第92話 続く襲撃と、無事(?)帝都到着
港町から帝都へと続く街道はよく整備され、周囲の景色も美しく旅人の目を楽しませていた。そんな帝都への旅は、鼻歌でも歌いたくなるような楽しい旅路となる――はずだった。
「止まれ! 大人しく降りてこい!」
平穏な風景を切り裂くように、荒々しい声が響いた。街道の先には、剣を構えた数人の男たちが横一列に並び、進路を塞いでいる。
「は~……またか……」
後ろの席から、リヒト様が盛大なため息をついた。帝都へと急ぐ俺たちは、すでに何度目かわからない襲撃を受けている。盗賊風の服装とは裏腹に、動きは妙に統率が取れており、手にしている剣も揃いのものだった。
「盗賊に偽装していますが、どこかの皇子の手の者かと」
セラフィーナさんが、どこか申し訳なさそうにそう告げる。素直に相手をしている時間もないので俺は軽く手を前に出し、魔力を流す。
「≪アウラ・ナックル≫」
「なにしてやがる! さっさと……ぐはっ!」
次の瞬間、見えない風の拳が空気を裂いた。一拍遅れて衝撃音が響き、先頭に立っていた男が吹き飛ばされる。その勢いのまま、後ろの二人も巻き込まれて地面を転がった。残った者たちも、状況を理解するより早く次々と倒れていく。
「よしっ! 完璧!」
「うむ……ここまであっさり倒すとは。敵ながら哀れだな」
渋い顔でそう言うリヒト様。
「ていうかレオンくん、魔力は大丈夫なの?」
ユウキくんが心配そうに聞いてくる。
「ん? 全然平気だよ」
「そっか。≪スカイホースくん2号≫にも魔力注いでるのに、すごいね」
そう。俺たちは今回、ミナミさんが開発した空飛ぶ馬車《スカイホースくん2号》で移動している。運転席には、事前の教習を見事にクリアしたユウキくん。そして、その動力源は、毎度おなじみ、俺の魔力だ。
「よし。周囲も安全だ。出発しよう」
カインくんが周囲を一瞥し、号令をかける。
「あ、あの……ユウキ様」
馬車が動き出す直前、セラフィーナさんが青白い顔で声をかけた。
「できるだけ……ゆっくりでお願いします」
「うん! 任せて! 安全運転でいくよ!」
満面の笑顔にセラフィーナさんもホッとした表情を浮かべる。
「ありがとうございます……何分、この速度にはまだ慣れ――」
次の瞬間。≪スカイホースくん2号≫は、自然な流れで速度を上げていった。
「ギャーーーッ!?」
――ユウキくんからしたら安全運転でもこの世界の人からしたら十分速いよね。
こうしてセラフィーナさんの悲鳴を響かせながら、馬車は帝都へ向かって突き進んでいった。
* * * * * * *
「……も、もう帝都に着いた……?」
セラフィーナさんが唖然として呟いた。港町を出て、わずか二日。眼前には、巨大な城壁と威圧感のある城門がそびえ立っている。分厚い石で築かれた壁は高く、ところどころに見張り台が設けられていた。
「うわぁ……でっか……」
思わず声が漏れた。
「ふん。王都の方が立派だろ」
すかさずカインくんが反論した。
「まあまあ。どっちも立派ってことで。それじゃ通用門へ向かうね」
ユウキくんはそう言うと、そのまま馬車を門へと進めて行った。
「身分証の提示をお願いします」
貴族用の門へ辿りつくと、門番の兵士が事務的な口調で告げた。リヒト様が、王国の紋章が刻まれたペンダントを差し出す。
「な……王国の、王子……?」
兵士の顔が引きつる。
「ば、馬鹿な……帝都まで辿り着けるはずが――」
「おい! それ以上言うな!」
慌てて上官らしき人物が割って入った。
「……あー、それで通っていいのか?」
「は、はい! お通りください、リヒト王子殿下!」
城門を越えた瞬間、背中に刺さるような視線を感じた気がした。こうして俺たちは、どこか焦った様子の兵士たちを背に、帝都へ足を踏み入れたのだった。
「ねえ……今のって」
「ああ。途中で襲ってきた連中が、我々を排除する予定だったのだろう」
カインくんが皮肉たっぷりに言う。
「うわぁ……もう全方向から敵意向けられてない?」
「仕方ないよね。第四皇子以外、全員敵なんだから」
ユウキくんもうんざりした様子で肩をすくめた。
「えっと……学園の寮は、ルシオ様の手配で安全が確保されていますので……」
セラフィーナさんが、少し自信なさげに言う。
「本当に大丈夫か? 第四皇子の勢力は小さいのであろう?」
「うっ……だ、大丈夫です! さすがにルシオ様の通う学園内で手出しは――」
そこで俺はふと疑問に思った事をセラフィーナさんに聞いてみる。
「そういえば、ルシオ様っておいくつなの?」
「はい。十二歳です」
「え。年下だったんだ」
するとカインくんが呆れた視線を向けてくる。
「……事前に説明されていただろう、レオン」
「え? そうだっけ?」
そんなやり取りをしているうちに、帝国の学園が見えてきた。こうして無事(?)帝都の学園へとたどり着いた俺たちは、楽しい学園生活に思いをはせるのであった。
――いや、本当に楽しくなるのかな?




