第133話 二人の皇子と、トルネード洗濯機
「あのさ、今更なんだけど……」
俺はルシオ様へ声を掛けた。
「どうしましたか? レオン殿」
「王宮壊れちゃったけど、皇帝陛下は無事なのかなって……」
王宮だった残骸へ視線を向けると、多くの人々が避難を続けていた。
「壊れちゃったじゃなくて、“破壊した”んだけどね」
ユウキくんが苦笑しながら呟く。
「むっ、わざとではないぞ」
「そ、そうだよユウキくん。あれは事故だから仕方ないよ」
父上の弁明に俺も援護射撃を行う。
「事故かどうかはともかく、皇帝陛下はご無事ですよ」
ルシオ様がため息混じりに答えた。
「そもそも陛下は現在ここにはおりません」
「えっ? そうなんですか?」
「はい。今は帝国北部の保養地で静養中です」
「そうなんだ。良かったぁ~」
胸を撫で下ろすと、アルノルト様が呆れたようにこちらを見る。
「陛下が王宮におられたなら、更地化など認めるはずがなかろう」
「あっ、それもそうですね」
俺が納得していると、王宮跡地からこちらへ近づいてくる集団が見えた。
「これは貴様らの仕業か!!」
「騎士どもは何をしている! さっさと捕えろ!!」
先頭には豪華な衣装に身を包んだ二人の男。怒りで顔を真っ赤にしながらこちらを睨みつけている。
「あ、兄上!」
「えっ? 兄上ってことは……」
俺が視線を向けると、ルシオ様は小さく頷く。
「はい。第二皇子ヴィクトと第三皇子エドガルです」
「ふむ。二人一緒とは都合が良いな」
アルノルト様がヴィクトとエドガルを見ながら不敵に笑う。
「なっ!? アルノルト! 何故ここにいる!」
「ほう? 兄を呼び捨てとはいい度胸だな」
アルノルト様の声が低くなる。
「うぐっ……!」
ヴィクトの肩がビクリと震えた。
「こ、これは兄上の仕業か!?」
「王宮を破壊するなど国家反逆罪ですよ!」
ヴィクトは怯えながらも声を上げると、エドガルも続いて非難する。
「ふん。そもそもこれは貴様らのせいではないか」
「は?」
「何を言って――」
「愚かにもバルトル領へ手を出したであろう」
アルノルト様の一喝が二人の言葉を遮る。
「何のことだか分からんな……」
「何か証拠でもあるのか!」
目を逸らして誤魔化すヴィクトとエドガル。
「証拠なら山ほどあるぞ」
アルノルト様が書類を放り投げる。
「バルトル領を襲った者たちの供述書だ」
「ふんっ!? こんなもの証拠になるか」
「そうだ! 我らは皇族だぞ!」
そんな二人の様子を見て、ガイルが拳を鳴らしながら一歩前へ出る。
「まどろっこしいので、とりあえず殴って良いですか?」
「うむ。手加減はしろよ」
父上が腕を組んだまま頷いた。
「いや、ちょっとお待ちを!」
ガイルが飛び出そうとした瞬間、ルシオ様が慌てて腕を掴む。
「二人の処分はこちらに任せていただけませんか?」
その言葉にガイルが父上を見る。
「ふむ……仕方あるまい」
「あ、ありがとうございます。バルトル卿」
ルシオ様が掴んだ腕を離すと、ガイルも大人しく腕に込めていた力を抜く。すると次の瞬間――。
「だが――次は無いぞ」
「ひっ!」
「……っ!」
父上がヴィクトとエドガルを睨むと、二人の顔から血の気が引き、その場にへたり込んだ。
「よ、よし! その二人を拘束しろ!」
アルノルト様の命令で騎士たちが駆け寄る。ヴィクトとエドガルは抵抗する間もなく連行されていった。
「ふぅ~。一件落着かな」
ユウキくんが安堵の息を吐く。
「そうだな。それじゃあ――」
セージくんが皆を見回すので、俺もコクリと頷いた。
「王国に帰るか」
「王宮を更地にしようか」
「……」
「……」
「いや、今の流れで何故そうなる!?」
「何言ってるのセージくん! 今回の目的は王宮を更地にすることだよ!」
「それはそうだが……」
セージくんが廃墟と化した王宮を指差す。
「既に十分壊れてるだろ」
「あれじゃ更地とは言えないよ!」
「確かに瓦礫の山だもんね」
ユウキくんも頷く。
「それに今回、僕何もしてないし」
「なるほど。それが本音か」
セージくんが深いため息を吐いた。
「どうせ止めてもやるんだろ?」
「さすがセージくん。分かってるね」
「はぁ~、手短にな」
「うん、任せて!」
そう言って俺は王宮へと視線を向ける。
「あ、あの……レオン殿?」
するとルシオ様が恐る恐る声を掛けてきた。
「出来るだけ被害は抑えていただけると……」
「あっ、大丈夫ですよ」
俺は笑顔で答える。
「中にはもう誰もいませんし」
先ほど魔法で確認済みだ。
「それに更地にするのは王宮だけですから」
「そ、そうですか……」
ルシオ様が少しだけ安心した顔をする。
「では早速、“王宮を更地にしてみた”」
「うん。どこかの動画配信タイトルみたいだね」
「完全に“迷惑系”だな」
ユウキくんとセージくんの声を無視して魔法を発動する。
「まず用意するのは≪アウラ・カーテン≫」
巨大な風の壁が王宮跡地の四方と上部を包み込む。
「次に≪テンペスタス・トゥルボー≫」
魔力を込めると、風壁の内部に水と風で出来た巨大な竜巻が発生した。
ゴォォォォォォォ!!
巻き上げられた瓦礫が風壁へ激突する。
ガガガガガガ!!
砕け散った破片はさらに粉砕され、細かな砂へと変わっていく。
「はい完成」
俺は満足そうに頷く。
「名付けて“トルネード洗濯機”」
「いや、どこが洗濯機だ」
「どう見ても大量破壊魔法だよね」
「そこの二人! 聞こえてるよ!」
セージくんとユウキくんをビシッと指差しながら魔法を解除する。竜巻が収まるとそこには――何も無かった。
「うん。我ながら良い仕事をしたね」
「王宮を消滅させておいて、その感想はおかしいだろ……」
満足気に額の汗を拭っていると、セージくんが呆れた顔で俺を見てくる。
「ほ、本当に更地になってしまいましたね……」
ルシオ様が呆然と呟く。
「うむ。被害がこれだけで済んだのだ。良しとするか」
アルノルト様も複雑そうな表情で頷いた。
「よし!」
俺は満足そうに皆へ振り返る。
「じゃあ王国に帰ろうか!」
こうして帝国王宮更地化計画は、無事成功したのであった。




