第83話 【武闘祭】の裏で進む陰謀
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――Side:リヒト王子視点
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「……ん? ここはどこだ?」
目を覚ますと、薄暗い部屋だった。壁は石造りで窓はない。違和感に気づき、すぐに自分の体を確認する。
「……縛られている、か」
椅子に座らされた状態で、手足は革の拘束具によって完全に固定されていた。魔力の流れも鈍く、簡単に魔法が使える状態ではない。
(確か武闘祭の最中に突然黒ずくめの集団に襲撃されて……)
徐々に記憶が鮮明になってきた。
(そうか。私は誘拐されたのだな)
周囲を見回すが、ここがどこなのか分かる手掛かりはない。
(さて……どうしたものか)
拘束を解こうと身を捩るが、無駄だとすぐに理解する。とその時――。
「おや。目が覚めたようですね」
部屋の扉が開いた。入ってきたのは、黒いローブを身に着けた人物。
「誰だ、貴様は!」
「ふふふ。そんなこと、今はどうでもいいではありませんか」
(素直に名乗る気はない、か)
声は魔法で変えられているのだろう。低くも高くも取れ、男か女かすら判断できない。何でもいい、情報を引き出さねば。
「……それで。お前たちの目的はなんだ?」
すると俺の質問に誘拐犯はあっさりと答えた。
「そうですね。あなたには――アルトリウス王国の王になってもらいます」
「……は?」
思わず、間の抜けた声が出た。
「あなたにとっても、悪い話ではないでしょう?」
「馬鹿な。私は第三王子だ。兄上たちもいるし、父上も健在だぞ」
「ふふふ。そんなこと些細なことですよ」
ローブの人物は、あまりにも軽く言い放った。
「彼らには“不幸な事故”に遭ってもらえばいいだけですから」
「貴様……! 私が、そんなことを許すと思っているのか!」
怒りに任せて叫ぶが、相手は肩をすくめるだけだった。
「今のあなたに、何ができるというのです?」
「ふん。お前たちに従わないことくらいなら出来るがな」
「おやおや。強がりを」
確かに、現状では強がりでしかない。それでもこんな話を聞かされて、こいつらの策に乗る訳がない。
(とにかく今は何とかこの場から逃げ出さなくては……)
そう思った瞬間、再び扉が開いた。
「おい! 放せ! ここはどこだ!」
「……アウレリオ?」
連れて来られたのは、《フギン》の中心人物で公爵家のアウレリオ・フォン・グランツ。彼もまた拘束され、乱暴に椅子へと座らされる。
「アウレリオさん。お目覚めになったのですね」
「ん? 貴様は誰だ!」
「おや。忘れてしまったのですか? 武闘祭のために“お薬”を提供したではありませんか」
「……貴様、あの時の……!」
どうやら、思い当たる節があるらしい。
「おい、アウレリオ。薬とは何の話だ」
「い、いや……それは……」
視線を泳がせ、口ごもるアウレリオ。
「ふふふ。では、私が説明しましょう」
誘拐犯が、楽しげに言葉を継いだ。
「アウレリオさんには、武闘祭で優勝できるよう、人を強化する薬を差し上げたのですよ」
「なんだと! そうか、あの異様な強さの秘密はそれか」
やはり、あの強さには理由があったようだ。
「ええ。人の限界を超えて強くなれます。もっとも副作用もありますがね」
「副作用など聞いていないぞ!」
「それは教えていませんからね。まあ、使用後は廃人になるだけです。死にはしませんよ?」
「……くそっ。私を騙したのか!」
「人聞きが悪いですね。現に、勇者様に勝利したではありませんか」
その言葉に、私は眉をひそめた。
「……それで。本来の狙いは何だ?」
私達を誘拐するような奴らが、善意からそんな薬を渡すはずがない。
「おや。さすがは第三王子殿下」
その声はどこか楽しそうで、顔が見えない分不気味であった。
「そうです。彼らには、私たちの“傀儡”になっていただきました」
「傀儡、だと?」
「はい。お二人を拉致するための、便利な駒として」
(なるほど……)
私を助けようとしたレオンやカインが『フギン』の生徒たちに拘束されていた光景を思い出す。
「もっとも……」
誘拐犯は、懐から小さな小瓶を取り出した。
「アウレリオさんが使った薬は、こちらの“失敗作”ですが」
「それは……?」
「リヒト様を、我々の傀儡の王にするための薬ですよ」
「なに……!」
「ご安心を。廃人にはなりません。見た目は普段通り、ただ我々の命令に忠実になるだけです」
するとその話を聞いていたアウレリオが叫び出した。
「おい! 私は関係ないだろう! 解放しろ!」
「アウレリオ……貴様……!」
「ひっ……!」
「おやおや。落ち着いてください。もちろん、あなたにも“役割”がありますよ」
「な、何でも言うことを聞く! だから助けてくれ!」
(……愚か者め)
怒りを覚えつつも、今はどうにもならない。
「では、作戦をご説明しましょう」
誘拐犯は、芝居がかった仕草で語り出す。
「まず、アウレリオさんには、リヒト様誘拐の“内通者”として、ここで死んでもらいます」
「……は?」
「そして我々が、王子殿下を救出するのです」
「そんな茶番、私が許すと思うか?」
「ご安心ください。そのための“薬”ですから」
――なるほど。
傀儡にされた私が証言すれば、疑われることはない。
「我々は英雄として王宮に迎え入れられ、後は邪魔者を排除するだけ」
「そんなにうまくいくと思っているのか?」
「さて、どうでしょうね。少なくとも王国は混乱するんじゃないですか? 我々はどちらでも良いのですよ」
「……その隙に攻め込めば良いという事か。貴様たちはどこの国の手のものだ?」
「それは……まだお教えできませんね」
すると静かだったアウレリオが突然泣き叫ぶ。
「い、嫌だ……死にたくない! 助けてくれ!」
「往生際が悪いですね。大丈夫ですよ。苦しまずに殺して差し上げますから」
さすがにこのままではまずい。裏切ったとはいえ、目の前で学園の生徒が殺されるところは見たくない。 何とかできないかと考えていると服の中で何かが動いた。
(ん? これはレオンの水の蝶か)
と、次の瞬間――。
「ドッカァァン!!」
「な、何事ですか!」
外から、爆発音。
「報告! 屋敷の外から魔法攻撃を受けています!」
「馬鹿な……! この場所は結界があるから見つからないはず――」
明らかに動揺している。そして――。
「バンッ!」
扉が勢いよく開いた。
「リヒト様! 無事ですか!」
そこに立っていたのは――。
「……ユウキ!」
安堵と共に、私は息を吐いたのだった。




