第82話 【武闘祭】不気味な敵と乱入者
「くそっ! 攻撃が当たらない!」
「魔法部隊! 放て!」
怒号と魔法の炸裂音が飛び交う。武闘祭準決勝、俺たちは自軍のオーブ前で、《フギン》の攻撃班と激突していた。前日の試合結果を踏まえ、俺たちは決断した。中途半端に戦力を分けるより、全軍防御班となり相手を迎え撃ち、戦力を削っていく作戦。――そのはずだった。
「うむ。やはり戦況は良くないな」
「ユウキが言っていた通りです。完全に対応されていますね」
最終防衛ラインで戦況を見ていたのは、リヒト様とカインくん。二人の冷静な声とは裏腹に、前線では味方が少しずつ倒れていく。
「防御班、下がれ! 二列目、交代!」
「くそっ……!」
指示は的確だった。だが、それでも追いつかない。《フギン》の攻撃班は、こちらの陣形変更すら読んでいるかのように、常に最適な間合いを保っていた。
「っ、速すぎる……!」
――違う、ただ速いんじゃない。
動きには無駄がなく、迷いがない。そして長期戦のはずなのに、《フギン》の生徒たちは息一つ乱していない。汗も少なく、魔力の揺らぎも一定だった。
「普通なら、ここまで攻め続ければ消耗が出る。なのに――」
「確かにゾンビの様だな」
一人、また一人と倒れていく。削られているのは……俺たちの方だった。
「仕方がない。レオン! 魔法の準備を――」
リヒト様が俺に指示を出そうとした、その時。
「わははは! どうだ、我がクラスの力は!」
響いた高笑い。聞き覚えのある声。
「……アウレリオ!」
カインくんの視線の先。そこには、《フギン》の中でリーダー的存在のアウレリオくんが立っていた。
「おや、カイン。随分と苦戦しているようだな」
「ちっ……うるさいぞ。すぐに全滅させてやる!」
「ふん。減らず口を! いつまでその強気が――」
「≪アウラ・ナックル≫」
「ぐほっ!?」
突然見えない何かに顔面を殴られたアウレリオくんが吹き飛んだ。
「あ、当たった」
「おい、レオン」
カインくんが、ものすごく嫌そうな目で俺を見る。
「さすがに、喋っている相手に攻撃するのはどうかと思うぞ」
「え? でもリヒト様が“魔法の準備”って――」
「うむ……それは、そうなのだが……」
指示を出しかけたリヒト様まで、困った顔。
「でも、アウレリオくん以外には避けられちゃったよ」
風魔法で作った“見えない拳”。それなのに、《フギン》の生徒たちは当然のように回避していた。
「なんと……レオンの魔法ですら」
「……厄介だな」
カインくんが次の策を考え始めた、その時。
「おのれぇぇぇ! レオン!!」
土埃の中から、復活したアウレリオくんが飛び出してきた。
「貴様! よくもやってくれたな!」
「あ、えっと……何かごめんね」
「貴様ぁぁ! どこまで私を愚弄するか!」
「こら、レオン。煽ってどうする」
「え? 普通に謝っただけなのに……」
なぜかカインくんに怒られてしまった。理不尽である。そんなやり取りをしている間にも戦況は悪化していた。気づけば、《フギン》の攻撃班は目前まで迫っている。
「くっ……万策尽きたか。だが、ただでやられてなるものか!」
リヒト様が剣を握り直した、その瞬間。
「ドッカーン!」
「ボン、ボン!」
「な、なんだ!?」
背後から爆発音と共に、数人の人影が乱入してきた。全身を黒ずくめのローブで覆った集団。顔も、所属も分からない。
「何者だ! 貴様たち!」
カインくんの叫びを無視し、黒ずくめの集団は一直線にリヒト様へ向かってきた。
「リヒト様!」
俺は駆け寄ろうとした。しかし――。
「え? なに……!」
体が誰かに掴まれて動けない。拘束していたのは、さっきまで戦っていた《フギン》の生徒たちだった。周囲を見ると、カインくんも、味方の生徒たちも、同じように押さえ込まれている。
「おいっ! やめろ! なぜ私の命令を無視する!」
何故か味方に拘束されて、叫ぶアウレリオくん。拘束している《フギン》の生徒たちの目は、焦点が合っていない。そこに“意思”があるようには見えなかった。
「≪ソムヌス・ネブラ≫」
黒ずくめの一人がそう唱えた瞬間、白い霧が一気に広がった。
「これは……眠りの魔法か……」
リヒト様はそう呟き、必死に抵抗しようとする。だが次第に力が抜け、そのまま黒ずくめの一人に抱えられた。
「リヒト様……≪アクア・パピリオ≫」
意識が落ちる寸前。俺は水で作った小さな蝶を、リヒト様の体へと潜り込ませた。そこで、俺の意識は途切れたのだった。
* * * * * * *
「……はっ。ここは……?」
「レオン様! 良かったです……!」
目を覚ますと、視界いっぱいにエリスの顔。そのまま、ぎゅっと抱きつかれた。
「えっと、エリス……心配かけてごめんね」
「はい……本当に、無事で良かったです……」
どうやら俺たちは医務室に運び込まれたらしい。
「本当に良かった」
隣から、ユウキくんの声。
「皆が一斉に倒れた時は、もうダメかと思ったよ」
少しずつ、記憶が戻ってくる。黒ずくめ。拘束。眠りの霧――。
「……そうだ。リヒト様は?」
俺がそう尋ねると、ユウキくんとエリスは言葉に詰まった。
「……そ、それは……」
その沈黙が、何よりの答えだった。
――どうやら武闘祭どころの騒ぎでは、なくなってしまったらしい。




