第65話 事件は無事解決……?
調査を依頼してから、数日が経った。アルマレッタ商会と王国の調査員にほぼ丸投げしている俺には、正直なところ進捗はよく分からない。だが、あの人たちならきっと全力で動いてくれているだろう。そんなことを思っていた矢先。
「――レオン様!」
寮の部屋でのんびりしていると、扉の向こうからノックと共に聞き覚えのある声がした。扉を開けた瞬間――。
「申し訳なかったっす!!」
そこには、今にも床に頭をめり込ませそうな勢いで土下座しかけているルーク先輩の姿があった。
「えっ!? ルーク先輩!? どうしたんですか!?」
「レオン様が店に来てくれたのに、留守にしてしまって……!」
どうやら、俺がアルマレッタ商会を訪ねたことを聞いたらしい。
「ああ、それなら大丈夫ですよ。マルセルさんが対応してくれましたし」
「そうっすか……それならよかったっす」
ほっと胸をなで下ろすルーク先輩に、俺は本題を切り出した。
「それで、調査の方はどうですか?」
「はいっす。ヴァイス商会は、帝国じゃ名前を知らない商人はいない、ってくらいのデカい規模らしいっす」
どうやら帝国では有名な商会だったようだ。
「王国進出を狙って、鉛のゴブレットを帝国から持ち込んだみたいっすけど……」
「やっぱり、あまり売れなかった感じですか?」
「っす。何人かの貴族の方が購入した記録はあるんすけど、誰が買ったかまでは、まだ追い切れてないっす」
ルーク先輩は、申し訳なさそうに肩を落とした。
「いえ、数日でそこまで分かれば十分すごいですよ」
「そう言ってもらえると助かるっす……」
「それに、リヒト様の方でも調査してもらってますから、すぐに判明しますよ」
「っすね。こっちでも情報が入り次第、共有するっす」
そう約束して、この日はルーク先輩と別れた。
* * * * * * *
春休みが明け、学園には再び賑わいが戻ってきた。
「みんな、おはよ~」
二年次生となった俺は、見慣れた面々と顔を合わした。
「うむ。二年次も頼むぞ」
「後輩もできるのだから、問題は起こすなよ」
――挨拶しただけなのに釘を刺されてしまった。
「ちょっとカインくん。それじゃ僕が問題児みたいじゃん」
「十分問題児だと思うが」
「失礼な! 僕は真面目な優等生なのに……」
抗議すると、リヒト様は視線を逸らし、微妙な表情を浮かべた。
「そ、そうだな。確かにレオンは真面目ではあるな」
(なんだろう、その含みにある言い方は……)
「……それでヴァイス商会の件だが――」
俺がリヒト様をジト目で見ていたら、話題をそらされた。まあ、俺も気になっていたからいいけど。
「あ~、どうなった? ルーク先輩の話だと、誰が買ったかは、まだって感じだったけど」
「うむ。ローデリヒ・ヴァイスという男が、まだ王国に滞在していてな。販売先は特定できた」
さすが、王国お抱えの調査員。仕事が早い。
「どうやらローデリヒは、鉛の毒性について説明した上で販売していたようだ」
「そっか。それなら安心だね」
「ああ。念のため、ゴブレットの所在確認を進めている。購入者以外が使用すると危険だからな」
――これで一件落着、かな。
「大事にならなくてよかったね」
「うむ。レオンが気付いたおかげだ」
「まあ、今回はお手柄だな」
「えへへへ……照れるな~」
素直に褒められると、やっぱり嬉しい。……と、そこでふと違和感に気付いた。
「あれ? そういえば、エリスは?」
「む? 知らんのか?」
「エリス嬢の父上の体調が優れないらしくてな。まだ領地から戻ってきていない」
「え……そうなんだ。大丈夫かな」
少し胸がざわつく。
「まあ、数日もすれば戻ってくるだろう。その時に気にしてやればよい」
「……うん、そうだね」
そう答えつつ、俺はなぜか払拭できない小さな不安を感じていた。
* * * * * * *
「ハーイ。私が入学しましたよ!」
数日後。俺たちはカフェテリアに集まっていた。その理由は、目の前で元気いっぱいに手を振っているこの人――聖女のマリアさんだ。
「入学おめでとう。これでマリアさんも学園の仲間だね」
俺がそう言うと、マリアさんは、ぱぁっと表情を明るくして頷いた。
「ハイ! とても楽しみデス」
そして、隣にいる勇者様へと向き直る。
「どうですかユウキ! 私の制服姿は?」
そう言うなり、くるりと一回転。
「うん。よく似合ってて可愛いよ」
「えへへへ。ユウキに褒められました」
自分で振っておいて、照れるマリアさん。
――うん、普通にカワイイね。
場の空気も自然と和み、カフェテリアはいつもの賑やかさを取り戻していた。
……はずだった。俺が何気なく周囲を見渡していると、隣からチョイチョイと小さくつつかれる。
『おい、レオン』
『ん?』
ミナミさんが、声を潜めて囁いてきた。
『エリスは、どうしたんだ?』
その視線の先。マリアさんと話しているエリスは、笑顔ではあるものの、どこかぎこちない。
『ああ……お父さんが病気みたいでさ』
『……なるほどな』
ミナミさんは納得したように小さく頷いた。
『だから最近、元気ないのか』
エリスは領地から戻ってきてから、ずっとどこか沈んでいる。父親のことを聞いてみたが、言葉を濁されてしまった。今もこうして、マリアさんの話に合わせて笑ってはいるが――。
(……無理してるよね)
『病気じゃ……僕たちには、どうしようもないしね』
『そうだな』
ミナミさんは腕を組み、小さく息を吐いた。
『それなら、今は少し様子を見るか』
『うん……』
無理に踏み込んで、ウザがられたら俺のメンタルが持たない。笑ってはいるが、どこか遠くを見ているような……そんな気がしてならなかった。結局その後もエリスの元気は戻らないままだった。
――はぁ~。こういう時どうしたらいいんだろぅ……。




