ?」
俺はサッとカバンを閉じ、目をそらす。
「誤魔化しても無駄だ」
そう言って、カインくんはユウキくんを見る。
「レオンが持ってるカバンを取り上げろ」
「わかった。ごめんね、レオンくん」
「あ、ちょっ、やめて!」
勇者の力が無駄に発揮され、あっさりカバンを奪われてしまった。
「えっと……」
中を覗いたユウキくんが首をかしげた。
「……なんで、女性用の衣装が入ってるの?」
「撤退!」
俺は即座に逃げようとした。だが――。
「逃がすか」
がしっと肩を掴まれ、正座させられる俺。
「……で?」
カインくんの冷たい視線が痛い。
「私たちに、これを着せるつもりだったのか?」
「あ、三着ある」
ユウキくんが他の衣装も取り出した。
「これ、俺と同じサイズだ」
「む。これは……私のか」
リヒト様が一着を手に取る。
「それで、なぜ女性用なのだ?」
「ほら、帝国を探るために、何処かに潜入するかもしれないじゃん」
「だからって、なんで女装なの」
「皆に似合うと思ったからだよ。マリアさんもノリノリで考えてくれたし」
「くっ……あいつも共犯か!」
「なぜ三着しかないのだ?」
「あぁ。僕の分はこれだから」
俺は執事服を取り出す。
「……なぜレオンだけ女装ではないんだ?」
「え? そんな恥ずかしい格好、できるわけないじゃん」
俺はさも当然といった雰囲気を出しながら言う。
「貴様、その恥ずかしい格好を我々にさせる気だったのか!」
「まあまあ。細かいことは気にしないで」
「はぁ……まあよい」
リヒト様が溜息をつく。
「ではカインの代わりに、レオンに死んでもらうか」
「え? まあいいけど、その言い方には悪意を感じるよ?」
「えっと……私だけ女装確定なのか」
「まあまあ。絶対似合うから自信を持って」
アウレリオくんは遠い目をしていた。と、その時――。
「はい!」
自分の部屋に行っていたユウキくんが、やけにいい笑顔で戻ってきた。
「レオンくんの女装用衣装、ここにあるから安心して」
「……え? 何で?」
「出発前にマリアさんから渡されたんだよね。レオンくん用だって」
「おのれぇぇぇっ! 裏切ったな、マリアさん!」
「ふん。自業自得だ」
カインくんが呆れたように鼻を鳴らす。
「いや~、渡された時は『なんで?』って思ったんだけど……」
ユウキくんがにっこり笑う。
「こういうことだったんだね」
こうして俺の企みはあえなく破綻し、俺も女装をすることになってしまった。
――くそっ! 勇者と聖女にまんまとはめられた!




