第122話 暴走聖女と、詐欺師の微笑み
「ここは私に任せるデス」
ユキさんが第二ラウンドの模擬戦闘体を召喚しようとしているのを止めるべく、動き出そうとしていた俺たちを手で制して前に出たのはマリアさん。
「ユキさん!」
「な、なんじゃ? そんな怖い顔して」
「ユキさんに言いたいことがあるデス」
マリアさんはユキさんに詰め寄るとがっしりと両肩を掴む。
「言いたいこと? 何だ……って痛い、痛い!」
肩を掴む手に力が入る。
「……」
「その、怒っておるのか?」
「……」
「い、いや。久しぶりの客だったもので……」
「……」
「いきなり襲って悪かったのじゃ」
肩を掴まれながら必死に頭を下げるユキさん。
――うん。いきなり襲われたらそりゃ怒るよね。
マリアさんの心中を察して俺は心の中で深く頷いた――が。
「そんなことはどうでもいいデス」
マリアさんの中ではいきなり襲われたことはどうでもよかったらしい。
「私が怒ってるのはその服です!」
「へ? 服?」
「どうして着物じゃないデスか!」
「キモノとはなんじゃ?」
ユキさんはポカンとしながら首をかしげる。
「知らないデスか! 解りました――」
そう言ったマリアさんは、肩から手を離すとユキさんが着ているシャツのボタンに手をかける。
「とりあえず……その服を直ぐに脱ぐデス!」
「へ? 脱ぐ……ってやめて~」
俺はとっさに、マリアさんを羽交い絞めにして止めに入る。
「ちょ、マリアさん。ストップ!」
「離すデス、レオン」
なおもじたばたと暴れるマリアさんを抑えようと試みるが、意外と力が強い。助けを求めて周囲を見ると、はだけたユキさんを見ないように、ザックスは目を逸らし、ユウキくんは完全に空を見ている。
――2人とも紳士か!
「あんなキャラに合わない服は認めないデス」
「うん。分かったからちょっと落ち着こうね」
俺がなだめている中、ユキさんは半泣き状態でユウキくんの背へと避難していた。
「ヒック、勇者殿! 助けてくれ」
「えっと、何かごめんね」
「うぅ~。あれは本当に聖女なのか?」
「普段はまともなんだけど……」
ユウキくんが目をそらしながら言った。すると少しだけ落ち着いた聖女様がユキさんに声をかける。
「次来る時までに、着物を用意するからちゃんと着るデスよ!」
「解ったのじゃ。だからもう勘弁してくれ!」
ブルブルと震えながらサッとユウキくんの後ろへ隠れるユキさん。
「もう、マリアさんがイジメるから」
「何言うデスか、レオン。私は着物を着せたいだけデス」
ようやく落ち着いたマリアさんを解放すると、俺はユキさんに微笑みかける。
「大丈夫ですよ、ユキさん」
「お主はレオンだったか……すまぬ――ひっ!」
俺の笑顔を見たユキさんが怯えたようにユウキくんの背中に隠れる。
「え? 何で隠れるの?」
「勇者殿。こやつは本当に仲間なのか?」
俺の言葉を無視してユウキくんに話しかけるユキさん。
「仲間って言うか友達だよ。どうして?」
「いや、こやつの笑顔に何やらどす黒いものを感じて」
「ヒドイ! 僕の爽やかな笑顔をどす黒いなんて」
爽やかさと優しさを意識した笑顔を再度ユキさんへと向ける。
「ひぃ~。勇者殿! 助けて!」
「もう、レオンくん。ユキさんが怖がってるよ」
「そんな! 僕はユキさんに話があるだけなのに」
「ん? 妾に何の話だ?」
警戒しながらも、ユウキくんの背中から首だけ出してこちらを見るユキさん。
「えっと、ユキさんはここに何年位いるの?」
「そうじゃな。ざっと千年ほどかのう」
「その間、我が領に税金は納めてますか?」
「税金? いやそれは……」
「いけませんね。脱税は違法ですよ」
「しかし、今までそんな事言われなかったぞ」
「でもここに住んでたのは事実ですよね」
「うぐっ。た、確かに。じゃが妾は金などないぞ」
「そうですか。では仕方ない……」
俺はザックスを見る。
「ユキさんを拘束してください」
「かしこまりやした」
命令されたザックスがユキさんに近づいていく。
「ま、待ってくれ。急に拘束なんて……」
「う~ん。しかし脱税は重罪です」
俺は腕を組み、思案するふりをする。
「最悪、処刑もありうるかと……」
「しょ、処刑!? ちょ、ちょっと待つのじゃ!」
慌てたユキさんがユウキくんの服の裾をギュッと握る。
「な、何とかならんか?」
「ふむ……では僕が何とかしましょう」
「ほ、本当か!」
絶望で涙目になっていたユキさんの顔がパッと笑顔になる。
「もちろん。ただ少しばかり働いてもらいますよ」
「解ったのじゃ。何をすればいいのじゃ?」
「この闘技場を一般開放しましょう」
「ここを? それだけで良いのか?」
「もちろん。こんなにステキな武舞台と観客席があるんです」
俺は大げさに闘技場を指さす。
「挑戦料や入場料、グッズ販売……フフフ、絶対成功しますよ」
「オ~。欲望まみれの笑顔が眩しいデス」
「はい。外野は黙ってて!」
マリアさんの悪意ある指摘には耳を貸さず、ユキさんを見る。
「売上げを税として納めてもらえれば、ユキさんは晴れて無罪です」
「そうか! レオン、感謝するぞ」
「いえいえ。新しい友人の為ですからね」
俺とユキさんはがっちりと握手をする。
「うわぁ~。完全に詐欺師のやり口だね」
「我が主ながら恐ろしいお人だ」
(ふん! 何とでも言うがいい!)
こうして“バルトル領闘技場計画”が始動した。
――そうだ! 先輩にも声をかけなければ!




