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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
学園編

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第89話 船上の暇つぶしと、小さな改良

「……う〜ん。ヒマだ」


 王国が誇る魔導船。その甲板の一角に、特別に設置してもらった椅子とテーブルに座り、俺はぼんやりと海を眺めていた。波は穏やかで、魔導船は風魔法と水魔法の力を借りて快調に進んでいる。


 潮の匂いを含んだ風が、ゆっくりと甲板を吹き抜けていく。椅子に深く腰掛け背もたれに体重を預けると、船体を伝ってくる微かな振動が背中に伝わってきた。規則正しいその揺れは、不思議と心地いい。危険もなく、急ぐ必要もなく、ただ目的地に向かって進んでいるだけの時間。平和で穏やかな時間は最高なはずなのに……さすがに飽きてきた。


「レオンくん。ヒマなら一緒に剣の訓練する?」


 声をかけてきたのは、甲板の端で素振りをしていたユウキくんだった。爽やかに額に汗をかきながら、それでも動きは一切乱れていない。剣先が描く軌道は、無駄がなく美しかった。


「ユウキくんも真面目だね。こんな時にも訓練なんて」

「いや、真面目って……素振りだけでも楽しいよ」


 にこっと笑うその表情に、思わず遠い目になる。さすが勇者様、笑顔が眩しい。


 帝国からの交換留学の打診を受け、俺たちは船で帝国へ向かっていた。帝国はバルトル領の南、山脈を越えた先にある大国だ。王都から馬車で向かえば、片道三か月近く。しかも険しい山越えつき。


 その点、魔導船なら三週間ほどで到着できる。船体の側面では、淡い魔法陣が周期的に明滅し、水流を押し分けるように進んでいた。文明の利器って素晴らしい。


「こらレオン。ヒマだからって気を抜きすぎだぞ」


 いつの間にか、カインくんが腕を組んで俺の横に立っていた。


「あ、カインくん。そうは言っても、やることないんだもん」

「いや、勉強とか訓練とかあるだろう」

「そうなんだけどさ……」


 言い訳しかけて、ふと目に入ったものを指さす。


「ねえ、それって魔道具だよね?」


 カインくんの腰に提げられた、筒状の道具。


「ん? ああ、これか。光の魔道具だ」

「いつも付けてるよね。何か特別なもの?」

「いや、人からもらったものだが……まあ、普通の魔道具だぞ」


 一瞬、視線が泳いだような気がしたが、深くは突っ込まなかった。


「へえ……ねえ、ちょっと見せてもらっていい?」

「構わんが、面白いものでもないぞ」

「いいのいいの。ミナミさんに、色んな魔道具を見るのが一番の勉強だって言われたからさ」

「ふむ……そんなものか」


 そう言いながら、カインくんは腰から魔道具を外して俺に手渡した。


「へえ……筒状の光の魔道具って珍しいね」


 普段よく見るのはランプ型。しかしこれは、前世で言うところの懐中電灯にそっくりだった。学院で扱う教材では見たことがなく、かなり興味をそそられる。


「確かに珍しいかもな……って、こら! 何を分解しようとしている!」

「え? だって分解しないと制御盤の魔法文字見れないじゃん」


 制止を振り切り、手際よく外装を外していく。


「大丈夫だって。ちゃんと元に戻せるから」

「本当だろうな……」


 ほどなくして、制御盤が姿を現した。


「へえ……制御盤の魔法文字、他の光の魔道具とあまり変わらないんだね」

「……分かるのか?」

「そりゃ勉強してるからね」


 まじまじと眺めていると、そこへアウレリオくんがやってきた。


「あ、見つけた! おい、カイン。リヒト様が呼んでたぞ」

「ん? 分かった、すぐ行く」


 立ち去り際、カインくんはこちらを振り返る。


「おい、レオン。壊すなよ」

「大丈夫だって。帰ってくるまでには元に戻しておくよ」


 不信感たっぷりの視線を残し、二人は去っていった。


「まったく。信用ないなあ……ん?」


 そう呟きつつ、再び制御盤に目を落とす。


(あれ? 安全装置の魔法文字がない?)


 通常、魔道具には魔石に過剰な魔力が流れないよう、余剰魔力を逃がす制御用文字が必須となっている。それがないと、魔石が爆発する恐れがある。だが、この制御盤にはそれが見当たらない。


(ふむ。もしかしたら誰かの手作りなのかな)


 一般販売されている魔道具ならこの安全装置は必ずついているはずだ。それがないということは個人的に作って、安全装置をつけ忘れたのかもしれない。


(仕方ないな。俺が書き足してあげよう)


 俺は自前の魔導インクを取り出し、慣れた手つきで魔法文字を書き加えていく。


(よし。これで安全)


 満足した俺は、魔道具を元通り組み上げていく。ほどなくしてカインくんが戻ってきた。


「……お、本当に戻っているな」

「でしょ? ちゃんと勉強してるんだから」


 魔道具を渡すと、カインくんはスイッチを入れた。


「……問題ないな」

「当然! あ、その顔は信じてなかったでしょ」

「ふん。日ごろの行いのせいだ」

「ひどい! ちゃんと元通りなのに〜」


 俺はカインくんの肩を激しく揺らす。


「わかったから放せ! 私が悪かった」

「うん、うん。わかれば良いのですよ」


 こうして、船での帝国への旅は穏やかに続いていくのだった。


(あれ? カインくんに何か伝えることがあったような……)

――まあ、いっか。


 俺は深く考えず、再び海を眺めるのだった。

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