第85話 囮役レオン、大活躍?!
王都から馬車で数時間。俺たち第三王子救出部隊は、深い森の中腹にいた。
「えっと、レオンくん。本当にここ?」
ユウキくんが、半信半疑といった様子で辺りを見回しながら聞いてくる。視界に広がるのは、どこを見ても木、木、木。昼間だというのに森の奥は薄暗く、隠れ家どころか、人の気配すら感じない。
「うん。反応は……ここから少し先なんだけど」
俺は目を閉じ、魔力の感覚を研ぎ澄ます。リヒト様に仕込んでおいた魔法≪アクア・パピリオ≫。 水の蝶を模したその魔法は、常に微弱な水属性の魔力を返してくるので位置の特定ができる。確かにこの場所から反応がある以上、第三王子はここに囚われているはず……。
「……でも、何もないよね?」
ユウキくんの言葉に、俺も内心では同意していた。どう見てもただの森だ。敵の拠点があるとは、とても思えない。すると道の脇で立ち止まり、じっと森を見つめていたマリアさんが首をかしげる。
「……ん~、何かここ、変じゃないデスか?」
「変って?」
俺が聞き返した、その直後だった。
「……あ、一瞬だけど、景色が波打ったぞ」
隣で同じ方向を見ていたミナミさんが、眉をひそめた。
「え?」
言われて目を凝らすと、確かに森の一部が水面のように揺らいだ気がした。
「み、皆さん……」
恐る恐る前に出たエリスが、違和感のある場所へと手を伸ばす。
「……ここに壁みたいなのがあります」
「……本当だ」
俺も触れてみると、そこには確かな“抵抗”があった。見た目は森の景色。しかし実体は透明な何かだった。
「これは……結界?」
「なるほど」
カインくんが腕を組み、納得したように頷く。
「この結界があったから、王国の精鋭でも場所を特定できなかったわけか」
視線の先では、森に完全に溶け込むようにして結界が張られている。これほど自然に偽装されていれば、偶然通りかかっても気付けないだろう。
「じゃあ、これ壊せばいいのかな?」
軽い気持ちで言った俺に、カインくんが即座に釘を刺す。
「待て、レオン。作戦を考えてからだ」
こうして、森の中で即席の作戦会議が始まった。
* * * * * * *
――数分後。
「≪テンペスタス・スピアー≫」
風と水を融合させた槍が、俺の手から放たれる。
「バリンッ!」
ガラスが割れるような音を立て、結界が砕け散る。
「ドッカァァン!!」
「あ、やばっ……」
次の瞬間、結界の内側に隠されていた屋敷の一部が、派手に吹き飛んだ。
「バカ、レオン! やりすぎだ!」
カインくんの怒号が飛んでくる。
「わ~! ご、ごめんなさい!」
「……とにかく、作戦開始だね」
ユウキくんが苦笑しながら言う。
「レオン。ちゃんと囮するデスよ?」
「うん、任せて」
そう答え、俺は結界の内側へと駆け出した。今回の作戦で、俺の役割は囮。とにかく派手に動いて、敵の注意を全部引きつける。
「んじゃもう一発――」
魔力を練り上げる。
「行け、ピーちゃん。≪バードストライク≫!」
水で形作った小鳥、ピーちゃんが勢いよく屋敷へ突撃した。
「ドンッ!」
その爆音を合図にしたかのように、屋敷から人影が次々と飛び出してくる。
「クソッ! 何者だ!」
「あいつだ! 捕まえろ!」
「わははは! 捕まえられるかな? ≪バードストライク≫!」
「ぐはっ!」
追手に魔法を撃ち込みつつ、俺は屋敷の庭を全力で走り回る。視界の端で、味方が屋敷へ突入していくのが見えた。
(……よし! 作戦通り)
そう思った、その時。
「……ん?」
新たに現れた集団を見て、思わず目を見張った。
「あれって……『フギン』の生徒たち?」
学園で見覚えのある顔。アウレリオくんに操られていた生徒たちだ。
「おまえら! あいつを排除しろ」
その命令を聞いた瞬間、信じられない速度で俺に襲い掛かってきた。
「うわっ!」
――なんて速さだ!
どうやら、命令を出せる人間はアウレリオくんだけではないらしい。
「だったら……!」
俺は敵を引き連れたまま、指示を出していそうな連中へと距離を詰めた。魔法を使う余裕はない。
「おりゃっ!」
「ぐっ! 貴様――!」
剣で斬り伏せ、また逃げる。『フギン』の生徒たちから逃げ回りながら、少しずつ敵を減らしていく。
「よし……最後!」
残り一人を倒し、俺は大きく息を吐いた。
「ふ~、これで――」
「ガキン!」
「危なっ!」
背後からの一撃を辛うじて弾く。
「な、なんで止まらないの!?」
命令を出していた人間は全員倒したはずなのに、 『フギン』の生徒たちは、まだ俺を狙ってくる。
「ちょ、ちょっと待って! 話し合おう!?」
もちろん通じるはずもなく、俺は必死に逃げ回る。
「おい、レオン。何を遊んでいる?」
「え?」
振り返ると、屋敷の方からカインくんが歩いてきた。
「えっと、リヒト様は救出したよ」
その横ではユウキくんが笑っている。二人の姿を見た瞬間俺は涙目になった。
「うわ~ん! 助けて~!」
数分後――。
捕まっていたアウレリオくんに“攻撃停止”の命令を出してもらい、ようやく解放された。こうして、第三王子救出作戦は、俺の見事な囮っぷりのお陰で無事完了したのだった。
――嘘です。ごめんなさい。俺は逃げてただけです!




