第61話 想定外の【武闘祭】!?
「ドッカーン!」
「くそっ……! もっと火力を……!」
武闘祭一日目の午後。俺たち一年『グラニ』と三年『ガルム』との初戦がついに始まった。リヒト様とカインくんは攻撃組を率い、すでに敵陣へと切り込んでいる。エリスは監視組として高台に配置され、フィールド全体を見渡しながら、状況を逐一魔道具で伝えてくれていた。そして俺はというと……。
「お、さすが〈ル・シエル・シュクレ〉の新作ケーキ。コーヒーとも合うわ~」
闘技場の一角。自軍オーブの前に簡易テーブルと椅子を並べ、優雅な午後のティータイムを満喫していた。魔道具を使って寒い屋外でも温かいコーヒーが飲めるし、ケーキもきちんとお皿に盛り付けているのでムダに快適である。
「……ふざけるなよ!」
「おのれ! 我々を侮辱しやがって!」
「絶対にその顔面をぶん殴ってやる!」
――うん、周囲が物騒で怖いです。
今回、俺は防御組に配置された。というか、俺は一人で自軍のオーブを守っている。
「魔力、どれだけ注いでも削れないぞ!?」
「剣でもダメです! 魔法も弾かれます!」
「一年の魔法だろ!? どうなってるんだ!」
オーブの周囲には俺の風属性防御魔法が展開されている。透明な風の壁は、俺の魔力を超えない限り、外側からの干渉をほぼ遮断してくれていた。そして俺は中で呑気にケーキを食べているが、決してサボっているわけではない。
(は~、リヒト様の作戦とはいえ心苦しい……)
俺がここでケーキを食べることで、相手を挑発し敵の注意を引きつけ、できるだけ多くの先輩たちをこの場に縛り付ける。つまり俺が囮兼要塞になることが今回のリヒト様の作戦であった。
「うん……ヒマになってしまった」
ケーキを食べ終え、コーヒーも飲み干してしまった俺は、やることがなくなった。攻撃は全部弾くし、敵は怒鳴るだけで状況はまるで動かないのだ。戦局もどうなっているのか、正直よく分からない。
(今頃、リヒト様たちはどうしてるんだろ)
そんなことを考えながら、ぼんやりと空を見上げる。実は《アウラ・カーテン》は、以前の反省を活かして完全密閉にはしていない。オーブの周囲を囲むだけで、上はぽっかり空いている。
――うん、窒息は嫌だしね。
すると、その様子に気づいたらしい先輩の一人が声を上げた。
「おい……あいつ、上を見てるぞ」
「……もしかして、上からなら攻撃できるんじゃないか?」
(お、やっと気づいたようだ)
このまま試合が終わるまで待つのも悪くないけど……、せっかくだし、俺もちょっとくらい戦いたいのだ。
「よし、俺が行く!」
「あいつに目にもの見せてやれ!」
「やっちまえ!」
先輩たちの士気が、なんか変な方向に高まっている。ていうか、終わった後が普通に怖いんだけど。
「おりゃあああ! くたばれええ!」
――いや、くたばれはダメでしょ! 学園のイベントだよ!?
内心ツッコミを入れつつ、上空から剣を振り下ろしてくる先輩に向けて、俺は手を軽く握った。一瞬、空気が張りつめる。
「《アウラ・ナックル》」
見えない風の拳が、一直線に突き上がる。
「ぐはっ!?」
次の瞬間、先輩の体が空中でくるりと回転し、派手に吹き飛ばされた。
「な、なんだ!?」
「今、何が起きた!?」
「上からもダメなのかよ!」
――わっはっは。先輩たち、完全にビビってるな。
「パンッ!」
俺が満足気に頷いていると、試合終了を告げる乾いた音が闘技場内に響いた。
(お、どうやら俺達の勝利みたいだな)
俺は、《アウラ・カーテン》を解除して、クラスのみんなに合流しようとした。が、しかし――。
「おらぁ!」
「絶対ぶっ壊してやる!」
「今に見てろよ、テメェ!」
――あれ?
先輩たちが、全然引いてくれない。それどころか、目を血走らせて、なおもこちらへ向かってくる。
「あ、あの……先輩。もう試合、終わりましたよ?」
「うるせぇ!」
「もう関係ねぇんだよ!」
「とりあえず一発殴らせろ!」
(ひ、ひぇぇぇ~! 挑発しすぎたぁぁぁ!)
俺は慌てて《アウラ・カーテン》を強化し、その中で縮こまる。外では、怒号と攻撃音がしばらく続いた。
数分後――。
「うぇ~ん! カインくん! 怖かったよ~!」
「え、えい! 泣くな! みっともない!」
「う、うむ……その、悪かったな、レオン」
ようやく駆けつけた先生と、カインくん、リヒト様に泣きつく俺。その後ろでは――。
「くそっ、覚えてろよ!」
「暗がりには気を付けるんだな!」
先輩たちから、これでもかというほどの恨み言が飛んできていた。
(……そりゃあ、あんな挑発の仕方をしたら恨まれるよね)
こうして俺は、武闘祭初日にして、確実に三年次生のヘイトを集めることに成功したのだった。
* * * * * * *
翌日。
二回戦の相手は、四年『フギン』。昨年の武闘祭で準決勝まで進出した、文句なしの強豪クラスだ。控室には、昨日とは違う緊張感が漂っていた。
「……今回の相手は、さすがに油断できんな」
「ええ。純粋な戦力差だけで言えば、こちらが不利でしょう」
リヒト様とカインくんが、真剣な表情で作戦盤を挟んでいる。そしてちらりと、二人の視線が俺に向いた。
「……まさか、昨日の戦法が規制されるとはな」
「まあ、あれでは試合になりませんしね」
そう。昨日の俺の《アウラ・カーテン》があまりにも一方的すぎたため、【魔法の連続展開は最大二十分まで】と、運営から正式に通達が入った。どうやら教師会議でも、かなり揉めたらしい。
「ていうか! 規制されてなくても、もうやりたくないよ!」
――本当に怖かったんだから!
昨日の三年生たちの形相を思い出し、思わず声が裏返る。そうして、必死の懇願により俺は今回、攻撃組となった。相手は四年。昨日のような小細工は通じないだろう。
「よし。相手は強敵だ。皆、気合を入れていくぞ」
「あ、そうだ。僕に一つ、作戦があるんだけど」
「……レオンのか?」
「不安しかないのだが」
「ちょっと!? カインくんひどいよ!」
二人の反応が辛辣すぎる。
「それで、どんな作戦なんだ?」
疑わしげなリヒト様に、俺はにっこり笑った。
「うまくいけば、相手の人数を少し減らせると思うよ」
試合開始の合図がなると、俺は即座に魔力を展開し、水の蝶を複数生み出した。
「≪アクア・パピリオ≫」
「む……それは、魔力操作の授業で使った魔法だな」
「そうだよ。よし、行け!」
俺は、腕を前に突き出す。水の蝶たちは一斉に飛び立ち、しばらくすると、四年『フギン』の選手一人一人の背へと静かに留まっていった。
「……お、見つけたみたいだね。全部で、二十三人」
水の蝶は直接攻撃はしない。だが、≪アクア・パピリオ≫は、俺の魔力で作られたものだ。つまり正確な位置と人数が全て丸分かりとなる為、とても優秀な“目印”となる。
「それじゃ、――出番だ、ピーちゃん! ≪バードストライク≫!」
俺は水で出来た鳥を敵の人数分作り出す。そして、鳥たちは蝶へと向かって一直線に突進していった。
数分後――。
「ぐはっ!」
「ぎゃああ!」
「ごぼごぼごっ!?」
フィールドのあちこちから、悲鳴が上がる。
「おい、レオン! 貴様なにをした!?」
カインくんが怒鳴るが、俺は冷静に胸を張った。
「ふっふっふ。言ったでしょ? 敵の人数を減らすって」
「なるほど。そういう作戦か」
リヒト様は、状況を一瞬で理解したようだった。
「よし。この機に一気に攻めるぞ!」
だが――。
「パンッ!」
唐突に、試合終了の音が鳴り響いた。
「……え?」
全員が、固まる。次の瞬間、魔導拡声器の声が闘技場に響いた。
『えー……四年『フギン』の選手が全員戦闘不能となりました』
『よって、一年『グラニ』の勝利とします』
――静寂。
俺は、そっと目を逸らした。
「……おい」
「減らすどころか、全滅しているではないか」
「い、いや! ユウキくんと父上には効かなかったんだよ!」
必死に言い訳すると、リヒト様は冷静に一言。
「……レオンよ。比べる対象がおかしいぞ」
――あ! そうだった。あの二人、人かどうか怪しい枠だった。
「ま、まあ! 勝ったんだから良しとしようよ!」
そう言ったものの、クラスメイトたちの視線はどこか遠い。こうして俺たち一年『グラニ』は、勢いそのまま準決勝へ進出することになったのだった。
――また、変な規制増えたりしないよね?




