第63話 【武闘祭】閉会と、忍び寄る影
「それでは、武闘祭の表彰式を始めたいと思います」
司会役の教師の声が闘技場に響く。六日間にわたって開催された武闘祭も無事に終わりを迎えた。連日の熱戦で、会場にはまだ興奮の余韻が残っている。
「第三位――、一年『ガルム』!」
その発表と同時に、観客席からひときわ大きな歓声が上がった。
「うわ、すごい歓声だね」
「そりゃ一年で三位だぞ」
壇上へ上がったユウキくんは、少し照れたように手を振っていた。
――さすが勇者様、キラキラしてる。
「続いて、第二位――、一年『グラニ』!」
「……っ」
名前を呼ばれたリヒト様は、悔しそうな表情を浮かべてから前に出る。その姿は堂々としているけど、内心はきっと納得していない。
「そして優勝は――、四年『ガルム』!」
次の瞬間、会場を揺るがすほどの大歓声が巻き起こった。そう、俺たちは決勝戦で、見事なまでに惨敗してしまったのだ。
「ぐぬぬ……決勝に私たちが出られていれば……!」
隣でカインくんが歯ぎしりしている。
「ユウキくんとの準決勝で、全力出し切っちゃったからね」
「……否定できん」
前日に行われた準決勝。俺、リヒト様、カインくんの三人は、死力を尽くして勇者ユウキを足止めした。その代償として――。
「筋肉痛で一歩も動けんとは、情けない……」
「いや、あれは無理だって!」
主力三人が戦闘不能。その状態で四年次生に勝てるほど、現実は甘くなかった。
「これにて、本年度の武闘祭は閉会します」
こうして初めての武闘祭は、準優勝という結果で幕を閉じた。そして表彰式終了後。俺たちは今、学園のカフェテリアにいた。
「「かんぱーい!」」
ジュースとお菓子で、ささやかな“武闘祭お疲れ会”をすることになったのだ。
「お疲れ様! 準優勝おめでとう。一年で準優勝なんて前代未聞だよ」
「ありがとう。ユウキくんもお疲れ様」
グラスを合わせると、ようやく実感が湧いてくる。
「それにしても、惜しかったな」
「ええ。優勝は見えていたのですが……」
リヒト様とカインくんは、まだどこか悔しそうだ。
「まったくだ! 私たちに勝ったんだから、優勝くらい楽勝だっただろ」
「す、すみません……ミナミさん。私たちが不甲斐ないばっかりに……」
エリスがしょんぼりすると、ミナミさんが慌てて首を振る。
「い、いや! エリスはよくやったぞ! 悪いのはそこの、へなちょこ三人組だ!」
「えー、しょうがないじゃん。勇者様相手だったんだから」
俺の言葉に、ユウキくんが苦笑い。
「ちょっと、レオンくん。勇者様って……。でも結局、倒しきれなかったけどね」
「いや、ユウキよ。三人がかりで倒せなかったのは、我々の方だ」
リヒト様も肩をすくめる。
「でも、まさかエリスさんにやられるとは思わなかったよ」
「い、いえ……あれはレオン様の作戦で……」
「えっへん! エリスはすごいんだよ」
「そうだぞ。さすが私のエリスだ」
俺とミナミさんの称賛に、エリスは真っ赤になって俯いてしまった。
「あはは。でも来年は、俺たちが勝たせてもらうよ!」
「ふん。次も私たちが勝つ! そして優勝だ!」
武闘祭が終わったばかりだというのに、もう次の話をしているユウキくんとカインくん。
「それじゃ、改めて――お疲れさまでした!」
* * * * * * *
武闘祭が終わり、冬学期は平和のうちに過ぎて行った。俺の学園生活一年目は終わり、春からは二年次生となる。
「はぁ~……まさかエリスが領地に帰っているとは……」
春休みに入って数日。冬休みの失敗を挽回するべく、買い物に誘おうとしたのだが、既にエリスは領地へ帰った後だった。
「仕方ないか……」
俺は一人で王都の市場をぶらぶらと歩く。
「お、ここが露店エリアか。初めて来たな」
見たことのない商品が所狭しと並び、眺めているだけでも楽しい。
「お、なにこれ? 魔よけの人形? こっちは……魔道具?」
そんな中、露店には似つかわしくない、妙に豪華な品が目に留まった。
「ん? 何か豪華な……グラス?」
「坊ちゃん。お目が高いねぇ」
露店のおじさんがにやりと笑う。
「こちらは貴族様御用達のゴブレットだよ」
「へぇ。でも、なんで露店で?」
俺が尋ねると、おじさんは声を潜めた。
「知り合いの帝国商人に泣きつかれて仕入れたんだがね……」
「帝国商人?」
「ああ。鉛製なんだが、王国じゃ、あんま売れなかったみたいなんだ」
「へぇ~、それでおじさんが……って、え? 鉛!」
思わず声が大きくなった。露店のおじさんは俺の声にビクッと肩をすくめた。
「お、おう。王国だと鉛製の食器は珍しいだろ。どうだい? 安くしとくよ」
「いや、おじさん。これでワインとか飲んだら毒になるんだよ!」
「――は?」
おじさんの顔が凍りついた。
「確か、お酒だと鉛が溶け出しちゃうんだよ」
「鉛は毒なのか?」
「少量だと大丈夫だけど、鉛って体にたまっていくんだ」
俺の言葉におじさんは真剣な顔をする。
「だから、ずっと使ってるとどんどん症状が悪化するんだってさ」
「……まじかよ」
おじさんの顔がどんどん青くなっていく。
「もう売れたの?」
「いや俺んとこでは、まだだ」
「よかった……。それでその帝国商人って、どんな人?」
「あぁ、ローデリヒ・ヴァイス。ヴァイス商会って店の商人だ」
おじさんは腕を組みながら考えている。
「そういや、妙に急いでたな……。まだ王都にいるかは分からんぞ」
「わかった。もしローデリヒさんが来たら毒の事、教えてあげて」
「お、おう、わかった。ありがとな、坊ちゃん」
証拠品としてゴブレットを一つ買い取り、露店を後にする。こうして俺は、何やら不穏な事態に巻き込まれていくのであった。
――はぁ~。どうやら≪千客万来≫さんは、休暇という概念を知らないらしい。




