第125話 闘技場に降臨した妖狐様と、ボロ儲け計画
「勇者よ。そなたに試練を与えよう」
「きゃ~! ユキ様ステキ!」
「うぉ~! 俺にも試練を与えてくれ!」
地下闘技場の観客席は立ち見が出るほどの熱狂に包まれていた。武舞台に立つ挑戦者とユキさんには、今も歓声が絶え間なく飛び交っている。
「やはり私の目に狂いはなかったデス」
俺の隣で、満足げに腕を組む聖女様。
「本当に似合ってますね」
「うん。急いで作らせた甲斐があったよ」
俺とエリスの視線の先――そこには、まるで別人のように変貌したユキさんの姿があった。豪華な着物を身にまとい、扇子で口元を隠す仕草。その佇まいは、まさに妖艶な妖狐。
「いや、前に会ったユキさんとは別人なんだけど……」
ユウキくんが戸惑うのも無理はない。初めて会ったときの簡素な服装の管理人は、もうどこにもいない。
「そりゃマリアさん監修だからね」
「着物はもちろん、仕草も完璧に仕込んだデス!」
ビシッと決めポーズを取るマリアさん。地下闘技場を発見したあの日。試練を乗り越え、ユキさんを騙し……じゃない“説得”した俺は、屋敷に戻るや否や一般公開に向けた準備を一気に進めたのだった。
「にしても、この短時間でオープンするとは……」
呆れ顔のユウキくんに、俺は満面の笑みで返す。
「えへへへ。そんな褒めないでよ」
「いや、褒めてないぞ」
「ただ呆れてるだけデスね」
ミナミさんとマリアさんからの鋭いツッコミが同時に飛んできた。
「……まあ、先輩の助けがあったからなんだけどね」
そう言って視線を向けたのは、闘技場の入口付近。屋台やグッズ売り場には人が溢れ、店員たちが慌ただしく動き回っている。
「ああ、アルマレッタ商会か」
「そうそう。そのご子息がね」
ミナミさんの言葉に頷いた、その時――。
「レオン様、お疲れ様っす!」
人混みをかき分け、手を振りながら近づいてくる人物がいた。
「ルーク先輩。ご苦労様です」
現れたのは、学園の先輩にしてアルマレッタ商会の跡取り、ルーク先輩だ。
「ルーク先輩。お久しぶりです」
「すごい人だかりですね」
「ああ、皆さん。お久しぶりっす」
ユウキくんとエリスの言葉に、ルーク先輩がぺこりと頭を下げる。
「まさかここまで繁盛するとは思わなかったっすよ」
「ふっふっふ。僕は分かってたけどね」
「さすがレオン様っす」
(最近忘れがちだけど、俺のスキル《千客万来》は人を集める力だからね)
――まあ余計なトラブルもやってくるけど……。
「あと、あの“キモノ”もいいっすね」
そう言ってルーク先輩はマリアさんを見る。
「女性に大人気っすよ」
「当然デス! 細部までこだわった逸品デス!」
「よっ! さすが聖女様!」
ルーク先輩にのせられて上機嫌な俺たち。そんな俺たちにルーク先輩が懐から数枚の紙を取り出す。
「それで次の柄なんすけど……」
「私に任せるデス」
「後、これもユキさんに着て欲しいんすけど……」
「はっはっは。僕に任せておきなさい」
「いや~、お二人とも頼りになるっす」
完全に調子に乗る俺とマリアさん。
「……二人ともチョロすぎないか」
「騙されそうで不安だよね」
「レオン様……」
周囲からの冷たい視線が突き刺さる。と、その時――。
ドゴォォン!!
「おお~!」
激しい衝撃音が響き、観客席が一斉に沸き上がった。武舞台では、戦いを終えた挑戦者にユキさんがゆっくりと歩み寄っていく。
「試練を乗り越えた勇者には褒美をやろう」
そう言って魔法陣を展開するユキさん。しばらくすると魔法陣の中から小瓶が出現する。
「受け取るが良い」
「ありがとうございます!」
その様子を見ながら、ルーク先輩が呟く。
「何度見ても不思議っすね」
「ん? 魔法陣がですか?」
「いえ、アイテムが出てくることっす」
「そんなに珍しいんですか?」
エリスの疑問に、ルーク先輩は首を横に振る。
「というか、初めて見たっす」
「ルーク先輩でも見たことないんですね」
「はいっす。しかも使う魔力が戦った本人のものなんて……」
ユキさんに聞いた話では、闘技場に入って来た人や、戦いで消費された魔力を吸収して模擬戦闘体やご褒美のアイテムを生み出すエネルギーにしているらしい。
「まあ、つまりは――」
俺はニヤリと笑う。
「元手なしでボロ儲けですね」
「間違いないっす」
ガッチリと互いに握手を交わす俺とルーク先輩。
「オ~。欲にまみれた汚い大人が増えたデス」
「ヒドイ。また”汚い”って言った」
「相変わらず”欲にまみれた”の方はスルーなんだね」
ユウキくんからの指摘に俺は真顔で答える。
「前にも言ったけど、そこは事実だからね」
「やむなしっす」
「二人して開き直りやがった」
ミナミさんの冷たい視線が俺とルーク先輩に突き刺さる。
「……っと、そろそろ戻らないと」
「あ、ルーク先輩が逃げようとしてる」
「ち、違うっす。挑戦が終わったから――」
俺から目をそらすルーク先輩。
「アイテムの鑑定も立派なお仕事っす」
「さっきの挑戦者がもらった小瓶ですね」
エリスの指摘にルーク先輩が頷く。
「鑑定して不必要なら買いとるっすよ」
「確かに貰ってもどんなアイテムか分からないですもんね」
勝利したご褒美は、戦った本人の魔力量と運しだいでランダムに決まる為、何がもらえるかはユキさんも知らないらしい。
「それではレオン様。自分は行くっす」
「はい。お仕事頑張ってください」
その背中を見送った直後――。
「では、次の挑戦者は前に出よ」
ユキさんの声が響く。
「はっはっは。ようやく私の出番だ」
どこかで聞いたことのある声にゆっくりと武舞台に視線を向けると、見間違えるはずもない人物が、圧倒的な存在感を放ちながら堂々と立っていた。
――え? 帝国に帰ったんじゃなかったの?




