第57話 裏方レオンと、仮面舞踏会
雪に白く染められた王都は、まるで時間が止まったかのように静まり返っていた。だが、王都学園のホールだけはまるで別世界だった。そこには仮面をつけた怪しい集団がずらりと行列をつくり、静寂の街とは不釣り合いなほどの熱気に包まれていた。
「はい。パートナーのいる方はこちらのお揃いのブローチをお付けください」
「《マスカレード・マッチング》ご参加の方は、こちらの番号札を胸にお願いします」
「仮面が無い方は貸し出しがございますので、お気軽にどうぞ!」
学園のホール入り口では生徒会メンバーが、ニューイヤーズ・イブのダンスパーティー《エリュシオン》参加者の案内に追われていた。今回の《エリュシオン》は全員が仮面着用の仮面舞踏会。そして目玉企画の一つが《マスカレード・マッチング》、いわゆる仮面婚活パーティーである。
カップル成立の瞬間だけ素顔を公開するというシステムが、学生たちの興味を最大限に刺激した。そして既にパートナーがいる人たちには、カップル成立の過程を“恋愛リアリティーショー”として楽しめるようにしてある。
――うん。世界が違っても、他人の恋バナって大好きだよね、人間って。
「皆さま! 本日は《エリュシオン》にご参加いただきありがとうございます!」
挨拶を務めるのは、もちろんこの人、生徒会長カロル先輩。仮面越しでもわかるほど顔がにやけている。
「今年は新しい試みにあふれたパーティーです! 存分にお楽しみください!」
事前に告知していたので、ホール内には仮面をつけた学生たちがびっしり。この光景を前に、カロル先輩のボルテージは最高潮。
「それでは、今回初開催となります《マスカレード・マッチング》を始めたいと思います」
すると会場にいる給仕係から飲み物が配られる。そしてカロル先輩は企画の進行についての説明を始めた。
「まずは皆さま、胸に番号のついた札を付けているのが《マスカレード・マッチング》の参加者になります」
隣では副会長のアドリアーナ先輩が番号札を見やすいように掲げている。
「中央テーブルには食事を用意しておりますので、歓談をお楽しみください。」
演技がかった仕草でお辞儀をすると、一呼吸おいたカロル先輩はホールに作られた特設会場を指さす。
「歓談の後、カップルで参加できるゲームをご用意しております。気になった異性を誘って是非ご参加ください」
すると今度は、既にパートナーがいる人たちに向き直り、説明を続ける。
「パートナーのいる方たちは歓談中、参加者の話を聞くもよし、さりげなくアシストしていただいてもかまいません。ただし、あまりに干渉が過ぎる場合には、係の者が止めさせていただきます」
カロル先輩の横には、数人の生徒会メンバーが立っている。腕には“関係者”と書かれた腕章が。
「また、ゲーム会場には観覧席がありますので、こちらでゲーム観戦をお楽しみいただけます」
そして再び参加者へ向き直る。
「さて、いよいよ告白タイムですが、そちらは後程ご説明させていただきます。それでは、乾杯の挨拶はこの方にお願いしたいと思います!」
そう言われて登場したのは豪華な仮面をつけた男性。というかリヒト様である。
――うん。仮面付けてても王族オーラがすごいな。
「あ~、今年も残すところあとわずかだ。みな悔いの無いようにこのパーティーを楽しんでくれ。乾杯」
「「乾杯~~!!」」
こうして《マスカレード・マッチング》は幕をあけた。さて、それでは俺もお仕事を始めますかね。今回の俺の仕事、それは……。
「あ、君も参加者? あそこに一人でつまらなそうにしてる子がいるよ。一緒に行ってみない?」
「え、でも……俺、緊張して……」
「大丈夫大丈夫。ほら、あの子もきっと話したがってるって」
(実際はただデザートを物色してるだけだけどね)
声をかけるタイミングを失ってウロウロしている参加者を見つけては、さりげなく背中を押す。そう、“サクラ”である。
(女性23人の男性47人。そりゃあ男子が余るわな)
因みにユウキくんとエリスも参加している。エリスが参加してる理由は、カップル成立ゼロを防ぐため、俺とエリスがカップルになるという出来レースの為だ。
(ふぅ~、こんな感じかな。他に困っている人は……)
見回すとそこには困っている女子生徒が。
「ねえ、君、綺麗な髪してるね」
「良かったら僕とお話しませんか?」
「おい。俺が先に目を付けてたんだぞ」
「あ、えっと……、その」
そこには、数人の男子生徒に囲まれたエリスの姿が。
(うん、うん。エリスは仮面付けてても可愛いもんね。分かるよ~)
エリスの魅力が多くの人に伝わり、嬉しくなった俺が頷いていると、エリスからの視線を感じた。
(おっと、そろそろ助けてあげないとエリスが限界かな)
俺は、皿にケーキを乗せてエリスの元へ。
「いや~、ごめんごめん。ケーキ選ぶのに時間かかっちゃって」
「レ……! いえ、ありがとうございますっ」
一瞬、俺の名前を呼びそうになったエリスが慌てて口を押さえる。
――チョッと可愛かったな。その仕草!
「じゃあ、あっちで一緒に食べようか」
「は、はい……」
エリスの手を軽く引いて、その場を離れる。
「ちょっと! 俺まだ話して――」
「おい待て! 俺が――」
後ろではエリスに声をかけていた男子生徒が何か言っているが無視である。
『エリス、大丈夫だった?』
俺が小声で声をかけるとエリスは若干ご立腹。
『レオン様! 何でもっと早く助けてくれなかったんですか。何か私が声かけられて嬉しそうでしたし……』
『うん。だって……エリスがモテてるの見て、ちょっと嬉しくなっちゃってさ』
『~~っ!? もう! レオン様のバカ!』
エリスはぷいっと横を向いたが、耳まで真っ赤だ。
――うん、こういうとこだよね。ほんと。
ひとしきり休憩して周囲を眺める。どうやら全体の進行は順調らしい。
「じゃあ、少し休憩したらまた会場に戻るね」
俺が言うと、エリスが絶望した眼差しでこちらを見ている。
「そ、そんな! 私を見捨てるんですか!」
「いや、見捨てるって……。仕事しないといけないからね。大丈夫、危なそうならすぐ助けに来るから」
「ぜ、絶対ですよ!」
「うん。ゲームが始まる頃に迎えに来るから」
そう言って俺は会場に戻った。忙しく会場内を回り、参加者の手助けをしていると、あっという間にゲーム開始の数分前となっていた。
「君、さっきからずっと一人だよね? 一緒に話さない?」
「いや俺の方が先に……」
エリスを迎えに行くと、そこには複数の男性に囲まれ、涙目でこちらに助けを求めるエリスの姿が。
――うん。やっぱエリスはモテるね。
そう思いながら、俺はエリスを助け出しゲーム会場へと向かうのだった。




