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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
学園編

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第91話 継承者争いと、四面楚歌

「は~……レオン、お前というやつは……」


 宿の一室に戻るなり、カインくんは盛大なため息をついた。


「いや、僕のせいじゃないよ!?」


 反射的にそう言い返す。港町での一件のあと、俺たちはすぐに宿へ戻り、リヒト様とカインくんに合流した。そして部屋に入って最初に飛んできたのが、このため息だった。


「うむ。それで……そちらの方は?」


 リヒト様が、俺たちの後ろに立つ人物へ視線を向ける。潮風に揺れていた長い髪を軽く整え、彼女は一歩前に出た。


「お初にお目にかかります」


 左手を背に回し、右手を胸に当てる。どこか洗練された、王国とは違う、帝国式の挨拶だ。


「私は、ヴァルグラン帝国第四皇子ルシオ・ヴァルグラン殿下の近衛隊長を務めております、セラフィーナ・ヴァイスと申します」


 凛とした、よく通る声だった。


「あ……お姉さんって、騎士様だったんだ……」


 思わず素直な感想が口から漏れる。


「おい! 知らずに連れてきたのか!」


 間髪入れず、カインくんの鋭いツッコミが飛んできた。


「だって助けてくれたから……」

「ん? お前たち何かあったのか?」


 今度はリヒト様が、少し表情を引き締めて尋ねてくる。


「そういえば、ちゃんと説明してなかったね」


 そう前置きして、ユウキくんが路地裏での出来事を簡潔に話し始めた。尾行に気づき、人通りのない路地へ誘導したこと。そして――。


「襲われそうになったところを、セラフィーナさんに助けてもらったんだ」

「なるほどな……」


 俺が付け加えると、カインくんは無言で腕を組み、しばし考え込む。その隣で、アウレリオくんが一歩前に出た。


「セラフィーナ殿。改めて礼を言わせてもらう」

「いえ……逆に、我が帝国の兵がご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 そう言って、セラフィーナさんは少し申し訳なさそうに視線を落とす。


「ん? あれってチンピラじゃなかったの?」


 ユウキくんが首を傾げる。


「はい。恐らく……第二皇子殿下の手の者かと」

「……すると、助けられたのは偶然ではないのか?」


 アウレリオくんの問いに、セラフィーナさんは小さく頷いた。


「実は、帝国の現状を皆様にお伝えするよう、命を受けておりました」

「それは……第四皇子からか?」


 リヒト様が確認する。


「はい。接触の機会をうかがっていたところ、怪しい兵の動きを見かけまして……」

「だから、あんなに完璧なタイミングだったんだね」


 ユウキくんが納得したように言う。


「確かに……セラフィーナさん、すごくカッコよかったよ」

「お、おそれ入ります……」


 思ったままを口にすると彼女は一瞬きょとんとした後、わずかに頬を赤らめた。


(うん。カワイイ……)

――いや、これは反則だね。


 普段は凛としている美人さんが、一瞬見せる照れた顔。破壊力が高すぎる。


「それで」


 セラフィーナさんに見とれていると、場の空気を変えるようにカインくんが口を開いた。


「帝国の状況とは?」

「……はい。現在、我が帝国では後継者争いが起きています」

「なに? 皇帝陛下はどうしている?」


 リヒト様が目を見開く。


「現皇帝陛下は、数年前より病に伏せており……今は寝たきりの状態です」


 その言葉に、部屋の空気が一気に重くなる。


「現在、第一皇子、第二皇子、第三皇子が互いに牽制し合い、次の皇帝の座を巡って争っております」

「あれ? 第四皇子は?」


 素直な疑問を口にすると、セラフィーナさんは困ったように微笑んだ。


「恥ずかしながら……ルシオ殿下の陣営は規模が小さく、他のご兄弟からは相手にされておりません」


 するとカインくんが顎に手を当てる。


「なるほど……、筋は通るな。つまり第二皇子が王国を攻め落として手柄にしようとしているわけか」

「あ……いえ……その……」


 セラフィーナさんの歯切れが急に悪くなる。


「……ん? もしかして」


 リヒト様が何かに気付いた様だ。


「他の陣営も、王国を狙っているのか?」

「……はい。その通りです」

「ほう。第一皇子か? それとも第三皇子か?」

「……両方です」

「は?」

「現在、すべての皇子殿下が、王国を攻める計画を水面下で進めているようです」

「なにそれ……僕たちの味方、誰もいないじゃん」


 思わず本音が漏れる。その言葉に、セラフィーナさんは深く頭を下げた。


「申し訳ありません……我々に、もっと力があれば……」

「いや。セラフィーナさんのせいじゃないよ」


 ユウキくんが即座に否定する。


「そうだな。帝国の内情が知れただけでも、大きな収穫だ」

「うむ。セラフィーナ殿、情報を届けてくれたこと、感謝する」


 カインくんがユウキくんに賛同し、リヒト様が礼の言葉を口にする。


「でもさ……この状況で帝都に行って、本当に大丈夫なのかな」

「ご安心ください」


 セラフィーナさんは、はっきりと言い切った。


「帝都までは私が護衛を務めさせていただきます」


 その眼差しには揺るぎのない覚悟が宿っていた。こうして俺たちは、不穏な空気を抱えたままヴァルグラン帝国の帝都へ向かうことになったのだった。

――帝国には交換留学で来たはずなのに、既に周りが敵だらけってどういうこと?

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