第62話 【武闘祭】準決勝と、勝敗の裏側
準決勝進出が決まった日の夕方。俺たちは学園内のカフェテリアに集まっていた。
「まさか本当に、僕たちが準決勝で戦うことになるとはね」
俺は席に着きながらユウキくんに話しかける。
「うん。一年次で準決勝まで進むのは、数十年ぶりらしいよ」
「えっ、そうなの? しかも勝った方が決勝だよね」
「一年次で優勝……あり得なくもないかな」
そんな平和な会話をしていると――。
「……おい、レオン」
視線を向けると、腕を組んだカインくんが露骨に不機嫌そうな顔をしていた。
「敵と、あまりにも気安く話しすぎだ」
「いや、敵って……。仲良くした方が楽しくない?」
「ふん。明日戦う相手だ。仲良くなどできるか!」
ぴしゃり、と言い切るカインくん。
「あはは。敵かどうかはともかく、俺たちも明日は全力で行くよ」
その言葉を受けて、リヒト様が静かに頷く。
「ああ。我々も本気だ。勝つのは一年『グラニ』だがな」
穏やかな口調だが、完全に臨戦態勢になってる。
「ふん。私の≪アームストロングくん≫の鉄壁の防御は、そう簡単には突破できないぞ」
胸を張るミナミさん。
――てか、あのメカ、そんな名前だったんだ!?
「確かに……あの機械は厄介そうだよね」
素直な感想を言うと、ミナミさんは急に饒舌になった。
「おっ、レオンはやっぱり分かっているな! なんたって≪アームストロングくん≫には隠し機能が……」
「わーっ! ミナミさんストップ! ネタバレ禁止!」
「なにそれ! 隠し機能見たい!」
「むふふふ。明日を楽しみにしておくんだな!」
ドヤ顔で笑うミナミさん。こうして俺たち一年次生による準決勝が幕を開けることとなった。
* * * * * * *
「たぁぁっ!」
「くらえぇ!」
「あまい!」
試合開始直後。ユウキくんが、俺たち『グラニ』の防衛組を文字通り蹴散らしていく。俺たちはオーブの前、最後の防衛ラインに立っていた。
「やはり……ユウキ一人でほぼ全滅か」
「ですが、あちらも残っているのはユウキのみです」
カインくんの言葉通り、こちらも敵の攻撃組はほぼ排除していた。
「へえ。防衛に君たち三人が居るとは意外だね」
「ふん。こうでもしないと、お前は抑えられんからな」
カインくんが律儀に答える。俺たちの作戦は単純。三人がかりで、勇者ユウキを足止めする。
「ふふ。光栄だね。でもいいのかな? ミナミさんの防御は鉄壁だよ」
「それはお前が心配することではない! 行くぞ!」
リヒト様の号令と同時に攻撃開始。
「くらえっ!」
カインくんが火魔法で攻撃を仕掛ける。それに合わせるようにリヒト様が突っ込んでいく。
「おっと。でも、まだまだ!」
ユウキくんは魔法をかわすと、突っ込んできたリヒト様に剣を振り下ろす。
「≪アウラ・カーテン≫」
「カキンッ」
俺はリヒト様に風の防御魔法を発動し、ユウキくんの攻撃を防ぐ。
「うん、やるね。じゃあこんなのはどうかな?」
そう言うやいなやユウキくんの姿が消える。
「レオン! 後ろだ!」
「カンッ」
カインくんの声で俺は何とかユウキくんの攻撃を剣で防ぐことが出来た。
「あぶなっ!この!」
俺が力任せに剣を振ると、ユウキくんは距離を取った。
「うん、惜しかったね。でも次は防げるかな?」
剣、魔法、速度――すべてが規格外。ユウキくんは笑みを浮かべながら、超高速のヒット&アウェーで攻撃を繰り返してくる。俺達は防御するので精一杯。
「はぁ……はぁ……やはり……勇者か」
「三人がかりで、これとは……」
「ま、まずいよ。そろそろHPが尽きそう」
腕が重い。剣を握る指に、感覚がなくなりかけている。俺達の命は風前の灯火であった。
「ふふふ。そろそろ決着を付けようかな。行くよ!」
もうダメかと思ったその時――。
「パンッ!」
乾いた音が闘技場に響いた。試合終了を告げる合図だ。
「……え?」
攻撃に移ろうとしていたユウキくんが唖然としている。
「ふぅ~。どうやら勝ったようだな」
リヒト様の言葉に、ユウキくんが信じられないという顔で詰め寄る。
「うそ! 俺達が負けたの? でもどうやって?」
「えへへ。じゃあ一緒に台座に行ってみようか」
俺は困惑顔のユウキくんを伴って、台座へと向かった。そこには――『ガルム』のオーブを運び終え、抱き合って喜ぶエリスとミナミさんの姿があった。
「……え? 何で、ミナミさんが?」
ユウキくんの困惑は、さらに深まるのだった。
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――Side:エリス視点
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「はい! 僕にいい作戦が……」
「却下だ!」
「何で! まだ作戦言ってないのに」
「ふん。どうぜろくでもない作戦だろ!」
私達は準決勝前の作戦会議の真っ最中。レオン様の提案にカイン様が即ダメ出しをしています。相変わらず仲が良くてちょっぴり嫉妬してしまいそうです。
「まあ、聞くだけ聞いてやろうではないか」
「リヒト様! じゃあ説明するね」
そうして作戦を説明された結果、私は今ミナミさんの操る機械の前に立っています。
(こ、これ……手のお化けでしょうか……)
目の前に鎮座する巨大な機械。四角い操縦席の左右から、異様に大きな腕が伸びています。
――こ、怖いです。作戦に同意したことを後悔してしまいそう……。
「ん? 何だ! エリスが攻撃組なのか?」
機械からミナミさんの声が聞こえてきました。
「ひゃい!」
思わず変な声が出てしまいました。
「エリスでも手加減はしないからな」
そうです。とにかく落ち着いて、レオン様の作戦を実行しましょう。
「ミ、ミナミさん……私を、攻撃するんですか?」
「い、いや! そんなことはないぞ! 私はエリスの味方だぞ!」
ミナミさんの操る機械の動きが、一瞬鈍ったように感じます。
「じゃあ……一緒に、そのオーブを運んでください」
「えっ……いや、それは……」
ミナミさんが困惑しています。
――ここですね。
私はレオン様の指示書にチラッと目を通します。
(え、え~と。手を胸の前で組んで、少し涙目で上目遣い……)
――な、涙目。こうでしょうか?
ちょっと恥ずかしいですが、今は勝つためです。ガンバレ、私!
「ミナミさん……助けてください……」
――静寂。
「ひょぉぉぉ!」
次の瞬間、巨大な手がオーブを掴み上げました。
「え、ちょっと!ミナミさん」
「何してるんだ!」
『ガルム』の防御組の生徒たちから非難の声が聞こえます。
「え~い、うるさい! 私はエリスを助けるんだ!」
そう言って、ミナミさんは味方を薙ぎ払っていきます。
「ギャァー」
「や、やめろー」
「わっはっは。よし! 行くぞエリス!」
「は、はいっ!」
――レオン様! 作戦成功です。
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――Side:レオン視点
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「……なるほど。それはやられたね」
説明を聞いたユウキくんは、苦笑い。
「まさか、本当に成功するなんて……」
「レオン様! やりました!」
カインくんが困惑する中、エリスが満面の笑みで駆け寄ってきた。
「エリス、お疲れ様! 完璧だったよ」
エリスを労っていると……。
「レオン!」
ミナミさんの迫力に後ずさる俺。
(ひぇ! 怒られる……!)
「お前の作戦だってな。よくやったぞ!」
「え?」
「ちょっと!? ミナミさん! 俺たち負けたんだけど!」
「うるさい! エリスの可愛い仕草が見られたんだ!勝ち負けなど、どうでもいい!」
――うん。正直、俺も見たかったよ。
「そういえば、≪アームストロングくん≫の隠し機能ってなんだったの?」
俺の疑問に満足顔のミナミさんが答えてくれた。
「ん? あぁ、やられそうになったら、周囲を巻き込んで大爆発するんだ」
「え? 自爆? 怖っ!」
(隠し機能使わせなくてよかった)
こうして俺たち一年『グラニ』は、勢いそのまま決勝戦へ進出することになったのだった。




