第79話 王都の賑わいと、プレオープン
「キャー! ユウキくんとツーショットで描いてもらっちゃった!」
「リ、リヒト様! 次はこの衣装でお願いします!」
王都の商店が立ち並ぶ一角。アルマレッタ商会が保有する店舗には人だかりができていた。店内に入ると、外の喧騒とは対照的に意外と落ち着いた空気が広がっていた。どうやら入場制限と案内がうまく機能しているらしい。壁際にはコスプレ用の衣装が整然と並び、中央にはお立ち台とスケッチ用の机が並んでいる。
「いや~、この調子ならプレオープンは大成功っすね」
満足そうに腕を組むルーク先輩が、感慨深げに言った。
「ハイ。こっちの世界でも、コスプレが受け入れられて嬉しいデス」
隣ではマリアさんが、ぴょこぴょこと楽しそうに店内を眺めている。その視線の先では――。
「うん、じゃあ一緒にポーズとってみようか」
柔らかな笑顔でお客さんとポーズを取るユウキくん。お客さん一人一人に合わせて、自然に表情や立ち位置を変えている。緊張している相手には優しく声をかけ、慣れている人には冗談を交えながら、場を和ませていた。
「えっと……こんなに近くて大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ほら、笑顔が固いよ。もっとリラックスして」
その一言で、女性の表情が自然と明るくなる。
「……これでいいのか?」
「は、はい! すごく……!」
一方、ぶっきらぼうに見えて、完璧なポーズをとるのはリヒト様。衣装の着こなしも、立ち姿も、さすが王族といった貫禄がある。
二人ともお客さんとツーショットでお立ち台に立ち、周りでは、無言で鉛筆を走らせる絵師たちが、その姿をスケッチしていた。
「お待たせいたしました。こちら、季節のケーキとコーヒーになります」
落ち着いた声。そこには、エプロン姿のカインくんがいた。
「あ、ありがとうございます!」
「いえ。ごゆっくりどうぞ」
「キャー、カイン様。エプロン姿もステキ!」
カインくんが去ると、注文した女性客たちはキャーキャーと、はしゃいでいた。併設されたカフェでは、〈ル・シエル・シュクレ〉から派遣されたパティシエが作るケーキと、カインくんの淹れるこだわりのコーヒーが提供されている。
「レオンくん。ケーキのお代わりをお願いします」
声をかけられた俺は、思わずため息をついてしまった。
「……ちょっと、リュミナ先生。サボってないでちゃんと仕事してください」
「失敬な! さっきまで、ちゃんとコスプレしてたんですよ」
ぷんぷんとご立腹のリュミナ先生。その前には、すでに空になったお皿が二枚。
「はいはい。……てか、そんなに食べたら太りますよ?」
「大丈夫です。エルフは太らないんですよ」
――絶対うそだ。
そう思いながらも、口には出さないのが、最近身についた処世術だ。先生はと言うと、俺が持ってきた三個目のケーキを早速頬張っている。すると、その背後から静かな足音がした。
「見つけましたヨ、リュミナ先生。指名が入ったので、戻ってきてください」
「げっ!? マ、マリアさん……!」
リュミナ先生は、露骨に視線を逸らす。
「えっと、私は今、休憩中なので……」
しかしマリアさんは、じっと先生の手元を見つめていた。
「何言ってるデスか。もう、お皿に何もないデスよ?」
「えっ? こ、これは……その……」
「じゃあ休憩終わりデス。行きますヨ」
「ちょっ、引っ張らないでください! レオンくん、助けてください!」
助けを求める視線を向けられ、俺はにこやかに手を振った。
「お仕事、頑張ってくださいね」
「う、裏切り者~!」
こうしてリュミナ先生は、ずるずると仕事場へ連行されていった。入れ替わるように、ルーク先輩が俺のところへやってくる。
「お疲れ様っす、レオン様」
「あ、ルーク先輩。お疲れ様です。お客さんの反応はどうですか?」
「はいっす。皆さん、とても満足してくれてるっす。ただ……」
少しだけ、先輩の表情が曇る。
「ただ?」
「やっぱり、リヒト様とユウキくんの人気が凄すぎるっすね。本番でこのお二人がいなくなった時が、正直心配っす」
今回のプレオープンでは特別に、リヒト様、ユウキくん、マリアさん、リュミナ先生が総動員されている。本番では、この四人はいない。
「あ~……やっぱり、そこですよね」
俺は少し考えてから、苦笑した。
「でも、コスプレの楽しさ自体は、ちゃんと伝わったと思いますよ」
「……そうっすね」
ルーク先輩は、再び店内を見回す。
「それに、この店からスターが生まれるかもしれないっすもんね」
「そうですよ」
誰かが輝けば、また誰かが憧れる。そうやって“縁”が広がっていくのだ。こうして、コスプレの店は、幸先の良いスタートを切ったのだった。
(なぜか俺が“仕掛け人”扱いされてる気がするんだけど……)
――うん、気にしないでおこう。




