第81話 【武闘祭】想定外の敗北
「――まさか、ユウキくんたちが敗れるなんて……」
「なんだ、あいつらの強さは!」
勝敗を告げる魔法表示が出た瞬間、会場全体が一拍遅れてざわつき始めた。その動揺は、観客席の端から端へと波紋のように広がっていく。だが表示は消えず、勝者の欄に刻まれた『フギン』の文字は、現実を突きつけるように淡く光り続けていた。
「……本当、なんだよね」
誰に向けたわけでもなく、俺は思わずそう呟いてしまった。周囲を見渡すと、上級生たちでさえ眉をひそめ、言葉を失っていた。
「とにかく、ユウキのところに行くぞ」
そう言ったのはリヒト様だった。隣で腕を組んでいたカインくんが短く頷き、俺も立ち上がり控室へと急いだ。
控室へ向かう廊下を進むにつれて、先ほどまでの試合内容を考察する声が聞こえてきた。
「魔法、使ってなかったよな?」
「いや、使ってた。でも……なんか変だった」
「疲れてなかったって、本当か?」
断片的な情報ばかりで、どれも決定打には欠けている。だが共通しているのは、“普通じゃなかった”という感想だけだった。
「ユウキくん、大丈夫?」
念の為検査を受けていたユウキくんは、こちらに気づくといつものように笑った。
「うん。怪我はしてないからね」
そう答える声は明るい。けれど、その表情の奥にある悔しさまでは隠せていなかった。
「それでユウキ、何があったんだ?」
リヒト様が腕を組んだまま問いかける。
「それは……」
ユウキくんは少し言葉を選ぶように視線を落とし、ゆっくりと話し始めた。戦闘が開始されると、『ガルム』はユウキくんが攻撃班を率いて相手のオーブを奪いに行った。
「初めはいつも通り、相手の防御班を撃破してオーブを奪えると思ってたんだけど」
『フギン』には、ユウキくんほどの実力者はいない。だから前評判でも『ガルム』が圧勝するだろうとの予想だった。
「でもさ……全然、攻撃が当たらなかったんだよね」
「当たらないだと?」
思わず聞き返すカインくん。ユウキくんのスピードは、人間離れしている。それを『フギン』の防御班は、まるで事前に分かっていたかのように躱し続けたという。踏み込みの瞬間に半歩ずれ、剣筋が空を切る。そんな動きを、相手は何度も繰り返していたらしい。
「偶然じゃなくて、完全に“対応されている”動きだったよ」
ユウキくんは悔しそうに拳を握りしめていた。
「攻めあぐねている間に、逆にこちらの隙を突かれてさ。そのまま攻撃班が一人ずつ落とされちゃったんだ」
「……でも、ユウキくん一人でも勝てそうな気がするけど」
俺がそう言うと、ユウキくんは困ったように眉を下げた。
「それがさ……何か、相手が全然疲れてないみたいだったんだよね」
「疲れてない、だと?」
今度はリヒト様が反応する。
「うん。攻撃の勢いも落ちないし、動きも鈍らない。例えるなら……ゾンビを相手にしてるみたいだったよ」
「なにそれ、怖……」
結果、じわじわと体力を削られたユウキくんは敗北。攻撃班を撃破した『フギン』の防御班は、そのまま攻撃班に合流――。
「多勢に無勢、ってやつだね」
苦笑しながらそう言うユウキくんの視線の先では、ミナミさんがベッドに突っ伏していた。
「う~、私の《アームストロングくん》が負けるとは~!」
「えっと……元気出してください、ミナミさん」
「エリス~、もっと私を慰めてくれ~」
エリスは優しく微笑みながらミナミさんの頭を撫でている。
「ていうか、《アームストロングくん》、爆発してたよね?」
「ん? あぁ、あれは隠し機能の自爆だぞ」
「……冗談じゃなかったんだ」
「当たり前だろ。自爆はロボットのロマンだぞ」
さらっと言い切るミナミさん。
――いや、ロマンで付ける爆発にしては威力がおかしい気がしたんだけど……。
それでも、あの大爆発を耐えきった『フギン』の生徒が何人もいた。そして倒れた仲間を一瞥することもなく、次の行動に移っていった。勝利した後も『フギン』の生徒たちは、妙に静かだったという。歓声も、喜びを分かち合う様子もなく、まるで“終わったから次へ行く”とでも言うように、淡々と行動していたらしい。
その姿を想像すると、背中に冷たいものが走る。勝ったのに、喜ばない。仲間が倒れても、感情を表に出さない。
ユウキくんたちの話を聞きながら、俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。勇者である彼が、真正面から戦って押し切られた。それはつまり、小細工や奇襲ではなく、純粋な力で負けたということだ。それが、何よりも重く感じられた。
「う~む。結局、強さの秘密は分からず仕舞いか」
「何らかの魔道具……でしょうか」
「分からん。だが――」
リヒト様が、静かに告げる。
「次は、我らの番だな」
そう。明日の準決勝で、俺たちは『フギン』と戦うことになる。
「……不気味ではあるが全力で戦うしかあるまい」
こうして不安を胸に抱えたまま、翌日の準決勝へと向かうことになったのだった。




