第129話 結婚式と、謎の襲撃者
バンッ!!
勢いよく神殿の扉が開かれ、外から武器を手にした数人の男たちがなだれ込んできた。
「きゃあっ!?」
「な、何だ!?」
参列者たちが悲鳴を上げる。
「お頭。どうやら情報通りのようですぜ」
「ああ。……ってことは、あれが“レオン”だな」
お頭と呼ばれた男は、壇上でアンナをかばうように立っているノアくんを見た。
「お前が“レオン”だな! ケガしたくなかったら大人しくこっちへ来い!」
男はニヤリと口角を吊り上げると、剣をノアくんへ向ける。白い礼服に身を包み、堂々と立つその姿は、領主の息子に見えなくもない。
「は? 何を言って――」
困惑するノアくんの言葉を遮るように、男は続けた。
「おっと。抵抗しようなんて考えるなよ?」
男が目配せすると、部下たちが武器を手に、じりじりと包囲を広げていく。
「ここにいる奴らがケガしても知らねぇぜ?」
その言葉に、神殿内の空気が凍りついた。
「そうはさせないぞ!」
俺は怯える参列者たちを守るように前へ出る。
「あぁ? 何だ貴様は!」
「僕は、あちらにいる“レオン様”の従者、“ノア”です」
「は? ちょっ、レオン様――」
後ろから聞こえたノアくんの声を遮るように、男が鼻で笑う。
「はん! 従者一人で何ができる!」
「いえ、一人ではありません」
そう言って、エリスが俺の隣へ並び、優雅に一礼した。
「初めまして。メイドの“アンナ”です」
「ちっ! 武器も持ってねぇ使用人が二人になったところで何だってんだ!」
「おや? 僕たちに勝てるとでも?」
俺の挑発に、男の額へ青筋が浮かぶ。
「……もういい。こいつらを片付けろ!」
「へい! 野郎ども、行くぞ!」
剣を振り上げた男たちが、一斉にこちらへ襲い掛かってきた。
「あまいね! 行け、ピーちゃん! ≪バードストライク≫!」
「ぐはぁっ!?」
何羽もの水の鳥が飛び立つと、男たちに突撃して爆散していく。
「こちらも行きます。≪ガイア・キャノン≫」
「うぎゃあっ!」
エリスが生み出した石の弾丸が、正確に男たちを吹き飛ばしていった。
「なっ!? こいつら魔法使いか!」
「お、お頭! どうしやしょう!」
「仕方ねぇ! 魔法使いは無視しろ! 他の奴らを狙え!」
「へい!」
数人の男が俺たちを無視して参列者へ向かって駆け出す。
「はっはぁ! 死にやがれ!」
「きゃあああっ!」
男が剣を振り下ろそうとした、その瞬間――。
ドゴッ!!
「ぐはっ!?」
父上の拳が男の顔面へめり込み、そのまま入口の壁まで吹き飛ばした。
「何だ。この程度とは拍子抜けだな」
父上は襲い掛かる敵の攻撃を軽々と避けながら、呆れたようにため息をつく。
「まったくです」
少し離れた場所では、ガイルが怒りの形相で男たちを蹴り飛ばしていた。
「息子の結婚式を邪魔するとは……いい度胸だな」
「ひぃっ!」
蹴り飛ばされた男が、椅子ごと吹き飛ぶ。
「な、何なんだこいつら!?」
「ば、化け物だ!」
父上とガイルの強さに、男たちが怯み始める。
「お前ら! 何ビビってやがる!」
お頭と呼ばれていた男の怒鳴り声に、俺は思わずそちらへ視線を向けてしまった。その隙をついて、一人の男が俺の横をすり抜ける。
「しまった!」
男の先には母上の姿が――。
「くたばりやがれ!」
「母上! 危な――」
ヒュッ!
ドッゴォォォォン!!
「……へ?」
俺の顔のすぐ横を何かが通り過ぎたと思った直後、後方で轟音が鳴り響いた。恐る恐る振り向くと、そこには、壁へめり込んで白目を剥いている男の姿があった。
「まったく。か弱い女性を狙うなんて許せないわ」
母上は攻撃の構えを解き、服についた埃をパンパンと払う。
「いや、どこの魔物基準の“か弱い”ですか……」
思わず本音が漏れた。
「むにゅ~~~」
次の瞬間、俺の頬は母上によって躊躇なく、横に引き延ばされていた。
「レオン。母は今、侮辱された気がしたのですが?」
「い、いえ! 母上は“か弱い”女性だなと言ったのですよ」
「おや? “可憐”が抜けていますよ?」
「……母上は可憐でか弱い女性です」
「まあ。レオンは相変わらず素直で良い子ですね」
満足そうに微笑んだ母上は、ようやく俺の頬を解放した。
「お母さま、すごいですわ!」
「エレナちゃん強いね!」
母上の周りでは、リリアーナとノクスがピョンピョン飛び跳ねている。
「ふふふ。ありがとう、二人とも」
母上は二人の頭を優しく撫でると、嬉しそうに微笑んだ。
「くそっ! お前ら、ずらかるぞ!」
劣勢を悟ったお頭が撤退を命じ、神殿の外へ駆け出す。しかし――。
ゴンッ!!
「ぐへっ!?」
男が勢いよく吹き飛ばされ、その場へ転がった。
「大将! ご無事ですかい?」
入口には、領兵を引き連れたザックスが立っていた。
「ザックス。遅かったな」
「すいやせん。城の方にも賊が襲って来やして」
申し訳なさそうに頭をかくザックス。
「そうか。それで被害は?」
「ケガ人はいますが、死者は出てやせん」
「うむ……それは良かった」
父上が安堵したように息を吐く。
「それにしても、こいつら何者でしょうか?」
縛られていく男たちを見ながら、ガイルが眉をひそめた。
「レオン様の誘拐が目的みたいでしたけど……」
エリスがちらりと俺を見る。
「何故かノアくんを僕だと勘違いしてたけどね」
俺がそう言うと、ノアくんがジト目でこちらを見た。
「というか、何で僕のフリしたんですか?」
「エリス様も私のフリしてましたよね?」
ノアくんの言葉に、アンナもエリスに詰め寄る。
「え? そっちの方が面白そうだったから?」
「はい。確かに面白かったですね」
俺とエリスが笑い合っていると、ノアくんが深いため息をつく。
「はぁ~、まあみんな無事でよかっです」
「そうだね。よし、それじゃあ――」
俺はパンパンと手を叩き、皆の注目を集める。
「結婚式の続きをしようか」
「え!? いや、しかし……」
戸惑うノアくんの背中を押し、俺は壇上へ向かわせる。
「良いから良いから。ザックス、後は任せたよ」
「へい。お任せください」
「……で、では改めまして、誓いの口づけを」
若干引きつった顔で司祭様が式を再開する。その後ろでは、領兵に引きずられていく賊たちの悲鳴が響いていた。




