表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
学園編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/96

第81話 【武闘祭】想定外の敗北

「――まさか、ユウキくんたちが敗れるなんて……」

「なんだ、あいつらの強さは!」


 勝敗を告げる魔法表示が出た瞬間、会場全体が一拍遅れてざわつき始めた。その動揺は、観客席の端から端へと波紋のように広がっていく。だが表示は消えず、勝者の欄に刻まれた『フギン』の文字は、現実を突きつけるように淡く光り続けていた。


「……本当、なんだよね」


 誰に向けたわけでもなく、俺は思わずそう呟いてしまった。周囲を見渡すと、上級生たちでさえ眉をひそめ、言葉を失っていた。


「とにかく、ユウキのところに行くぞ」


 そう言ったのはリヒト様だった。隣で腕を組んでいたカインくんが短く頷き、俺も立ち上がり控室へと急いだ。


 控室へ向かう廊下を進むにつれて、先ほどまでの試合内容を考察する声が聞こえてきた。


「魔法、使ってなかったよな?」

「いや、使ってた。でも……なんか変だった」

「疲れてなかったって、本当か?」


 断片的な情報ばかりで、どれも決定打には欠けている。だが共通しているのは、“普通じゃなかった”という感想だけだった。


「ユウキくん、大丈夫?」


 念の為検査を受けていたユウキくんは、こちらに気づくといつものように笑った。


「うん。怪我はしてないからね」


 そう答える声は明るい。けれど、その表情の奥にある悔しさまでは隠せていなかった。


「それでユウキ、何があったんだ?」


 リヒト様が腕を組んだまま問いかける。


「それは……」


 ユウキくんは少し言葉を選ぶように視線を落とし、ゆっくりと話し始めた。戦闘が開始されると、『ガルム』はユウキくんが攻撃班を率いて相手のオーブを奪いに行った。


「初めはいつも通り、相手の防御班を撃破してオーブを奪えると思ってたんだけど」


 『フギン』には、ユウキくんほどの実力者はいない。だから前評判でも『ガルム』が圧勝するだろうとの予想だった。


「でもさ……全然、攻撃が当たらなかったんだよね」

「当たらないだと?」


 思わず聞き返すカインくん。ユウキくんのスピードは、人間離れしている。それを『フギン』の防御班は、まるで事前に分かっていたかのように躱し続けたという。踏み込みの瞬間に半歩ずれ、剣筋が空を切る。そんな動きを、相手は何度も繰り返していたらしい。


「偶然じゃなくて、完全に“対応されている”動きだったよ」


 ユウキくんは悔しそうに拳を握りしめていた。


「攻めあぐねている間に、逆にこちらの隙を突かれてさ。そのまま攻撃班が一人ずつ落とされちゃったんだ」

「……でも、ユウキくん一人でも勝てそうな気がするけど」


 俺がそう言うと、ユウキくんは困ったように眉を下げた。


「それがさ……何か、相手が全然疲れてないみたいだったんだよね」

「疲れてない、だと?」


 今度はリヒト様が反応する。


「うん。攻撃の勢いも落ちないし、動きも鈍らない。例えるなら……ゾンビを相手にしてるみたいだったよ」

「なにそれ、怖……」


 結果、じわじわと体力を削られたユウキくんは敗北。攻撃班を撃破した『フギン』の防御班は、そのまま攻撃班に合流――。


「多勢に無勢、ってやつだね」


 苦笑しながらそう言うユウキくんの視線の先では、ミナミさんがベッドに突っ伏していた。


「う~、私の《アームストロングくん》が負けるとは~!」

「えっと……元気出してください、ミナミさん」

「エリス~、もっと私を慰めてくれ~」


 エリスは優しく微笑みながらミナミさんの頭を撫でている。


「ていうか、《アームストロングくん》、爆発してたよね?」

「ん? あぁ、あれは隠し機能の自爆だぞ」

「……冗談じゃなかったんだ」

「当たり前だろ。自爆はロボットのロマンだぞ」


 さらっと言い切るミナミさん。

――いや、ロマンで付ける爆発にしては威力がおかしい気がしたんだけど……。


 それでも、あの大爆発を耐えきった『フギン』の生徒が何人もいた。そして倒れた仲間を一瞥することもなく、次の行動に移っていった。勝利した後も『フギン』の生徒たちは、妙に静かだったという。歓声も、喜びを分かち合う様子もなく、まるで“終わったから次へ行く”とでも言うように、淡々と行動していたらしい。


 その姿を想像すると、背中に冷たいものが走る。勝ったのに、喜ばない。仲間が倒れても、感情を表に出さない。


 ユウキくんたちの話を聞きながら、俺は無意識のうちに拳を握りしめていた。勇者である彼が、真正面から戦って押し切られた。それはつまり、小細工や奇襲ではなく、純粋な力で負けたということだ。それが、何よりも重く感じられた。


「う~む。結局、強さの秘密は分からず仕舞いか」

「何らかの魔道具……でしょうか」

「分からん。だが――」


 リヒト様が、静かに告げる。


「次は、我らの番だな」


 そう。明日の準決勝で、俺たちは『フギン』と戦うことになる。


「……不気味ではあるが全力で戦うしかあるまい」


 こうして不安を胸に抱えたまま、翌日の準決勝へと向かうことになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ