第86話 リヒト様救出作戦、その裏側
※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「リヒト様! 無事で良かった……!」
俺が駆け寄ると、リヒト様は少し照れたように笑って頷いた。
「うむ。心配をかけてすまなかったな、レオン」
目立った怪我もなく元気そうだ。顔色もいい。
「本当に、何事もなくてよかったです……」
エリスもほっとしたように胸を撫で下ろしている。
「それで、アウレリオくんと結託して、こんな誘拐事件を起こしたのは……どこの国だったの?」
俺は視線を、騎士に挟まれて不機嫌そうにしている人物へ向けた。
「ま、待て!」
アウレリオくんが声を荒げた。
「私は結託などしていない! 利用されていただけだ!」
「……ん?」
思わず首を傾げる。
「どういうこと?」
すると、横からユウキくんが一歩前に出た。
「えっとね、実は……」
* * * * * * *
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――Side:ユウキくん視点
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「ドッカァァン!!」
「あ、やばっ……」
「バカ、レオン! やりすぎだ!」
カインくんの怒号が飛ぶ。
「わ~! ご、ごめんなさい!」
「……とにかく、作戦開始だね」
「レオン。ちゃんと囮するデスよ?」
「うん、任せて」
そう答えると、レオンくんは結界の内側へと駆け出していった。それをみてカインくんが告げる。
「よし。少ししたら我々も突入するぞ」
レオンくんが敵を引き付けている間に、俺たちは屋敷に潜入し、とらわれているリヒト様を救出するのが今回の作戦だ。
「けっこう人が庭に出てきたね。そろそろ行こうか」
みな頷くと、俺たちは静かに屋敷へと向かって走り出した。 屋敷に敵の姿はない。どうやらレオンくんの囮が上手く作用しているようだ。
「レオン様からもらった蝶が反応しています。こちらで間違いないようです」
エリスさんが手のひらに乗った水の蝶を見ながら道を示す。 出発前、レオンくんから渡されたのは水魔法で生成した蝶。リヒト様のもとにも同じ蝶がいるようで、その魔力に反応してリヒト様がとらわれている場所まで案内してくれるとのことだ。
相変わらず、レオンくんの魔法は便利だ。本人は自覚が無いようだが転移者である俺でも驚くような魔法の使い方をする。それに魔法だけでなく剣の腕も大したものだ。模擬戦では俺でも一瞬ヒヤッとする場面がたまにある。剣だけならまだ俺の方が強いが、魔法と絡めて攻撃されたら俺でも危ないかもしれない。
(まあ、俺にも”勇者”としてのプライドがある。簡単に負けるつもりはないけどね)
そんなことを考えていると、エリスさんがある扉の前で止まった。
「みなさん。どうやらこの中にリヒト様がいるようです」
小声で言うエリスさん。俺はうなずいてから扉を開く。
「バンッ!」
「リヒト様! 無事ですか!」
「……ユウキ!」
そこには椅子に縛られたリヒト様の姿が。
「た、助けてくれ!」
なぜか敵に取り押さえられているアウレリオくんの姿もある。
「おのれ、なぜこの場所が解ったのですか」
「オ~。私の”聖女アイ”が真実を見抜いたのデス」
(聖女アイって何だろう?)
マリアさんがドヤ顔でポーズを決めている。
「なんですか、そのふざけた理由は!」
誘拐犯は声を荒げる。
「そんなのであの結界が破れるわけないでしょう!」
「え~、”聖女アイ”。カッコいいと思ったんデスけど」
マリアさんがしょんぼりとして答えている。そのスキに俺は誘拐犯の背後に移動し剣を振り下ろす。
「カキンッ」
「おっと、不意打ちとは卑怯ではないですか、”勇者様”」
「おや。俺の事知ってるんですね」
剣を弾かれ後ろに飛び退く。
「ええ。もちろんですよ。リヒト様の周囲の要注意人物は調べてありますから」
「なら私の事も調べているのか」
俺の横をカインくんが放った魔法の火球が敵に向かって飛んでいく。
「ええ。もちろんですよ。カインさん」
しかし誘拐犯はその火球を難なく魔法で相殺した。
「ちっ! 中々やるな」
カインくんは悔しそうにそう言い放った。しかし俺とカインくんの攻撃により敵をリヒト様から遠ざけることには成功した。
「おい、リヒト。大丈夫か」
「お怪我はないですか」
俺たちが戦っているスキに、ミナミさんとエリスさんがリヒト様の拘束を解いた。
「うむ。すまない、助かった」
「わ、私も守ってくれ」
リヒト様に続き、アウレリオくんも避難してきた。
「あれ? アウレリオくんって裏切り者じゃなかったっけ?」
俺の疑問にリヒト様は困り顔で答えた。
「うむ。こいつは利用されていただけのようだ」
そう言って誘拐犯をにらむリヒト様。
「おやおや、これは困りましたね」
「ふん。随分余裕そうだな。ここから逃げられると思っているのか?」
カインくんが剣を構えながら言う。
「そうですね。今のままでは少々難しいでしょう。ですが……」
すると魔道具らしきものに何やらしゃべりかけた。
「バンッ!」
「な、何だ!」
「あれ、彼らって……」
入ってきたのは『フギン』の生徒たちだった。
「ふふふ。皆さんの相手は彼らにしてもらいましょう」
そう言うと誘拐犯たちは扉から出て行こうとする。
「あ、待て!」
「くそっ! こいつらが邪魔で追いつけないぞ」
『フギン』の生徒たちに邪魔されている間に誘拐犯たちは悠々と部屋から出ていってしまった。
「おい、アウレリオ。こいつらを大人しくさせろ」
「あ、はい。お前たち、止まれ!」
リヒト様がアウレリオくんに指示を出す。それを受けて、『フギン』の生徒たちに命令を出すと、彼らは動きを止めた。
「ふ~。なんとかリヒト様の救出は成功したね」
俺が言うとカインくんが悔しそうに言った。
「だが首謀者には逃げられてしまった」
「うむ。とにかくこの屋敷を出ることにしよう」
* * * * * * *
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――Side:レオン
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「なるほど……」
ユウキくんの説明を聞き終え、俺はゆっくりと息を吐いた。
「アウレリオくんは、薬を使うために接触されて……利用されたってことだね」
「そういうことだ」
リヒト様が腕を組み、渋い顔で頷く。
「肝心の首謀者には逃げられてしまった」
カインくんが苦々しい顔で呟く。
「ああ。だがレオンが倒した者が数人いる」
リヒト様はそう言って、騎士たちに目配せした。
「身元を調べさせれば、どこの国の諜報員か、いずれ分かるだろう」
「そっか……」
完全解決、とはいかなかったらしい。しかしリヒト様は少しだけ口元を緩めた。
「目的であった私の拉致は失敗だ。向こうにとっては大きな誤算だろう」
「……だね」
その時、後ろで小さく声がした。
「……その、リヒト様」
振り返ると、アウレリオくんが所在なさげに立っていた。
「わ、私は……」
何かを言いよどむアウレリオくん。
「軽率でした。自分の立場も……理解していませんでした」
しばらくの沈黙。と、次の瞬間――。
「……!」
耳鳴りがして視界がゆらりと歪む。そして徐々に足元の感覚が消えていき、世界が音もなく暗転した。
* * * * * * *
「アウレリオ・フォン・グランツ!」
明るくなった視界の先に広がっていたのは、王城の大広間だった。玉座の前には拘束されたアウレリオくんが跪いている。
「王子誘拐に加担した罪により、貴族籍をはく奪する」
「お待ちください! 私は利用されただけで――」
「言い訳は不要だ! 命があるだけリヒト様に感謝するんだな」
壇上では、リヒト様が目を伏せている。その横顔はひどく、苦しそうだった。
「この者を連れていけ!」
「くっ! おのれ、リヒト王子!」
「……」
目の前の景色が光り輝き、眩しさに目を覆った次の瞬間、景色が変わった。
「アウレリオ様。あなたの悔しさは痛いほど解りますよ」
暗い部屋で、アウレリオくんとローブをまとった人物が会話している。
「ふん。誰のせいでこうなったと思っているのだ!」
「おっと、これは失礼しました。そこでご提案が……」
また場面が変わる。そこには短剣を握ったアウレリオくんの姿が。
「お前のせいだ……リヒト王子!」
濁った目、歪んだ笑み。足音が、やけに大きく響く。
「やめ――」
――声が出ない。体も動かない。俺は、見ていることしかできないのか。
次の瞬間、刃が光を反射する。鈍い音がして、視界が赤く染まる。
「リヒト様ァァァ!」
リヒト様の体が、糸の切れた人形のように崩れる。温かい飛沫が頬にかかった気がした。
「はっはっはっは。これで私は返り咲けるんだ!」
「アウレリオ! 貴様なにを言っている」
* * * * * * *
「……オンくん! レオンくんってば!」
「へ?」
気が付くと、俺はユウキくんに肩を揺さぶられていた。
「大丈夫? 顔色悪いよ」
「あ……うん。平気」
(さっきのは何だったんだろう? 白昼夢?)
――しかし夢にしては何だか現実味があったような……。
頬に触れるが当然、血など付いていない。と、その時――。
「……その、リヒト様」
後ろで小さく声がした。振り返ると、アウレリオくんが所在なさげに立っている。
「軽率でした。自分の立場も……理解していませんでした」
(あれ? 何かさっきも見たような……)
それは、白昼夢を見る前の光景と全く同じだった。
「えっと、反省してるみたいだし、許してあげたら?」
あの夢を、現実にしたくない。そう思ったら勝手に言葉が出ていた。
「レオンくん……!」
俺の言葉にアウレリオくんがこちらを見る。
「は~、レオンは甘いな。だが次はない。覚えておけ」
リヒト様の言葉に、アウレリオくんは深く頭を下げた。
「……はい」
――良かった……完全な悪人ってわけじゃなさそうだしね。
俺は内心でほっとしていた。
「じゃあ、そろそろ王都に戻ろうか」
ユウキくんの言葉に、カインくんが頷いた。
「ああ。これ以上ここにいる理由もない」
「よし、全員私の≪スカイホースくん2号≫に乗り込め」
ミナミさんが胸を張りながら言う。
「とりあえず……」
俺は空を見上げた。
「リヒト様が無事で、本当によかった」
「うむ」
こうして、第三王子誘拐事件はひとまずの決着を迎えた。
――う~ん。それにしてもあれは、ただの夢だったのかな?




