第124話 圧強めな恩師と、めんどうな師匠
「今年は優秀な子が多かったですね」
神殿前の広場で子供たちの姿を眺めていると、後ろから穏やかな声がした。
「司祭様。今年もありがとうございました」
「いえ、私は神の言葉を伝えているに過ぎません」
そう言って司祭様は、微笑みながら子供たちへ視線を向ける。
「それにしても、さすがはレオン様ですね」
「はて? 何かありましたか?」
「レオン様の学園で学ぶ生徒たちのことです」
「ああ、確かにみんなカッコいいスキルを授かりましたね」
そう答えると、司祭様は柔らかく首を振った。
「ふふふ。それだけではありません」
「と、言いますと?」
「皆さん――魔力量が非常に高かったのです」
「本当ですか!?」
「は、はい……特にノクスくんとリリアーナさんは……」
思わず身を乗り出した俺の圧に押されて、司祭様が少しだけ後ずさる。
「レオン様に匹敵する魔力量でしたね」
俺は内心でガッツポーズを決める。“魔力を使い切ることで魔力量は増えていく”という、前世のマンガで見た謎理論を子供の頃にこっそり試した結果、俺の魔力量は明らかに増えた。
とはいえ魔力枯渇は普通に危険だ。下手をすれば死ぬ。だから子供たちには、魔力制御の訓練を毎日行うことで、魔力を使うことを習慣化させることにした。少しずつでも魔力を消費していけば、魔力増加に繋がると思ってはいたが半信半疑だった。
――どうやら間違ってなかったみたいだ。
「いや~、それは将来が楽しみですね」
満足げに頷いていると、ふいに声をかけられる。
「もしかして、前に言ってた”レオン様の魔法の秘密”が関係してますか?」
「お、さすがリュミナ先生、鋭い……ってリュミナ先生!?」
振り向いた俺は、思わず二度見してしまった。
「やっぱり。さあ早く教えてください!」
「いや、何でここにいるんですか!」
「何でって、レオン様が言ったんじゃないですか」
そう言われて俺は首をかしげる。
「バルトル領で先生してくれって!」
「あっ、言いましたね。てことは――」
辺りを見回すと、お目当ての人物が子供達と話している姿を見つけた。
「やっぱり。アレクシス先生も」
俺の視線に気づいたアレクシス先生が笑顔でこちらに歩いてくる。
「これはレオン様。お久しぶりです」
「お久しぶりです。事前に教えて頂ければ……」
「すみません。あまりに楽しみだったもので」
そう言って先生は懐から手帳を取り出す。
「なにせ、珍しいスキルの研究が、私の生きがいですからね」
「いえ、教師として来ていただいたはずなんですが……」
「もちろん、そちらも忘れてませんとも」
「どちらかと言うと教師がメインですよ!」
思わずツッコむと、先生がスッと目を細めた。
「ところで、ノクスくんのスキルなんですが……」
「ノ、ノクスですか?」
急に出てきた名前に思わず声が裏返る。
「どうも違和感があるんですよね」
「そ、そうですか?」
「能力に対して、スキルが“普通すぎる”ような」
「そ、そんな事ないかと……」
あたふたとする俺の目をジッと見つめてくるアレクシス先生。
「レオン様。何か知っていますね?」
一歩、距離を詰めてくる。笑っているのに、目が全く笑っていない。
「……い、いえ。何も……」
――あ、圧がすごい。
「レオン様」
「……はい、知ってます」
秒で陥落した俺に、横から冷たい声が突き刺さる。
「当分秘密やなかったんかいな」
「しょうがないでしょ! あれは無理だって!」
「おや。この毛玉は?」
ベルゼを見ながらアレクシス先生が俺に問いかける。
「えっと、ノクスの友達で――」
「ちゃうわ! わいはベルゼ。主の忠実な僕や!」
「喋る毛玉とは珍しい」
「毛玉ちゃうわ。これでも上級悪魔なんやぞ」
「悪魔?」
「わぁ~。ベルゼ、ストップ!」
ベルゼの口をふさぐと俺は額に手を当てる。
「……とりあえず、帰ってから説明します」
「……いいでしょう。スキルの事もきっちり説明してくださいね」
俺の答えに満足したアレクシス先生は、再び子供達の元へ歩いて行った。その背中を見送った直後――。
「さあ、今度は私の番です!」
「ちょっ――」
リュミナ先生に胸ぐらを掴まれ、ガクガク揺さぶられる。
「魔法の秘密を教えてください!」
「わ、分かりましたから!」
俺は子供の頃に実践した、魔力増強の方法について説明した。
「……魔力枯渇を繰り返す、ですか」
「はい、それで魔力量が増えたんです」
するとリュミナ先生は何故か俺に冷たい視線を向ける。
「子供にそんなことさせるなんて……鬼ですか」
「あの子達にはやってませんって!?」
慌てて補足する俺。学園での訓練内容を聞いたリュミナ先生は、ふむと頷いた。
「なるほど……でも待ってください」
「ん? どうしました?」
「私も常に魔力制御は行っています」
そう言って、水でできた小鳥、“ピーちゃん”を生み出し空へと飛ばす。
「でも増えてませんよ?」
「ああ、それは先生が大人だからですね」
「……え?」
驚愕で固まるリュミナ先生。
「この方法、子供の方が効果高いみたいで――」
ドサッ。
俺の言葉が終わるより早く、リュミナ先生が膝から崩れ落ちる。
「くっ……また私を騙しましたね!」
「いや騙してないです!」
「だって私には意味ないじゃないですか!」
崩れ落ちた状態でキッと俺を睨みつける先生。
「先生だって十分魔力量多いですよね」
「レオン様に言われても嬉しくないです!」
ぷくーっと頬を膨らませるリュミナ先生。
――めんどくさい。
「はぁ~……しょうがないなぁ」
俺はしゃがんで目線を合わせる。
「効果は薄いかもしれませんが、大人にも効く可能性はありますよ」
「本当ですか!?」
先ほどまで暗かったリュミナ先生の顔がパッと輝く。
「誰もやったことないですから、もしかしたら……」
すると勢いよく立ち上がったリュミナ先生が俺の手を取って駆け出す。
「では実験してみましょう」
「え? 今からですか!」
「もちろんです。行きますよ、我が弟子よ!」
「解りましたから落ち着いて下さい」
森へと引きずられて行った俺は、結局夜になるまでリュミナ先生とひたすら魔法を放ち続けることとなった。そして――。
「結局分かりませんでしたね」
「ぐぬぬ。私の魔力量が多いばっかりに」
「魔力枯渇しないと意味ないですからね」
俺もリュミナ先生も魔力量が多い為、魔力枯渇を起こすことなく、実験はあえなく失敗に終わった。
「つまり私が強すぎると……」
「はい、そうですね」
「うふふ、そうですか」
何故か嬉しそうなリュミナ先生の顔を見ながら少しだけ空を見上げる。
――元気になったなら、やってよかったかな。
「では明日からも続けましょう」
「え?」
にこりと微笑むリュミナ先生。
「効果が出るまで、です」
「……え?」
――前言撤回。逃げよう!
そう思った、その瞬間――。
「逃がしませんよ?」
「ですよねー!」
俺が脳内で撤退の判断を下した時にはすでに、リュミナ先生に手首をがっちり掴まれていた。




