第60話 抽選会の結果と、始まる作戦会議
俺たちは今、学園の講堂に集められていた。全学年・全クラスの生徒が詰めかけている会場では、無数の話し声が反響し、熱気を帯びた空気が講堂を満たしていた。冬学期最大の行事、武闘祭。その対戦抽選会が、まもなく始まろうとしていた。
「なんだか……緊張してきました」
隣で、エリスがそっと俺の袖をつまみながら小声で呟く。視線の先では、三年次や四年次の先輩たちが余裕の表情で談笑しており、その様子が余計に一年次生の不安を煽っていた。
「うん……先輩たち、強そうに見えるよね」
俺はエリスの手前、余裕のある雰囲気を出してみたが、心臓はバクバクである。すると壇上に立った教員が、魔導拡声器を使って声を張り上げた。
「これより武闘祭の対戦抽選会を行います。各クラス代表者は、順に前へ出てください」
その声に、講堂のざわめきが一段落する。
「リヒト様、頑張ってください!」
「お願いします、リヒト様!」
あちこちから飛ぶ声援に、俺たちの代表であるリヒト様が若干困った顔をした。
「う、うむ……どう頑張ればよいのか分からんが、とりあえず行ってくる」
そう言って、こちらを振り返り小さくガッツポーズする。こうして始まった抽選会は、まずシード枠の抽選からだった。前大会で準決勝まで進出したクラスは、二回戦からのシードとなる。
「シードクラスの代表者はこちらへお越しください」
因みに、もし前大会準決勝出場クラスがすでに卒業していた場合は、二回戦進出クラスから繰り上げになるらしい。
「続いて、三年次生の代表から順に、くじを引いてください」
抽選は淡々と進んでいく。三年、二年と呼ばれ、いよいよ――。
「次。一年『グラニ』、前へ」
「うむ」
代表であるリヒト様が前に出る。箱からクジを引き、係の教員へと手渡すと――。
「一年『グラニ』は一回戦・第二試合です」
その瞬間、講堂のあちこちから声が上がった。
「三年『ガルム』はクジ運いいな」
「一年はついてないな」
――はい、聞こえてますよ。
よりにもよって、初戦で三年次生。俺が顔を引きつらせていると、カインくんは腕を組み、まったく気にした様子もない。
「よし。ユウキたちとは、準決勝で当たるな」
「え? その前に一回戦で三年次、二回戦はシードの四年次生だよ?」
「ふん。そんなもの、我々なら楽勝だ。実力差というものを、思い知らせてやればいい」
――楽勝なんだ!? その自信、どこから来るの!?
そんなカインくんの様子に、エリスが不安そうに俺を見上げ、小さく囁いた。
「……レオン様、本当に大丈夫でしょうか」
「だ、大丈夫……だと思う。多分」
自分で言っておいて、まったく説得力がなかった。こうして、抽選会はつつがなく終了し、武闘祭本番へ向けて各クラスが準備を進めることになった。
* * * * * * *
「よし、では武闘祭の説明を始めるぞ」
クラスに戻った俺たちは、早速作戦会議……の前に、カインくんによるルール解説を受けることになった。
武闘祭は、六日間にわたって行われ、俺たち『グラニ』の初戦は、一日目の午後。会場の闘技場内には、川、林、岩場、草原といった複数のフィールドが再現されるとのことだ。
「まず各チームは、《オーブ》を闘技場内の好きな場所に設置する。どのフィールドに設置するかが勝敗のカギだな」
《オーブ》とは、ラグビーボールほどの大きさをした球体だ。これを相手チームから奪い、フィールド内に設置された台座へ先に収めたクラスが勝利となるらしい。
「そして選手には、攻撃組、防御組、監視組という役割が存在する」
攻撃組は相手のオーブを奪い、台座へ運ぶ。防御組は自軍のオーブを死守する。
そして監視組は――戦闘には参加せず、フィールドの外から全体を見渡し、味方に指示を出す。いわば頭脳担当だ。
(……脳筋だけじゃ勝てないってことだね)
「人数配分は自由だ。極端な話、監視組を置かない戦法もある」
――なるほど。作戦次第でいくらでも戦い方が変わるってことか。
「戦闘では、模擬戦用の武器や魔法の使用が可能だ。もちろん全員が安全用の魔道具プロテクターを装備するから、怪我の心配はないぞ」
魔道具は攻撃を受けると、ダメージが数値化され、個人に設定されたHPがゼロになると戦闘不能になる。
ただし――。
「どれだけ相手を倒しても、先にオーブを台座に置かれたら負け、か」
もっとも、制限時間内に決着がつかなければ、戦闘不能にした人数で勝敗が決まる。だから、戦闘そのものが無意味というわけではない。
「よし。説明はこんなところか」
リヒト様は立ち上がり教壇へと進み出る。
「これより、我々一年『グラニ』の作戦を発表する」
その言葉に、教室の空気が一変した。ざわついていた生徒たちの声がすっと静まり、全員の視線が一斉にリヒト様へと集まる。
俺も無意識のうちに背筋を伸ばしていた。三年次生との初戦。相手が格上なのは分かっている。それでも――。
(リヒト様が、何も考えずに突っ込むわけがない)
カインくんは腕を組んだまま、どこか楽しそうに口元を歪めているし、エリスは祈るように胸の前で手を組み、じっと前を見つめていた。期待と不安。その両方が入り混じった感情が、教室全体を包み込んでいく。誰一人として、軽口を叩く者はいなかった。
そして明かされた作戦は、俺の想像を良くも悪くも大きく裏切る何とも奇抜なものだった。
(……本当に、これで勝つ気なんだよね?)
胸の奥に湧き上がる一抹の不安とともに、一年『グラニ』の武闘祭は、静かに幕を開けようとしていた。




