第123話 チートスキルと、守ると誓った平穏な日々
「リリアーナ。少し落ち着きなさい」
母上と手をつなぎながら歩くリリアーナは、いつも以上にそわそわしていた。今にも手を振りほどいて走り出しそうな勢いだ。
「だって待ちきれないんですもの!」
今日はスキル授与の儀式の日。リリアーナとノクスも五歳となり、スキルを授かるために家族そろって神殿へ向かっている。
「はぁ……まったく誰に似たのやら」
思わずため息をつくと、隣のアンナがくすりと笑った。
「なんだか小さい頃のレオン様を思い出しますね」
「え? 僕、あんなに落ち着きなかったかな?」
「にやけたお顔がそっくりです」
「まあ。それは見てみたかったですわ」
「レオンも楽しみだったんだね」
アンナの言葉に、エリスとノクスが揃ってこちらを覗き込んでくる。
「確かに楽しみではあったけど……にやけてたかな?」
「それはもう、今のリリアーナ様のように――」
アンナに促されてリリアーナを見ると、確かに満面の笑みでニヤニヤしていた。
「もう待てませんわ! さあ早く。ノクスくんも行きましょう!」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」
リリアーナは母上の手を引っ張り、そのままノクスの手も掴んで駆け出していく。
「うむ。父の手は握ってくれないのか……」
「ここに兄もいるのですが……」
自分の手を寂しげに握る父上と俺。それを見てアンナが呆れたように言った。
「お二人とも。早くしないと置いていかれますよ」
「アンナが冷たい!」
「何言ってるんですか。仕方ないですね――」
そう言うと、アンナはおもむろに俺の手を握って歩き出した。
「アンナ! 優しい子!」
満面の笑みで見つめると、アンナは頬を赤くしてそっぽを向く。
「ふふふ。照れちゃってアンナも可愛いところあるね」
ゴンッ!
「痛っ!」
「もう! 知りません!」
俺の頭にゲンコツを放ったアンナは、手を離してそのまま先へ行ってしまった。
「あ、ゴメンって。待ってアンナ――」
追いかけようとしたその時、後ろからエリスの優しい声が響く。
「ふふふ。ではお義父様は私と行きましょうか」
「そうだな。優しい娘を持って私は嬉しいぞ」
エリスが差し出した手を父上が握ろうとしたその瞬間――。
サッ!
空を切る父上の手。
「レオン。何故邪魔をする」
「いやダメに決まってるでしょう」
俺はエリスの手を取ると、そのまま歩き出す。
「ほら父上。置いていきますよ」
「うむ……この虚しさは一体どうすれば……」
そこには静かに自身の手を見つめる父上だけが取り残されていた。
* * * * * * *
神殿前には既に大勢の子供とその家族が集まっていた。
「あ、お兄様! 早く、早く!」
俺たちを見つけたリリアーナが、ぶんぶんと勢いよく手を振っている。
「ほら。みんなとも会えましたわ」
その周りには、バルトル領の学園で共に学んでいる子供たちの姿があった。
「先生、こんにちは!」
「こんにちは。元気に挨拶出来て偉いぞ」
「ふふふ。みんな緊張してますね」
エリスが優しく微笑む。
「はい。でもどんなスキルがもらえるか楽しみです!」
セラが目を輝かせながら言う。
「役に立たないスキルだったらどうしよう……」
トーマが不安げに呟いた。
「ちょっと! 縁起でもないこと言わないでよ」
いつもは冷静なルナも今日ばかりは落ち着かない様子だ。
「みんな、いいかい――」
俺は不安そうな生徒たちの顔を見回すと、安心させるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「大事なのはどんなスキルかじゃない」
それを聞いた生徒たちは、きょとんとした顔で首を傾ける。
「どんな強力なスキルでも、使いこなせなければ意味がない」
「……使いこなす?」
「そう。一見役に立たないスキルでも、使い方次第で強くなるんだ」
徐々に子供たちの表情が引き締まっていく。
「だから大事なのは――授かった後に使いこなす努力をすることだよ」
「「はい! 解りました、先生!」」
――まあ、父上の受け売りだけど……。
さっきまでの不安が嘘のように、明るい声が返ってきた。
「みんなリラックスできたみたいだね」
「ふふふ。さすがレオン様です」
ゴォォォ……。
そんなやり取りをしていると神殿の扉が、重々しい音を立てて開いた。
「時間です。順番に中へ入ってください」
神官の声が響く。それを聞いた子供たちは順番に中へと入っていった。そして数分後――。
「やりましたわ! お兄様!」
リリアーナが元気よく俺に飛びついてきた。
「随分ご機嫌だね、リリアーナ」
リリアーナを受け止め、くるりと一回転して抱きしめると、興奮した様子で腕の中でまくしたてる。
「見てください、お兄様! 私のスキル!」
差し出された紙を見ると、そこにはスキル名と詳細が記されていた。
* * *
スキル名:《万象魔導姫》
・全属性魔法の適性MAX
・詠唱短縮・無詠唱の適性
・魔法の“威力・範囲・精度”を同時に強化
* * *
「……え? 何このチートスキル」
「えへへへ。カッコいいでしょ」
リリアーナは誇らしげに胸を張る。
「ほう。魔法全般に影響するとは、これは凄いな」
「まあ、良かったですわね、リリアーナ」
父上と母上が優しくリリアーナの頭を撫でる。
「はい! これで最強の魔導士になれますわ!」
「先生! 私のも見てください!」
興奮冷めやらぬまま、生徒たちが一斉に駆け寄ってくる。
「はいはい、順番ね」
リリアーナをそっと下ろしながら、次々と紙を確認していく。
* * *
ルナ
スキル名:《天秤の統治者》
・情報を“自動整理”し、最適解を導き出す
・人材の適性・忠誠度・危険度を直感的に把握
・政策の成功率・リスクを“確率”として認識
・嘘や不正を見抜く
* * *
* * *
トーマ
スキル名:《戦神適応》
・戦闘中に相手に“最適化”して進化する
・武器・戦法・魔法を即座に習得・最適化
・一度見た技を高精度で再現
・戦えば戦うほど強くなる
* * *
* * *
セラ
スキル名:《叡智の継承者》
・世界の知識にアクセス可能
・未知の魔法・技術を解析・再現
・魔法の組み合わせ・改良が可能
* * *
「くっ……! みんなカッコいい!?」
思わず膝から崩れ落ちた俺は天を睨む。
「おのれ神め! 配分バランスどうなってるんだ!」
「先ほど“大事なのはスキルじゃない”と言ってませんでしたか?」
アンナの冷静な一言が突き刺さる。
「いいの! 羨ましいものは羨ましいんだから!」
そこへ、最後の一人が紙を握って駆け寄ってきた。
「レオン! 僕のも見て!」
「お、ノクスはどうかな――」
* * *
スキル名:《深淵適応》
・あらゆる環境・魔力に適応する
・魔力耐性が異常に高い
・闇属性に適性あり
* * *
「ぐぬぬ……それっぽくて羨ましい」
「えへへ。ありがとう、レオン」
ノクスは嬉しそうに笑いながら、他の子供たちの元へと走っていった。
「……でも、少し安心したかな」
立ち上がりながら呟くと、エリスが首をかしげた。
「安心、とは?」
「“魔王”とか、もっとヤバいのが来るかと……」
「いや、来るに決まっとるやろ」
背後からの声に振り返ると、毛玉が馬鹿にしたような顔で俺を見ていた。
「ベルゼ。今までどこにいたの?」
「どこて、主について行ったに決まっとるやないか」
「もしかして儀式にですか?」
「ん? てか今何て言った?」
エリスと俺を見ながらやれやれと肩をすくめるベルゼ。
「主のほんまのスキルは魔王権能》や」
「がっつり”魔王”って入ってる……」
「でも先ほどの紙には違うスキルが……」
「そやから、わいが改ざんしたんや」
「え、そんなことできるの?」
俺の言葉に胸を張るベルゼ。
「上級悪魔なめたらあかんで!」
「本当にすごい悪魔だったんだ」
「なんや、信じてなかったんかいな」
「だって、見た目毛玉だし」
「失礼なやっちゃ。とにかくや――」
真剣な目で俺とエリスを交互に見るベルゼ。
「ほんましっかりしてや、お二人さん」
一瞬だけ、赤い瞳が細くなる。
「正体がバレたらわいでも守り切れるか分からんのやから」
「はい。反省してます」
「うう。ごめんなさい、ベルゼちゃん」
「解ればいいんや、解れば」
「とりあえずノクスのスキルは当分秘密で」
そう言って視線を子供達へ向けると、ノクスは何も知らず、ただ無邪気に笑っていた。その姿を見ながら、俺は小さく誓う。
――この平和な日常は、俺が絶対守る!




