第136話 悪徳貴族レオンと、二度目の日替わりランチ
※一部に残酷描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。
「レオン様。わざわざお越しいただき申し訳ありません」
「ふん、まったくだ」
俺は応接室のソファにどっかりと腰を下ろし、横柄な態度で答えた。
「我が領に犯罪者が潜り込んでいたとは……まったく不愉快な話だ」
「心中お察しいたします」
向かいに座る男、ベルグナー商会頭取は額の汗を拭いながら頭を下げる。俺は今、ガーランド伯爵領にあるベルグナー商会本店へと来ている。その目的は――。
「それで、その犯罪者ですが……」
頭取が恐る恐る口を開く。
「そうだったな。おい、あれを持ってこい」
「はっ!」
合図を送ると、ノアくんが木箱を抱えて入ってきた。
「さあ、確認してくれ」
俺はノアくんから箱を受け取ると蓋を開けてテーブルに乗せる。
「はて? こちらは……?」
頭取が箱を覗き込んだ次の瞬間――。
「っ!?」
顔色が真っ青になる。そこに入っていたのは、男性の頭部。
「指名手配犯だと分かったのでな――」
俺は口元を吊り上げる。
「即刻、処刑してやったわ」
「さ、左様でしたか……」
「最近は身の程を知らぬ平民が増えて困る」
「領地経営も楽ではない」
「は、はぁ……」
「勘違いした平民は早めに間引かねばな」
その言葉を聞き、頭取の喉がごくりと鳴った。
「どうした? まさか私の判断に不満でもあるのか?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
「ふん、まあよい。それで――」
俺は箱を指差す。
「指名手配犯で間違いないか?」
「は、はい! 間違いございません!」
「ん? もっとしっかり調べなくてよいのか?」
「だ、大丈夫でございます」
頭取は必死に首を横に振った。
「そうか。ではさっさと報奨金を寄越せ」
「はい。こちらに――」
差し出された袋を受け取ると中には金貨がぎっしり詰まっていた。
「うむ。確かに受け取った」
袋の中身を確認していると頭取が恐る恐る口を開いた。
「あの……レオン様。少々お伺いしたいことが……」
「ん? 何だ?」
「この男と一緒にいた女の事なのですが……」
「ああ、あの女か」
俺は懐から髪の束を取り出した。
「そ、それはもしや……」
「そうだ、あの女の髪だ」
取り出した髪の束を無造作に机へと放り投げる。
「平民の分際で私に刃物を向けてきたのだ」
俺はニヤリと笑うと頭取へと視線を向ける。
「男と一緒に首を刎ねてやった」
「そ、そうでしたか……」
「何だ? 女の首も持って来た方が良かったか?」
「い、いえ! 生死が確認できれば十分でございます!」
「そうか。では帰るとするか」
金貨の詰まった袋を持ってソファから立ち上がる。
「ああ、そうだ。ひとつ良いか?」
「はい。何でございましょうか?」
「その男の首だが私が持ち帰ってもかまわんか?」
「く、首をですか?」
「うむ。見せしめに女の首と共に晒してやろうと思ってな」
「み、見せしめ……」
「くっくっく」
俺は悪役っぽい笑みを浮かべる。
「これで馬鹿な領民共も大人しくなるだろう」
「そ、そうでございますね……」
頭取は震える手で箱を差し出した。
「では、この首はレオン様がお持ち帰りください」
「そうか。いやぁ、今回は良い取引だったな」
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします」
こうして俺はベルグナー商会を後にした。
* * * * * * *
カラン、カラン――。
「すみません、まだ準備中で……ってレオン様!?」
”ひだまり亭”へ入ると、ショートカットになったエマさんが開店の準備をしていた。
「エマさん、今大丈夫ですか?」
「もちろんです! フェリクスさ〜ん!」
「どうしたんだエマ……ってレオン様!?」
――うん。二人して同じ反応とは、仲いいね。
「実は指名手配の件なんですが――」
俺はベルグナー商会での出来事を二人へ説明した。
「という訳で、お二人は死亡したことになっています」
「それじゃあ……!」
「はい。もう追われることはありませんよ」
俺は笑顔で頷く。
「良かった……!」
エマさんが目に涙を浮かべる。フェリクスさんはしばらく俯いたままだったが、安堵したように肩の力を抜いた。
「それにしてもレオンの悪徳貴族っぷりは見事じゃったのう」
「はい。何処からどう見ても悪者でした」
俺の隣の席ではユキさんとリュミナ先生がうんうんと頷きあっていた。実は今回、自分たちも当事者だと主張するユキさんとリュミナ先生もベルグナー商会へ一緒に来ていたのだ。
「それによく騙せましたよね」
リュミナ先生が首の入った箱を軽く叩く。
「幻影の首飾りでしたっけ?」
「はい。ミナミさんにも協力してもらってなんとか」
以前、カインくん達が使っていたペンダントの魔道具を改良して、魔物の頭部がフェリクスさんに見える様に偽装したのだ。
「じゃが、あまりフェリクスには似ておらんのう」
ユキさんが箱に入っている頭とフェリクスさんを見比べる。
「魔物を人の顔にするだけで精一杯でした」
「じゃあ、詳しく調べるって言われてたらどうしたんですか?」
リュミナ先生が俺を見る。
「そこは”貴族の私を疑うのか”って感じですね」
「うわっ! さすが悪徳貴族!」
「いや、演技ですからね」
俺はリュミナ先生に抗議する。
「それに噂も流してありましたからね」
セージくんに頼んでフェリクスさんとエマさんが既に死亡したという噂を裏で流してもらっていた。
「とにかく、ありがとうございました、レオン様」
「良いんですよ。あっ、そうだ――」
俺は懐から金貨の詰まった袋を取り出して机に置いた。
「これ、お二人の取り分になります」
「取り分?」
「はい。フェリクスさんを捕まえた報奨金です」
「えっ? いやいや。もらえませんよ」
「大丈夫ですよ。僕たちの分は差し引いてありますから」
「し、しかし……」
「気にするでない。妾たちも貰っておるからな」
「そうです。迷惑料だと思って受け取ったらいいんですよ」
遠慮するフェリクスさんに、ユキさんとリュミナ先生が金貨の入った袋を押し付ける。
「そうですか。で、では遠慮なく……」
「ふふふ。これで一件落着ですね」
「ホッとしたらお腹がすいてきました」
「うむ、そうじゃな。では――日替わりランチひとつ!」
「おっ、じゃあ僕もお願いしようかな」
「二人ともズルいです。私もお願いします」
「はいっ! 日替わりランチ三つですね!」
「喜んで!」
* * * * * * *
「いやぁ、美味しかった」
「また行きたいですね」
「うむ」
ランチを堪能した俺たちは屋敷へ帰ってきた。そして扉を開けるとそこには――。
「おかえりなさい……レオン様……」
黒いオーラを背負った笑顔のエリスが立っていた。
「た、ただいま。えっと……何か怒ってる?」
「いいえ……」
笑顔なのに、何故か怖い。
「そんなことありませんよ」
笑顔のままユキさんとリュミナ先生を見るエリス。すると――。
「むっ、そうであった。妾は地下闘技場に戻らねば――」
そう言ってユキさんは素早く扉を開けて外へと駆け出して行った。
「えっ? ちょっ、ユキさん!」
「あっ。私も明日の授業の準備が――」
リュミナ先生も素早く自室へと駆け込んでいく。
「ちょっ!?」
――二人とも僕を見捨てる気!?
一人取り残された俺が呆然としているとエリスが一歩近付く。
「レオン様」
「は、はい!」
「何で私を誘ってくれなかったんですか?」
「へっ?」
「私も一緒にランチ食べたかったのに!」
珍しく大声だった。
「いや、あとで誘うつもりだったんだよ」
「本当ですか?」
「もちろん。今度二人で行こうね」
「いえ。今からがいいです」
「えっ? でも僕もう食べちゃったし――」
「やっぱり私の事なんてどうでもいいんですね」
エリスがしゅんと悲し気な顔をする。
「そんなことないって。分かった。じゃあ今から行こうか」
「はい。レオン様!」
こうして俺は本日二度目のランチを食べに”ひだまり亭”へと向かった。
カラン、カラン――。
「いらっしゃいませ……ってレオン様!」
先ほど帰ったばかりの俺がまた来たことでエマさんが驚いて目を丸くしている。
「ん? レオン様? 何か忘れものでも――」
エマさんの声を聞いてフェリクスさんが厨房から顔を出す。
「おや。また違う女性とは……さすがお貴族様」
俺の横にいるエリスを見てフェリクスさんが呟いた。
「フェリクスさん!?」
それを聞いてエマさんが慌てて止める。
「それ言っちゃ駄目ですよ!」
「あっ」
フェリクスさんも慌てて口を押さえた。
「レオン様!」
エリスがゆっくりこちらを見る。
「どういうことですか?」
「いや、ユキさんとリュミナ先生のことだよ」
「本当ですか?」
「本当だって、ねえフェリクスさん」
俺はフェリクスさんに助けを求める。
「い、いや。俺の口からは何とも」
その言葉を聞いたエリスが俺に詰め寄る。
「やっぱり何か隠してますね、レオン様」
「ほ、本当に誤解なんだって~」




