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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
学園編

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第58話 仮面舞踏会と、告白の行方

「――お待たせいたしました。これより、告白タイムとなります」


 年が明けるまで、あと二時間ほど。王都学園のホールでは、《マスカレード・マッチング》が佳境を迎えていた。ざわめきが一段落したところで、生徒会メンバーが前へと進み出る。


「それでは、男性参加者の方にはこちらをお配りします」


 渡されたのは、同じ意匠の二つのブローチ。


「男性の方は、順番に意中の女性の前に立ち、告白の言葉と共にブローチをお渡しください」


 説明役は、生徒会長のカロル先輩。仮面越しでも分かるほど楽しそうだ。


「もし、意中の女性が先に選ばれてしまった場合は、ライバルが女性の前に立った時点で、『ちょっと待った~』と声を上げてください。その後、順番に告白していただきます」


 ここで、副会長のアドリアーナ先輩が一歩前に出る。


「告白された女性の皆さんは、受け取ったブローチを“選んだ相手”とご自身の胸に付けてお返事をしてください」


一瞬の間を置いて、アドリアーナ先輩は付け加えた。


「意中の方がいない場合は『ごめんなさい』とお断りいただいて構いません」


 そして再び、カロル先輩が前に出る。


「見事カップル成立となりましたら、この後のダンスにご参加いただきます。さらに特典として――」


 にやり、と笑う。


「年明けの花火を二人で鑑賞できる、特等席をご用意しております!」


 会場が一気に沸いた。


「それでは……一番の男性からお願いします!」

「は、はい……!」


 こうして告白タイムは始まった。緊張した声、真剣な言葉。成立するカップルもいれば、断られる生徒もいる。そんな光景を眺めながら、俺はある重大な事実に気づいてしまった。


(……というか、俺、エリスに告白しなきゃいけないんじゃん)


 そう、俺とエリスが参加したのは、“サクラ”兼、“カップル成立ゼロ回避要員”としてである。すでに何組も成立している今となっては不要な気もするが……。


 その時だった。エリスの前に、男子生徒が立ったのが見えた。


「ちょ、ちょっと待った~!」


 反射的に声を上げていた。気づけば、エリスの前には俺を含めて四人の男子が並んでいる。


「……てか、ユウキくん、なんでいるの?」

「え? だって、エリスさんとなら絶対カップルにならないからね」


 俺の隣には、同じく“サクラ”参加の勇者様がいた。


「本当に? それでユウキくんとエリスがカップルになったら、僕泣くよ!?」

「あはは。心配性だな。でも、ちゃんと告白しないと……」


 仮面越しでも分かる、やけに眩しい笑顔で俺を見る。


「俺がエリスさんの心を射止めちゃうかもね?」

――冗談に聞こえないよ!


 ユウキくんは一歩前に出ると、片膝をついた。その仕草が、無駄に様になっているのが腹立たしい。


「あなたの優しい気遣いに、心を奪われてしまいました」


 ブローチを差し出し、穏やかな声で続ける。


「俺と、ダンスを踊っていただけますか?」

「……っ」


 エリスが顔を赤らめながらブローチを受け取る。


(え? 照れてる? ヤバくない?)

――ちょ、待って!? エリスが勇者に取られちゃう!?


 頭が一気に真っ白になり、考えてた告白の言葉が吹っ飛ぶ。


「それでは、次の方お願いします」


 無情にも、俺の番が来てしまった。俺はエリスの前に立ち、同じように片膝をつく。


(ええい! 出たとこ勝負だ!)

「……初めて会った時から、あなたの瞳の綺麗さに目を奪われてしまいました」


 ブローチを差し出しエリスを見る。


「僕と一緒に、花火を見てもらえませんか?」


 一瞬、エリスが固まってしまった。

――あれ? 外した?


 俺が焦っていると、エリスははっとしたようにブローチを受け取ってくれる。


「全員の告白が終わりました。それではお返事をお願いします」


 カロル先輩の声。エリスは、しばらくブローチを見つめている。会場の音が嘘みたいに遠ざかり、自分の心臓の音だけが大きく響く。


(だ、大丈夫だよね。ユウキくん選ばないよね? いや、そもそも俺選んでもらえるのかな?)


 ネガティブな思考がとめどなく頭に浮かんでは消えてを繰り返していると、エリスが俺の胸にブローチを付けてくれる。


「おおっと! 見事カップル成立です!」


 歓声が上がる。


「それではお互い、仮面を外してください」


 安堵と実感が一気に押し寄せ、俺の体は硬直して動かなかった。そんな俺にエリスが小声で言った。


『レ、レオン様……仮面を……』

『あ、ごめん』


 仮面を外すと、エリスがくすっと笑う。


『レオン様がボーっとするなんて、珍しいですね』


 その笑顔を見た瞬間、胸が跳ね上がった。


(な、なんだこれ……顔、いや体が熱い……)


 そんな俺をみてエリスが心配そうに顔を覗き込んでくる。


『あの、大丈夫ですか?』

『う、うん。無事終わって安心しただけだよ』

――今、エリスの顔、まともに見られない。


 思わず、顔を背けてしまった。


「それでは、成立したカップルの皆さん。ダンスを始めますので中央へどうぞ」


 カロル先輩の声でようやく落ち着いた俺は、エリスに声をかける。


「行こうか、エリス」

「はい!」


 音楽が流れ、ホール中央でダンスが始まる。

――ダンスの授業、真面目に受けてて本当によかった。


「今年の《エリュシオン》はいかがでしたか?」


 ダンスが終わるとカロル先輩の閉会の挨拶が始まった。


「今年も残りわずかとなりました。フィナーレは花火の打ち上げになります。カップル成立の方々はこちらへどうぞ」


 花火鑑賞の特等席へとやってきた俺は隣のエリスに声をかける。


「お疲れ様、エリス」

「はい、レオン様も」


 花火を待ちながら、他愛のない会話を交わす。


「ユウキくんがエリスに告白したときは、正直焦ったよ」

「うふふ。あの告白を受けていたら、マリアさんに怒られてしまいます」

「やっぱりそうだよね」

「……バレバレなんですけどね」


 エリスが小さく笑う。


「あと、僕の告白の時……固まってたからどうしようかと思ったよ」

「あ、あれは……」


エリスは俯き、頬を赤くした。


「初めて会った時にも、瞳が綺麗って言ってくださったので……」


 そんなエリスの姿に目が離せなくなってしまう。


(……今言わなきゃ、きっと後悔する!)


 俺は一度、息を飲んだ。そして意を決すると、そっとエリスの肩に手を置く。


「エリス!」

「ひゃい!?」


 潤んだ瞳がこちらを見上げる。


「ぼ、僕とこれからも――」


『ヒュゥ――!』

『ドン!』


 言葉を遮るように、夜空に花火が打ち上がった。


「「ハッピーニューイヤー!!」」


 歓声に包まれる中、俺は苦笑して言い直す。


「……ハッピーニューイヤー、エリス。これからもよろしくね」

「はい……こちらこそ」


 肩から手を離し、新年の挨拶を交わす。

――俺のバカ。何チキってるんだよ!


 こうして、無事(?)に《エリュシオン》の夜は幕を閉じたのだった。


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