第131話 更地の前に、まずは避難勧告を
「お、帝都が見えてきたね」
王国を出て≪スカイホースくん2号≫で陸路を進むこと数日。俺たちは、巨大な城壁と威圧感のある城門がそびえ立つヴァルグラン帝国の帝都へとたどり着いた。
「てか何でユウキくん達もついて来たの?」
俺の隣でハンドルを握るユウキくんへ尋ねると、後部座席からセージくんの呆れた声が飛んできた。
「バルトル卿とお前の暴走を止めるために決まってるだろ」
「ふふふ。確かに二人を止められるのは俺だけかもね」
ユウキくんが苦笑いを浮かべる。
「ヒドイな、二人とも。僕たちは冷静だよ」
「いや、バルトル領から軍隊を率いて帝国へ向かおうとしてたのはどこの誰だ?」
セージくんがジト目でこちらを見る。その言葉を聞いてガイルが苦笑混じりに肩をすくめた。
「襲撃の真相を知って、みな殺気立っていましたからね」
「うむ。みなも連れてきたかったんだがな」
父上が残念そうに眉を下げる。
「では、ミナミさんに領兵用の“浮かぶ大型馬車”を造ってもらいましょうか」
「おお、それはいいな」
俺の言葉に父上が歓喜の声を上げると満足気に頷いた。
「いや、そんなもの造ったら謀反を疑われるぞ!?」
「兵の大量輸送なんて、世界でも征服するつもり?」
ユウキくんとセージくんがそろって声を上げる。
「あ、あの……レオン様。出来れば穏便に……」
“世界征服”という単語を聞いたセラフィーナさんが、若干引きつった笑みでこちらを見る。
「大丈夫ですよ、セラフィーナさん」
俺は振り返ると、爽やかな笑顔を向ける。
「更地にする前に、ちゃんと避難勧告は出しますから」
「あ、更地にはするんですね……」
ルシオ様が遠い目をする。
「安心してください。宮殿だけですから」
「ふむ。ヴァルグラン帝国全土が更地になるよりかはマシ……か」
「そうですね兄上。被害も最小限かと……」
アルノルト様とルシオ様が頭を抱えている中、馬車は通用門へとたどり着いた。
「身分証の提示をお願いします」
門番の言葉を聞いて、後部座席からアルノルト様が顔を出す。
「この者たちに関しては、私が身元を保証しよう」
「ア、アルノルト殿下!?」
門番は慌てて直立不動となり敬礼する。
「し、失礼いたしました! どうぞお通りください!」
こうして俺たちは、無事に帝都へ足を踏み入れたのだった。
* * * * * * *
「おぉ~! 綺麗な建物だね」
帝都の大通りを進んでいた俺たちの前に、やがて巨大な白亜の宮殿が姿を現した。それはまるで、空へ向かってそびえ立つ芸術品。
白い大理石で造られた宮殿は陽光を反射して輝き、無数の尖塔と巨大なドーム屋根が空へ突き刺さるように伸びている。正面へ続く大階段は赤い絨毯のような深紅の石で彩られ、両脇には歴代皇帝の巨大な彫像が並んでいた。
豪奢で荘厳。そして圧倒的。まさに“帝国の象徴”と呼ぶに相応しい建物だった。
「なんだレオン。そんなに感動したか?」
「うん。何か観光地に来たって感じだよね」
セージくんの言葉に、俺は前世で行った海外旅行の光景を思い出す。
「そうか。なら更地は止めるか?」
「え? やるに決まってるじゃん」
「……うん。お前はそういう奴だったな」
「レオンくんだからね……」
セージくんとユウキくんが互いに顔を見合わせて首を横に振る。
「じゃあ早速――≪アウラ・ボイス≫」
魔法を発動すると、周囲の空気が震えた。
「あ~、あ~。宮殿のみなさん、聞こえますか~?」
風によって増幅された俺の声が、宮殿全体へ響き渡る。
「相変わらずおかしな魔法を使うものだな……」
アルノルト様の呟きは無視して、俺は続ける。
「今からこの宮殿を破壊します」
通りを歩いていた帝国民たちも、何事かとこちらを見ていた。
「命が惜しければ、すぐに避難してください」
俺は警告代わりに魔法を発動する。
「いけ、ピーちゃん。≪バードストライク≫!」
ドゴォォォォンッ!!
水魔法で作られた愛らしい鳥が、次の瞬間には宮殿の一部へ突撃し破壊した。巨大なドーム屋根が吹き飛び、爆音と共に瓦礫が宙を舞う。
「よし。これで信じてくれるかな」
すると案の定、騒ぎを聞きつけた鎧姿の騎士たちがこちらへ駆け寄ってきた。
「おい貴様ら! 何の真似だ!」
「こんなことをして、どうなるか分かっているのか!」
「ほう。どうなるというのだ?」
騎士たちの言葉を聞いたガイルが、不敵に笑いながら剣を抜く。
「なっ……貴様、やる気か!」
「構わぬ! 奴らを捕えよ!」
命令を受けた騎士たちが、一斉に襲いかかってきた。しかし――。
ガンッ!!
カキィン!!
「ぎゃああっ!」
「ふん。この程度か?」
ガイルの剣が、次々と騎士たちを切り伏せていく。
「帝国の騎士も大したこと――」
「戦いの最中によそ見とは随分余裕だな」
一瞬こちらへ視線を向けた隙を突かれ、騎士の一人がガイルの懐へ潜り込む。
ドゴォォン!!
「ガイル!?」
重い一撃を受けたガイルは、そのまま宮殿の壁へと吹き飛ばされた。
「いててて……すみません、油断しました」
崩れた瓦礫の中から、頭を押さえつつ立ち上がるガイル。無事な様子に安堵していると、ユウキくんがルシオ様へ視線を向けた。
「ルシオ様。あの騎士は一体……?」
するとルシオ様は、険しい表情でその男を見つめる。
「あれは第一近衛騎士団隊長、グラディ・フォン・ゼルヴィアです」
銀色の長髪を後ろで束ねた壮年の騎士。全身から放たれる圧力は、先ほどまでの騎士たちとは比べ物にならない。
「我が国で一、二を争う剣士だな」
アルノルト様が腕を組みながら頷く。その言葉を聞いた父上が、嬉しそうに笑みを浮かべながら剣を抜く。
「ほう。それは丁度良い」
その瞬間、周囲にいた騎士たちの空気が凍りつく。
「何だ。今度は貴様が相手か?」
グラディが鋭い眼光で父上を睨みつけた。
「ああ。お相手願おうか」
父上もまた、油断なく剣を構える。帝国最強クラスの騎士と、王国の辺境を守り続けた“辺境の矛”。両者の間に漂う殺気だけで、周囲の騎士たちが息を呑んでいた。空気が張り詰める中、俺はと言うと――。
(……えっと、更地はいつ行えばいいのかな?)
――父上、楽しそうだし……終わるまでしばらく待つかな。
そんなことを考えながら、隅っこで静かに魔法の準備を始めるのだった。




