第84話 見えない敵の影
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――Side:レオン視点
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「え? アウレリオくんが容疑者なの?」
医務室のベッドに腰を下ろしながら、俺は思わず声を上げた。白いカーテン越しに差し込む光が、やけに眩しく感じる。武闘祭の途中で意識を失い、目を覚ましたのはついさっきのことだった。体は少しだるく、頭の奥が重い。それでも手足はきちんと動くし、呼吸も問題ない。致命的な異常はなさそうだ。
「うん。アウレリオくんと『フギン』の生徒が何人か、まだ行方不明なんだ」
そう説明してくれたのはユウキくん。いつもの太陽みたいな笑顔ではなく、どこか歯切れの悪そうな表情をしていた。その様子だけで、事態がただ事ではないことが伝わってくる。
「どうやら……アウレリオくんが《フギン》の生徒たちを操っていたらしいよ」
「操ってた……?」
“操る”、という言葉があまりにも非現実的で、すぐには理解が追いつかなかった。そんなことが本当に起こり得るのか。すると、医務室の壁際で腕を組んでいたミナミさんが静かに口を開いた。
「残っていた『フギン』の生徒に事情を聞こうとしたんだが反応が無かったらしいぞ」
一度言葉を区切り、冷静な声で続ける。
「それで詳しく調べたら、何らかの薬を服用させられていた形跡が見つかったそうだ」
「そんな薬があるの……?」
学園の中で、しかも武闘祭という公式行事の最中に、そんな危険なものが使われていたなんて。俺が言葉を失っていると、医務室の扉が静かに開いた。
「いや。少なくとも王国では聞いたことがないな」
入ってきたのはカインくんだった。顔色は少し悪いが、立ち姿はいつも通り凛としている。
「もう大丈夫なの?」
「ああ。眠らされていただけだからな」
簡潔な返答だが、その姿に少しだけ安心する。すると、さらに後ろから聞き慣れた穏やかな声がした。
「レオンくん。体調はいかがですか?」
「アレクシス先生。はい、ご心配をおかけしました」
「それは良かったです。さて先ほど話していた『フギン』の生徒の件ですが……」
先生は安心したように微笑むと、ベッドサイドの椅子に腰を下ろした。柔らかな物腰とは裏腹に、その目は真剣そのものだ。
「実は監視班の生徒たちから詳しく話を聞くことができたのです」
先生の話によると、アウレリオくんはどこからか“身体強化の薬”を入手していたらしい。そしてそれを《フギン》の攻撃班や防御班の生徒に飲ませていた。
「結果として、異常なまでの戦闘能力を得ました。しかし――」
先生はそこで一度言葉を切った。
「服用後から、生徒たちはアウレリオくんの命令に従って行動するようになったそうです」
「……つまり」
俺が恐る恐る言葉を継ぐと、アレクシス先生はゆっくりと頷いた。
「はい。その薬によってアウレリオくんは彼らを操っていた可能性が高いでしょう」
医務室が重たい空気で包まれる。誰もが沈黙し視線を伏せ、それぞれの考えに沈み込んでいた。
――まさか学園で、こんな話を聞くことになるなんて。
「となると……」
沈黙を破ったのは、腕を組んだカインくんだった。
「リヒト様誘拐のために、どこかの国と手を組んでいた線が濃厚だな」
「どこかの国……?」
ユウキくんが眉をひそめる。
「先ほどカインくんが言った様に我が国には、人を操るような薬は存在しません」
アレクシス先生は、はっきりと断言した。
「加えて、武闘祭の最中に乱入してきた“黒ずくめのローブを着た集団”」
その言葉に、俺は武闘祭での光景を思い出す。突然現れ、顔を隠したまま的確に動いていた連中。
「あ! 確かに顔が見えないローブ姿の人たちが襲ってきましたね」
「誘拐の手際の良さ、そして撤退の速さ……諜報員と考えるのが自然でしょう」
「……確かに」
「でも……何のために、リヒト様を?」
エリスが、胸の前で手をぎゅっと握りしめ、不安そうに問いかけた。
「それはまだ分かっていません。ただ――」
先生は難しい表情のまま続ける。
「誘拐した以上、すぐに命を奪うとは考えにくいでしょう」
「王国の精鋭が、全力で捜索に当たっていると聞くが……」
カインくんの言葉に、誰もが黙り込む。どうやらまだリヒト様の行方は分かっていないらしい。その時、俺は眠ってしまう前に魔法を仕込んでいたことを思い出した。
「あの……」
思わず声を上げると、全員の視線が一斉に俺へと向けられる。
「もしかしたら……リヒト様の居場所、分かるかもしれません」
アレクシス先生の目が、わずかに見開かれた。
「……それは、非常に重要な情報です」
こうして、第三王子救出作戦が静かに、しかし確実に動き出したのだった。
――リヒト様! どうか無事でいて!




