第55話 サークルの熱狂と、スキルの仮説
学園祭から数日。賑わいが過ぎ去ったはずの校舎では、新たな熱狂が生まれていた。原因はひとつ、俺たち『グラニ』が学園祭で企画した“コスプレ執事喫茶”だ。
「豆の挽き方は三段階試した。次は抽出時間だな……」
どこか殺気さえ漂わせながら、カインくんが真剣な表情でケトルを傾けていた。ここは最近発足したコーヒー研究会。学園祭でコーヒーにハマってしまったカインくんが設立したサークルである。外部顧問には超一流バリスタのジェラルドさんを招いているあたり、カインくんの本気度がうかがえる。
「レオン、ジェラルド師匠との縁を結んでくれて感謝するぞ。だから……ほら、これをやる」
照れくさそうに手渡されたのは小さな金のバッジ。表面にはコーヒー豆と羽根の紋章。
――なんかムダにカッコいいな。
「これは、このサークルの名誉会員の証だ。ありがたく思えよ」
胸を張ってドヤ顔するカインくんが、突然顔を赤くしてそっぽを向く。
「まぁ、感謝してるぞ。……少しだけだがな」
(おお……これは、ツンデレ成分が濃い)
こうして俺はコーヒー研究会の名誉会員になるのだった。そしてもう一つの新しいサークル。こちらはさらに熱狂的な生徒たちが集まっていた。
「オー! その角度、とてもイイデス! はい、ポーズ!」
「こ、こんな感じでしょうか……?」
「バッチリデス!」
そこはコスプレサークル。中心に君臨するのは、今日も絶好調のメイド服姿のマリアさん。外部顧問として衣装や可愛いポーズの指導に余念がない。
(……さすが転移者のコスプレガチ勢……完成度が高い)
周りでは美術部員たちが絵筆を高速で動かし、“カメラ小僧”ならぬ“絵描き小僧”と化して“推し”を描きまくっている。しかも、完成した絵の一部は販売され、購入者はモデルと握手できる特典付きだ。
「てかレオンくん。随分あくどい商売してるよね」
「語弊がすごいよユウキくん!? これは健全な文化活動だから!」
そう、握手券付き絵画販売の発案者は俺。でも利益は絵を描いた人とサークル運営費で折半なので、俺は一銭ももらってないのだ。
「これは“描き手側の労働対価”と“サークルの活動維持費”を両立させた、画期的な……」
「レオン。言い訳っぽいぞ」
「言い訳じゃないよ!」
俺がリヒト様に弁明していると、ポーズ指導を終えたマリアさんがやってきた。
「レオンはスゴ腕プロデューサーデス。コスプレ好きの仲間と縁を繋いでくれて感謝してマス!」
「いや〜、照れるなぁ」
……と、その時。俺の横で、ぴくっと反応する影があった。
「レオン様!?」
「ん?」
エリスが、なぜか怒った顔で俺に詰め寄ってきた。
「な、ななっ……何、鼻の下伸ばしてるんですか!!」
「え?」
「マ、マリアさんですか!? 金髪だからですか!? や、やっぱり胸ですか!? わ、私だってあと何年かしたら……」
「はい、エリス。ストォーップ! とりあえず落ち着こうか」
エリスは自分で自分の言葉に気づいたらしく、顔を真っ赤にして固まる。
「あ……あれ……? 私……何言って……えっ……いや違うんです……」
(エリス……今日は一段と破壊力が高い)
ぷしゅう……と、耳まで真っ赤にして、今にも蒸気が上がりそうだ。珍しく完全にテンパったエリスに、周りの女子まで「かわいい……」とざわついている。するとマリアさんが優しく肩に手を置いた。
「オー、エリスも一緒にコスプレしましょう!」
「えっ、わ、わたしは……! で、でも……レオン様が……」
こうしてコスプレサークルの熱はさらに高まっていくのだった。
――にしても、“縁をつないでくれてありがとう”って言われたけど……。
カインくんにも、マリアさんにも言われた。もしかしてこれ、《千客万来》さんの影響だろうか? 疑問に思った俺は、ある人物の研究室を訪ねた。
* * * * * * *
「ふむ……レオンくんが発端で、他者同士が縁を結び始めている、ですか」
「はい。これってスキルの影響なんでしょうか?」
俺のスキルに興味を持ち、バルトル領まで来たアレクシス先生なら何かわかるかもしれない。先生は顎に手を当て、静かに思考を巡らせる。
「レオンくん。おそらくその推測は正しいでしょう。≪千客万来≫……ますます研究のし甲斐がありますね」
「ん? ということは僕に影響がないのでは?」
俺の周りの人たちが仲良くなるのは嬉しいけど、他のスキルの型のように、有用な人が集まる訳ではないみたいだ。
「いえ、そんなことはないかと……。レオンくんを中心として、周囲の人物同士が繋がり、その縁が巡り巡って最終的にレオンくんへ返ってくる。そんな循環が起きるのではないかと思いますよ」
その瞬間、俺の脳裏に浮かんだのはグレンさん。ミヤジマさんから始まった縁。そこから母上へ繋がり、さらにルーク先輩へ広がり――そしてバルトル領にも良い影響が及ぶ。
「つまり……スキル、良い感じに成長してるってことですね?」
「はい。非常に面白い……いえ、素晴らしい進化だと思います。そうですね、“縁結び型”とでも呼びましょうか」
先生の目が、また研究者の目になっていた。この人は本当にブレない。
「ありがとうございました先生。何かスッキリしました」
「こちらこそ! 今後も変化があったら逐一報告お願いしますね!」
妙に嬉しそうな笑顔に見送られながら、俺は静かに先生の部屋を後にした。
(……しかし、“縁結び型”か……。便利なのか、面倒なのか……)
――また、とんでもない人が来そうで怖いなぁ。
そう俺の不安は、きっと当たる。なにせ相手は《千客万来》さん。良い縁だけじゃなく、面倒な縁も引き寄せるのだから……。




